私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
それはそうと、冬のヒロアカ楽しみ。
どんな話になんねんやろか。ifより過去話とか見てみたいなぁ。いや、なんでも見るけどさ!
『焼き肉』それは平たく言うのであれば、お肉を焼く行為を指す言葉である。しかして我が日本国において、焼き肉と言えばただお肉を焼く行為に留まらぬ、料理として確立された奥深さが存在するのだ。
ホットプレートやフライパン、鉄板や網と焼き肉は使用する道具から始まる。勿論、お肉によって変えるのがベストではあるのだが、個人的にはカリッと仕上がる網焼きがベストと言える。
あの油が程よく飛びさっぱりとしながらも、お肉の甘味が凝縮された味わいといったらない。鉄板より網、それが私。
そしてお肉、そうお肉である。
牛一つとってもカルビ、ロース、ハラミ、サガリ、ホルモン、レバー、タン、ハツなどといった数多くの部位が存在する。それぞれコクや味わい、食感に違いがあり、同じ牛といっても味のバリエーションは果てしない。
豚も鳥も、それは同様だ。食べたいな、骨付きカルビにピートロ。
そして極めつけはタレだ。お肉の美味しさをより一層引き立たせる、あのタレ達だ。塩やゆず胡椒といった味付けもあるが、やはりタレだ。タレなのだ。
ポピュラーな醤油ベースにしたタレを始め、塩ダレ、味噌ダレ、ゴマダレなどなど。特に醤油ダレから派生した亜種醤油ダレは多く、一口に醤油ダレといっても配合される調味料によって複雑に変化する為、その味わいは容易に想像出来る物ではないのだ。店舗によって千差万別、無限の海、つまりは宇宙を思わせる可能性がそこにあったりする。
加えて薬味まで入れ始めたら、もう堪らない。天才の私をもってしても、その味のバリエーションの前にはただただ焼き肉の神に感謝するしかないくらいだ。
焼き肉。
それは可能性の海を開拓する勇者達が集う場所。
それは宇宙の縮図、小さなビッグバン会場。
それは現代のセフィロトツリー。
それが焼き肉なのである。
ん?で、結局何が言いたいんだって?
ガチムチが奢ってるんだってさ!焼き肉を!!
やっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「やっ・きっ・にっ・くぅ~!やっ・きっ・にっ・くぅ~!やっきにっくを、焼きにいく~!お肉の美味しさギュウギュウに~カルビ~、ロース~、ハラミに骨付きカルビ~~!網の上でトントン踊る~豚バラ~、タン塩~、ピートロ~、ホルモン~~」
鼻腔を擽る香ばしい匂いに誘われ、鼓膜を揺らすジュウジュウパチパチというお肉の焼ける音に気持ちを踊らせ、箸でリズムをとって歌っていると、「こほん」という声が聞こえてきた。
視線を声の聞こえてきた上座の方へと移せば、ガチムチと目があった。メニューも見終わったみたいで、さっきまで開いてたそれが
「楽しそうなのは、うん、本当に良かったと思うんだけど・・・箸を打ち合わせるのは感心しないよ。緑谷少女」
優しい叱咤に私は大人しく箸を置く。ここでヘソを曲げられて奢らないと言われてもやだからだ。
ふたこにゃん、いい子にしてるにゃん。
「━━━━どんどんやいてぇ~、どんどんやいてぇ~、あなたのハツに~火がつくまでぇ~」
「あ、まだ続くんだね」
歌がサビに入った所で個室のドアがノックされた。
「失礼します」と一声掛かった後、ゆっくりと戸が開き店員さんが現れる。手にしたお盆には頼んだ飲み物が乗っていた。
「お待たせしました。ウーロン茶とコーラ━━━━」
ガチムチの所にウーロン茶が置かれ、私の前にはコーラが置かれる。
「━━━━三つと、冷茶、紅茶、オレンジジュース二つ、エナジードリンクになります」
トントントン、と他の飲み物もテーブルに置かれた。
直接
「では、ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい。どうぞごゆっくり」
パタンと戸が閉じた所で、ガチムチが一つ咳払いした。
それからウーロン茶を手に持ち
「━━━えっとね、そうだね、色々言いたい事はあるけど、みんな仮免許試験合格おめでとう!!かんぱーい!」
その言葉にガチムチが手にしたグラス抜いた、計八つのグラスが掲げられた。私、かっちゃん、お茶子、轟、飯田、百、切島、発目の八つのグラスが。
「さぁ、遠慮はいらないよ若人達よ!じゃんじゃん食べなさい!今日は私の奢りさ!!HAHAHAHAHAHA!!━━━━はぁ」
大きな笑い声の後の小さな溜息。皆はワチャワチャしながらメニューを見始めて気づいてないけど。私?私は気づいてるさ!視野の広きこと灯台の如しだからね。
そして私の前、テーブルを挟んだ向こうにいるかっちゃんも気づいてる。
だから、こっちへ助けを求めてる目で見つめるガチムチの事も・・・・うん!見なかった!私は何も見なかった!!かっちゃんは見てるでしょ!対応してよ、ほらぁ!助けたげな!!
