私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
やべっ、結構な人待っとるやん(;・∀・)
お、遅れてごめんやで。
夏休みなんて色々やるのは最初だけ、ダレテきたらやることは一緒一緒。休みが長過ぎるのも考え物だよねと言いながらも永遠に続けば良いのになと思わずにいられない夏休み。の巻き
「家庭訪問?」
白い悪魔達の巣窟から脱出した翌日。
のっそり昼に起きた私は母様に居間に呼び出され、そんな死刑宣告にも似た言葉を告げられていた。
家庭訪問。
それは学校の先生が親と会い、ありとあらゆる所業を告げ口する、学校行事における三大クソイベントの一つである。
「家庭訪問?」
確認するように聞いてみると「だからそう言ってるでしょ」と睨まれた。
「・・・家庭訪問?」
「何回聞くの!」
「いたいっ!!」
信じられなくてもう一回聞いたら拳骨をくらう。
割れちゃう、頭割れちゃうぅぅぅ!退院直後なのに、全然手加減してくれないとか、母様は鬼だ!いたい!
「よっぽど聞かれたくない事があるのね、あんた」
心臓がドキンと跳び跳ねる。
痛みなんて一瞬で消え去った。
何故ばれた!?・・・・・・かっちゃんか!
「・・・勝己くんからは何も聞いてないわよ」
「うおっ!!何故に分かった!?エスパー!?」
「あんたの考えてる事くらい分かるわよ。はぁ、まったく。それよりも今からちょっと買い物に行ってくるけど、私が帰ってくるまでにちゃんと着替えておくのよ。良いわね?」
母様はビシッと私の可愛すぎるパジャマを指差す。胸の所で歪むにゃんこにもし意思があったのなら、その迫力に情けない鳴き声と共にお漏らししている事だろう。それくらい迫力があった。
そんないつもの四倍はキツイ視線に私はシュバッと敬礼を返す。
何処か疑うような視線を送った母様が出掛け、私はいよいよ準備を始め━━━━る前に朝ご飯を食べようか。もうお昼ご飯だけども。うん。
最近休みの日は母様が朝ご飯を作ってくれない。夏休みに入ってからはほぼ毎日スルーされてたりする。やってくれたのは合宿に行く朝くらい。
あまりにひもじくて、やってくれない理由を聞いたら、将来の為の修行だからつべこべ言わずにやれと切り捨てられた。
流石に退院あけの初日くらい作ってくれるのではないかと淡い期待を抱きテーブルを見に行ったけど、そこには何もなかった。無だった。炊飯器に白飯しかなかった。絶望である。
とはいえ流石に私も慣れた。
お米があるなら大丈夫。
おかずだけ作ればいいのだから。
なので白飯を茶碗に盛り、冷蔵庫を覗く。
お肉のパックとか野菜━━━は見なかった事にして他を探す。私の強い味方冷凍食品━━━は冷凍庫からお留守だった。楽するなとのメッセージカード発見。くそう。
それならばと、食器棚の引き出しに閉まってあるふりかけを━━━━と思ったけど、ふりかけもお留守だった。味のりもなかった。レトルトカレーもなかった。そして再びのメッセージカード発見。内容はさっきと同じ。くそぅ。
ついでにカップラーメンも留守中だった。
仕方がないので引き続き冷蔵庫を探索。
するとツナ缶と納豆、卵が目にはいる。どうしようか。少し悩んだけど納豆を手にした。今日の朝ご飯は納豆ご飯だ。早速蓋を開け混ぜ混ぜ━━━━━し始めたのだが、チャイムがピンポーンっと間抜けな音を出したので行動中断。納豆を練る手を止める。
なんじゃろかと、ドアスコープを覗くとお隣の小三女子がいた。中学の頃は登校ルートが一緒だったりしてよく顔を合わせていたけど、最近は全然顔を見なかった。懐かしい顔だ。
「はよはよ。どうしたん、ちみっこ?」
「あっ!いた!!おねぇちゃん!退院おめでとう!」
そう言ってちみっこは四つ葉のクローバーを渡してきた。
「おう?ありがと、良いの?これ結構レアじゃん」
「良いの!お見舞いだから・・・でも本当はね、お花持ってきたかったの。でもね、今月のおこづかいはでーとで使っちゃったから・・・・ごめんね」
小三女子、私より進んでる。
おかしいな、ちょっと前までおままごととか付き合った記憶があるのに。え?彼氏いるんですか?
