私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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臭い物にはどんどん蓋していこうね。どんどん蓋して釘打って、接着剤流して、セメントで埋めて、ビルを建てちゃおうね!60階クラスの!!これで安心・・・ちょ、なにしてんのぅ!漏れてんですけど!!の巻き

「ふふっ・・・いやぁ気恥ずかしいものがあるね、この台詞は。僕には合いそうもないから余計かな。けれどさ、ほら、こういうものは少しキザ臭いくらいが丁度良いだろう?黒霧、どうだったかな?個人的には格好がついたと思うんだけど」

 

 

音が消えたかのように静まりかえるその場所で、場違いなほど楽しげな声が響く。

纏う雰囲気とはかけ離れた、踊るようなその声が。

 

 

「はい・・・私にはその辺りの事はなんとも」

「真面目でつまらない返事だ。君は少しユーモアに欠けるな」

「申し訳ありません。以後は━━━」

「ははは、冗談だよ。冗談。そんなに畏まらなくていいさ。それが君だ、それでこその君さ。"個性"を大切にしなさい。━━━━さてと」

 

 

男の視線が周囲を見渡す。

敵味方関係なく、その視線に肩が揺れた。

そしてそれは、私も例外ではない。

 

 

「ヴィラン連合の諸君、邪魔して本当に済まなかった。言いたい事はあるだろうけど、取り敢えずは飲み込んでくれないかな?そして、ここは僕に任せて欲しい」

 

 

男の視線は私達以外に向いている。

隙をつくなら今なのだけど足が動かない。

個性を使おうにも頭痛が激しくて難しい。

 

 

「無論、無理には言わないよ。文句があれば言葉でも、言葉以外で語って貰って結構。僕は良識ある大人で、君達の特別な言語には理解があるつもりだからね」

 

 

からかうような言葉に火傷顔が首を横に振る。

 

 

「・・・いや、あんたに言うことはない」

「そうかい?残念だ。一昔前なら、随分と手荒い挨拶をされた物なのだが・・・時代なのかなぁ━━━」

 

 

言葉が途切れた瞬間、空気が一段と重くなった。

寒気が襲い鳥肌が立つ。締め付けられるような痛みが心臓に走る。酸味のあるそれが胃から込み上げてくる。

私は何とか耐えたけど、かけられた重圧に耐え切れなかった転校生が地面に嘔吐した。普段なら文句の一つも言ってるけど、今はそんな事言う気は起きない。

それも仕方ないと思うから。

 

顔を蒼白させる火傷顔に男は続けた。

その身からおどろおどろしい何かを吐き出しながら。

 

「━━━━本当に、随分とくだらない時代にしてくれた物だよ。オールマイトは。今更ね、僕が言える事でもないけれど・・・ヘドが出るよ。本当に、本当にね━━━━」

 

言葉を言い切ろうとしたその瞬間、男の周囲を覆うように巨大な氷柱が現れた。

止まっていた時間が動き出す。

 

「全員走れ!!」

 

轟の怒号に全員がほぼ同時に動いた。

森に近い阿修羅さん達は森に、かっちゃんは爆速ターボでこちらに向かってくる。

お茶子は側にいた梅雨ちゃんと転校生に触れ空へと放り投げた。

 

「ニコちゃん!!手をっ!!」

 

伸ばされたお茶子の手に触れようとしたけど、その間に黒い何かが割って入ってきた。

それは赤い光の筋を這わせた、得体の知れない黒い触手。

 

 

「それは困るなぁ、お嬢さん」

 

 

ガラガラと何かが崩れる音に紛れ、緊張感のない声が聞こえる。視線をやれば飴細工のように砕かれた氷柱の残骸と、人差し指から触手を伸ばし無傷で立ち尽くす男の姿があった。

 

「僕に一人で帰れと言うのかい?それは、あんまりじゃないかなぁ」

 

男の残りの指先から四本の触手が伸びる。

矢のごとく放たれたそれを避ければお茶子との距離が大きく開いてしまった。

 

「双虎!!」

 

声に視線を向ければ掌を構えるかっちゃんの姿があった。咄嗟に地面に伏せれば、かっちゃんから放たれた爆炎が触手を吹き飛ばしながら頭上を掠めていく。

 

