私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
年始から小説書きとか、寂しい限りやなわいは。
あれ、おかしいな、目から汗が・・・・。
唯一の救いは帰れる実家があるくらいか。
よし、モチくって寝るで。
時刻はPM6時30分。
群青と朱が混ざり合う空の下。
雄英高校の近く、ひっそりとした路地裏にある居酒屋『三猿』に小さな灯りが灯る。大人達が集うには少しばかり早いその時間だけど、店の中は景気の良さげな声が響いていた。
「本日はオールマイト退院祝い兼、一学期お疲れ様でした会にお集まり頂きありがとう御座います。僭越ではありますが、乾杯の音頭は私13号が務めさせて頂きます。皆さーんコップは持ちましたかー?」
「いぇーい!」
「「いぇーい!!」」
貰ったコップを高く掲げ『いぇい』すると、比較的ノリの良いラジオ先生とミッドナイト先生が『いぇい』返ししてくれた。良いね。そういうノリは素敵だよね。
「はい、皆さん準備万端という事で。では早速、乾杯の音頭を取らさせて頂きますね。カンパ━━━━」
「・・・・待て、13号。俺はまだ納得してないぞ」
冷めた声に全員の視線がそこへと集まる。
声をあげたのは僕と私と皆の包帯先生だった。
それも珍しく全身タイツじゃない。普通の服着てるバージョンだ。レアである。
「先輩、あの、何が?」
「言わんでもわかるだろうが」
動揺混じりの着込み伯爵の反応に、ノリの悪さに定評のある包帯先生はビシッとかっちゃんとお茶子、それと轟と眼鏡を指差して続けた。
「こいつらが、参加している事に、だ」
私はそっと隣を見た。
綺麗に並ぶかっちゃん以下友人達を。
「だってさ、皆残念だったね」
「てめぇも言われてんだよ」
「なにおう!?」
私まで排除しようとは何事かと、包帯先生に視線を送った━━━━けど、怖かったのでガチムチに視線を送る。
すると凄い苦い顔をしてきた。まるで説得に失敗したかのような顔だ。任せろと、言っていたのに。
「ガチムチ!!」
「━━━緑谷、先生をつけろ」
「はい!包帯先生!!━━━ガチムチ先生!どういう事ですか!?焼き肉延期する代わりに、今日の飲み会で焼き鳥食べ放題を約束してくれたのに!!ここまで来て食べないで帰れと言うんですか!?夕飯食べて来てないのに!酷い!!ホッケとわんこはまぐりは嘘だったんですか!!?」
私の声にガチムチは乾いた笑い声をあげる。
「まぁ、好きに食べて良いとは言ったけど、食べ放題とまでは約束した覚えはないんだけどなぁ・・・・あ、いや、食べたかったら頼んでも良いよ。そんな顔しないで」
「やったぁぁぁ!!ふぅーー!」
喜びに歓喜したら、今度はガチムチに包帯先生から鋭い視線が飛ぶ。
「オールマイト」
「ご、ごめん。でもね、相澤くん。彼女も今回は、本当に頑張ったから・・・ね?それに飲ませたりしないし・・・」
「頑張ったのは認めます。飲まないのも当たり前です。ですが、それとこれとは話が別でしょう。生徒と飲み屋にいく教師が何処にいるんですか?以前から思っていた事ではありますが、貴方は━━━━」
お説教か始まりそうな雰囲気にミッドナイト先生が立ち上がる。
「はいはいはい!!止め止め!楽しい席が台無しになるでしょう!イレイザーもオールマイトも止め!ほらっ、13号、乾杯っ!」
「はっ、はい!カンパーい!!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
遡る事数時間前。
