私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
なに、あの鼻の人、すき(*´ω`*)
『えーと、はい、ご覧頂けている通り、意図的にではありますが作らせて頂きました被災現場です。ここでは一般市民としてではなく、仮免許を取得した者として━━━どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
映し出された光景は息を飲む程リアルな光景だった。
何せその光景は、あの日見た神野区を彷彿とさせる物だったから。ヒーロー協会にとっても、あの日は余程特別だったという事なんだろう。
となるとやっぱり、今ヒーロー協会が求める物は突出した力をもった英雄ではなく、群として動く事が出来る協調性のある凡夫。勿論才能も能力もあるに越した事は無いのだろうけど。
ふとかっちゃんを見ると私と同じ気持ちなのか、息を飲んでモニターを眺めていた━━━━━ので、ベイビースターを脛目掛けて飛ばしてやる。しかし、何度もやってたせいか受け止められてしまった。手にしたそれを見て、かっちゃんの鋭い視線がこっちを向く。
「やっぱりてめぇか!!こらぁ!!その前のもてめぇだな!!おいっ!!」
「はぁ?何の事?ちょっと何言ってるか分からないなぁーんんー?」
「これが証拠だろうが!!ああん!?てめぇ自慢してやがったよなぁ!?こいつに使われてる金属がぁよぉ!Iアイランド輸入の特殊合金だってなぁ!んな珍しいもんそこいらにあって堪るかぁ!発明馬鹿の刻印もあんぞ、おい!何とか言ってみろやぁ!!」
ちっ、自慢するんじゃなかった。
私はホルスターを触る。
そしていかにも今気づきましたという顔をしてやった。
「あれれれれぇ?おかしいなぁ、ここにあった弾が、一個なくなっちゃてるなぁー。参ったなぁー。地味にお高いのにぃー」
「白々しぃわぁ!!騙せると思うなよ、ごらぁ!!」
「っぶな!」
投げ返されたベイビースターを引き寄せる個性でキャッチ。手にバチィンと当たってめちゃ痛い。反応が遅れていたら顔面直撃コースだったので掴めて良かった。
てか、乙女の顔面狙うとは何事か!!
「顔面狙うとか頭おかしぃんじゃないのぉ!?顔とか怪我して傷跡とか残ったらどうすんのぉー!?お嫁さんに行けないんですけどぉ!!責任とれんの!?おい、言ってみろ爆発頭ァ!責任取れるんですかぁ!?」
「るっせぇわ!!その癖平気であっちこっち殴り込みに行くのは何処のどいつだぁ!!ああん!?何回てめぇの面倒事に巻き込まれたと思ってんだ!!舐めんじゃねぇぞ!!」
「それはそれですぅー!必要に応じて臨機応変に生きた結果ですぅーー!自己責任でやってるんだから、悪くないじゃん別にぃ!!てーか、話逸らして責任から逃れようとしないでくださぁーい!おらぁ!言ってみろぉ!責任とれんのかごらぁ!!」
ハンドサインでふぁっきゅーしてやると、かっちゃんが指をボッキンボッキン鳴らしてきた。
「上等だこらぁ!責任の一つや二つとってやるわぁ!!」
「こっちがごめん被るわ!!」
「んだとこらぁ!!」
「「「きゃーーー!」」」
「ニコちゃんさらっと流したけど、えらい事言ったなぁ爆豪くん」
「もうこれ、そういうあれよね。けろっ」
「・・・あたし、不覚にもきゅんとしちゃった」
「嫁の貰い手なら━━━」
「待て、轟くん!!そういうノリで行くと碌な事にならないぞ!!」
『あのですねぇー控え室の元気な方々ー。説明が聞こえなくなるので、喧嘩は一旦置いておいて貰えませんかぁ。僕の睡眠時間が着々と減っておりますので』
・・・マイクとかカメラとか仕込まれてるんだろうか。
何となしに周りを見ると、妙に楽し気な女子ーズ、眼鏡に羽交い締めにされた轟、その他のウチの男子共は勿論、受験者の視線が集まっている。
かっちゃんに視線を向けると無言のまま歯軋りした。けれどこれ以上やり合うつもりはないっぽい。受験者を敵に回すのも宜しくないし、協会に睨まれたら事だもんね。お互い。
どちらともなく頷きあい、取り敢えず冷戦に移行。二人でモニターに視線を向ける。
『・・・はい、ありがとうございます。えーとですね、画面を見て貰いますと━━━━━』