触手を吹き飛ばしたかっちゃんは私と男の間に滑り込んできた。

 

「麗日ァ!!馬鹿連れていけや!!」

 

振り向きもしないで怒鳴るかっちゃんに少しだけ怒りがわいた。けれど文句は言えない。それは当然の事だから。碌に走れもせず、頭痛で碌に個性も使えない。

今の私はいるだけで邪魔になる。

 

けど━━━━━。

 

 

「ニコちゃん!」

 

 

お茶子に掴まれて体が軽くなる。

そして宙に浮くその体をお茶子に引かれた。

 

 

「お茶子・・・!」

「気持ちが分かるとは言わへんよ!けど、行こう!ここにいてっ、今ニコちゃんに出来ることはないやろ!」

 

 

遠さがるかっちゃんの背中に視線をやると、それを遮るように氷の壁がせりあがった。

敵の間を抜けてかっちゃんの元へと走る轟の姿も見える。

 

 

「ははっ、格好良いなぁ。子供のままごと程度かと思ったけど、存外立派にヒーローしてるじゃないか。けれどね━━━━━」

 

 

男の声が響く。

そこに焦りはない。

 

 

「━━━━僕の相手をするには、早すぎるね」

 

 

大きな爆発音が響く。

 

 

「まだまだ、経験が足りない」

 

 

氷の砕ける音が響く。

 

 

「そもそもの実力も足りない」

 

 

かっちゃんの喉が張り裂けんばかりの怒号が。

轟のらしくない咆哮が。

響く。

 

 

「君達では力不足だ」

 

 

なのに、その声は最初の頃となんら変わらない。

酷く落ち着いた、男のその声は。

 

 

「力の伴わない正義を、この僕に掲げるな━━━━━目障りだよ」

 

 

その声に、最悪が頭を過る。

頭に走る痛みがこれ以上ないほど叫んでいた。

 

 

「かっちゃん!!逃げっ━━━━━━」

 

 

耳をつんざくような音が私の声をかき消し響く。

瞬間、視界に捉えていた景色が流線のように流れる。

 

 

空気を切り裂く轟音が。

 

 

木の軋むような音が。

 

 

砕ける音が。

 

 

お茶子の悲鳴が聞こえる。

 

 

そして何処かに打ち付けたような痛みが走り、視界が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「双虎ちゃん」

 

声に目を開ければ男が側に立っていた。

ボロボロになった地面と薙ぎ倒され木々、それと倒れてるかっちゃんの姿が見えた。

 

「ようやく静かになったよ。これでゆっくりお話が出来る」

 

頭痛がする。

頭が割れるような。

 

「ああ、大丈夫。心配しないで欲しい。まだ、誰も殺してないよ。君の大切なお友達は」

 

声が頭に響く。

それが痛くて痛くて仕方ない。

 

「さっきからどうしたんだい?頭が痛いのかな?」

 

そっと男に頭を触れらた。

寒気がする。吐き気がする。気持ちが悪い。

直ぐに払いのけたけど、体が酷くだるい。

頭痛がもっと強くなってく。

 

 

『君は賢いなぁ』

 

 

何かが、頭を過っていった。

痛みの中を、何かが。

 

 

「無理はいけないよ、体は大切にしないとね」

「━━━っさい。どの口で・・・言ってんだって話」

「はは、手厳しいな」

 

 

割れるような痛みに紛れ、声が聞こえる。

 

 

『その歳で、自分がどうすべきか、ちゃんと分かってる。偉い偉い』

 

 

覚えもない、その声も。

 

 

「正直驚いたよ。あの時の君が、ここまでの才能を持ってるとは思わなかった」

「あの・・・時?つっ!」

 

痛い。

声が響く度。

 

 

『でも惜しいな、君は賢いだけで面白味に欠ける』

 

 

痛い。

何かが頭を過る度。

 

 

「これならもっと早く、お友達になっておきたかったよ。でもまぁ、仕方がないよねぇ。あの頃の君には、本当に何も無かったんだから」

 

 

頭痛が止まらない。

 

 

『噛みついてくるくらい元気があれば、僕がお友達になってあげたのに。まぁ、それは言っても仕方ないか。人の生き方をどうこう言える程、僕も偉くないし・・・君の生き方を尊重するよ』