いや、まぁ、良いか。
「いいよ、こういうのは気持ちだからね。ありがと。それにしてもよく私が帰ってきたって分かったね?お母さんにでも聞いたの?」
「ううん、違うよ。朝からおねぇちゃんママのおっきな声が聞こえてきたから。ふたこーーー!!って」
あらやだ、恥ずかしい。
うちの母様ったら。
「━━━あっ!そうだ!おねぇちゃんにお客さん来てるよ!さっきね、下であったの!」
そう言ってちみっこは自分の後ろを見た。
けどそこには何もいない。
さっきから、ずっと誰もいない。
え、お化け?
ちみっこは辺りをキョロキョロ見渡し、階段のある方を見て「いた!」と声をあげた。声につられて視線を向けてみると、何処かで見たような赤い帽子が物陰から覗いていた。
「こっちこっち!こーたくん!」
こーた。
何処かで聞いたような名前だなぁと思って眺めてると、物陰からひょっこり目つきの悪い子供が出てきた。
その目つきの悪さに、ようやくピンとくる。
「こーたん、こーたんじゃないか!」
「こ、洸太だ!出水洸太!誰がこーたんだ!!」
「あぁ、それそれ、洸太きゅん」
「洸太きゅんでもねぇ!!」
ちみっこはデートに行くというので玄関でお別れ。
遠い所やってきた洸太きゅんにはご飯をご馳走してあげる事にした。え?何をご馳走するのかって?決まってるじゃんか。
「はい、納豆ご飯」
「納豆、ご飯」
目の前に置かれたどんぶりに洸太きゅんは釘付け。
きっとご飯に掛かる納豆の練り具合に感動しているのだろう。よいよい、十分に感嘆せよ。
「・・・ご馳走するって、これ?」
「そだけど。あ、薬味いる?からし入れる?」
「薬味は別にいらない・・・えっと、頂きます」
ちゃんと頂きますした洸太きゅんは何処か不服そうにご飯を食べ始めた。どうやら納豆の気分ではなかったようだ。卵かけご飯にしてあげれば良かったか。
そんな事を思いながら納豆ご飯を掻き込む。
久しぶりのお米は上手い。やっぱりお粥とは違うね。
退院後は食べ過ぎなければ何でも大丈夫な筈なのに、母様はお粥とかうどんしか作ってくれなかったら・・・はぁ、お米は日本人の魂なんだなぁ。
感動に浸ってご飯を食べてると、あまり箸の進んでない洸太きゅんの顔が視界に入った。
「・・・無理して食べなくても良いよ?余ったら私が食べとくし」
「!?だ、大丈夫だ!食うよ!」
「そう?無理しなくて良いからね?」
よく分からないけど食欲が出てきたみたいで良かった。沢山食べて大きくなるんだよー。
それから少しして、ご飯も食べ終えぷっくりお腹が膨れた洸太きゅんに気になってる事を聞くことにした。
「それにしても、今日はどうしたん?マンダレイの姿もないし・・・・家出?」
「い、家出じゃない。その、マンダレイから、聞いてて、でも、プッシーキャッツの皆も大変で、お見舞い行けなかったから━━━」
どうやらお見舞いに来てくれたらしい。
ごにょごにょ話す洸太きゅんを眺めていると電話が鳴った。固定電話が鳴るのはいつ以来か。
・・・・詐欺かな?
何がともあれ取り敢えず電話に出てみると「あっ!!もしもし!!」っと焦った女性の声が聞こえてきた。
その声に記憶の片隅においておいたその言葉が過る。
「煌めく眼でぇーー」
『ロックオン!━━━って何を言わせるのよ!はぁ、変わらないわね緑谷さん。まずは、そうね退院おめでとう。良かったわ元気そうで』
やっぱり声の主はマンダレイだった。
『あれから私達も色々あって・・・お見舞いも行けずにごめんなさい。合宿の時、偉そうな事言っておきながら━━━』
「あ、そういうのはもうお腹一杯なんで、用件お願いします。洸太きゅんならいますよ?」
『えぇ・・・そ、そう?あ、用件ね、用件は・・・・洸太いるの!?』
それから詳しく聞いてみると洸太きゅんが家出同然でこっちに来た事が分かった。マンダレイからは運賃すら出ておらず、洸太きゅんはお小遣いでここまでやって来たようだ。中々の行動派だ。洸太きゅん曰く、スマホがあればなんとかなる、だそうだ。
私の住所を知っていたのは、お礼の手紙を書くためにマンダレイ経由で包帯先生から聞いたのを覚えていたらしい。
『ごめんなさいね。ここ最近ずっとそわそわしてるから、何かするんじゃないかと思って目を光らせてたつもりだったんだけど・・・・遊びに行ったっきり戻ってこないと思ったら、まさかバスと電車乗り継いで一人で緑谷さんの所まで行くとは思わなかったわ』
「その割には電話してきたじゃないですか?」