私は大体のことをかっちゃんに任せメニューを開いた。
何食べようかなっ!と考えながら。
ことは二時間前、仮免許試験の会場を出た所まで遡る。
全ての始まりはガチムチから送られた、一通のメールから始まった。
包帯先生から私らの仮免許合格を聞いたのか、ガチムチからおめでとうメール届いた。なので『ガチムチ先生のたまのもですー』とテキトーに返すと『賜物ね』と指摘のお言葉を受けてしまった。━━━本来ならそれで終わり。何気ない会話でしかないそれで。しかし、その時返ってきたのは、指摘のお言葉だけではなかった。そう、その文はこう続いたのだ。
『お祝いにご飯でも行こうか?例の約束の件もあるし、焼き肉なんてどうかな?』と。
正直いって期待してなかった。ガチムチが不義理だからとか、そういうネガティブな考えからじゃない。常識的にあかんやろと思っていたからだ。
約束したとはいっても教師と生徒がご飯食べにいくとか、宜しいとは決して言えない筈。実際、飲み会の席でさえ微妙な顔されたのだ。期待なんて出来る訳がない。
予想外のハッピーな出来事ににやつきが隠せずにいると━━━━お茶子にソッコーバレた。バスに乗って五分くらいでゲロさせられた。正直、お茶子は基本のほほんとしてるから大丈夫だと油断してた。世間話してたら、もうね、気がついたらね、はかされていた。誘導尋問怖い。
相手がガチムチとはいえ男女二人。しかも先生という立場のある人との食事とあって、お茶子が良い顔しなかった。なので、それならばとお茶子も巻き込む事に。お茶子を説得し事後承諾でガチムチに連絡をとると『そういう事なら仕方ないね(笑)』と許してくれた。
そうこうしてると、今度は百と発目にバレた。
寮を出ようとしてる所を捕まった。百は今試験の反省会をしようとして、発目は開発したアイテムの感想が欲しくて私を探していたらしい。
一人がOKなら二人も三人も変わるまい、とその二人をあの手この手で説得し、すっかり巻き込み約束の場所へ。
すると、約束の場所にはガチムチだけでなくかっちゃんもいた。それだけじゃない、轟とか飯田とか切島とかも。事情を聞いたら・・・・大体私と同じだった。というかガチムチは元より、かっちゃんと私に奢るつもりだったらしい。
そして、この混沌とした今に至る。
そういう訳なのだー。
あっはははー。
何気、お茶子以外が救出メンバーっていうね。
なんの因果かなぁ。
「かっちゃん、カルビとピートロおかわり」
「ああ?っんどくせーなぁ」
そう良いながらもピンポンを押す世話焼きかっちゃん。その流れるような動きに皆が釣られて視線を向けた。
「あ、爆豪。俺もカルビ食いてぇ!カルビ二皿な!それとご飯も! 」
「それやったら私もっ!ご飯大盛追加で!」
「爆発の人!!今ビビッと来ました!!メモ帳じゃ足りません!紙とペン下さい!!今凄いアイテムが書けそうです!!これはキマシタよーーー!!」
「爆豪くん、僕はオレンジジュースをお願い出来ないかな?」
「っせぇ!!聞きとれっかボケ!!店員きたら、てめぇらで言えや!!━━━あと発明馬鹿は死んでろ!!」
「発明馬鹿!!?それはなんとも奇遇ですね!!私も中々に発明馬鹿ですよ!是非とも一度お話を━━━」
「何を探してんだ!!てめぇの事だろうが!!他にいて堪るかっ!」
苛烈なツッコミが響いた後、轟がかっちゃんを呼んだ。忌々しげに睨みながらも「んだよ」と一応聞く態勢をとるかっちゃんに、轟はメニューを広げて見せる。
「ハチノスって書いてあんだが、焼き肉なのに虫の巣も焼くのか?」
「んな訳あるかボケ。ハチノスってのは、牛の胃の事言うんだよ。確か二番目だったか?ちっ、くっだんねえこと━━━んで俺に聞いた!?なついてくんな、ぶっ飛ばすぞ!!」
「胃なのか・・・・そんなのも食べるんだな。焼き肉なんて来たことなかったから知らなかった。ありがとな、爆豪」
