私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

178 / 282
次回二次試験クライマックス・・・・だったら良いなぁ(*´ω`*)


はい、そんなこんなで、また閑話だよ。『北風小僧の小さな傷』の閑話巻き

俺ってやつは昔から恐れを知らないタチだった。

 

『はやくてかっけぇ・・・好きだこのムシ!』

『きゃぁぁぁぁ!?先生ぇ!!イナサくんが!!』

『━━━なに触ってんだイナサァ!?』

 

廊下の隅で地面を走る黒い虫。

それを手にした俺に皆は肩を揺らして悲鳴をあげた。

でも俺には、艶光が眩しくて速くてカッコいい虫にしか思えなかった。

 

『すげぇでけぇかっけぇ・・・この犬好きだ!』

『グルルルルルゥ』

『あぶねぇよ!イナサ!噛まれんぞ!!』

 

近所の家に飼われてる大きな犬。

近づこうとしたら全力で皆に止められた。

俺には体が大きくて逞しくて、強くてカッコいい犬にしか思えなかった。

 

どれもこれも、俺のお気に入りだった。

俺のお気に入りに対して皆は色々言ってきたが、俺からすれば勿体ないとおもうのだ。悪い所はあるかも知れないが、それ以上にカッコいい所だらけだ。虫も、犬も、みんな。知れば知るほど、カッコいいと思える。それぞれにそれぞれのカッコよさがあるものだ。

 

そしてそのお気に入りの中でも一番のお気に入りがあった。心から熱狂する、お気に入り。

 

 

『ヴィラン!!そこまでだ!!』

 

 

それがヒーローだった。

目の前のピンチに全霊をかけて挑む。

その強さは人に希望を与える。その熱き闘志は熱と感動を与える。

 

俺はそんなヒーロー達の背中に憧れた。

そんな姿に思いを馳せた。

いつかは俺も熱いヒーローに。

 

 

だから嫌いだった。

 

 

『邪魔だ』

 

 

掛けられた拒絶する言葉で。

振り払われた手で。

怒りに染まった冷たい目で。

 

俺のヒーロー像を壊した。

あの日の、あのヒーローが。

 

 

 

 

 

それから時が経って中三の冬。

俺は憧れだった雄英高校の門をくぐった。

推薦入試の試験を受ける為。

 

そこにいた受験者達に、心が熱くたぎった。

日本一のヒーロー校、雄英高校。

集まってくるのはとびきり。

合格すれば待っているのは日本一熱い高校生活。

 

ワクワクする気持ちは、どうしても押さえられなかった。

 

筆記試験も終わり、プロヒーローであるプレゼントマイクの説明を受けて挑む実技試験。試験内容は雄英の施設を使ったマラソン。個性使用の許可も受け、心は更にたぎった。熱い展開だと。

 

実技は全力でやる。当然だ。

出し惜しみはしない。

次の面接の事を一旦忘れてスタート地点につく。

 

ふと、そこへ目がいった。

朝入口近くで会った鋭い目をした奴。

 

『邪魔だ』

 

ぶつかった俺に冷たくそう言った奴だ。

記憶が正しければきっと、あのヒーローの息子。

噂には聞いていたし、何よりあの目はよく似ていた。

 

嫌な感じだ━━━それがそいつに抱いた素直な感想。

 

レースが始まるとそいつは誰よりも速かった。

氷を重ねての独特の移動。体を滑らせるならまだしも、作った氷で体を無理やり押し出すような特殊な移動方。

個性の出力と耐久力、空気抵抗を受けても崩れない体幹、最短のルートを選び続ける頭の回転の速さ、それを行い続ける高い集中力。

 

目は気に入らないけれど、素直に凄いと思った。激アツな実力だ。

けれど不思議と、その背中に心は熱くならなかった。

感じるのは寒々とした何か。

多分合格するのだろうと思うと、気に入らないと思ってしまう。

 

でも、とも思う。

悪い所ばかり見るなんてどうかしてると。

 

生き物だ。ましてや人だ。気持ち一つで表情も変わる。なら勘違いも間違いもあるし、きっと俺が好きになれるところもある筈。これまでと同じだ。見つければ良い。ちゃんと話そう。友達になれば、きっと気にならなくなる。

 

まずは視界に入ろう。

その為にも全力で。

そう思い風で背中を押し出し、駆けた。

 

全力で駆けたレースは僅差で俺が勝った。

試験だった事なんて半分飛んでて、ただ凄い奴に勝てた事実が純粋に嬉しかった。ギリギリの結果。熱い戦いだったから。

 

