私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
明日一話分は約束するけど、その先は未定や。
仕事つおい(;・ω・)
森に異変が起きてから暫く、僕の耳には沢山の音が聞こえていた。森が焼ける無機質な音だけじゃない、生きた音、皆の戦うその音が。
何かが崩れる音、地鳴りや爆発音、誰かの怒鳴り声。
それを聞いてれば嫌でも分かる。
皆が戦ってる事は。
あの時と同じように。
僕が何も出来なかったあの時のように。
皆がまた戦っているのだ。
『僕は何処にいたと思う!?』
自分でも思う、なんて情けない言葉なのかと。
だってあの時、僕は何もしなかったから。
ただ隠れて、ただ小さくなって、時間が過ぎるのを待っていただけだから。
そうならない為に努力したのに。
それが悔しくて今日まで堪えてきたのに。
僕の体は震えるばかりで何も応えてくれない。
『青山さん、このお二人を施設へ運んで下さい!!』
そう言ってB組の生徒と一緒に他の生徒達を助けに走った八百万さん。僕はただ遠ざかっていく背中を見ていることしか出来なかった。意識を失ったクラスメートを任されたから?誰かが残らないといけないから?
違う、僕は逃げたんだ。
戦う事から、また。
軋むような痛みが胸に広がっていく。
膝を抱えた腕に知らず知らず力が篭っていく。
居たたまれない気持ちを晴らしたくて、僕は側に倒れる二人の様子を窺った。本当は僕が逃がさなくてはいけなかった、その二人を。
八百万さんの作ったガスマスクのお陰か、呼吸の仕方に悪化してる様子はない。透明な彼女は酷く分かりにくいけど、隣にいる耳郎さんの顔色もずっと良くなっていた。僅かばかり安堵の溜息を漏らした僕の耳に、突然それは聞こえてきた。
「おい荼毘、無線聞いたか!?」
茂みを掻き分けるような音と共に響いてきた場違いに明るい声。僕は物影からそっと声の方を覗き、そして後悔した。
そこにあったのは味方とは思えない異様な雰囲気を放つ全身をタイツに包んだ男と、火傷痕の目立つ黒いロングコートの男の二人組。僕が二人を連れて逃げていれば、会うことがなかった筈の存在だった。
「テンション上がるぜ!Mr.コンプレスが早くも成功だってよ!遅ぇっつんだよなぁ!?眠くなってきちゃったよ」
「━━━そう言うな。よくやってくれてる。後はここに戻ってくるのを待つだけだ」
男達の場違いな話し声が聞こえる。
何処か楽しげで、何処か不穏なそれが。
そして同時に僕に後悔の波が押し寄せる。
「予定じゃここは炎とガスの壁で見つかりにくいハズだったんだがな━━━━ガスが晴れちまってら。予定通りにはいかねぇもんだな」
「そりゃそうさ!予定通りだぜ」
ガスが晴れたという言葉。
僕の目は周囲へ向く。
男達の言うとおり視界をふさいでいたガスが殆んど見当たらない。残ってるそれもき消えかかってるように見えた。
ガスが晴れた・・・つまりそれは誰かがヴィランを倒したという事。
戦っているのだ、僕がこうして小さくなってる今も。
覗いていた僕の目が、冷めた目をしたロングコートの男と合った。背筋に悪寒が走る。その目を見て分かった。言葉が通じるような相手じゃないこと。
動けなかった。
側に行動出来ない二人がいるのに。
逃げる事も、戦う事も選べなかった。
情けない、情けない。
ヒーローを目指していた筈なのに。
誰よりも輝きたくて、頑張ってきたのに。
また僕は彼女に、彼に━━━━━━。
国立雄英高等学校。
多くのトップヒーローを輩出した、 言わずと知れた国内有数のヒーロー科有する学校。
僕は300倍という入試倍率を抜け、目標であったヒーロー科へ入る事が出来た。
個性と向き合うようになってから、自然と抱いていったヒーローへの憧れ。それを叶える場所なんだと、僕が輝ける場所なんだと・・・その時は、信じて疑う事がなく合格通知を握り締めていた。
