私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「再会の感動に打ち震えながらっ!!」
その言葉と共に全身の筋肉を躍動させながらそこへと駆け込んだガチムチは、ババッと筋肉を見せつけるボディービルダーが如きポーズを取る。
「有名人との出会いに胸を高鳴らせながら!!」
それに続いて私もマントをはためかせながら駆け込み、ズバッと中学生時考案であるオリジナルの決めポーズ"猛け狂う虎のポーズ"を決めた。
「「私達がっぁぁぁぁ!!」」
声が、意思が。
血を滾らせるような熱さを持って。
ぴったりとシンクロする。
「「きたぁぁ!!」」
効果音をつけるなら『ドバーン』という感じに決まったそれに、返ってくる物は無かった。訪れたのは静寂。無言。無音。圧倒的、石に染み入る静けさや。
そこにいた無言三人衆、メリッサ、メリッサパパ、知らないオッサンから突き刺さる視線が痛い。
私は両手を天井に向け高く翳し、ジャキッとクロスさせそれを叫んだ。
「・・・・今のは、なっっっっっっしぃ!!リメイクぷりーず!!」
「それは無理があると思うのだけど!?・・・あとそれを言うならリテイクだと思うよ」
「トシ・・・・オールマイト・・・・・・!?オールマイト!?」
「えっ、ほ、本物!?」
メリッサに手を引かれるがまま駆ける事少し。
私達は見掛けた中でも一番目立つタワーへとやって来た。入り口から敷かれたセキュリティ包囲網をメリッサの顔パスで堂々と突破し、メリッサパパの研究室へと辿り着いた私達は、メリッサに乗せられて何も知らないメリッサパパへのサプライズを敢行━━━━えっ?結果?結果は聞かないで欲しい。言うまでもないからね。
「━━━HAHAHAHA!わざわざ会いにきてやったぜ、デイヴ!」
「おっ!?おいっ、トシっ、勘弁してくれ!今年で、何歳になると思ってるんだ?!トシっ、くっ、フフっ、ハハハ」
全てを無かった事にしたガチムチは、優しそうな目付きの眼鏡のおじさんなメリッサパパを持ち上げ一回転。二回転。三回転。
それにはメリッサパパも顔を固めていられず、困惑しつつも何処か楽しげな表情を浮かべた。
「どう、驚いた?」
ガチムチから解放されたメリッサパパに、メリッサが褒めて貰いたそうな顔で近づく。そんなメリッサにメリッサパパは笑顔を返した。
「あぁ、驚いたとも・・・・可愛いお嬢さんもいたから余計にね?」
メリッサパパの視線がこっちを向いた。
取り敢えず手を振っておく。
あっ、振り返してくれた。
そうしてからメリッサパパはガチムチへと視線を戻し口を開いた。
「トシ、聞いてないぞ。子供が出来たなら一言くらい教えてくれれば良いだろ。君にも事情があったのは分かるが、こんなに大きくなってからなんて・・・友人の幸せくらい祝わせてくれよ」
・・・・・?・・・子供?!
子供!?ガチムチ子供いたの!?まじか!?ホモじゃなかったの!?結婚してたん!?ええええええ━━━━え?あれ、メリッサパパこっち見てね?見てるね。うん?あ、また手を振ってきた。ははは、はーいニコちゃんでーす。スーパーウルトラデラックス可愛いアイドル系美少女、緑谷双虎でーす。
「そうか、フタコちゃんと言うのか。サプライズありがとう。私はデヴィッド・シールド。聞いたのだろうと思うがメリッサの父だ。━━━それにしても可愛いらしい名前だ。トシにしては良いセンスじゃないか。君は昔から、そこら辺のセンスは壊滅的だったからね」
うん?ガチムチが名前?私の?うん?何故に?・・・・はっ!?え、えぇぇぇぇ!?私ってガチムチの子供なの!?え、ガチムチ、母様とデキてたの!?
さっとガチムチを見ると、凄い勢いでガチムチが首を横に振った。メチャクチャ振った。
「デイヴ!な、何か勘違いしてないか?!」
「・・・勘違い?何か勘違いするような事があったか?・・・・え、まさか、奥さんって訳じゃ・・・」
「勿論違うさ!何をどうしたらそうなるのかな!?そうではなくてな、彼女が私の子供だと思ってるなら、それは勘違いだって話さ。彼女は私の子供ではないからね?」
「それは・・・じゃぁ、奥さんの連れ子とかそういう話か?」
「いや違うよ!?全然違うよ!?━━━━あー緑谷少女、その疑うような目を止めようか!!君がそうじゃない事を一番知ってるよね!?」
ガチムチの熱い説明により、私はやっぱり
「━━━━━それじゃ、改めて自己紹介しておこうかな。デヴィッド・シールド。この研究室の室長を任されてる者だ。それで奥で片付けをしてくれているのがサム。助手として研究を支えてくれてるビジネスパートーナーさ。今日は娘のサプライズに付き合ってくれてありがとう。サム共々楽しませて貰ったよ」
誤解が解けるとメリッサパパは笑顔を浮かべて、改めてそう自己紹介してきた。目には目を歯には歯を、と私的には思うのでちゃんと挨拶する事にした。
「初めまして。ガチムチの付き添いで日本から来ました、雄英高校一年ヒーロー科の緑谷双虎です。先程は詰まらないネタを披露して申し訳ありませんでした。リベンジの機会を与えて頂けたら幸いです」
そう私が言い切るとガチムチが「ちょっ!?」という驚きの声をあげた。
「何を言ってるのかな!?君は!?私はもうやらないよ!?やらないからね!?」
「からの~?」
「やらないよ!!」
ガチムチのツッコミが炸裂すると、メリッサパパは少しキョトンとしたあと笑い声をあげた。
「はははっ、散々人を振り回していた君がっ、人に振り回されるようになってるとはな。これはっ、くくくっ、中々に滑稽だ、ははは」
「笑いごとではないんだぞ・・・君も彼女と付き合えば分かる。大変なんだからな?」
この野郎、私の前でよくそれを言ったな!