「しれっと感謝してんじゃねぇぞ、ごらぁ!!」
かっちゃんの勇姿を眺めてると「緑谷さん」と百の声が聞こえてきた。見ればトングを持ってオロオロしてる。
「どしたの?」
「私、こういうのは初めてで・・・その、お肉はどの辺りで食べれば良いんでしょうか?」
百がせっせとひっくり返してた場所を見れば、網の上でカリッカリに干されてる何かを見つけた。焦げ付かせずに、よくここまで焼いたなと心の中で感心。修行を積めば焼き奉行になれるであろう。
取り敢えず「ピークは過ぎてる」と教えて上げれば、百は急いで取り皿へとお肉を載せた。百、可愛い。
少しして店員がやってきた。
手にしたお盆には追加注文していたお肉皿と野菜盛り合わせ、それと飲み物がある。
━━━というか、さっきから同じ店員さんしかこないな。これあれかな、プライバシーの配慮されてるのかな。ガチムチいるのに全然店が騒がしくなんないし。まぁ、ガチムチが店を指定した時点でそこら辺は分かっていた事ではあるけど。
そんな風に考えてる間、かっちゃんは注文品を受けとると、なんやかんやさっき皆に言われた追加注文を伝え、店員から貰ったそれを配り始める。流れるような動き。かっちゃんは本当にかっちゃんだなぁ。
私の前には先に頼んでいたタン塩とホルモンがやってきた。お茶子と山分けの奴だ。というか、何も言わないのによく覚えてたな。さすかつ。
「ニコちゃん、取り敢えずホルモンから焼いとこ?時間掛かるし」
「せやな」
「せやせや」
ホルモンを網の上に置くとお肉の焼ける音が鳴る。
二人でその姿にワクワクしながら置いていくと、かっちゃんがトング片手に割り込んできた。
「馬鹿が、ホルモンは端に寄せろ。中心だと火が通る前に焦げ付くだろうが」
「サンキュー、かつき`Sキッチン」
「分けわかんねぇ呼び方してんじゃねぇ。ほら、皿貸せや」
さっさと皿を取り上げたかっちゃんはホルモンをちゃっちゃと並べてく。実に綺麗な配置。かっちゃんはマジかっちゃん。
放っておくとそのままタン塩も焼き始めてくれた。
本当かっちゃん。
「・・・・至れり尽くせりやね」
「だしょー?」
「分かってはいたけど、爆豪くんがやっぱり一番甘やかしとる犯人やったか・・・」
「ほわい?甘やかす?」
「あ、ニコちゃん気にせんといて。こっちの話」
「おらぁ!くっちゃべってんじゃねぇ!タン塩焼けたぞ、とれやぁ!!」
促されるままタン塩をとり、取り皿の上でレモン汁を掛ける。焼き立てなのでジュワジュワと音が鳴る。レモンの爽やかで酸味を感じさせるそれとお肉の甘く香ばしいそれが見事にコラボレーション。美味しい匂いとなって鼻腔を擽っていく。
口に含めばレモンの爽やかな酸味が舌をさっぱりさせる。タンを噛み締めればコリっとした食感が口を喜ばせ、染みでた肉の甘みが満足感を与えてくれる。
堪らずご飯も頬張れば、ここに来て良かったと━━━心の底から思えた。旨いなぁ。
「爆豪、俺のカルビも焼いてくれよ」
「てめぇのスペース空いてんだろ!勝手にやれや!」
「俺には冷てぇな、焼き奉行・・・いや、別に良いけどさ」
冷たくされる切島は放っておいて、もう一つのコンロを囲む四人を見てみた。
「・・・飯田」
「うむ、轟くん!その豚は焼けたぞ!大丈夫だ!って━━━発目くん!さっきから食べないで何をしてるんだい!?君は!」
「おっと!?眼鏡の人何をするんですか!?邪魔をしないで下さい!今良いのが降りてきてるんですよ!」
基本的には僕らの眼鏡くんが仕切ってるみたいだけど、発目に気を取られて大変混沌してらっしゃる。━━あ、見かねたガチムチがついに焼き始めた。ずっと子供を見守る大人スタンスだったのに。
「緑谷さん、緑谷さん!これ、これどうですか?」
「緑谷さぁぁぁぁん!!見てくださいこれぇ!!この間のフットパーツのですねぇ!!改良案なんですけど!!」
