私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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たまの休みに部屋にこもって朝から執筆活動中。
いや、それはそれで有意義なんだけど、たまには日の光を全力で浴びにいかないと駄目な気がしてならないだよね(;・∀・)

いや、今日は部屋から出ないけども。


アクト9:スーパーガチムチマン:私の強さに貴様が泣いた編
シリアスが続いて、マジすまんな。こんな気持ちを込めて名付けます。『teacher and student』の閑話の巻き


久しぶりの外出日から日付が一つ変わる頃、一仕事終えた僕が自室に帰ってくると、モニタに通信記録が残っていた。

宛先は生徒である弔から。

 

「弔・・・ふふ、せっかちだなぁ」

 

通信内容の予想はついたので直ぐに折り返せば、不機嫌を隠さない弔の声が聞こえてきた。

 

「やぁ、弔。どうかしたのかい?」

『あいつはどうした』

 

碌に挨拶もなく掛けられた言葉に、明確な怒りが見える。いつもの弔なら絶対にしない反応だ。面白い。彼が誰かに執着するなんて、オールマイト以来だろう。

 

「こちらで元気にしているよ。今はね、治療を施した所さ」

『先生、あいつをこっちに寄越せ』

「おいおい、これはまた随分と乱暴な言い方だね。別に媚びる必要はないけれど、最低限の礼節は知るべきだ。教えただろう?」

『礼節は知ってる。けど、先に裏切ったのはあんただろ、先生』

 

裏切った、ね。

君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。盲信するだけの子供かと思ってたけど、考えるという事をようやく覚えたんだね。素晴らしい成長だ。一人立ちも直ぐそこなのだろう。

 

これも、彼女のお陰だったりするのかなぁ。

だとしたら面白いな、本当に。

 

「裏切ったなんて人聞きが悪い。僕は少し手伝ってあげただけさ。僕は君の保護者なんだ。だからこそ作戦の成否を心配して、ついつい手を出してしまっただけなんだよ。悪かったね。お友達にもそう伝えて欲しいな」

『あんたのそういう取り繕った話を聞く気はない。俺も馬鹿じゃない。いいから、あいつを寄越せ』

「それは出来ないよ。まだ容態が安定してなくてね。君も不本意だろう?痛々しい彼女をそのままにするのは。違うかな、ん?」

 

ガン、と画面越しから何かを叩くような音がした。

 

『いいから寄越せ。殺すぞ』

 

その声に込められた物に、僕は思わず身震いしてしまった。画面越しからでも伝わるそれが、死柄木弔という男の成長を如実に物語っているからだ。

 

我が子のように育ててきた次代の僕たりえる男。

それがようやく形になり始めているという事実が、この僕をこれ以上なく歓喜させる。頼もしい限りだ。

 

━━けれど、まだ足りない。

 

「交渉としては、殺すでは弱いな。君が僕を殺せる可能性がどれほどあるかな?」

『一人、俺の仲間が消えた。あんたには心当たりがあるだろ。警察に捕まっただの、つまらない嘘はつくなよ。裏はとってある』

「素晴らしいよ、弔。彼はね、僕が保護した。今からでも返そうか?四肢をやられてるから、使い道は限られるだろうけど・・・」

『ついでに頭がいかれてんだろ。あんたが使えない奴をいつまでもそのままにしておく訳がない。違うか?』

「ふふっ。いいや、その通りだよ。満点の解答だ」

 

流石に僕が教え込んできた事はあるかな。

普段の態度は別として、やはり弔は優秀。求められれば、それに応えるだけの実力がある。

 

「それで・・・どうしようかな?僕はまだ、彼女を君に渡すつもりはないんだけど━━なんなら本当に殺し合ってみるかい?」

『いいや、やっぱり止めておく。あんたとやると、殺せたとしても後が面倒そうだ。黒霧も使いもんにならなくなるだろうしな』

「そうかい?それならどうするんだい?」

 

少しの間が空いた後、弔はいった。

 

『約束しろ、先生。あいつに手を加えない事を。それとあんたがやろうとしてることをさっさと済ませて、あいつを俺に寄越す事』

「それだけで良いのかい?」

『いや、こっちから二人送る。そいつをあいつに付けろ。勿論、その二人にも危害は与えるな。俺のコマだ』

「監視かい?いい気分はしないな。そこは信用して欲しいかな?」

『今のあんたを信用するつもりはない』

「悲しいなぁ━━━さて、具体的にはいつまでに済ませろっていうんだい?まぁ、希望を聞いた所で、保証は出来かねるけどね?」

『今日中』

 

足下をみるな、随分と。

まぁ、僕の実力を知っているからこそか。

 

「一週間は欲しいかな?」

『駄目だ、伸ばして二日。あんたなら、一日で十分過ぎるだろ』

「分かった、なら三日でどうかな?勿論ただでとは言わないよ。玩具を一つあげよう」

『駄目だ、二日。玩具は必要ない。二日目の24時前。日付が変わる前。それがあんたにあいつを預けられる最長期限だ』

「嫌だと言ったらどうする?」

『あんたに教えられた事を、一から十まであんたにするだけだ』

 

