私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
需要の程は、分からないがっ(゜ロ゜)!!
それじゃぁ、はーじめーるよーの「英雄の片翼」プロローグの巻き
二羽の鷲がその大きな翼を広げ、空を舞っていた。
それは力強く、雄々しく、何処までも自由で。
青さしか取り柄のない大空の中、一際目立っていた。
見上げたそれらは直ぐ景色に溶け込み消えていったが、それが幻ではない事も、それがきっと空の何処かで翼をはためかせている事も、私は知っている。
私は見たのだ。
何にも染まらず、何にも囚われず、何にも負けず。
己が意思のまま空を飛ぶ、その二つの影を。
飽きもせず輝く太陽の光を浴びながら、乾いた風を切って愛車を走らせる。もう時刻は午前中だというのに、派手な看板とヤシの木が目印のメインストリートには、夜の浮わついた雰囲気が残っていた。
「デイヴ、間に合いそうかい?」
風景を眺めながらハンドルを握っていると、隣に座った彼が不安そうな声をあげる。彼は図体の割には繊細な所がある。初めてあった時はもっと豪胆に見えたものだが、今では見慣れた姿だ。
「ノープロブレム、見たら分かるだろう?夜こそ馬鹿みたいに混むけどね・・・今は見ての通り飛ばし放題さ。何なら、タイムトラベルに挑戦しようか?ハハハッ」
「おいおい、安全運転で頼むよ。ヒーローが速度違反で捕まる訳にはいかない━━━━」
彼の言葉を遮るように、突然大きな爆発音が鳴り響いた。防衛機能が働いたマシンは直ぐ様強化ガラスを展開。運転席をすっぽりと覆う。
遅れてやってきた爆風が砂埃を巻き込みながら、ビル街を吹き抜けていく。
突き抜けたその音と爆風はガラス張りのビルと行き交う人々に悲鳴をあげさせる。
「デイヴ!シェルターを開いてくれ!」
運転席を守っている強化ガラスを叩き、彼が音が鳴り響いた方向を睨みつける。これからの予定など、もうすっかり飛んでしまっているらしい。
「まったく、お前は・・・トシっ!分かってるとは思うが、次遅刻したら単位はないぞ!!」
「単位が怖くて、ヒーローは務まらないさ!!」
「ははっ、よく言う!!さっさと片付けてこい!!余裕はあまりないからな!!」
「ああ!!」
強化ガラスを解除すると同時、彼が座席を蹴り飛ばし空へと飛び出す。そしてあっという間に、立ち上がった砂埃に体を潜り込ませその姿を消した。
ハンドルの前に取り付けられたパネルを操作し、トシのスーツに取り付けたセンサーの行方を追う。相変わらず本気の彼の移動速度は凄まじく、一瞬だというのにかなりの距離を引き離されていた。
「ったく!!ついていく、こっちの身にもなってくれよ!!」
ギアを引き上げ、アクセルを踏み込む。
同時にナビゲーションシステムも始動させ、システムが導き出したルートに向けハンドルを回す。
エンジンとタイヤが悲鳴をあげる。
体に掛かるGで手足が軋む。
だが、泣き言は言っていられない。
「馬鹿な友人がっ、待っているだろうからな!!」
幾つかのビルを通り過ぎた所で、何台もの車が立ち往生してるそこに彼の姿を見つけた。通り抜けられそうにないと判断したのか、ナビゲーションシステムがジャンプの要請をしてくる。承認のボタンを押せば車体が障害物の車も、目標の彼も飛び越えた。
「先行し過ぎだ、トシ!」
私の姿にトシが焦りが滲んでいた表情を引き締めた。
「逃げられた、追ってくれデイヴ!」
トシはそう言いながらマシンに飛び乗り、行儀よくシートベルトを締める。こんな時にも真面目でなくても良いだろうと、思わず苦笑いしてしまう。
「相変わらず、考えるより先に体が動くヤツだ」
だが、仕方ない。
私はそんなトシに魅せられたのだから。
システムを起動させれば、先に飛ばしておいたカメラから敵の位置がパネルに浮かび上がる。すかさずナビゲーションシステムも起動。ルート検索を済ませる。
「ちゃんと掴まってろ、トシ。飛ばすぞ」