包帯先生に言いつけてやる!
後で!・・・・いや、なんか、今掛けたら怒られる気がするから。何となく。
ガチムチの言葉を受け、メリッサパパは肩を竦める。
「いや、あれくらいじゃないと、どんな理由であれ君の隣は務まらないさ。元相棒の私が保証するよ」
「そう言われてしまうと、弱いな・・・」
「ははは、相変わらずしおらしさが似合わないな。君は。それにしても、一緒に連れてきたくらいだ。彼女には相当目を掛けているんだな?」
ガチムチの視線が私を捉えた。
なんか物言いたげな視線だ。
視線がすごく気になったので両手でキツネを作り、コンっ!ってやったら生暖かい視線が返ってきた。ムカついたのでメリッサにもやって貰い四匹のコンっ!をしてやる━━━━と、メリッサパパも丁度こっちを見てきた。私達の四匹のキツネが視線に晒される。
「・・・まぁ、色んな意味で目が離せない子ではあるんだけども」
「・・・何となく分かるような気がするよ」
生暖かいメリッサパパの視線に、メリッサは頬を赤く染めた。私は鋼の精神力があるので大丈夫。さっき滑った事に比べれば、なんて事ないさぁ!!
それから暫く再会を噛み締めあった大人組だったけど、小難しい顔して二人きりで話す事があるというので解散。私は予定通りメリッサにエキスポ会場へと連行され、部屋の隅にこっそり生息していたメリッサパパの同僚Mr.サム氏も追い出された。部屋に入った時に見たけど、すっかり忘れてたよ。Mr.サムこんちゃー、そしてさいならぁー。
ん?抵抗?する暇も無かったんだぜ。
というか、もしかしてさっきのコンさせたの、ちょっと怒ってない?怒って・・・ない。そうですか。
本当に?
プレオープンにも関わらず沢山の人で賑わうエキスポ会場を、引き摺られるように移動する事暫く。
メリッサが一押しするパビリオンへと辿り着いた。
丸みのあるガラス張りのパビリオン内へと入ると、沢山のヒーローアイテムが展示されている。
どれもこれもなんか凄そう。
「ミドリヤさん見て見て!この多目的ビークル!飛行能力はもとより、水中行動も可能なの!ほら!」
メリッサの指し示す方向には丸っぽい飛行機的な何かがあった。近くにモニターがあって実際に飛行してたり、水中潜ったりする映像とかが流れてる。展示物の側にいたお客が「凄いっ!」とか感嘆の声をあげてる。
乗り物にはあんまり興味ない系な私だけど、これは流石に面白感知センサーがピコピコ反応する。運転難しそうだけど、一回だけならぶん回してみたい感じ。
かっちゃんプロになったら買わないかな。一回で良いから貸して欲しい。
「・・・スパイ映画に出てきそう。おいくら万円?」
「万円?日本の通貨だったかしら?うーん、どうかしらね。完成品ではあるんだけど、一般販売するにはコストが掛かりすぎるみたいなの。聞いてる話だと材料費だけでも相当すると思うし、何よりビークルを組み立てる技術者が少ないし、パーツ製造に掛かる時間も膨大なのもネックなのよね。兎に角手間が掛かるみたいなの・・・・そうなってくると、もうお金の問題でもないんだけど、でも、それでもあえて値段をつけるなら、まずは純粋な材料費を算出しな━━━━」
やだっ、難しい話し始めた。怖いっ、ノータイムでお勉強タイムキタコレ。頭パァンってなるからヤメテ。
それにこれ絶対あれでしょ?開発費とか聞いたら怖いやつでしょ?心臓に悪いやつでしょ?