焼き肉を渋るガチムチから聞き出したどうしても外せない用事の内容は、ガチムチの退院祝いにかこつけた先生達の飲み会だった。
私は生まれついてのエンターテイナー、皆のアイドル緑谷双虎。そんな話を聞けば当然行かない訳にはいかない。ミッドナイト先生が行くと言うなら、益々以て行かない訳にはいかない。寧ろ待っているに違いない。
よし、サプライズしなくちゃ。
そんな訳でガチムチを説得し、皆でワイワイ付いてきて今に至るわけなのである。
「おっちゃん!わんこはまぐり!私、わんこはまぐりぃー!!お茶子もやる?!わんこはまぐり!」
「私はええよ」
「わんこはまぐり、いっちょうぷりーず!!」
始めこそ包帯先生が良い顔をしなかったが、始まってしまえばこちらの物で、私は大人達の影で思う存分飲み会を満喫していた。
はまぐりを待ちながら焼き肉を頬張っていると、前に座っていた轟と視線があった。
「・・・はまぐり好きなのか?」
「いや、別に?特別好きではないかな。━━━ただ、前に父が自慢してたから、ちょっと気になってたのはあるけど・・・ていうか、父め。いつになったらカニ食べ放題連れてってくれるんだ」
「そうか。カニ残念だったな」
それだけ聞くと轟は眼鏡の方へと向いた。
話の区切りとしてイマイチだったのでてっきり続きがあるのかと思ったけど・・・どうも違うらしい。話終わりらしい。
相変わらずだなぁと眺めているとお茶子が声を掛けてきた。
「それはそうと、ホンマにええの?その、なんてゆーか、色々と。お金の事もそうやけど、先生とこういう形で食事会とか、あかん気がするんやけど」
「ええ?なんで?大丈夫でしょ?厳密には小料理屋だっていうし。ガチムチもOKって言ったし」
「あれは言わせたって、言うんやと思うけど」
不安そうなお茶子を安心させる為ガチムチに再確認しようとしたけど、なんか酔った包帯先生に捕まっているので止めておく。
こっちまで絡まれたら面倒臭そうだし、お説教されそうだし。触らぬ包帯先生に説教なしだからね。
「ハァイ!皆飲んでるかしら?!」
ガチムチと包帯先生を眺めていたら頬を赤らめたミッドナイト先生が現れた。酒臭い。
「ミッドナイト先生、私が飲んでたら流石に不味いと思いますけど」
「あははは!それもそうね!飲んでないようで何よりだわ。っと、爆豪くんちょっと隣開けてね?はい、どーん」
「あ?━━━っが!?」
ミッドナイト先生のお尻で押し出されたかっちゃんは、変な声をあげながら呑兵衛達の魔窟へと押し出される。そしてあっという間に酔っ払い達の群れの中へと沈んでいった。
空いた場所には当然のように、どっしりとミッドナイト先生が腰を下ろす。
「ふふん。それより緑谷さん、貴女何処まで進んでるの?」
ミッドナイト先生の楽しげな視線が私を見てる。
何の事か分からなくてお茶子を見たら、心当たりがあったのか思案顔だった。なんか「あかん感じになってきた」とか言ってる。
「何処までって、何が何処までなんですか?ミッドナイト先生」
「だーめっ、折角の楽しい会でそんな他人行儀な呼び方は。
「うっす。じゃぁ、ねむりちゃん先生。何の話ですか?」
「何って、爆豪くんとの事よ」
一瞬何を言われてるのか分からず、きょとんとしてしまう。周りの喧騒を聞きながらねむりちゃんの言葉を反芻し、漸く言葉の意味を理解した。つまりはそういう事だ。
「あの、ねむりちゃん先生。かっちゃんとはただの幼馴染で・・・・」
「えぇぇー?だってこの間お泊まりしたんでしょ?」
「お泊まりはしたけど、でもあれは━━━━ふぁ!?」
説明しようとしたら、ねむりちゃん先生に背後に回られ、がっしりおっぱい鷲掴みにされた。
