私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ごめんな、ごちゃってしてもうて( *・ωく)ノ
「おおーー!!ちょーーーー海ぃーーーー!!」
百人居れば百人が、千人居れば千人が、万人居たら万人振り返る。エレンガントでナイスバデーな見返らなくても超絶美少女。現世に舞い降りた天使。サイツヨにしてサイカワな私は緑谷双虎。一応ヒーロー志望な現役の雄英女子高生だ。
汚い大人達との激闘の末、ようやく勝ち取った自由な夏休みも後僅かと迫った今日この頃。
ガチムチのとある誘いを受け、眠い目を擦りながら朝早くから荷物を引っ提げタクシーへと乗り込んだ私は今━━━━太平洋上空を飛行機でかっ飛んでいた。絶賛でんじゃーぞーんにイントゥーしていた。やっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
窓から見えるサファイアブルーの景色を写メっていると、隣から品のないイビキが聞こえてくる。振り返って見ればガチムチが鼻提灯を膨らませていた。
ほほう、ここで雰囲気ぶち壊してきますか。
そうですか、そうですか。
私は膨らんだそれとガチムチの顔面に引き寄せる個性を発動。思いっきり引っこ抜いてやる。
「わぁお!?えっ、な、何が!?━━━あぁ・・・」
顔面に鼻提灯をぶつけられたガチムチは酷く驚いたけど、私の顔を見ると納得した顔をする。まるで犯人だと決めつけるかの如しだ。しっつれいなぁ。
「何ですかその顔!?何でも悪い事は私ですか!?そうやって決めつけて!!そうですか、そうなんですか!はぁぁぁぁぁーー!傷ついたぁ!!はぁぁぁぁ、傷ついたぁぁぁぁ!!乙女心が複雑骨折したぁぁぁ!!」
「ご、ごめん!そんなつもりじゃ━━━━」
「いやまぁ、私がやったんですけど」
「━━━やっぱり君じゃないか!?」
一通りガチムチをからかった後、私はガチムチから貰ったえきぽんのパンフに改めて目を通した。概要は何となく分かったけど、やっぱり興味があんまり湧かない。アトラクションあったり、皆がいるのが分かってるから楽しみだけど・・・・。
最新鋭のヒーローアイテムとか言われても、正直ピンとこない所があるんだよね。まぁ、これからの私に関わってくるかも知れないけど、結局それもあの変態メカオタクと相談して決める事だし・・・・というか、原理とか工法なんかは全部任せっきりで関わってないしね。私が使ってるアイテムとかも、何がどうなってるのかなんて殆んど分からん。何となくでは分かってるけど。
それに、この個性学の研究発表とか・・・その文だけで・・・ぐがっ、ね、眠気が襲ってく・・・くるレベルだし・・・・ぐぅぅ━━━━はっ!危ない危ない。寝る所だった。
「━━━ふぁーあ、はふっ・・・。それはそうと、ガチムチって今回なんで呼ばれたんですか?まぁ、ガチムチは有名人だから、お呼ばれ自体はおかしくはないですけど」
「ん?HAHAHAHA、いや、実はね、Iアイランドには渡米中相棒だった友人・・・親友がいるんだ。Iアイランドは気軽にこれる場所ではないし、それに休暇もたまっていたからね、それならと思いきって会いにきたんだよ。今回は本当にプライベートなのさ」
「へぇぇー、ガチムチの親友・・・」
ほわっと浮かんだのは筋肉モリモリのおじさん。
白い歯を煌めかせ、ビキニパンツが良く似合う、黒光りするボディービルダー的な。
そして二人は親友。親友とはそう・・・・。
「・・・・うわぁ」
「緑谷少女。多分だけど、君の想像してるのは違うと思うよ」
「え、絡まないの?こう、こんな感じで」
「絡まないよ!?何その卑猥な指の動きは!?」
綺麗なガチムチのツッコミが決まった所で、ピンポーンっという音が鳴った。
『えー、当機はまもなくI・アイランドへの着陸態勢に入ります。繰り返します。当機はまもなく━━━』
そのアナウンスを聞いて窓の外を眺めると、メカメカしぃ大きな島がそこに見えた。
「あれがI・アイランドか・・・」
I・アイランド。
一万人以上の科学者たちが住む、学術人工移動都市。