かっちゃんにガン飛ばしながら話を聞くと、ふっく?とかいう採点もするエキストラの人がいるから、それを救助していってね。その様子を見て外部からもポイントの採点するから・・・・という事らしい。
合格判定を貰えるポイント不明。
そもそも救助を行うとどれだけポイントが貰えるかも不明。見ているポイントも不明。
ここまで不明だとポイント配分とかは無理そう。
まぁ、試験の流れを見れば、集団として動く能力を重視して見てはいるんだろうけど。
「・・・・かっちゃん、次は協力してよね」
「あっ?んだウゼェ・・・ちっ、やりゃぁ良いんだろ。やりゃぁよ」
かっちゃんから協力するという言質をとり、私達雄英一年A組ーズは5人一組で救助チームを組む事にした。普段からお互いの個性は見ている。時間は10分しかないけど、わりとすんなりチームに分かれた。
私を中心とした、お茶子、阿修羅さん、葉隠、アオヤーマの救助第1チーム。
かっちゃんを中心とした、切島、瀬呂、耳郎ちゃん、お菓子の人の救助第2チーム。
轟を中心とした、眼鏡、梅雨ちゃん、喋らない人、ブドウの救助第3チーム。
百を中心とした、あしどん、上鳴、常闇、尾白の第4チームは避難場所の確保と怪我人の応急救護に当たって貰う。
念の為に"ある特定状況下限定"の緊急フォーメーションも考えたけど・・・・それは使うかどうか。試験作ってるやつが性格悪くなければないとは思う。
時間一杯まで各チームで打ち合わせ。
それぞれの役割を再確認。
行き当たりばったりでは効率悪いからね。
「僕は煌めいても?」
「え?ああ、うん。瓦礫の隙間とか照らせば良いんじゃない?知らないけど」
「メルシィ!今度こそ輝いて見せるよ☆」
アオヤーマは輝くらしい。
よく分からないけど。
突然ジリリリとばかでかい音が鳴り始めた。
その直後、目良っちのちょっとやる気な声が響く。
『ヴィランによる大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』
一次試験の時のよう、控え室が音を立てて開いてく。
無駄に金掛かってるぅ。
『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う━━━━━」
全員が駆け出す為に用意を始める。
阿修羅さんも予定通り、役目を果たす為身構えた。
『一人でも多くの命を救いだすこと!!!START!』
始まった直後、駆け出す他の受験者を尻目に私達は待機。それぞれのチームにて情報収集の役割を持つ皆から動き出す。
ウチのチームなら阿修羅さんだ。
「緑谷。担当方向、探知可能範囲に十名確認。内五名は声が籠ってる。恐らく瓦礫の下だ、どうする」
「他の受験者は?」
「早い連中がかなり進んでる。が、三ヶ所見逃しがあるようだ」
「そこから行くよ、近い所から案内よろしく。じゃ皆、お先に」
お茶子にチームメイトの重力を消して貰い、引き寄せる個性で一気に飛ぶ。阿修羅さんの案内に従って進めば瓦礫の下に倒れたふっくの人がいた。
「ニコちゃん、瓦礫浮かそうか?」
「その前に瓦礫の状態とふっくの人の容態を確認。瓦礫はお茶子と葉隠宜しく。阿修羅丸は待機、情報収集継続。アオヤーマはこっち手伝って」
「ああ、了解だ。緑谷・・・・阿修羅丸!?」
「ダコールッ!」
早速のヘソビーム射出で瓦礫の影が照らされる。
光に気づいたふっくの人が弱々しくこちらを見た。
「助けにきましたよー、ふっくの人ー。もうちょっと待ってて下さいねー、ふっくの人ー」
「・・・フックの人って言わないでね。ただの救助を待つ怪我人だと思ってやって」
「アイアイっ、了解でーす。それより分かる範囲で良いので、どんな状態なのか教えて貰えますか?痛い所は何処って設定ですか?」
「そうなんだけどね、うん。お願いだから設定って言わないで。・・・・イタタタッ、足がっ、足がぁ!!助けてくれぇ!!」
足が挟まれてる設定なのが分かり、一言掛けてから一旦外へと出る。丁度お茶子と葉隠が帰ってきて、瓦礫の状態についても分かった。ついでに百から避難場所の確保が出来た合図があった事も。
幸いな事に瓦礫はどかしても大丈夫そうだったので、阿修羅さんの複腕と私の引き寄せる個性で一部の瓦礫を固定して、お茶子の個性でどんどん瓦礫をどかしちゃう。瓦礫から引っ張り出したふっくの人は足の怪我以外に頭も打った設定が存在していたみたいなので、お茶子の個性で浮かして葉隠に百が待ってる避難所まで連れていって貰った。