しかも滅茶苦茶揉んでくる。
「貴女ねぇ、こーんな立派なもの揺らしてさ、男の子の部屋に一晩お泊まりして何もないは嘘でしょ?」
「あっ、ひょっ!?ひゃっ、うひっ、くすぐったいってば!ちょっ、ねむりちゃん先生!?」
「ねぇねぇ、本当の所はどうなの?本番はないにしても、ちゅーくらいはしたんでしょ?」
「にゃはははっ!?ちゅ!?ちゅー!?してにゃい!からひゃははは!!ちょっ、お茶子ぉぉぉ!助けてぇ!」
何とかお茶子に救出要請したが、そっと目を逸らされた。こういう時、なんのかんのと助け船を出してくれるかっちゃんはまだ大人達に揉みくちゃにされてる。
結局酔っ払いのねむりちゃん先生を止める者はおらず、おっぱい揉み揉み地獄は続いた。
「ねぇねぇ、どうなの?デートとか、普段はどうしてるの?前にSNSで噂になってたけど、地元デートはしてるんでしょ?ご飯行ったり、ゲームセンターに行ったり、夏祭りも一緒に行ったらしいじゃない」
「えぇ!?いや、あれはデートじゃ━━んっ!?あっ、駄目だって、ねむりちゃん先生!そこはあかん!そこはあかん!」
「ふふふっ、麗日さんみたいになってるわよ?何処があかんのかなぁ?」
この酔っ払いめ、全然止める気ないな。
擽ったさに身を捩りながらどうすれば良いか考えていると、目の前に座る轟と目があった。渾身の気持ちを込めて助けて視線を送ると機動戦士トドロキンが立ち上がってくれる。
「ミッドナイト先生、そろそろ━━━」
トドロキンが制止の声を掛ける瞬間。
ねむりちゃん先生におっぱいぎゅっと持ち上げられた。ジャージにおっぱいの形がくっきり浮かぶ。
「それにしても緑谷さん、良いもの持ってるわね。ぽよんぽよんよ。それに張りもあるし、グラビアアイドル顔負けね」
「━━━━っ!!!」
「轟くん!?だ、大丈夫かい?!」
揺れるおっぱいに視線をやった機動戦士トドロキンは、急に顔を背け踞ってしまった。
眼鏡が慌てた様子で介抱に向かったが、どうも撃沈したみたいだ。畳に赤い点々が見える。
色々と言いたい事はあるけど、取り敢えずこれだけ。
なんたる役立たず。
「あら?悩殺しちゃった?やるわね、緑谷さん」
「私のせいにしないで下さいよ。ねむりちゃん先生のせいじゃん」
おっぱいを揉むのも飽きたのか、轟の惨状を見たねむりちゃん先生は漸く手を離してくれた。
「いやぁー久しぶりに良いもの触らせて貰ったわ。若さって良いわね」
「お金取りますよぉ」
「あら、有料なの?それじゃぁね、帰りにアイス買ってあげるわ」
安いなぁとは思ったけど、夕飯も奢って貰ってる形だから文句は言わないでおいた。まぁ、出来るだけ高いアイスは買って貰おうとは思うけど。
「でもねぇ、緑谷さん。悪い事は言わないけど、貴女はもう少しちゃんと周りの事見てあげなさい」
少しだけ真面目なその声に、私は視線を向けた。
ねむりちゃん先生の横顔は少し寂しげで、何かを思い出してるみたいに見える。
「私も学生の頃は沢山恋愛したけど・・・やっぱね、愛するより愛してくれる人を探すべきだったと思うのよ」
「はぁ」
「それはね、今の生活に満足はしてるわよ?ヒーローは夢だったし、教師の仕事も遣り甲斐はあるし。でもね、どうしても思ってしまうの。あの時、彼の手をとっていたらどうなったかって・・・・」
「はぁ」
ねむりちゃん先生が染々話し始めて少した所で、わんこはまぐり一杯目がやってきた。なのでお茶子をねむりちゃん先生の所へスライドさせ、私は至福のはまぐりタイムに移行する。お茶子が救出要請してくるけど、さっきの恨みがあるので無視しておく。
おっちゃん、はまぐりおかわりぃ!!
