私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
そんな気持ち(´・ω・`)
次回から、多分映画編。
やくざ編は暫し待てぇい。
時折思う事がある。
私の歩んできた道が正しかったのどうか。
私の成した事は間違ってなかったのか。
そしてそれはその度に。
自身で答えを出し続けてきた。
そしてまた、私は思う。
私は正しかったのか、どうか。
「そろそろ後期が始まるだろう?もう始まっているのかな?ははは、済まないね。ここだと、どうにも外の事が分からないんだよ」
深い地の底。
ガラス一枚隔てたそこから、軽口が響く
「教育に専念するものだと思っていたが・・・今更僕に何を求める?オールマイト」
その身の自由は限りなく制限され、常人であれば気が狂うほどの監視体制を受け、身動ぎ一つで銃口を向けられる厳戒体制を受け━━━━その男は尚も笑い、尚も酷く軽い言葉を吐く。
私が戦い続けてきたその男。
「ケジメをつけるだけさ━━━━オール・フォー・ワン」
その言葉に男は頬を吊り上げる。
それがまるで愉快だというように。
「ここは窮屈だよ、オールマイト。例えば背中が痒くなり背もたれに身体を擦る━━━すると途端にそこかしこの銃口がこちらを向く。バイタルサインに加えて脳波まで常にチェックされているんだ。『個性』を発動しようと考えた時点で既に命を握られている」
饒舌な語りに焦りは見えない。
何処までも奴は変わらない。
「地下深くに収監され、幾層ものセキュリティに覆われ・・・徹底的にイレギュラーを排除する。世間はギリシャ神話になぞらえて・・・ここを"タルタロス"と呼ぶ。━━━奈落を表す神の名だよ。はははっ、さすがの僕も神への反逆となると一苦労するだろう」
「━━━いいや、出られないんだよ」
余裕の奴の言葉に、思わず対抗するようにそれが口から出ていった。奴は表情を崩さず、笑顔を張り付けたまま続ける。
「そういうことにしておこう。それで?何を求めてる?何も世間話をしにきた訳ではないんだろう?」
見透かすような言葉。
知らずの内、拳に力が篭る。
「グラントリノは?独断か?その未練がましいコスチュームは何だ?君まさか、まだヒーローやってる訳じゃないだろうな?━━━ああ、幸い君はまだ、誰にも託してなかったか。なら、まだ少し、辛うじては戦えるのかな?となると、協会から待ったでも掛かったか?あはははっ、これは、中々愉快だな!協会はまだ、君の名を盾にするつもりか!この期に及んで、まだ!」
「よく喋るな」
「察してくれよ!久々に会話が成り立つんだぜ?お喋りにもなるさ。聞かせてくれ、オールマイト。協会は君にどれだけ要求したんだい?僕の見立てでは最低一年、可能であれば三年。どうだい?当たってるかい?」
化け物と呼ばれた男は、この地の底でも何も変わらなかった。あれだけの苦労と犠牲の果てに捕らえて、奴はまだ奴のまま笑う。
突然ブザー音が鳴った。
見上げれば奴の部屋の上部についたランプが点滅していた。
『囚人、貴様が自由に話す時間ではない。警告一だ』
硬質な声が響き、奴は溜息をついた。
「だ、そうだ。質問があるのだろう?」
奴に促されてというのは癪に障るが時間もない。
そのまま頭の中にある彼の名を告げた。
「死柄木は今どこにいる?」
「知らない━━━これで良いかな?君のと違い、彼は僕の手を離れてる」
考える間もない返答。
元より予想していたのだろう。
だが、それでも良い。分かっていた事だ。
「貴様は何がしたい、何がしたかった。人の世の理を越え、その身を保ち、生き永らえながら・・・その全てを搾取し、支配し、人を弄ぶことに費やして・・・何を為そうとした」