『ほら、合宿の時仲良かったし、何か聞いてないかと思って駄目元で掛けたのよ。まさかいるとは・・・恋するナントカはーっていうけど、あれって女だけじゃないのね・・・・』
「ん?鯉?」
『ああ、気にしないで、こっちの話だから。━━━あ、ちょっと洸太に代わってくれる?』
電話越しに母様に似た嫌な気配を感じた私は、隣で同じく嫌そうな顔した洸太きゅんと無理矢理電話を代わる。洸太きゅんが出た途端重く威圧的な声が漏れてきたので、ちょっと離れておく。
助けを求める顔した洸太きゅんに頑張れとガッツポーズを見せ、私はクーラーの効いた居間へと戻った。
さぁ、甲子園見ようかな。
即行で甲子園を見るのに飽きたので、代わりに母様が録り溜めしといたドラマをお煎餅ボリボリさせながら寝転んで見ていると半泣きの洸太きゅんが帰還する。
めちゃ怒られたようだ。
内容を聞くと無断で遠出した事を一番怒られたみたい。
なので元気づけてあげようと私の武勇伝を教えてあげた。かっちゃんとボートで海に行った事、近くの山に二日間遭難した事、トラックの荷台に乗り込んで九州の端っこの漁港についた事、学校行事の遠足でうっかりはぐれ私とかっちゃんだけが三県離れたキャンプ場に辿り着いてしまった事などなど。
話を聞いた洸太きゅんは一言だけ返してきた。
「パー子、お前は本気でお母さんに謝れ」
何故に。
それから洸太きゅんとゲームして遊んでると、母様が帰還してきた。家庭訪問の為にケーキを買ってきたようだ。提げた袋から箱が見える。
帰ってきた当初、パジャマのままの私を般若のような顔で見てきた母様だったけど、私の隣にいた洸太きゅんを見て直ぐににこやかな顔になる。
あまりの変わり身の速さに、洸太きゅんは更に怯えた。
「あ、あの、こんにちは」
「はい、こんにちは。見たことないけれど、何処の子かしら?近所じゃないわよね?」
「あの、お、おれ・・・僕、出水洸太って、その、言います」
「そう洸太くんって言うのね。私は双虎のお母さんで、緑谷引子って言うの。よろしくね」
「は、はい!」
洸太きゅんの背筋伸びっぱなしなんですけど。
妙な光景をぼんやり見てると、音を置き去りにするような速さで母様の手が伸びてきた。
虚をつかれた私に避ける余裕はなく、物の見事にアイアンクローされる。
「何処から連れてきたのかしら?拐ってきた訳じゃないわよね?」
「いたたたたたたたた!!違います!!違うんです!!違いますで御座います!!あっちから来たんですぅ!!いたたた!!」
「あっちからってどっちから来たの?そんな野良猫みたいに言わないの。で、何処から拐ってきたの?」
「全然信じてないじゃん!?」
助けてぇぇぇぇぇ!誰か、助けてぇぇぇぇぇ!!
誰か怒れる母様に事情を説明してあげてぇぇぇぇ!!
心の中で祈っていると「あのっ」と洸太きゅんの声が聞こえてきた。
「僕っ、合宿の時、パー子に助けて貰ったんだ!!」
洸太きゅんの声に母様の掌から力が抜けた。
解放された私の体は力なく横たわる。
元気でない。もう、無理ポヨ。
「合宿の時・・・・そう、貴方もあそこにいたのね。怪我はない?大丈夫?」
ぐったりしながら母様達の方へ視線を向けてると、頷いてる洸太きゅんが見えた。
「僕っ、ずっと、皆にいやな事、言ってきて、でも、パー子は助けてくれて、だからちゃんと謝りたくて、ありがとうって言いたくて、勝手に、来ました」
洸太きゅんの目がウルウルしてる。
「パー子が、拐われたのも聞いてて、僕もっ、あの時怖かったから、心配で、どうしても顔が見たくて、ごめんなさいっ、パー子のこと怒らないでっ」
洸太きゅんの泣きじゃくりながらの説得に、母様の目がこっちを見た。どうやらもう怒ってないようだ。
「ふぅーーーー仕方ないわね。分かりました。双虎、取り敢えずお説教は終わりにします。それでこの子のお母さんは?」
「夕方くらいに迎えに来るって言ってました」
「そう」
母様は洸太きゅんの顔を拭くと笑顔を浮かべた。
「おやつにしましょうか、ね?」
◇◇◇
「━━━━そんな事があったんですか」
「すみません。折角いらして下さったのに、うちの馬鹿が・・・」
日が暮れ始めた頃、家庭訪問の為に緑谷少女のお宅に行くと大の字で寝てる緑谷少女の姿があった。緑谷少女のお母さんに話を聞くと、少し前まで件の事件で助けた少年が遊びに来ていたらしい。厳密にはお見舞いらしいのだが、この様子を見れば少年の訪問が彼女にとってどう映ったのか分かると言うもの。
とはいえ、家庭訪問の時くらいしっかりしてて欲しかったな。緑谷少女、君を交えないと出来ない話が結構あるんだよ?