◇◇◇
飲み会が始まってニ時間。
お酒の飲めない私は混沌とした飲み会の惨状を眺めながら、相澤くんに説教されていた。
「大体ですね、貴方は本当に、教師というものを・・・・」
「相澤くん、それ私じゃないよ?」
とは言っても相澤くんはずっと店の飾りの達磨に話し掛けていて、説教とも思えないほど同じ言葉を繰り返してるだけなのだけど。
「?オールマイト、妙な話し方をしますね。声が遠い」
「オールマイトは君の後ろにいるよ」
「またご冗談を」
あーうん。もう駄目だね。
飲み始めにマイクが相澤くんはお酒に弱いと言っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。
取り敢えず水でも飲ませようかと思い、店員さんを呼ぶ為に手をあげた。けれど、場は既にそういう雰囲気ではなく、ノリノリな彼女によってカラオケ場に変わっていた。
そう、私が連れてきてしまった緑谷少女である。
「メイクッ、マイッ、ストーリー!!僕がぁゆいつー、僕でーあるー為のーーー!」
歓声を浴びながらマイク片手に歌う彼女は、とても楽しそうにその美声を披露している。山のようにはまぐりを食べた後とは思えない元気ぶりだ。はち切れそうと呻いたあれは何だったのか。いや、寧ろお腹一杯まで食べたからあの元気なのかも知れない。
「オールマイト」
声に振り返ると爆豪少年がいた。
随分と皆に前日の件でからかわれたのか、服装とか髪型とかちょっとボロボロになっている。
ぼんやりとしか聞いてなかったが、可哀想に。
そんな爆豪少年は何も言わず隣に胡座をかいて座った。
「その、災難だったね・・・・」
「あんた程じゃねぇ」
こっち見てたのか・・・・。
いや、まぁ、途中までは大変だったけど。
「えっと、何か飲むかい?」
「いらねぇ」
こ、言葉が続かないなぁ。
何も言えずぼやーっと横目に緑谷少女を見ていると、飲み物を口にした爆豪少年が口を開いた。
「俺は、あんたを越える」
短い言葉ではあったが、それは思いの籠った言葉だった。
「そうか」
「だから、それまで大人しくしてろや」
・・・ふふ、大人しくか。
相変わらず優しさが見えにくい。
どう答えるのが正しいか考えたが━━━━考えた所で良い考えが思い浮かばなかったので、素直に気持ちを伝える事にした。
「ありがとう、期待しているよ」
「けっ」
これから先、爆豪少年があの力を継ぐつもりがあるのか分からない。だがその表情を見れば、彼の手の中に私達の意志が込められたあれが、しっかりと握られているのだろう事は分かる。
ならば、後は信じ見守ろう。
後の時代を生きる彼や彼女を。
これからはヒーローとしてではなく、一人の教師として。
「爆豪少年、私は━━━━」
「━━━━ガロロッ!!何故、飲み屋に生徒ガァファ!!ガルゥオオオオ!!」
突然店の中に獣のような声が響いた。
視線を向ければ入口の所にハウンドドッグを始め、B組の担任であるブラドキングやエクトプラズマの姿もあった。
「生徒ガ居ルトハ聞イテナイゾ━━━━ソレモ、ヨリニモヨッテ緑谷達カ」
「んん?おぉ、本当だ。いつもの騒がせA組チームか。何がどうしたんだ━━━━って、お、おい!イレイザー、達磨と向き合ってどうした!?」
予定では来ない筈の三人が訪れ、ミッドナイトの鬼カクテルでグロッキーだったマイクが重そうな頭をあげた。
「━━━━あぁ、頭痛ぇ。って、おいおい、ゲスト呼んだ覚えはナッシングだぜ?誰が呼んだんだ?」
「僕でぇーーす!僕が呼びましたぁ!」
ピョン、と13号が手をあげる。
「折角の機会ですから、皆さんとトコトン語りたいと思いまして!!さぁさぁ、こちらにハウンドドッグさん!!ああ、皆さん最初はビールで良いですよね?マスタァァァ!生三つでぇぇ!!」
「イヤ、明日モ朝ガ早イカラ━━━━」
「それとホッケ二つにモツ煮二つお願いしまぁぁす!え?何ですか、エクトプラズマさん!?俺は大ジョッキ!?すいませぇぇぇん!!生一つ大ジョッキでぇぇぇぇ!!」
「13号ッ!オイ!マテマテ!」
相澤くんになじられてオドオドしていた最初の彼はもう何処にもいないらしい。
酔いって凄い。
「おっしゃぁーー!!人も増えて盛り上がった所で、二曲目行っちゃうよ!!ねむりちゃん先生ぇかもぉん!!」
「OK!やっちゃうわよ!緑谷さん!男は狼だってこと、言いふらしてやるわよ!」
「さー!いえすまむ!」
楽しげな前奏が流れ始め、お叱りムードは綺麗に行方不明になり、また混沌とした何かが再開された。
きっと今夜はずっとこんな感じなのだろう。
とはいえ、流石に生徒達を最後まで付き合わせる訳にはいかない。
「━━━━爆豪少年、私が適当な所で区切ってみせるから、緑谷少女を頼むよ」
「・・・・おう」
結局、緑谷少女を回収するまで後一時間を有し、死ぬほど疲れる事になるのは、この時の私も爆豪少年も━━━━誰も知らない。