先生を殺して、多くの人を泣かせた。
多くの人の人生を狂わせた。
どんな理由があったのかは分からない。たとえ聞いたとして理解出来るとも思えない。
それでも聞きたかった。
自分が何と戦っていたのか。
それを知る為に。
万感の思いと共に吐き出した言葉に、奴は呆れたような声を漏らす。そこには望んだものはなかった。
「生産性のない話題だな━━━━私は僕とは違う。そして僕は私とは違う。それが答えだよ、オールマイト。理解出来ない人間というものは必ずいるものさ。君の目の前にいる僕こそが、君にとってのそれさ」
「本質は・・・きっと同じなんだけどね。僕も君も。しかし根本が違うんだよ。君が正義のヒーローに憧れたように、僕は悪の魔王に憧れた━━━シンプルだろ?」
「理想を抱き、体現出来る力を持っていた。永遠に理想の中を生きれるなら、その為の努力は惜しまない━━━といった所かな?まぁ、もっとも、全部君に奪われてしまったけどね。はっはっは!どうだ、笑うといいオールマイト!はははっ!」
笑い声が漏れた。
自嘲するような━━ではない。
何処までも楽しげなものだ。
「━━でもね、今では感謝しているよ。僕は君のお陰で、弔に出会えたんだから」
「オール・フォー・ワン!!貴様っ!!」
気がつけば立ち上がっていた。
握り締めた拳から痺れるような痛みが響く。
指の隙間から滴っていく熱を感じる。
『オールマイト、警告です。次に同じような事があれば、面会時間内であろうと、その時点で終了させて貰います。━━━残り三分です。どうか冷静に』
「時間は有限だよ、オールマイト。座ると良い。話の続きをしよう」
沸騰する怒りを抑え込み、椅子に掛け直す。
眼前の奴へと改めて視線を向ける。
やるべき事をやる為に。
「さて、時間もない。どうやら君は僕に対話を求めているようだし・・・ちょっと語ろうか」
「何を、いや━━━話せ」
「ああ、僕のつまらない話を聞いてくれ。この世界がどうなっていくのか、僕なりに考えてみたんだ━━━」
そうして語られたのは、奴が知る筈のない外の事。
メディアの動きや世論の流れ。ヒーロー協会の対応。日陰に潜む闇に生きる者達の動向予測、組織化の予見。
奴は今起きているそれを、さも見てきたかのように当然と口にした。
「━━━そうなると、弔達は暫く潜伏を続けるんじゃないかなァ・・・・台頭する組織を見極める為にね。僕の影響が及ばないとなれば、当然この期に勢力を広げたい連中が手を伸ばす。ヴィラン同士の抗争も頻発するだろうね」
言葉を切った奴は僅かに身体を前へと傾けた。
銃口が一斉に奴へと向き、警戒音が鳴り響く。
空気が張りつめる中それでも尚、奴は世間話のように続けた。
「皮肉じゃないか、ナンバーワンヒーロー。誰かを救いたいと身を粉にして戦ってきた君が、君こそが、この混沌とした時を呼び寄せた。これから先上がる嘆きの全ては、君から始まるんだ━━━今更、僕のせいだなんて言うなよ?機会はあった。これは君の弱さが招いた事さ」
『速やかに体勢を戻せ!囚人!!』
「今後君は人を救う事叶わず、自身が原因で増加するヴィラン共を指を咥えて眺めるしか出来ず、無力に打ちひしがれながら余生を過ごすと思うんだが・・・教えてくれないか」
『警告二つだ!!もう一度だけ言う、体勢を戻せ囚人!!』
部屋に鳴り響く警戒アラーム。
スピーカーから流れる看守の怒鳴り声。
物々しく音が満ちるそこで、その声は決して大きくないにも関わらず、酷くよく聞こえた。
「どんな気分なんだ?ヒーロー」
呟くような、奴のその声だけは。