『やぁった、勝ったぞ!!でも次はわかんないな!あんた凄いな!』

 

思わずあげてしまった声。

見つめた先のそいつは━━━俺を見てなかった。

間違いなく熱かった筈なのに。

 

『━━━あんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?凄いな!』

 

続けて掛けた言葉に、漸くそいつの目は俺を見た。

それは一瞬だけだったけど、確かにそいつは俺を見た。

酷く冷たい、あの時見たその目で。

 

『黙れ。試験なんだから合格すればそれでいい。別にお前と勝負してるつもりもねぇ』

 

それはあの時と同じだった。

 

『邪魔だ』

 

あのヒーローと。

俺が一番嫌いなヒーローと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャングオルカへと叩きつけた風に炎が潜り込む。

熱を帯びた豪風の威力は格段にあがり、ギャングオルカの肌を焼いていった。苦痛に満ちたくぐもった声が聞こえる。

 

「っち、またっ!!」

 

視線を落とすと轟と目があった。こちらの様子を窺うような視線を感じる。

その目に含まれた意思に気づけないほど鈍くはない。それなりに訓練を受けてきた。

 

だから余計に癪に障る。

 

「━━━好きに動け、フォローする」

「黙れよっ!!だれが、あんた何かのっ!!」

 

気に入らない、なんだその目は。

お前はそんな奴じゃないだろ。

そんな目で見てくる奴じゃないだろ。

 

風を放つ度、轟は合わせてくる。

決して俺の邪魔をしないように、的確に。

風に含まれた熱は攻撃の威力をあげていく。

 

それは才能が成せる技術ではない事は気づいてる。

誰かと戦う事を理解してなければ絶対に出来ない事。それこそ何回も何十回も、繰り返し繰り返し訓練を受けなければ。個性を手足より精密に扱うのに、誰かと連携をとるのに、どれだけ苦労と努力を重ねたか考えれば分かる。俺がそうだった。

 

だからこそ、癪に障る。

気に入らない。

 

 

 

「っく━━━なんで、あんたがっ!!」

 

 

 

久しぶりに見た轟は、笑っていた。

俺を否定した癖に。

それが当たり前みたいに。

 

そんなの、認められる訳がない。

認める訳にはいかない。

 

そうじゃなきゃ俺は━━━━━なんなんだよ。

 

逃げたんだ、俺は。

自分の弱さが認められなかった。自分の中に沸き上がった感情と向き合えなかった。熱くない物が、一番嫌いな物が溜まっていくのが耐えきれなかった。

 

お前の言葉や目に胸を張れなかった。声を掛けられなった━━━あれだけ憧れて努力して、なのにその目を見たら、何も言えなかった。何も。俺も同じだったから。あんなにも嫌いだった筈の物に、俺も。

俺は、俺も裏切ったんだ。

 

ヒーローは熱くなくちゃいけないのに。

 

逃げて、誤魔化して、知らないふりをして。

でもやっぱり夢は諦められなくて。

だから士傑高校に入った。努力した、誰よりも。朝も昼も夜も、ヒーローになる為だけに努力した。

 

俺は間違っていないんだと、そう言いたかった。

いつかプロの世界で、お前に伝えたかった。

ヒーローの熱さを。俺は違うんだと。

 

なのに。

 

なんでお前は、もう一人でヘラヘラ笑っているんだよ。

なんでお前だけ、勝手に前に進んでるんだよ。

なんでお前が、そんな顔するんだよ。

 

お前が、お前らが否定したのに。

俺を、俺の夢を、俺のヒーローを。

ふざけるな。

 

 

「ふざけるなぁぁ!!━━━━っぐぁっ!?」

 

 

目の前がぐらついた。

視界が二重にぼやける。

頭痛で意識が朦朧とする。

 

視界の端にギャングオルカの姿が見えた。

こちらに鋭い視線と目が合う。

攻撃の気配が━━━。

 

慌てて姿勢を戻そうとしたが、何かが体にぶつかった。

体についた灰色の何かは急速に固まっていく。体が動かしずらくなる。体が酷く重くなる。

 

「着弾ンーー!!シャチョーと我々の連携プレイよ!!」

「受験者全員ガチゴチに固めてやる!!」

 

ギャングオルカの近くにいる仮面達からそんな声が聞こえてきた。気を取られているとコントロールが乱れた。

 

灼熱を孕んだ風が落ちる。

 

「━━━━━っ!!」

 