それに、地味に再会を楽しみにしていたんだけどな。
まぁ、そんな事思った所で、遊び疲れて寝てる緑谷少女はお母さんの声にも反応しない程の熟睡ぶりでどうにもならない。
仕方がないと諦めて告げるべき用件だけ告げる事にした。
「改めまして━━━この度は、お預かりしてるお子さんを守りきれず、誠に申し訳ございませんでした」
私は手を床につき、出来る限り気持ちを込めて頭を下げた。
先に相澤君が同じ事をしているだろうが関係はない。
これは教師としてと言うよりは、私個人としてのもの。彼女を安易に後継と選び、事件に巻き込んでしまった事への謝罪。
あれほどまでに大切にしている一人娘をここまで危険に晒されたのだ。許される道理などなく、突きつけられる言葉に覚悟していた。寮の件の答えを保留にしている所から、その内心は想像がつくそれを。
だが、一向にそれは私の耳に響かなかった。
「ニュース、拝見しました」
そっと呟かれた言葉は予想していない物。
思わず顔をあげれば緑谷少女のお母さんは不安な眼差しを向けてきていた。
「一人の一般市民として、娘を助けて頂いた親として感謝しています」
「いえ、私は━━━━━」
「ヒーローとして当然の事をしたと、そう言うんですか?」
瞳が揺れる。
「そのご活躍も、その後の記者会見も拝見しました。お体の調子が大分良くないと、聞いてます。無期限の活動休止だそうですね」
緑谷少女のお母さんから出たそれに、言葉は返せなかった。迂闊に返せなかったのだ。体の事は兎も角、メディアへ発表した無期限の活動休止は、あくまで建前でしかないからだ。
本来なら引退を表明したい所ではあるが、様々な方面から待ったが掛かった。特にヒーロー協会からの強い要請があり、私のいなくなった後の準備を整えるまで、後一年は引退表明は控えてくれと言われている。
私が何も言えず固まっていると、言葉は更に続いた。
「あの子を、これ以上、雄英高校に通わせる事は嫌です。本当は、入学が決まった時から不安でした。そして今回、こんな事件が起きた。貴方のような一流のヒーローがいても、あんなにも傷つくような事件が起きる所で、何かあったらと思うと気が気じゃありません。私は━━━━━」
「━━━━娘に、別の高校への編入を薦めるつもりでした」
それは、きっと、親として当然の結論なのだろう。
そこに部外者である私に口を挟む余地はない。
だから、私はただ頷くべきだ。
そうですかと。
だが、それでも納得できないのは、何故なのだろうか。
こんなにも悔しく思うのは、何故なのだろうか。
「申し訳ございません、言葉を━━━━」
「ですが、今日、あの子の姿を見て、止めました」
被せられた言葉に下がっていた視線があがった。
再び捉えたその瞳はまだ不安の色が残っている。
けれど、覚悟を決めた強い光が見えた。
「授業参観の時、私は言いましたよね。あの子を信じると。━━━━でも、本当の所はそうじゃなかった。信じきれていませんでした。貴方の事も、雄英高校も、娘の事でさえ。・・・貴方は、娘を信じてくれていたんですね?私が無事を祈っている間、少しも諦めずにあの子を」
「あの子が言っていました。大丈夫だったって。絶対に助けに来てくれる人達がいるからって。全然怖くなかったって、そう笑ってました」
緑谷少女のお母さんはそっと手を床についた。
「どうかあの子に、あの子らしく生きる為の術を教えてあげて下さい。洸太君と楽しそうに遊ぶあの子を見て、あの子の生きる場所がそこにあるのだと、今日知りました」
「きっと何処に行っても、あの子は沢山無茶をします。あの子はきっと、戦うのでしょうから。また、誰かの為に。━━━だから、あの子が信じる貴方に、教えて頂きたいんです。あの子を信じてくれる貴方に、お願いしたいんです」
「あの子を、どうか━━━━」
「はい、この命に━━━━━━いえ、生きて、必ず教えます。私の全てを。約束、します」