「━━━━オールマイト」
聞き慣れた声に、私はハッとした。
流れる風景が視界に入り、エンジン音が鼓膜を揺らす。
自分が何処にいるのか思いだし慌てて視線を向ければ、怪訝そうな表情を浮かべながらハンドルを握る塚内くんがいた。
「大丈夫かい?車に乗ってから、大分ぼーっとしていたけど」
「ああ、済まない。心配してくれてありがとう。少し考え事をしていてね、身体は何ともないよ」
「それなら良いんだが・・・無理だけはしないでくれよ。これは一人の友人としてのお願いだ。聞き入れてくれるとありがたいかな?」
「ははっ、勿論だとも」
私の返事を聞くと塚内くんは頬を僅かに緩めた。
それは随分と久しぶりな表情だ。
最近は私自身心配を掛けていたし、何よりヴィラン連合について進展がなく、大分根をつめていた様子だったから気にはなっていたのだ。もっとも私がそれを言うと、自分こそ身体を気をつけろと叱られてしまうので口にはしなかったが。
「それにしても、今日は悪かったね」
ふと塚内くんから謝罪が掛けられた。
面会は寧ろこちらからお願いした事。何を言うのだろうと不思議に思ってると、塚内くんはこちらへ軽く視線を送り苦笑を浮かべた。
「彼女達、今日が仮免許試験だろう?本当は君も同行する筈だったと聞いてるよ。済まなかった。タルタロスは手続きが恐ろしく面倒でさ━━━日程が思ったようにはいかなくてね」
「いや、感謝しているよ。大分無理をさせただろう?ありがとう塚内くん」
「そう言って貰えて何よりさ。それでどうだった」
その言葉に期待の色は見えない。
塚内くんも奴が簡単に口を割るとは思ってないのだろう。その予想は正しく、そして少しだけ申し訳ない。
「情報の類いに期待していたなら・・・すまない」
「まぁ、簡単にはいかないさ。気にしないでくれ。こちらも専門家を引き連れて彼の尋問を行ったけど、碌な話は聞けなかった。じっくりやるよ・・・・それより君の方だ。少しは気持ちにケリがついたかい?」
「・・・・・あぁ、多少はね」
「その様子だと、まだ心残りがありそうだな。オールマイト。重ねて言うけど、頼むから無理だけはしないでくれよ」
悪戯っ子のように念押しされながら叱られていると、ポケットにしまっていたスマホが震えた。取り出して画面を覗けば相澤くんからメールが届いていた。
「緊急かい?」
「いや、相澤くんからだ。すまない、少し良いかな?」
「少しと言わずゆっくりやってくれ。僕は運転っていう大事な仕事もあるからね」
「はははっ、それは大事だ。安全運転で頼むよ」
手紙のアイコンをタッチし、相澤くんから届いたメールを開封する。そこには『A組生徒20名。仮免許試験合格しました。』と簡素な一文があった。効率を考えた━━━というよりは面倒で用件だけ書いた感じだ。相澤くんらしい。
「緑谷少女・・・そうか、合格したか」
「お、それは朗報だね」
「ああ、本当に」
彼女が合格を逃すとは思わなかった。
日頃の訓練を見ていればこそ、彼女の実力はよく分かっている。サイドキッカーとしてなら既に十二分に、プロとしても恐らく問題なく活動出来るだろう。事務的な事に足を取られそうではあるけど。
けれど、そんな彼女でも絶対ではない。
だから合格という二文字を見れた事は、彼女を教育する者の一人として素直に嬉しく思えた。
「塚内くん。こういう時は、何かやった方が良いのかな?」
「それは、まぁ、その方が本人も喜ぶだろうけど・・・オールマイトは教師だろ?一生徒の為に何かやるのは不味いんじゃないかな」
「あっ、確かに・・・」
とはいえ何もしない訳にもいかない━━━というよりは、何かしてあげたいが正しいか。彼女が頑張ってきたのを、ずっと見てきた身としては。