 

 

頭の中が引っ掻き回されてるかのように。

痛くて痛くてたまらない。

 

 

『いつまでもそうしているといいよ』

 

 

 

『頭を下げて、小さくなって』

 

 

 

『僕の目につかないよう、日陰の中を歩いて生きなさい』

 

 

 

『そうしたら、きっと二度と会うこともないさ。まぁそれも、君の気が変わるまでだとは思うけどね。それまで、さようなら━━━━』

 

 

 

目が自然と男の顔へ向いた。

排気筒の取り付けられた黒いマスクに見覚えはない。

けど、その立ち姿が頭の中で過る影が━━━━

 

 

「懐かしい顔だ。確かあの時も、そんな顔をしていたね『小さなお嬢さん(リトルレディー)』」

 

 

━━━過った言葉が、男と重なった。

 

 

 

「━━━っああ」

 

 

 

今更になって思い出した。

 

 

 

「ああぁっ・・・はっ、はぁ、は、あっ」

 

 

 

違う、考えないようにしていただけ。

ずっと。

 

 

 

「いや、いやいやっ、いや、ごめんなさいっ」

 

 

 

 

『何をするにも原点を常に意識しとけ』

 

 

 

 

だって、それは私の━━━━━

 

 

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさ、ごめんっ、なさい」

 

 

 

 

 

━━━━原点(オリジン)だから。

 

 

 

 

 

「謝らなくていいよ。君のお陰で楽しい時間を過ごせたからね。さぁ、行こうか。今度こそ、手をとってくれるだろう。この僕の手を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、かっちゃん、かっちゃん━━━━かっちゃんってばぁ!!」

「うるせぇ!!んだよ馬鹿!!」

 

振り向いた先で、あいつが長い髪を揺らしながら、いつもみたいに笑ってた。

何か企んでるのかと思って様子をみれば、手を後ろに組んでやがった。案の定の行動で溜息が出る。

 

「あぁぁぁ!!溜息するなぁ!!まだ何もしてないのにぃ!!」

「何しやがる気なんだ馬鹿。さっさと手出せや」

「はっ!しまった、謀ったな!!」

「謀るまでもねぇだろ」

 

睨んでやれば馬鹿はフルスイングで蜻蛉を投げ飛ばした。「逃げるんだ、松五郎!!」だの叫んで。

 

「何する気だったんだよ、てめぇは」

「言ったら怒るから言わない」

「怒られんのやなら、最初からやんなや!」

 

思わず構えた拳に双虎はニヤニヤしたまま「おっ、やろうってか!おう!?」と挑発的な態度をとってくる。全然懲りた様子は見えない。

いっそ本気で殴ってやろうかと思ったが、クソババァにしこたま怒鳴られる未来が頭を過り止めておく。

拳を下ろした俺に双虎は不思議そうに首を傾げた。

 

「やんないの?」

「なんでてめぇのがやる気なんだよ。やんねぇ」

「えぇぇーつまんなーい」

「うるせぇ、女とやれっか、馬鹿」

 

そう言うと更に不思議そうな顔をした。

 

「みつきさんに怒られたりしたの?」

 

脳裏に腰の入ったクソババァのビンタが過った。

 

「う、うるせぇ!とにかくやんねぇ!」

「はいはい、また今度ねー。ぷっ、ははは!かっちゃんびびったー」

「なっ!びびってねぇ!つか、今度もやらねぇー!」

 

笑い声をあげた双虎は楽しそうに俺を抜かしていく。

横を通り過ぎていった双虎の髪が煌めきながら風に流れていく。何故だかそれが目についてそのまま見つめていると、振り向いた双虎と目があってしまった。

 

「どしたの?髪になんかついてる?」

「な、なんもついてねぇ!邪魔くせぇと思っただけだ!!ばぁぁぁか!!」

 

思わず出た言葉に双虎は髪をいじりながら呆れた顔をしてきた。むかつく表情だが、こっちから言える言葉は思い付かない。双虎に言うつもりはねぇが、今のに関しては自分が悪いのは自覚してる。

 