僕に教わった事、その全てを、か。

面白いなぁ、そこまで言わせるのか。

君は彼女に何を見たんだい、弔。

 

聞きたいけれど、きっと教えてはくれないだろうな。

君は僕とよく似てる。

 

「・・・ふぅ。負けたよ、弔。分かった、それで良いよ。それで、ナイト達は直ぐにくるのかな?」

『10分後、黒霧を使ってそっちに送る』

「分かった。急だからね、歓迎会の準備が出来ない事は、君から二人に伝えておいてくれよ?」

『━━━ちっ』

 

乱暴に切られた通信。

僕は弔の消えたモニタのチャンネルを変え、施設にいる彼に繋げた。

 

「聞こえるかな、ドクター」

『ん?先生か、どうした。準備に忙しいんだが』

「予定変更だ。弔がお怒りでね、彼女に手を加えられなくなった。彼女のデータはどこまで取れたかな?」

 

僕の声にガシャンとけたたましい音が鳴り響いた。

準備していた何やらを落としたのだろう。

 

『何?また、あの子供か・・・!!まったく、これがどれ程の事なのか理解していないのか!嘆かわしい!!分かるか先生!!有史以来、初だ!個性が世に発現してからただの一度も成功しなかった、未だに母胎のみが起こせる奇跡!!個性の融合!!その神秘を補助装置もなしに、それも意思で行える被検体が目の前にいるんだぞ!!その上、彼女はナチュラルだ!!それなのに、手を出すなと!ふざけている!!ええ!?分かるか先生!!私のこの気持ちが!!』

 

酷く興奮したドクターの声にこれは骨が折れるなと思わず笑ってしまう。

 

「有史以来初ではないさ。僕の弟も成功したよ」

『はっ!そうだな!そうだったさ!で?!それはどんな原理で、どうやって起こった!?分かるのか先生!!分かるまい!もう被検体の亡骸も残っていない!!だからこそ、手掛かりすら掴めず、研究は何年も進まなかった!!何年無駄にしたか、忘れてやいまいな!!』

「そう熱くならないでくれよ」

『これが熱くならずにいられるか!!先生!あのガキを殺せ!!もう必要あるまい!!この被検体がいれば━━━っひ!?』

 

何か言ったつもりはなかったんだけど、伝わるものは伝わるらしいな。

 

「言葉はよく考えて、選んで使った方がいい。そうだろう、ドクター。それで誰をどうするって?」

『━━━━っまない。失言だった。少し興奮していて』

「分かってくれれば良いよ。それにね、彼はいずれ僕の椅子に座る男だ。気にいられて損はないさ。なぁに、何処へなりと手放す訳じゃない。結果的に彼女が弔の手元に残るなら、そう悪くない話だろ?研究の機会は幾らでもある」

 

暫くの沈黙の後、『分かった』とドクターの小さい呟きが聞こえた。

 

『治療した際、必要なデータの殆どは入手しておいた・・・投薬実験は・・・無理なのだろうな。反応データが欲しかったのだが。生体チップを埋め込むのも・・・駄目なんだろうな。はぁ、口惜しいな」

「知識もあるし、あれでいて勘の良い子だ。気づかれる可能性がある事は止めておいた方がいいね。弔に追い掛け回されるのは嫌だろう?」

『あれでも先生の生徒だからな、ご遠慮願う』

 

力ない乾いた笑い声が聞こえてくる。

悪いとは思うけど、この程度は飲んで貰わないと困る。

ここにいるということは、そういう事なのだから。

 

「さて、話を変えよう。弔から二日間の猶予を貰ったんだ」

『二日間?なんの時間だ、それは』

「別に?弔の成長が嬉しくてね、少しお遊びをしたんだ。交渉の真似事の結果さ」

『また無駄な事を・・・こうなった以上さっさと渡してしまえば良かろう。ここには機密も多い』

「ふふ、まぁ、良いじゃないか。彼女ともゆっくり話す時間が━━━ああ、そうだ。良いことを考えた。あれを仕上げよう、ドクター」

 

あの時拾っておいた男が脳裏に浮かぶ。

 

『うむ、ポテンシャルは中々だったからな。面白い物が作れるだろうが・・・』

「弔はいらないと言ったんだけどね、どうせ渡すなら玩具もつけてあげようと思うんだ」

『また金の掛かる玩具だな。はぁ、わしはあの娘のデータを纏めたい。あまり手伝わんぞ』

「良いよ。その代わり部屋を一室あけて欲しいな」

『それなら、奴をおいたそこをそのまま使えば良い。他に必要な物は?』

「ないかな」

 

通信を切ろうとするドクターへ、念の為にあの部屋を秘匿するように告げ僕はモニタのチャンネルを一つ変えた。

 

僕に目はない。彼に、オールマイトに潰されてしまったから。色々な個性を駆使して目の代わりをさせているけど、モニタなどの映像とは相性が悪く殆ど見えない。

だけど、僕の目には彼女の姿が見える気がした。

 

ベッドに横たわる彼女の姿が。

 

「おやすみ、双虎ちゃん。よい夢を」

 

モニタを消した僕は部屋を出た。

弔のお友達、ナイト達を出迎える為に。

 


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