一気にアクセルを踏み込むと、軋むような音が機体からあがる。タイヤが、エンジンが、マフラーが。応えるように吼え、マシンが一気に加速する。
掛け値なしのフルスロットル。
一昔前ならとっくにタイムトラベルしてる速度だ。
「━━━っお、と!?お、おい!大丈夫か、この速度!」
「どういう意味での確認だ?監視ドローンからのデータ送信も解析も、オールグリーンだ。システムは良好に働いてる。ここから先の障害物は自動でかわしてくれるから問題な━━━まさか、この後に及んで法定速度の話じゃないだろうな!」
「いや、しかしだなっ、これは危なくないか?なんキロ出てるんだい?」
「キロ?おいおい、まだ日本仕様かトシ。マイルだ、マイル。それにな、私から言わせれば、車よりずっと危ないくせに、法定速度常にぶっち切りのトシに言われたくないな」
「HAHAHAHA・・・・そう言わないでくれよ。デイヴ」
ルートに従いドリフト利かせて交差点を曲がれば、ビル街を駆け回るヴィランの姿を見つけた。
ヴィランはこちらを見つけると、ロケット弾を二発打ち込んでくる。トシが迎撃しようとベルトに手を掛けたが、それは制しておいた。舐めて貰っては困る。
パネルに浮かんだアイコンをタッチすれば、マシンから砲台が顔を出し迎撃用砲弾を射出させた。砲弾はロケット弾とぶつかる寸前で割れ、幾つものバブルを周囲に展開させる。
バブルはロケット弾と接触すると、その中に砲弾を閉じ込める。閉じ込められたそれは直ぐに爆発したが、バブルは想定通りの役割を果たし、爆風も破片も外に漏らさず無力化した。
その様子にトシが口笛を吹き、ヴィランが何かを喚く。
「いつの間にこんな物を?」
「ちょっと前にな━━━っと?」
道路を走っていたヴィランはビルの壁に飛び付き、そのまま駆けあがり始めた。立体的に動いて車の追跡をかわすつもりなのだろう。それは確かに有効なのだろうが、生憎こちらは監視ドローンを飛ばしている。見失う事はまずない。残念な事だ。
とはいえ時間もない今、そうして逃げられるのは厄介極まりないのだが。被害が増えていくのも好ましくない。
「トシ、カレッジに遅れちまう。とっとと終わらせよう!」
「そのつもりだ、デイヴ!!」
そう言うとトシはボンネットに登り━━━先程飛び出した時とは比べ物にならない速度で空へと駆け上がっていった。余程強く蹴っていったのか反動でマシンがスピンする。だが自動制御が直ぐに働き、マシンはドリフトしながらも態勢を立て直し、ヴィランに向けて走り出してくれる。
だが、トシとヴィランの姿は目視出来ない。
既にビルを挟んだ向こうで戦ってるらしく、爆発やら爆風やらを肌や耳で感じられるだけだ。
モニターを見ながらアクセルを踏み込み、ハンドルを回す。反応だけ見れば直ぐ近くに来ている。
「いや、こっちに来てるのか」
モニターの反応に合わせ顔をあげると、空高く飛び上がったトシの姿が見えた。そこに飛び掛からんと地面を蹴り飛ばしたヴィラン達の姿も合わせて。
笑顔を浮かべるトシの姿にサポートの必要性を感じなかった私は、マシンを緊急停止させ彼の勇姿を見守った。
「行け!」
思わず出た言葉。
握った拳。
トシはそれに応えてくれるように拳を振り落とす。
その名前を叫びながら。
「カリフォルニアスマァッーーーシュ!!」
回転で勢いをつけた拳がヴィランの頭へと放たれる。
その衝撃と破壊力は凄まじく、放たれたそのたった一撃で、それまで起きた爆発よりはるかに大きな音と風が辺り一面を嵐となって吹き荒らしていく。衝撃により空高くへと舞い上がった土埃の中にはヴィラン達が持っていたらしいドル札も交じって、さながらドル札の雨が降ってるかのようだ。
さぞ回収には手間が掛かる事だろう。
そう、他人事のように考えていると、近くから疑問の声が上がった。彼は誰なのかと。
「HAHAHAHAHA!」
聞こえる高らかな笑い声に、皆の視線がトシに集まっていく。ある者は驚愕を、ある者は褒め称え、ある者は憧れを口にしながら。
「━━━━彼は日本から来た留学生さ。ヒーロー名は、オールマイト」
