私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
誰もが一度はそれに誘惑されただろう。
大体廊下とかに配置されてる、赤いそれだ。そう、大体赤いランプと一緒に置いてある、それだ。
確かに、その誘惑に抗え切れずに押した事はある。あるさ。人間だもの。でも、反省してるの。私。もう反省し切っているの!母様の鬼のようなあの顔は、流石にもう見たくないの!本当だよ!押さないよ!
日頃の行いが少しだけやんちゃだから、私が疑われるのは分かる。私があなただったら、即通報してるもん。お前やろって。
でも聞いて!
それでも私は押してない!!
「しつけーんだよ!!分かったってんだろ馬鹿女!!」
命を懸けた私の訴えは見事にかっちゃんの心に響いた。
これで仮に私が本当にやったのだとしても、頑張って庇ってくれるだろう。え、なに、お茶子?え?やってないよ、やってないって。本当にやってないって!今回は!!
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは、すみやかに屋外へと避難して下さい。繰り返しますセキュリティ3が━━━━』
セキュリティ3?何いってんだ、これ?
意味が分からず首を捻っていると、かっちゃんが近くの生徒の首根っこつかんで脅して聞いてた。多分先輩だろうけど・・・おいおい、泣かすなよ。
「糞モブが言うには、校舎内に不審者が入ってきたって事らしい。おい、ふ・・・・・・『ニコ』俺から離れんな」
「おお、なつい渾名。暫く聞いてなかったね?」
「うるせぇっ死ね!!」
随分と懐かしい渾名だ。
いつ以来だったか?幼稚園の頃かな?
私がかっちゃん呼びしてくるのが気に入らなくて、頑張って考えてきた渾名だったな、確か。
割りと私が気に入ってそれで呼ぶように言ってたら、照れたのか直ぐに言わなくなったんだっけ?
よく覚えてたな・・・。
「━━━もしかして、心の中では呼んでた系?」
「っせぇ、呼んどらんわボケ!!!」
「じゃ、案外、双虎って普通に呼んでたりする?」
「っ!?し、しとらんわ!!てめぇは糞女で十分なんだよ!!!」
いやまぁ、どっちでも良いけどさ。
なんか無理矢理絞り出した気がしたから、聞いてみただけだしね。
それにしてもニコはなついな。
「あ、そだ、お茶子ニコって呼んでよ。私はお茶子って呼ぶから」
「ニコちゃん?良いね可愛い!━━━って私の呼び方なにも変わっとらん!?」
「お茶子よろしくー。あっはは」
「ニコちゃんよろしくー。あはは」
「女子二人、なぜ今和める!?避難するぞ!!」
眼鏡とかっちゃんの先導で避難していくと、出口が人だかりでえらい事になっていた。満員電車といい勝負しそうだ。きっと男達は今ここに飛び込めば、偶然を装っておっぱいだのお尻だのモミモミ天国なのだろう。私達と違って。私達はやられ損だよ。金払えよ。まったくもって割に合わない。━━━ん、待てよ、揉まれるくらいなら、こっちから揉んでやったら良いんじゃないか?金の玉とか、粗末棒とか。
「かっちゃんは揉まれるのどう?」
「意味わかんねぇ事聞いてくる時は、だいったい碌でもねぇ事なのは知ってんだよ、黙っとけ馬鹿!」
「んだとこらぁ」
この野郎一回パチパチパンチ食らわしたろか。
母様直伝のパチパチパンチ食らわしたろか。
シュッシュッとパチパチパンチの準備でシャドーしていると人混み第二波がやってきて飲み込まれた。お茶子と眼鏡が。あー、お茶子ー。おっぱい触られたら、手をこうっ!こう捻りあげて、こう足を崩して極めるんだよー!こうっだよ、こうっ!!
私はなんかかっちゃんに壁ドンされたお陰で人混みに揉まれなくて済んだ。大丈夫だ。かっちゃんバリアーの鉄壁感と安定性たるや。
形的に庇ってくれた感じだけど、やろうとしたやった事ではない筈なので感謝はしてやらない。不可抗力というやつだ。おお、顔近い。キスされそう。
「かっちゃん、かっちゃん」
「ああ?!んだよ!?今てめぇに構ってる余裕はねぇ!!」
「どさくさに紛れてキスしたら殺す」
「っ、は、はぁ!?しねぇぇっつんだよ!!?」
しねぇなら良いや。
私のファーストキスは重いのだよ。
貴様にくれてやる義理は欠片とてないのだ。
「それよか、これどうなんだろね?」
「しるかっ!!良いから黙ってろ!!いいかっ、ぜってぇ離れんな!!」
「離れたくても離れらんないんだってば」
かっちゃんのマジの目に見つめられのは辛いので後ろに視線を移してみる。壁ドンされたのが庭が見えるガラス張りの方で良かった。時間つぶせる。反対側だったら人混みか、白い壁か、ずっとかっちゃんの顔見なきゃいけない所だったよ。それってなんの罰ゲーム。
「ん?」
ふと見た庭にゾロゾロと歩く集団が見えた。
カメラだの、マイクだのが見える。
あれって・・・テレビ系?