タルタロス並みのセキリュティに守られた、どの国にも属さない海に浮かぶ人工島━━━━か。うーん。
「━━━ん?」
視界の端っこ、キョロキョロするガチムチの姿が映った。どうしたのかと見ていれば、ガチムチがいつもの筋肉モリモリモードに変身する。ダボついた服がピッチリしてた。むさい。
「いきなりどうしたんですか?」
「ついたら直ぐに入国審査だからね。何処に人の目があるか分からない以上、さっきの姿がオールマイトであると知られる訳にはいかないのさ」
「ああ、なる」
搭乗の時のガチムチの姿を思いだす。
言われて見れば出国審査する時もそんなだった。
そのままぼやーっとガチムチを眺めていると、徐に服を脱ぎ始めた。事案発生かと思いスマホを構えたけど、服の下に現れたのはヒーロースーツ。
取り敢えず通報は止めておいた。命拾いしたな、ガチムチぃ。
「・・・さぁ、君も着替え・・・って、そのスマホはなんだい?」
「何でもないでーす」
「それなら良いけど・・・・ああ、それより君も早く着替えると良い。もうすぐ着いてしまうからね。トイレの側に更衣室があったから━━━━」
「ヒーロースーツ持ってないんで無理です」
私の言葉にガチムチが固まった。
「え、朝渡したよね?」
「渡されましたよ?今頃貨物室の中だと思いますけど」
「・・・・・なんで預けちゃうのぉ」
離陸準備が始まった飛行機の中で、やんわりと粛々とガチムチに教えられた。何の為に態々ヒーローコス持ち出しの申請をしてきたのか、何の為に朝渡しておいたのか。そんな内容を淡々と。
分かったよ、分かったってば。
ごめんだってば。
着いたら直ぐに着替えるってば。
だから、ごめんだってば。
「・・・・ううむ、迷った!」
飛行機から降り、入国審査も済ませて暫く。
ヒーローコスに着替えて待ち合わせ場所へ向かったのだけど・・・なんやかんやあってすっかり道に迷っていた。空港広い。
やはりお土産コーナーは帰りに見るべきだったか。
まんじゅうとか、ペナントとか、木刀とか後にすれば良かった。
「ガチムチ怒ってるだろうなぁー、なんか約束の時間がどうのとか言ってたし・・・・ペナントで許してくれないかな?」
なんなら、まんじゅうあげても良いけどね。
食べ終わる前にガチムチに会えればだけども。
「━━っと、あだっ!」
ガチムチを探して歩いてると、うっかり人にぶつかってしまった。もろ鼻打った。めっちゃ痛い。急所当たった。
痛みに堪えて顔をあげれば、厳つい顔したおっさんがそこにいた。まんじゅうをシャツに食わせた、明らかに堅気じゃない雰囲気のおっさんが。
・・・わぁお。
「・・・あ?ああ!?お、おい!てめぇ、クソガキ!なにしやがる!?あ、て、てめぇ、何だって食べ歩いてんだ!?ああ!?空港内は飲食禁止してんだろうが!!見えねぇのか!あの看板がよぉ!!」
ばっと、おっさんが指差した所には確かにそんな案内が貼ってあった。わぁお。ほんまや。これは流石に私が悪いわ。
「さーせんした、マイケル。これあげるから許して、美味しいよ」
「誰がマイケルだ!━━━って、これ、てめぇがぶつけてきたヤツじゃねぇか!!食えるかんなもん!!ムカムカするわ!!」
ペナントを手にすると「んなもんもいらねぇわ!!」と間髪いれず拒否されてしまった。ならばと、木刀に触れようとしたけど、触る前に「いらねぇよ!!」と先回りにツッコミされてしまう。
おっさんが元気にいきり立っていると、不意に「おい」と高圧的な声がおっさんの後ろから響いてきた。おっさんの顔が見るからに強張る。おっさんを避けて声のした方向を覗いて見れば、堅気じゃないおっさん達が群れを作っていた。おっさんはおっさんではなく、おっさんズだったらしい。
その中でも妙に目立つおっさんがいた。
如何にもボス的な雰囲気を漂わせた、顔に傷のある赤髪のおっさんだ。赤髪のおっさんは重々しく口を開いた。
「ソキル、俺を煩わせるな」
「わ、分かってる。悪かったよ」
「そうだぞ、ソキル。反省しろ」
「あぁ、本当に悪か・・・・って、気軽に呼んでじゃねぇ、クソガキ!!ぶっ殺すぞ、てめぇ!!」