私が口にした言葉に、皆が呟く。
彼の、友人の、トシの、ヒーローの名前を。
「いずれ・・・・いや、近い将来必ず・・・・"平和の象徴"となる男だ・・・・」
続けて口にした言葉。
もう聞いてる者はいなかった。
けれど、それで良い。
今は、まだ。
「━━━━ありがとう、デイヴ。君が作ったスーツのおかげで、ケガで遅刻せずにすんだ!」
警察への報告も終わり、早々に現場を離れた私とトシは再び学校に向けて走り出していた。
そんな中、助手席に座った彼はガッツポーズと共に屈託ない笑顔を浮かべて見せてきた。先程までヴィランと戦っていたとは思えない無邪気さに呆れずにはいられない。
「急ごう。これ以上遅刻したら二人とも単位が━━━」
『SFO UA857便でハイジャック発生・・・・繰り返す、SFO UA857便でハイジャック発生・・・・』
不意にパネルから流れた通信に、背筋が冷えた。
「デイヴ!」
「ムチャだ」
これから向かえば遅刻は確実。
単位を落とすが冗談で済まなくなる。
既に何度も便宜を図り取りなしてる所もあって、次があるのかすら怪しい。
だと言うのに、トシの目は真剣そのもので、ここで引き下がる気がないのは目に見えて分かってしまった。それほど長い付き合いではないが、この友人の行動はもう大体理解出来ている。仮に相棒の私が行かなくても、一人でトシは飛び出して行くのだろう。
「━━━━助けずには居られない、か」
溢した言葉にトシは嬉しそうに笑った。
その笑顔に私は苦笑いを返し、パネルを操作した。
行き先は通信の案内があった、そこだ。
「行こう、デイヴ!」
「ああ!」
パネルを更に操作、オートモービルを飛行モードへと移行させる。単位は絶望的だが、このモードならハイジャック現場には直ぐ到着出来るだろう。
「しかし、難儀だな。ヒーローってヤツは・・・!」
「HAHAHAHA!済まない、デイヴ!そういう生き物なのさ!今日のランチは私が奢るよ!」
高らかに告げられた言葉。
あまりにも能天気な言葉に、私は少しだけ悪戯心が湧いてしまう。
「おっ、言ったなトシ!ストリートにあるスシバー、今から楽しみにしてるよ!!」
「お、おい!?スシバーは止めてくれよ!?」
「はははっ、冗談だよ!トシが金を持ってないのは知ってるさ!ホットドッグで勘弁してあげよう?」
「それは馬鹿にし過ぎだぞ、デイヴ!ハンバーガーぐらいなら奢れるとも!」
「あんまり変わらないだろ、それ」
そんな馬鹿な話をしながらアクセルを踏み込めば、オートモービルは空へと飛び上がった。
風を切り裂いて。
高く。
「━━━━━━んん、ここは・・・」
甲高い電子音に、私は眠っていた事を思い出した。
瞼を開けたそこに映るのは、テーブルに積み上げられた書類、数え切れない機械の部品、冷めたコーヒー、娘との写真。そこは、いつもの研究室。
今も鳴り響くスマホを手に取り画面をタッチすれば、いとおしい娘の声が聞こえてきた。
『グッドモーニングっ!パパ!』
「ああ、グッドモーニング。昨日は帰れなくて悪かったね。ご飯無駄にしてしまったろ。思ったより調整が長引いてしまってね・・・」
『ううん、大丈夫よ。気にしないでパパ。それよりパパこそ体の方大丈夫?もう何日も帰れてないもの。ご飯ちゃんと食べてるの?』
「大丈夫・・・・とは流石に言えないかな。ここの所ずっと籠りきりで・・・あまり。それに寝不足だろうな。随分と懐かしい夢を見てしまった。・・・・けれどね、もう終わったよ。取り敢えず一区切りついた。何とかエキスポに間に合いそうだ」
『そう、それは良かったわ!ふふ!それじゃ私、これからうーんと忙しくなるから・・・だから、またねパパ』
「ああ、また今夜」
慌ただしく電話が切れ、部屋にはまた静寂が帰ってきた。鳴り響くのは断続的な機械音だけ。
「忙しくなるから、か・・・聞いた覚えはないんだが、エキスポで何かやるのかな。アカデミーの方の準備は終わってると聞いたんだが」
娘の言葉を思い出しながら私は支度を始めた。
僅かに残した後片付けを済ませる為に。