「かっちゃんや、かっちゃんや」
「んだよっ!?」
「侵入者ってあれじゃね?」
「━━あ?!ちっ!朝の奴等かよ!!んどくせぇ!!」
そう登校中にみた、学校の玄関前にいた連中である。
無断で私の顔を全国ネットしようとしたので当然の権利として出演料を要求したのに、徐に避けて行きやがったあのただ撮り糞野郎達である。きゅうりにも劣る糞野郎達である。
しかも奴等、私とかっちゃんをカップル呼びしてきやがった。くぅぅぅぅってなったわ。くぅぅぅぅっって。
まぁ、それは取り合えずおいておこう。
「かっちゃんや。とりま原因は分かったし、委員長らしく働いてきなよ。私の事はほっといて良いからさ」
「はぁ!?んだよ、いきなり!」
「こういう時、人を纏めるのが委員長様の仕事でしょ?うちのクラスメートもチラホラ人混みに見えるしさ、格好よく治めて支持率アップを狙ってこーぜぇ」
かっちゃん自身分かってる事だろうけど、かっちゃんは人の上に立つ事に絶望的に向いてない。能力はあるんだけど、天才マン故の自信が先にたって人の話を聞けない傾向がある。そんなかっちゃんが委員長とかぶっちゃけ笑える。
けどまぁ、私としては、応援してあげようと思うのだ。
「ほら、かっちゃんってアレだからさ。直ぐにボロが出るじゃん?で反感買うでしょ?」
「アレってなんだ、ブッ飛ばすぞ」
「そういう時にさ、過去の実績があればリコールとかされにくくなるでしょ?ね?先行き不安な委員長様なんだから、活躍出来るとき活躍して、頼れる所見せてきなよ」
かっちゃんが委員長としてやってくには、それしかないだろうしね。
「・・・む、かっちゃん?」
直ぐに行くかと思ったら、下を向いたままかっちゃんは動かなかった。
動けないのはあるかも知れないけど、割りと鍛えてあるかっちゃんなら、このぐらいの人混みスイスイ泳いでいけると思う。なに、お腹痛いの?ぽんぽん痛いの?生理痛薬しかもってないけど、飲むかい?
生理痛薬片手に肩をぽんぽんすると、眉間にシワが寄りまくったかっちゃんの顔がこちらを見てきた。
「いかねぇ」
ただ一言、完全拒否である。
こ、この野郎。慈母の如く滲み出る私の優しさ故の助言を完全拒否するとは、なんてふてぇ野郎だ!!
・・・はぁ。
手の掛かる男だよ、まったく。かっちゃんプライド高いから、私のアイディアに乗っかるのが嫌なんだろうな。すげぇー苦悩してたみたいだし。素直に乗っとけばいいのにさ。余計な事言っちゃったなぁ、もう。
「そうかい。なら好きにすると良いさ」
「ああ、初めから、そうしてる」
それから少しして眼鏡がドアの上に張り付き、皆を上手い具合に鎮めて事は治まった。本来ならかっちゃんの仕事なのになぁ。
その後、結局かっちゃんは委員長様の座を眼鏡に押しつけてしまって、折角のかっちゃんフィーバーチャンスはおじゃんになった。
帰り際、どうして委員長様を蹴ったのかと聞くと、面倒臭かったとか。
おう、だったら最初からそうしろやっ!私の白魚が無駄にかっちゃん臭くなったろがい!くんくん、ほら!まだ臭い!かっちゃん臭が凄い!と怒ったらシュークリーム奢ってくれた。
許す!
◇◇◇
雄英が誇る鉄壁の守り。
その最初の一つである校門が、無惨にも瓦礫と化していた。
その惨状を見るにかなりの個性を持った者の仕業であることが分かる。
「ただのマスコミに『こんなこと』出来る?」
私の問いに集まった教師陣から返る言葉はない。
皆、何が起きているか理解してるのだ。
「そそのかした者がいるね・・・」
マスコミを先導し、騒ぎを起こす。
何が目的なのか。イタズラならそれで終わりだが━━━
「邪な者が入り込んだか━━━もしくは宣戦布告の腹づもりか」
私は砂のように崩れ去った鋼鉄の門をみた。
本来ならありない壊れ方をしたその門を。
「どちらにせよ、厳戒体制をしくよ。皆には一度、気を引き締め直して欲しい」
誰が、何のために。
そんな事は関係ない。
ここは未来を担う子供達の、ヒーローの卵達が育つ場所。誰であろうと、その邪魔をするものは許しておくわけにはいかない。
この私、根津の誇りにかけて。