そこで僕が何を知ることになるかなんて、少しも考える事なく。
『おはよう!!童貞共!!随分イカ臭ぇけど、ちゃんと手洗ってっか!!』
入学初日。
皆がどこか浮き足だって見えたそんな時、卑猥な言葉で空気をぶち壊す彼女が現れた。
彼女は下品な言葉とは裏腹に、非常に整った顔立ちをしていた。緑がかった髪は艶めかしく、瞳はエメラルドのように輝き、そこにいるだけで光って見える人物だった。
素直に綺麗な人だなと思い、同時にそんな彼女に僕はライバル心を覚えた。見目の良さも、自然と視線を集めてしまう煌めきも、僕と変わらないと思ったからだ。
初めてのライバルの登場に気分のあがった僕は、思いきって彼女に声を掛けようとしたけど、一緒にいた目付きの悪い幼馴染に睨まれそれは止めておいた。
結局声を掛けられぬまま心のライバルとして意識してからは、事あるごとに自分と比べた。個性テストや授業態度、成績や普段の様子。
そしてその度に勝手に思っていた。
自分の方が彼女よりずっと優雅で煌めいていると。
そんな時だった、あの事件が起きたのは。
ヴィラン連合によるUSJ襲撃事件。
多くのクラスメートが戦った、その日だ。
初めてヴィランと言うものを見て、僕の足は震えるばかりで全然動かなかった。練習通りにやるだけなのに、ヴィラン達の暴力的な言葉を聞くと身がすくんでしまった。試験ですら出来ていた事なのに、何一つ出来なかった。
僕は一人戦う尾白くんを眺める事しか出来なかった。
違う。
そうじゃないんだ。
僕が悪い訳じゃない。
心の中で沢山の言い訳が浮かんだ。
いきなりで気持ちの整理が出来なかったから、まだ碌に訓練を受けていなかったから、プロでもないただの学生だから。
それは間違った事ではなかったと思う。
客観的にみれば、訓練も碌に受けてない人間が誰かと戦うなんて事出来る訳がない。仕方がない事だと、思っていた。彼女の・・・緑谷双虎の話を聞くまでは。
ライバルだと思っていた彼女は誰よりも戦っていた。
普段の態度とは裏腹に、クラスメートを助け、先生を助け、ヴィランを倒していた。恐ろしくて強いヴィランと戦い、オールマイトが来るまでの時間を稼いだとも聞いた。
それは凄い事だったのだろう。
実際にそれを見ていたクラスメートの反応を知れば、先生の様子をみれば、教えられるまでもなく分かった。
けれど、それまで抱いていた勘違い。自分の方が優れてるという意思が、その事実を飲み込む邪魔をした。
僕は彼女に、僕の持っていない物を持つ彼女に、僕の理想を体現した彼女に、ただ嫉妬する事しか出来なかったのだ。
同じだと勝手に思っていた彼女に。
だから以前より多くの時間を努力に費やした。
彼女に負けないように。
個性の強化も、勉強も、体も鍛えた。
けれど現実は僕に厳しい事実をつきつけるのだけだった。僕と彼女の間に横たわる、その差を。
体育祭で、授業の最中で、職場体験で。
彼女の成した結果が、彼女への集まる視線が、彼女へ掛かる声が、それらを無遠慮に僕に伝えてきていた。
ヒーローとして彼女が、僕の何十歩も、何百歩も先を歩いているのだと。
個性を十全に扱うセンスに。
恵まれた身体能力に。
人と笑い合う彼女に。
僕は何かを抱いた。
言葉に出来ない何か。
どうして、彼女だけが。
どうして、僕は。
どうして。
『君、彼女と仲が良いんだろ』
期末試験、緑谷双虎の条件クリアが放送された時。
僕は嬉しそうに笑う彼女に声を掛けた。
不思議そうにしながらも肯定した彼女に、僕は。
『オールマイトの試験をクリアするなんて凄いね━━━』
僕は。
『━━でも、本当にちゃんとクリアしたのかな』
僕は。
『だって彼女って━━━━━━』
その時なんて言ったのか、正確に覚えていない。