あれこれと考えていると隣から笑い声が聞こえてきた。
「はははっ、そんなに悩む事でもないだろ。まぁ、プライベートとして祝う分には良いんじゃないか。例の爆豪少年も誘ってご飯でもいってくるのはどうだい?」
「ああ、それなら・・・って、最初に教師として、なんて言い始めたのは塚内くんじゃないか」
「はははっ、ごめん。少し意地が悪かったよ」
それから塚内と相談し、幾つか知り合いの店を当たって貰った。トゥルーフォームが世間に知られてしまった以上、以前の様に気軽に店にはいけない。私が言うのもなんだが、大変な騒ぎになってしまうだろうから。だから事前に店側に色々と準備して貰う必要がある。
そうして幾つか連絡をとった後、一件のお店と話がついた。それも彼女が希望していた焼き肉店。少し高めらしいが・・・そこは仕方ない。
店が決まった所で彼女達に連絡をつけた。
爆豪少年に連絡しておけば問題ないかと思ったけど・・・少し心配だったので緑谷少女にも別に連絡をしておく。するとそう時間も掛からず、二人と約束を結ぶ事が出来た。
彼女達と会う事を楽しみに帰り━━━━━。
「かっちゃん!もういける!?もういける!?」
「っせぇ!!ピートロはもちっと待ってろ!!タン塩でも食っとけや!!おいっ!丸顔!そこのホルモンさっさと食えや!!焦げ付くだろうが!!」
「あ、ほんまや。━━━あっ、爆豪くん。爆豪くんご飯食わんねんやったら頂戴。後で頼み直しておくから。ありがとー」
「爆豪ー!!ほれ、カルビ焼けたぜ!焼くの忙しくて食ってねぇだろ!口開け口開け!」
「っせぇクソ髪!!誰がてめぇのおこぼれなんぞ貰うか!散れ!で、丸顔てめぇ!勝手に人の飯とってんじゃねぇぞ!!ぶっ飛ばすぞ!!━━━ピートロは早ぇってんだろうが!!双虎ぉ!!触んじゃねぇ!また腹壊してぇのか馬鹿が!!」
「ぬぅーん」
「ぬぅーんじゃねぇ、馬鹿!!」
荒れ狂う爆豪少年と愉快な仲間達スリー。
緑谷少女は相変わらず爆豪少年に甘やかされてるようだ。
「飯田、こんな感じか?」
「ああ、待ってくれ!轟くん!そんなに一遍には駄目だ!!食べられる分だけにした方が良い!!無駄に焦げ付くだけだ!この皿に少し戻して━━━━」
「ご飯おかわり下さーーい!!何か閃きそうなんです!!急ぎでお願いします!栄養が!栄養が足りないんです!!これ焼けてますか?焼けてますね!頂きます!!」
「あっ、発目さん!それは私のです!!あ、ぁぁ、やっと焼けましたのにぃ・・・・」
「━━━こらぁぁぁぁ!!発目くん自由過ぎるぞ!!争いを生まぬ為、お肉は自分で育てた物を食べる事と先に決めただろう!!」
「飯田」
「な、なんだい!?あぁ、そうだね!そんな感じだ!!轟くん!!」
こちらの四人も中々の修羅場だ。
特に飯田少年に掛かる心労は大きかろう。
肉を巡る少年少女達の喧騒を聞きながら、どうしてこうなったのだろうと改めて思った。予定していたのは、三人で行う細やかなお祝い。緑谷少女が大人しくする訳ないから、多少は賑やかな食事になるだろうと・・・そう思っていたのだけど・・・・ははは・・・・幾らになるのかなぁ。
皆の食べっぷりを眺めていると、ちょっと背筋が寒くなる。流石に払えない訳ではないけれど、日頃節制を心掛けている身としては、何とも言えない物があるのだ。
でも・・・・まぁ、良いかな。
何よりここから見える景色は君らしさの結晶。これが君の為の会であるなら、きっとこの景色は君が築いた物で、君に相応しい場所だから。