「百、良い焼き加減だ!グッド!!熱々を食べちゃいな!!━━━発目、良い改良案だ!グッド!!ご飯食べてもっと良い案だそうな!!」
「「はい、緑谷さん!」」
二人がモグモグし始めるのを見届け、自分の取り皿を見るとカルビが積まれていた。
「緑谷、グッドだぜ!」
切島から熱い友情のこもったイイねサイン。
私もイイねサインを返す。
ありがたく頂━━━。
「━━━焼きが足んねぇ」
「爆豪ぉぉぉ、俺の友情を焼き直すんじゃねぇ!!」
━━━けんかった。
焼き足りないんじゃしょうがないよね。
「爆豪くん大変やなぁ・・・」
「まぁ、好きでやってる訳だし?多少はね?」
「まぁ、好きでやってるんやろな。好きで」
それから暫く焼き肉して、焼き肉して、焼き肉して少し。ちょっとお花摘み部屋ですっきりしてから出ると、ガチムチが丁度男子トイレから出てきた。
「おっ、と、緑谷少女か。君も━━━━と聞くのは流石に失礼だね。ごめんね」
「いえいえ、良いですよ別に。ハゲより全然マシですよ。ハゲなんて厭らしい目で見てきましたからね」
「い、厭らしい目?!緑谷少女、そういう人と会ったら戦わず、直ぐに通報するんだよ?」
「りょでーす」
ガチムチとお約束した所で、向かう先は同じなので一緒に帰る事にした。ガチムチの足取りは重い。けれど、退院したての頃よりずっとしっかりしてる。
「・・・・今日はやってくれたね、緑谷少女」
「ワタシ、ニホンゴワカリマセン」
「今さっきペラペラ喋ってたよね!?」
かっちゃんばりのツッコミをしたガチムチ。
めちゃジト目で見てくるけどスルーしとく。これは認めたら負けのやつだから。うん。
すると諦めたのか溜息が聞こえてきた。
「はぁ、まったく君ときたら・・・ふふ、仕方ない子だよ。本当に」
「どういう意味ですか?」
「そういう意味だよ」
そう言ったガチムチの横顔は何処か楽しそうに笑っていた。初めて会った時浮かべていたような嘘っぽい物じゃない、本当に楽しそうな柔らかい笑顔。
それから少し歩き部屋の前へとついた。
中に入ろうと戸に手を掛けた所で「緑谷少女」と呼ばれる。後ろへと振り返ると真剣な顔をしたガチムチがいた。
「こんな場で言う事ではないんだろうけど、改めて言わせて欲しい。ありがとう。君のお陰で、私は今ここにいる」
堅苦しい言葉に、ちょっと返事が返しづらい。
結局私は、私の為にしか動いてないから。ガチムチみたいに見返りなくとか、正義の心とか、平和の為とか━━━そんな真っ直ぐな目で言われる事を、してる覚えはないから。
「良いですよ、別に。それにこれから奢って貰いますし?寧ろ得したというか・・・」
誤魔化す言葉は直ぐに出てくる。
真剣なのは昔から少し苦手だから。慣れてる。
でも━━━━その目をしたこの人には、伝えようと思った。
「・・・助けにきてくれて、嬉しかったです。安心しました。本当に」
目を丸くするこのガチムチに。
命を懸けて駆けつけてくれたこの人に。
「ちょーかっこ良かったです」
信じてくれた、このヒーローに。
「ありがとうございます、オールマイト」
「君には、敵わないなぁ・・・・あぁ、どういたしまして」
それから一時間。
八人分の焼き肉代が安い筈もなく、ガチムチが半泣きで会計したのは言うまでもない。
可哀想に・・・・ん?下手な約束するか・・・ら?
ワ、リ、カ、ン?え?なに?お茶子、ワリカン?ワリカンって何?眼鏡?なに?ワリカン?え、それニホンゴ?嘘っだぁー、私聞いた事ないよー。あはははっ・・・・・いやぁぁぁぁぁ!!取らないで、私の財布取らないでぇ!! かっちゃん!助けっ、あぁぁぁ!かっちゃんこら!何よそ見して、轟っ!え、轟が肩代わりしてくれ━━ないんかい!この野郎!ぬか喜びさせやがって!はぁ!?百まで!?切島ぁ、貴様もか!!くそぉぉぉぉぉ!!
助けて発目ぇぇぇぇ!!━━━って一人で帰るなぁーーー!!この発明馬鹿ァ!!