葉隠が避難所に向かってる間に次の目的地へ。
道すがら面倒見れる範囲で軽傷者設定のふっくの人も拾っていく。面倒見切れない分はそこいらの受験者にパス。出来るだけ放置はしない方向で動く。
さっきと同様、瓦礫に挟まれた人を発見したらアオヤーマのヘソビームで照らし、ふっくの人の容態と瓦礫の状態を確認。救助作業に移行する。
そうこうしていると葉隠から救助者搬送の合図がピカッと光った。お茶子は個性を一旦解除して、再び救助作業に戻り、今度は瓦礫をポイポイして貰う。
アオヤーマの光を目印に戻ってきた葉隠には道すがら拾った軽傷者設定のふっくの人と、重軽傷者設定のふっくの人の避難所への護送をお願いする。
その単純作業を淡々と繰り返していく。
慌てず、騒がず、確実に。
そうして何回か救助をしていると、次の目的地へ向かう途中、阿修羅さんが神妙な顔で呟いた。
「順調ではあるが、これで良いのか?」
阿修羅さんの心配が分からない訳ではない。
少し淡々と助け過ぎた気はする。ドラマがない。
でも、効率を考えれば間違えてはないと思うのも本当だ。
「阿修羅丸はヒーローになりたいんだねぇ」
そう呟くと阿修羅さんは「もしかして、それがヒーロー名だと思ってたりするか?」と眉間にしわを寄せた。
え、ちがうの?阿修羅さんのヒーロー名は阿修羅丸でしょ?
「・・・テンタコルだ。まぁ良い。・・・それより、それはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味。映画とか、漫画とか、ゲームとか。ドラマチックに人を助ける、そういうヒーローの事」
「・・・・そうだな。そうなれたらとは思う」
話を聞いていたアオヤーマも「僕も☆」と煌めいてきた。お茶子も眩しそうに目を細めながら「そやね」と頷く。
「憧れる気持ちは否定しないけど、そればっかり見てたら駄目だよ。きっと助けられる側は、そんな所見てないから。少なくとも、私はそうだったよ」
誰かに手を差し伸べて貰える事。
それがどれだけ安心出来て、どれだけ必要なのか。
私はあの日の、あの時の、あの手の感触も、胸に広がった温かさも覚えてる。
「どんな形でも良いと思う。地味でも、かっこ悪くても、口が悪くても。━━━━助けにきたって事が、一番大切だと思うからさ」
そっとお茶子に視線を送ると小さく頷いた。
アオヤーマもシュンとする。
「・・・馬鹿な事を聞いた。許せ、緑谷」
「別に良いよ、阿修羅丸」
私の言葉に阿修羅さんは複腕の口を近づけてきた。
「そこは直してくれ。俺は阿修羅丸じゃない」
「阿修羅丸・テンタコルスタイル」
「いや、付け足すな」
阿修羅さんと楽しくお喋りしてると轟音が響いてきた。
けたたましい爆発音、何かを破壊するような激しい音と振動。視線を向ければ砂埃が舞いあがり、視界が死ぬほど悪くなってる場所が見える。
「阿修羅丸!」
「だからテンタコルだと・・・はぁ、まったく・・・任せろ━━━━っ!!?これはっ!緑谷っ、お前の予想通りだ!」
砂埃が内側から吹き飛ばされ、そこに黒光りするシャチっぽい大男が現れた。それも怪しい衣装に身を包んだ、手下みたいな連中も引き連れてだ。
「ヒーロー協会は、そうとう性格が悪いらしいぞ」
脳裏に浮かぶのはあの日。
少しだけ一緒に戦った、あの姿。
『ヴィランが姿を現し追撃を開始!』
流れるアナウンスを聞きながら、私は装備の具合をチェックする。悠然と佇むその男と相対するなら、隙は少しも見せられないから。
『現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ救助を続行して下さい』
様子を窺ってるとシャチが歩き出した。
マントのようなそれを、大きくはためかせながら。
その姿に戸惑う者は多い。
え、いや、ウチは予想してたけど。
「よーし、アオヤーマ!!鴨ネギならぬ、シャチがポイント持ってやってきた!合図よろしくぅ!!」
「ウィ!━━━届け、僕の煌めきシグナル!!」
アオヤーマから空高く放たれた光は、円を描くようにゆっくりと大きく動き、空に光の軌跡を浮かび上がらせる。
それは召集の合図。
ヒーロー協会の性格の悪さを考慮して用意しておいた、対敵用特別チームを結成する為の。