沢山の人に囲まれ、世話を焼かれ、笑い合える。皆が皆好きに自分らしく振る舞える。それは簡単なようであってとても難しい事で、自然と人にそうさせるのは君の力なのだろう。
「・・・・さて、八百万少女、そろそろ私が焼こう!」
「えっ、い、いえ!私の事は気にせず、オールマイトは・・・」
「なぁに、私の事は気にしなくていいよ。歳をとるとね、焼き肉は胃に結構堪えるもので・・・もう十分食べたからね。それよりほら、食べ盛りの若人なんだ、遠慮なんてしないでジャンジャン食べなさい」
「は、はい!ありがとうございます!」
それから暫く焼き係に徹した。
八百万少女は思った以上に良く食べたので、肉の皿は面白いように重なっていき━━━いや、まぁ、特に理由もないのだけど、不覚にも目頭が熱くなってしまった。カラシかな。ん?爆豪少年?どうかしたのかい?ああ、おしぼりね。ありがとう。本当に。
八百万少女達の食事が一段落ついた頃。
私は掛かってきた電話の為に少しだけ席を外した。
部屋を出てトイレの個室へと入る。そして通話ボタンを押せば怒鳴り声が響いてきた。グラントリノだ。
『俊典!!!塚内の馬鹿から聞いたぞ!!てめぇ!何勝手に面会なんていってやがる!!碌に戦えねぇポンコツがいつまで関わる気だ!!まだ分かってねぇなら、これから締めに行くかぁ!?ああ!?』
「す、すみません・・・ですが、どうしても私自身ケジメをつけたく・・・」
『知るかぁ!!てめぇの役目はもう教師だろうが!!お前のケジメはあの日終わったんだよ!!』
「・・・・はい。そうですね。ですが、どうしても」
聞きたい事があった。
伝えたい事があった。
奴にこそ。
『・・・はぁ、たくよぉ。おめぇも頑固だなぁ。疑っちゃいねぇが、念の為に聞くぞ。大丈夫なんだな?』
「はい。私のヒーローとしての役目は終えました。これからは教師として生きるつもりです。・・・奴に言われました。私のせいでこうなったのだと」
『あぁ、そういう見方もあるだろうなぁ。奴がいなくなって今やどこもお祭り騒ぎだ。急な変化ってのはな、どうしたって何処かで綻びをうんじまう。それが正しかろうと間違ってようとな。━━━だがな、お前は間違ってなんかいねぇぞ、俊典。俺が保証してやる』
「・・・はい。ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」
私の謝罪を聞くとグラントリノは「そこは感謝しとけ馬鹿たれが」と乱暴に電話をきってしまった。相変わらず手厳しい人だが、こうして連絡をとってくる辺り優しい人だと改めて思う。
スマホをポケットにしまい洗面所の前を通ると、少しばかり疲れた顔をした自分が鏡に映り込んでいた。
「流石に、この顔では戻れないな・・・」
顔を洗いながら、私はあの時奴に掛けた言葉を思い出す。
『━━━どんな気分か。それは情けない限りさ、オール・フォー・ワン。私は彼女らに平和な世界を渡せなかった。だが、一つだけ貴様に伝えておく・・・私だけがヒーローじゃぁない。今も戦ってる友がいる。これから戦おうと立ち上がる者達がいる。私が紡いできた思いは、まだそこにあるぞ』
ケジメとして伝えたかった。
『私はこれから教師として育てていく。ヒーロー足らんとする子供達に、平和を願う子供達に、明日を戦う力を与えて見せる』
決意を込めた、それ。
『以前貴様は言ったな。私に惨たらしく死んで欲しいと。絶望に顔を歪ませて消えて欲しいと━━━━━私は生きるぞ。生きて導き続ける。死柄木にも、誰にもっ、私を殺させやしない。貴様がこれから先どんなシナリオを残していようと、思い通りにはさせない』
結局奴を何も知る事は出来なかった。
これから先も知る事はないのかも知れない。