なおやだー。
「えーっと、あーーー、アレナンダロナァー?」
「━━━━ん?どれ?あー、あれはね最新式の潜水スーツよ。深海七〇〇〇メートルにまで耐えられるの。あの潜水スーツが開発されるまで、海洋調査で主力だった潜水スーツが最高深度五六〇〇メートルだった事を考えれば、あれがどれだけ革新的な発明品なのか分かるでしょう?従来の200㎏近い潜水スーツと比べて重量も極めて軽く、スタンダード装備なら総重量なんとたったの50㎏。フル装備でも120㎏しかいかないの。潜水最高時間、驚異の85時間。装着者の心音や体温といったバイタルを常に確認していて、装着者の体調に合わせた状態を保つ事も可能。分かりやすい物で言えば体温調整や酸素濃度の調整など自動で━━━━」
おっとと、こっちも地雷!!
「んーーー!アレナンダロナァー!?」
「ん、あれね!あれはね━━━━━━━」
流石にオススメスポット!何処を向いてもガンガン来ますね!・・・じゃないよぉ!本当にっ、ちょっとはブレーキ踏んでよぉ!手加減して下さいよぉ!!頭パァンなる、頭がパァンなるぅ!詰め込み教育良くない!
段々と薄々と何となく分かっていたけど、メリッサは純粋で可愛い顔してて良い子だ。でも中身がアレと大体一緒だ。雄英高校サポート科のアレこと、発目のアホと一緒なのだ。━━━━━いや、身綺麗にして口調も優しいし、一見まともそうに見えるだけ、ギャップのせいか余計にヤヴァく見えるかもしれない。
控えめにいって魔王だもんね。
私はメリッサの話を聞きながら、素早くメッセージを打ち込んだ。SNSの情報から予測した、恐らく近くにいるであろう心の友達に向けて。
◇◇◇
『ジロケテ』
I・エキスポ、プレオープンその日。
カラオケによって勝ち取った招待チケットを手に前日からI・アイランドへやってきていた私達は、朝早くからホテルを出掛け、エキスポ会場にてパンフ片手にパビリオンを回っていた。
お昼も過ぎて「そろそろオヤツ休憩にしようかー」っとなった頃、突然そんな謎のメッセージが耳郎ちゃんの元へ送られてきた。
「・・・何なのでしょうか?緑谷さん」
「緑谷のやつ、何が言いたいんだ?」
そう、ニコちゃんから。
首を傾げる二人はそのままに、私もメッセージを見る為に耳郎ちゃんのスマホを覗く。
書かれとんのはやっぱり『ジロケテ』の四文字だけ。
何かの暗号かとも思うたんやけど、どうもそうでもない気がする。ニコちゃんは自分が知っとる普段使わんような技術を直ぐ教えたがるので・・・見事に教え込まれた私はすっかりニコちゃんの使う暗号を把握しとる。なので、そういうのは直ぐに分かるんやけど・・・なんやろ。これは。
「耳郎ちゃん、助けてやったりして」
「そうだとしたら略し過ぎて分からないから」
そう言われても他には思いつかんなぁ。
普段からメッセージとかメールとか碌に打たない人やから、これも意味もなくやっとる訳ちゃうのは分かるんやけど、意味が本当に全然分からん。
「もうさ、爆豪探してさ、これ見せれば良くない?」
耳郎ちゃんの言葉に私は何とも言えん気持ちになる。
それは百ちゃんも同じやったみたいで、ななめ45°に顔をあげて遠い目しとる。
「・・・・体育祭の優勝者として、招待されているのは緑谷さんから聞いていましたけど、まさか同じホテルだとは思いませんでしたわ」
「普通にびっくりしたよなぁ・・・ウチ思わずローストビーフ落としたもんな」
百ちゃんに続いて耳郎ちゃんまで遠い目になってもうた。まぁ、それも仕方ない気はする。
まさかホテルが一緒で夕飯のバイキングで隣のテーブルにつくとは思わんかったもん。あれは普通にびっくりしたわ。
「今頃何処にいるのでしょうか?」
「向こうから聞き慣れた爆音聞こえてきたから、大体の場所分かるけど」
爆豪くんにはプライバシーないんやなって。
ニコちゃん係を迎えに行こうか、と話がまとまり始めた頃、また耳郎ちゃんのスマホが電子音を鳴らした。
画面をタッチした耳郎ちゃんは片眉をあげる。
「居場所分かった、ほらこれ」
見せられたのは私達が行かんかったパビリオン。
帰りのついでに寄ろうとしとった所や。
「・・・えっ?緑谷さん、いらしてるんですか?」
「みたいだね。さっきのジロケテの答え合わせもきたよ。『なんで助けにこないのぉぉぉぉぉ!!』だってさ。麗日の予想通りだったみたい」
「ニコちゃん・・・そら分からんよ」
思わず溢れた言葉に、二人のジトっとした視線が突き刺さる。なんか居心地悪い。そんな見んといて。
そんな爆豪くんに向ける目で見んといてよぉ!私は爆豪とちゃうもん!!そら、友達やけども!やけどもぉ!!
そんなこんなでパビリオンに向かうと、金髪のお姉さんにヒーローアイテムを懇切丁寧に説明される、目の死んだニコちゃんがいた。
取り敢えず、助けた。