またいきり立ったおっさんだけど、直ぐに今の状況を思い出したみたいで顔を青くさせた。そしてそのままの表情で振り返り━━━赤髪のおっさんに睨まれシュンとした。
「ソキル、どんまいな」
「誰の、せいだと、思ってんだ・・・くそっ」
流石に三度目は引っかかる事なく、おっさんはおっさんズの元に戻っていく。そしてそのおっさんと入れ代わるように、赤髪のおっさんが近くへと寄ってきた。
「うちの部下が失礼な真似をして済まない。お嬢さん。部下も仕事の事で少々緊張しているようでね・・・気がたっていたんだ。出来れば穏便に済ませてくれると助かるのだが」
「いえいえ、こちらこそ前を見てなくてスミマセン。まぁ、ここはお互い様という事で」
私がそう言って手を差し出すと、おっさんは一瞬考える素振りを見せたけど、直ぐに笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。
「お仕事、上手く行くと良いですね」
「ああ、ありがとう。お嬢さんはバケーションかな?楽しめると良いね」
模範みたいな、実に友好的な握手が交わされる。
「・・・いや、てめぇが全面的に悪いんだろうが」
「「黙ってろ、ソキル」」
「ボス!?何でそいつと息あってんですか!?」
その後、ソキルを軽く締めた赤髪のおっさんは、私を一瞥してからおっさんズと共に人混みへ消えていった。
「・・・何もないと良いけど」
私はこんな楽しげな雰囲気の所まできて、上司のおっさんに睨まれる可哀想な部下おっさん達の幸せを願い合掌しておいた。頑張れよ、おっさんズ。
━━━あと、ソキルもな。
「さてとーガチムチは何処かなぁーーーあっ、丁度良い所に丁度良いものがあるじゃない!」
そのままブラブラしてる訳にもいかないので、私は側にあったインフォメーションへと駆け込んだ。
掌に残る嫌な感覚を一旦忘れて。
◇◇◇
「━━━━ボス、さっきはすまねぇ」
人混みを抜け、集合場所へついて少し。
他のメンバーを待っていると、その声が掛かった。
俺は掌から視線を外し背後に突っ立っていたソキルを見た。先程の血が昇っていた時と違い、ソキルの表情からは反省と怯えが見える。直情的な男ではあるが、最低限の理性は備えてる男だ。今更ではあるが、自分がどれほどの失態を犯したのか理解したのだろう。
そう、今更。
「二度目はないぞ。気を引き締め直せ」
「ああ、もうやらねぇ━━━━っぐぅ!?」
馬鹿の首根っこを掴みあげ、近くにある壁へ叩きつけてやる。そのまま馬鹿の首に握力を掛ければ、軋むような音が指先から伝わってきた。
「なぁ、おい。おい、ソキルよ。何当たり前みてぇに返事してんだ。てめぇは馬鹿なのか、ああ?俺を怒らせてぇのか?なぁ、てめぇは、いつでも二度目があると思ってんのか?ああ?」
「ちげっ、ちげぇよっ、ボス!ただっ!」
「ただなんだ?なぁ、この馬鹿がっ!」
腹を蹴り飛ばせば、馬鹿が苦悶の表情を浮かべた。
「てめぇが何処で馬鹿やろうが、何処で死のうが知った事じゃねぇがな・・・俺の邪魔だけはするんじゃねぇよ。もう一度だけ言うぞ、俺を煩わせるな」
「わ、わりいっ、ほ、ほんと、本当に、悪いと」
「━━━はっ」
手を離せば馬鹿が地面に崩れ落ちる。
苦しそうに咳き込む馬鹿の目が俺を見つめた。
怯えの色を滲ませた、その目で。
「くだらねぇ」
馬鹿を見るのも飽きた俺は、エキスポに賑わうI・アイランドの街並みへと視線を向けた。どっちも大概なクソみたいな景色だが邪魔をしてこない分、害にもならない能天気な連中を眺めている方がまだ精神的にマシだ。
ぼんやりとソイツらを眺めていると、不意にそいつの姿を思い出した。馬鹿面してヘラヘラしてる連中とは違う、妙な雰囲気を纏ったガキの姿を。
掌に残る感覚は、今も嫌に警戒心を煽ってきやがる。
「・・・ボス」
声に振り向けば、別ルートから侵入させていた連中の姿があった。時刻を見れば定刻通りの時間。欠けている人間はいない。
「━━━ふん、上出来だ。馬鹿共」
手に残ったその感覚を一旦頭の角に置いた俺は、スマホを取り出し例の番号をタッチした。
滞りなく、計画を計画通りに進める為に。