視線の先、風の向かう先に人の姿が見えた。

避ける余裕は見えない。俺がずらさないと。

そう思って力を込めたけど、意識が薄れて上手くいかない。威力を増した風が逸れず、止まらない。

 

脳裏に最悪が過っていく。

ヒーローを目指す者が出すには、ほど遠い結果。

俺の憧れから遠い姿。

 

「お、れ、はっ、何でっ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何をっ!!」」

 

 

怒鳴り声が響き、竜巻のようなそこから幾ばくかの風を削り炎を引き剥がす。宙に散っていく炎は、空中に飛ぶ球体へと集まりその身を眩しく光らせる。

叩きつける豪風は視界一杯に広がった茶色の草原が受け止め、倒れていた受験者に落ちぬよう外へと力を押し流ていく。

 

 

「━━してんだ、アザラシぃ!!エサ抜くぞ!」

「━━━しているんだっ!!イナサァァァァ!!」

 

 

体が強く引き寄せられる。

引き寄せられる先には茶色の━━━毛が待ち構えていた。ボフンと音がなりそうな柔らかい衝撃。落ちないようにか、体に茶色の毛が絡まっていく。

 

その大量の毛は、その個性はよく知っている。

 

「せ、んぱい━━━━っがぁ!?」

 

感謝を伝えようとしたら固い衝撃が頭に走った。

恐らく拳骨、目がチカチカする。そのまえのギャングオルカの攻撃もあって更にクラクラする。

 

「モジャモジャ、私らこのままいくからね?躾しといてよね」

「うむ、君達は先に行ってくれ」

 

聞き覚えのある女子の声と先輩の声。

その間にも戦いは続いているのか、爆発音や怒鳴り声が聞こえてくる。視界が茶色一色に染まってて見えないが、その激しさは伝わってくる。

 

「・・・はぁ、まったく!!妙な雰囲気だなとおもえば、馬鹿者が!!聞こえたぞ!!ヒーロー足らんとする者が、こと救助現場で私情を挟むな!!貴様っ、これまで何を学んできた!!」

「じっ、自分はっ━━━!」

「言い訳なぞ聞かん!!大馬鹿者が!!演習もまともに出来ん者が、本物の現場で何が出来るか!!喧嘩がしたくてここに来たのか貴様はァ!!━━━━熱いヒーローになるのではなかったのか!!その為の、仮免許試験であろうが!!」

 

その言葉に声が詰まった。

いつか先輩に語った夢の話。

俺の話。

 

「迷うこと、悩むこと、挫折すること、間違うこと。構わん。幾らでもしなさい、お前はまだ一年坊主だ。時はまだある、焦るな。それらはな、更なる成長を促す肥やしだ・・・だが、今は救う事だけ考えろ。忘れたのか。お前を送り出したのは勝つ為じゃない。救う為の時間稼ぎだ」

 

「それを、何故お前に任せたか分かるか?トップクラスのヒーローの妨害という危機的状況。何故、お前に任せたか。信頼したからだ。お前の努力を、志を、力を。確かに短い間ではあったが、この数ヶ月を私達は見てきたからだ」

 

「何を焦ることがある、何を恐れることがある。私達はお前を見てきたぞ。お前はお前の目指す者へと、ちゃんと向かっている。胸を張り、堂々としていろ。お前にはその力があるのだ━━━━忘れるな、イナサ。お前はヒーローになるのだろう?誰よりも熱いヒーローに」

 

言い聞かせるような先輩の声に視界が滲んだ。

どうしようもなく、熱く。

 

「・・・・はい」

「分かれば良い。さて、どのような基準によって採点がついているのか分からんが・・・イナサ、恐らくお前の採点は散々たる物になっているだろう。合格も難しい」

「はい、それは」

「故に、点数稼ぎにもう一働き行くぞ」

「はっ━━━えっ!?」

 

一言伝えるや否や、先輩は背中にオレを括りつけた。

茶色に染まっていた視界が晴れ、戦っている他の受験者達の姿が目に入ってくる。

 

「その目で見たままの光景にて、お前が為すべき事をしろ。一切の私情を捨て、客観的に見て判断しろ。必要が必要であるために動け━━━出来ぬとは言わさんぞ、レップウ!!」

 

何も解決なんてしていない。

俺はまだ、何も出来てない。

何もかもそのまま。

 

 

けれど、この言葉に返す物は、きっとそれしかない。

 

 

「はいッッッス!!!」

 

 

腹の底から叫んだその言葉に、先輩は何も言わず戦場となっている其処へ走り出した。どうしようもなく情けない、俺を背負ったまま。力強く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。