「邪魔くさいとか・・・クラスの女子に言ったら泣くからね?気をつけなよ。うーん、でも確かに伸びたよなぁ。シャンプー大変だし・・・短くしてみようかなぁ?ねぇ、かっち━━━」

「縛ればいいだろうが!!」

「わっ」

 

双虎の突然の言葉に心臓が止まる思いがした。軽く流されると思っていただけに、本当にびっくりした。

思い立ってから行動に移すまで双虎は早い。もしこれで突発的に散髪にでもいかれたら、クソババァは言うに及ばずクソジジィも敵に回す可能性がある。別にびびってる訳ではねぇが、小遣いをこれ以上減らされるのは不味い。双虎にたかられたら一回で終わる。本当に不味い。

 

それに、双虎は髪が長い方がいいと思うから。

 

「縛るねぇ?この間ツインテにしたら微妙な顔したじゃん?」

「あ、あれは・・・その、色々あったんだよ!」

「ツインテに何があったの・・・?」

 

双虎は勘がいい。

下手に話すと直ぐに気づく。

 

どうにか誤魔化そうと思って考え、不意に最近クソジジィが見てた映画を思い出した。正確に言えば、映画に出てたヒロインの髪型だ。

 

「頭の後ろで縛るのあるだろ!!」

「ちょっ、いきなり怒鳴らないでよ。耳痛いなぁ。後ろで縛るの?ポニー?」

「名前なんざ知るか!」

 

腑に落ちない顔をしながらも、双虎は髪を後ろに纏め俺に見せてきた。柔らかく揺れるキラキラした髪と普段みえないうなじが目につき、見ていると妙な気分になった。

 

「こんなの?」

「あっ、お、ああ、そうなんじゃねぇの」

「そうなんじゃねぇのって・・・はぁ、もう」

 

少し寂しげな顔が目について、気がつけば俺の口は開いていた。

 

「だ、だいじょ・・・だろ」

「ん?なんか言った?」

「~~~っ!けっ、い、良いんじゃねぇの。知らねぇけど」

 

最初はポカンとしてたが、理解すると共に双虎の顔は段々と嬉しそうに緩んでいって「そっかぁ」と見たこともないくらい嬉しそうな声をあげた。

 

それが何だか照れ臭くて、俺は双虎から目を逸らした。

それ以上掛ける言葉がなくて黙って一緒に帰った。

 

 

「かっちゃん」

 

 

気がつけばもうあいつの家の前で。

いつものように見送ろうとした俺が見たのは━━━。

 

 

「ばいばい」

 

 

酷く悲しそうな、あいつの顔だった。

 

その時のあいつは馬鹿みたいに笑ってた筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪!!」

 

 

頭痛が走った。

うっすらと見える景色にクソ担任の顔が浮かぶ。

 

「━━━!爆豪、分かるか、これが何本に見える」

 

翳された三本の指を見て、それをそのまま口にすれば安堵の息を吐きやがった。

 

首を動かし辺りを見渡せば救助にきたらしい人間がチラホラ見える。

情けない話だが、助かったのだと何処か安心しちまった。

 

「爆豪。体が辛いのは分かるが、ここで何があったか話してくれないか。切島達からお前らが最後に残ったと聞いたんだが、他の奴等はまだ意識が戻ってなくてな」

「他の奴等・・・」

 

クソ担任の言葉にあいつの顔が浮かんだ。

 

「あいつは━━━━」

 

 

「落ち着いて聞け、爆豪」

 

 

俺の言葉を遮ったクソ担任は眉間のしわを深くさせた。

それが何を意味しているか、分かりたくなくても頭が先に理解してしまった。

 

 

「緑谷は、まだ見つかってない」

 

 

周りから音が消えたような気がした。

 

 

「━━━━━━━」

 

 

クソ担任が何かを言ってるのは分かる。

だが、言葉が入ってこねぇ。

 

 

何も。

 

 

何、一つも。

 

 




暗くて、ごめんねぇぇぇぇぇ(;・∀・)!!
あと、更新遅めでごめんねぇぇぇぇぇ!!

時間がなかったんちゃうで、悩んだんや。
この話かくの、死ぬほど悩んだんや。
難産だっただけやで。

アオハル求めてる奴等、すまんな!

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