だが、きっとそれで良い。
これはケジメなのだから。
奴との因縁などという物にではない。
これは私が今の私を受け入れる為の物。
『どんな気分なんだ?ヒーロー』
なのに、何故、こんなにも私は━━━━。
「おっ、ガチムチ?」
顔を洗い気持ちを入れ替えトイレの外へと出ると、聞き慣れた彼女の声が掛かった。見れば濡れた手をブルブルと震わせている、女子としては些か雑な緑谷少女の姿があった。
その姿に私と同じ様にトイレにきたのかと━━━つい口に出しそうになったが、女性に聞くことではない事に気づき言葉を止めた。続いて出た私の謝罪の言葉に、緑谷少女は大丈夫だと言ってくれた。寧ろもっと酷い奴がいたとも教えてくれる。
勿論、それは全然大丈夫な話ではないので、以後しっかり通報するように忠告しておいたが。
緑谷少女と話しながら部屋へと帰る。
相変わらずの彼女の言葉は何故だか心地好かった。
のらりくらりと口にするそれが、私に日常を思い出させてくれる。何時からか忘れていた、当たり前の世界を。
部屋に着いた時、戸に手を掛ける彼女を見て。
私は自分でも気づかぬ内、彼女の名前を呼んでいた。
言うつもりはなかった。それは言葉でなく行動で返す物だと思っていたから。
だが、気づいた時にはそれが口から出ていた。
あの時私に思い出させてくれた事への、世界に止めさせてくれた事への━━その感謝の言葉を。
彼女は困ったように笑い軽く言葉で答える。
けれど直ぐに言葉を詰まらせた。
私の目を見て。
「・・・助けにきてくれて、嬉しかったです。安心しました。本当に」
少しの間を置いて返ってきたのは、同じ感謝の言葉だった。柄にもない言葉に目を丸くすると、彼女は少しだけ困ったように眉を下げる。
けれど、しっかりと私の目を見つめ続けた。
「ちょーかっこ良かったです」
恥ずかしげに紡がれた嘘偽りのない、飾りすらない言葉。
「ありがとうございます、オールマイト」
時折思う事がある。
私の歩んできた道が正しかったのかどうか。
私の成した事は間違ってなかったのか。
そしてそれはその度に。
自身で答えを出し続けてきた。
その答えだけは、他人に委ねるべき物ではないからだ。
それだけは己で背負う業だからだ。
「君には、敵わないなぁ」
けれど、どうにも。
君の笑顔は、君の声は。
私に良く響く。
「・・・・あぁ、どういたしまして」
全てが正しかったとは言えないだろう。
私もそこまで出来た人間ではない。
ただの人間なのだ。
それでもいつか誰かに聞かれたら。
迷いなく答えようと思う。
私は私が信じる、正しいと思える選択をしてきたのだと。
君の先生として胸を張って。
「ありがとうございます!お会計がですが九万二千八百円になります。お支払は現金ですか?カードになさいますか?」
「━━━はぁ、えっ、か、カードに、え?申し訳ない、お会計は、あの間違いは・・・・」
「・・・ん?あっ、申し訳ございません!計算に不備っ、本当に申し訳ございません!!」
「い、いや、別にいいさそれで・・・」
「はい!デザートのアイス分が入ってませんでしたので、計九万七千三百五十円になります」
・・・・私は、私は早まったのかもしれない。
え?何だい?ワリカン?
HAHAHA、何を心配してるんだい大丈夫さ!ああ、勿論大丈夫さ!!現金の持ち合わせはないけれど、カードがあるからね!無理してないかって?HAHAHA!面白い事いうな、飯田少年!八百万少女!これでも私、ナンバーワンヒーローをやっていたんだぜ!屁でもないさ!!
さぁ、カードでお支払だ!!
HAHAHA、HAHAHA、HAHAHAHAHAHA!!
・・・・はぁ。