溜まっていた何かが抑えられなくて、僕はそれをただ吐き出していただけで、彼女の曇る顔も、胸に走る嫌な痛みも、何も分からなくて━━━━━━気がついた時にはこれ以上ない程怒った様子の彼女の顔と、頬に走る痛みがあるだけだったから。
『━━━━━叩いた事は謝るわ。ごめん。・・・なんでそんな事言うんか知らんし、理由なんて聞きたくないから言わんでええよ。けど、今度言ったら、私は許さんから!』
告げられた言葉に、その表情に。
僕は返す言葉がなかった。
自分の為だけに傷つける言葉を吐いた僕と、誰かを思って怒鳴った彼女と、どちらが正しいかなんて考えるまでもなかったから。
試験が終わってから、僕は初めて自分からクラスメートである常闇くんに声を掛けた。彼を選んだ事に理由はない。たまたま側にいたからだ。何を言って貰いたかったのか、はたまた聞いて欲しかったのか・・・それはもうわからない。
不思議そうにしながらも僕の話を聞いてくれた常闇くんは『また難儀な道を選ぶな』と笑っていた。
『笑ったのは悪かった。・・・だがな、緑谷に何か言う必要などないと思うぞ。俺も特別付き合いがある訳ではないが、その程度の事気にもかけないだろう。言った所できょとんとされるのが落ちだ』
『それにな、そういう気持ちを抱くなという事の方が無理があるというもの。俺達は皆、同じ頂を目指す者。で、あれば人の才に嫉妬するのも、劣等感を抱くのも、愉悦に浸るのもまた当然。人との繋がりには、人の数だけ形がある。それだけの事だ』
『青山。お前にとって緑谷がライバルだと、そう思うなら、それで良いと思うぞ。思う存分挑み、悩み、試行錯誤すればいい。━━━そして挑み疲れたら誰でもいいし、俺でもいいから声を掛けてくれ。愚痴くらいならいつでも聞こう。何故なら、俺達は運命によって引き合わされたクラスメートなのだからな』
『ディスティニーッテコッタナ!』
常闇くんはダークシャドウと共にポーズを決めてそう言った。その姿が少しだけ滑稽ではあったけど、まっすぐに僕を見つめる二人に、僕はもう一度立ち上がる勇気を貰った。
今度こそ、僕は━━━━。
「おい荼毘!そういやどうでもいいことだがよ!」
陽気な声があがり、ロングコートの男の足が止まった。
僅かだけど、安堵を覚えてしまう。
こんな時だというのに。
「脳無って奴、呼ばなくていいのか!?お前の声にのみ反応するとか言ってたろ!?とても大事なことだろ!!」
脳無という言葉に体が震えた。
USJの惨状を思い出してしまう。
「━━━ああ、いけねぇ。何の為に戦闘に加わんなかったって話だな」
「感謝しな、土下座しろ」
そっと覗くとロングコートの男が首に手を当てていた。
通信機のような物があるのか、男はそこに手を当てたまま口を開く。
「死柄木から貰った、俺仕様の怪物━━━一人くらいは殺してるかな?」
誇張のそれを感じない言葉。
そしてそれはつまり、誰かを殺せる戦力がある事を意味している。
助けに走った彼女の姿が、勇敢に戦う彼女の姿が、人の為に怒れる彼女の姿が、励ましてくれた彼の姿が、クラスメートの姿が僕の頭を過っていく。
A組の皆と多くを語り合わなかった。
僕が望んでしていた事だから、そこに思う所はない。
けれど、ずっと見てきた。
皆がどんな気持ちで頑張っているのか。
その背中が、僕は・・・・。
「やらなくちゃ・・・・僕が・・・!」
怖くてたまらない。
今だって震えは止まらない。
すぐにでも逃げたい。
でも━━━━━もう、嫌だ。
言い訳するのも、誰かに当たるのも。
だってそんなの美しくない、煌めけない。
僕の目指したそれは、そんなくだらない物じゃないんだ。
だから戦う。
今度こそ、僕は戦う。
そして追い付くんだ。
ヒーローへの道を歩き出した、皆の同じ所へ。
僕は息を殺し彼らを覗いた。
彼等と戦う為に。