私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
映画版って色々詰まってたんやなぁって。
救援要請を受けたお茶子達に救出されて暫く。
私達はパビリオンから程近いカフェにて、三時のお紅茶を頂いていた。冷たいやつ。
数々のサポートアイテム開発し個性学に多大な貢献をしてるメリッサパパの娘さんという事に加え、メリッサ自身もヒーローのサポートアイテム開発を学んでいるという事もあって、ヒーロー志望な女子ーズ達との相性は悪くなく会話は思った以上に弾んでいた。
「へぇ~、ジロウさん達、プロヒーローと一緒にヒーロー活動したことあるんだ!」
「お手伝レベルだけどね。基本的には訓練やパトロールくらいで・・ですけど・・・あ、でもうちらと違って緑谷はヴィラン逮捕に協力してましたよ。一時期ネットで話題になってたんですけど知りませんか?ステインってヴィランなんですけど」
「ケイゴなんて良いのよ、普通に話して。それにしてもステイン・・・ステイ・・・・・あっ!それ知ってるわ!確か職業体験の女の子の話でしょう!ヴィランを投げ飛ばした!ジュードーガールでしょ!あれってミドリヤさんなんだ!凄い!」
「テキトーな伝わり方してるなぁ・・・けどなんだろ、その変な伝わり方、緑谷らしいと言えば緑谷らしい」
呆れた視線をこちらに送る耳郎ちゃんの隣で、百が深い溜息を吐けばメリッサが首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ、緑谷さんに比べて私ときたら・・・と思いまして。私、ヒーロー活動どころか、なぜかテレビCMに出演するハメになりまして・・・我ながら何をやっているか・・・」
「そんな事ないわよ、テレビCMって凄いわ。普通じゃ出来ない事よ。とっても素敵!」
そしてお勉強タイムに心を病んだ私はと言えば、耳郎ちゃんと百とメリッサが和気あいあいと話す姿を眺めながら・・・・お茶子に甘やかされていた。
具体的にはお紅茶にミルク入れて貰ったり、シロップ入れて貰ったり、かき混ぜて貰ったり、ストローさして貰ったり、口元に近づけて貰ったりとかだ。
うむ、くるしゅうないでござる。
そうこうしてると店員さんがパンケーキを持ってきてくれた。疲れた脳を癒すには何より糖分だよね。ありがとー店員はん。頭の中でサポートアイテムの情報が交通渋滞起こしてたから、本当助かるです。
さぁさぁ、整理しちゃうよぉー。
「━━━はい、ニコちゃんパンケーキきたよー」
「あーーーん」
「えぇ?自分で・・・・はぁ、もう仕方ないなぁ。今日だけやからね。はい、あーん」
なんやかんや切ったパンケーキを口に運んでくれるお茶子の優しさに心を癒されながら、かしましガールを眺めつつまったりしてると━━━ふと、何かを感じた。
違和感を感じるままそこへ振り返えれば、見慣れた金髪頭とマリモを頭に生やしたちびっこの姿が見える。よくよく見てみると、その見慣れた金髪とマリモはウェイターの衣装を身に纏っていた。
「━━━ミドリヤさん、どうかしたの?」
そんな声に顔を戻すと、メリッサが不思議そうな表情でこちらを見てる。耳郎ちゃん達も同じ様な顔だ。
「何すっかり甘やかされきってんの、あんたは。全然こっちの話聞いてなかったでしょ。━━━てか麗日も程ほどにしな。クセがつくよ」
「最近の麗日さんは、なんだか爆豪さんに近い物を感じますものね」
「いやいやいや!ちゃうよ!?そんなんちゃうからね!?」
「フォークを置いてから、それを言おうか」
「ですわね」
「ちゃっ、ちゃうもん!あーー、そうっ!ニコちゃんなんかあったん!?」
何処か焦った様子のお茶子が誤魔化すように私に話題を振ってきたので、気づいたそれに指を差して教えておく。
「ん?いや、あそこに見慣れた連中がいたから」
指した指につられて耳郎ちゃんがさっとそっちを見た。そしてそれに気づくと顔をしかめる。
耳郎ちゃんの反応に向こうも気づいたようで、飲み物のお代わりと共にその二人がやってきた。
「お待たせしました~ってな!」
「えっ、上鳴さん?」
「あっ、上鳴くんや」
「げぇぇ、上鳴ぃ」
「ゴー、ハウス、アホ面」
「最後のっ!おい、最後の二人ぃ!酷くね!?特に緑谷ぁぁ!!」
私と耳郎の言葉にビシッと上鳴がツッコミ入れると、上鳴の後ろからブドウがさらりと姿を現した。
お盆にドリンクを載せた様子で。
「ご注文品お届けにあがりました、お嬢様方。おいらが腕によりを掛けてお作りした、特製ドリン━━━」
何か言い始めたブドウに向かって私が指パッチンすれば、耳郎ちゃんが何処か遠い目で口を開いた。
「チェンジ」
「━━━んて目で言うんだよ!?疑うなよぉ!なんもしてねぇよぉ!!酷くね!?真面目に仕事して━━━」
「いや、峰田。こればっかりはお前が悪いわ。俺ですら疑うわ」
「なんだとぉ!?上鳴っ、この野郎ぅぅぅ!!!」
「うおわぁっ!?」
そうして醜い男達の争いが勃発した。
後々に雄英高校生の間に語り継がれる気がする、第一次童貞戦争inI・アイランドである。
私は面白くって見ていたのだけど、メリッサが心配そうにしたので引き寄せる個性で上鳴とブドウの頭をごっつんこさせて物理的に強制停止。
武力による制止はやっぱり文句言われたけど「キスさせなかっただけ恩情だろうが、ああん?それともお前らディープしたいのか、ああん?」って言ったら、男二人が抱き合ってガタガタしだした。ほら、恩情だろ。優しいだろ?私ってば天使ちゃんじゃんね?・・・ね、お茶子!お願い引かないで!やらないから!多分!
少しすると上鳴達と一緒にきた引率眼鏡も合流し、いよいよ学校みたいになってきたなぁーなんて思ってると━━━━それは空を伝って響いてきた。
空気を震わせる大きな爆発音だ。
「むっ、この音は」
眼鏡のその声に、私の中でやつの顔が浮かんだ。
「かっちゃんか」
「爆豪か、そういや切島と行くって言ってたな」
「爆豪のやつもきてんのかよ・・・まじかよ、やりづれぇぇ」
空を見上げて私に続く上鳴とブドウ。
それを見て女子ーズも空を遠い目で見上げた。
「せやね」
「さっきもそうだけど、何してんだろ」
「アトラクション巡りでもなさってるのかしら?確か個性を使用する物がありましたし・・・」
全員の心が一致した所で、メリッサが訝しげな顔で口を開いた。まるで何処かの、じっちゃんの名にかけそうな名探偵のように。
「雄英高校の話の中に度々出てくる、そのバクゴウさん。爆発音だけで特定されるなんて・・・・人気者なのね・・・・!」
そう、名探偵メリッサの推理が炸裂した。
その結果、無音と時折遠くから響く爆音がその場を支配したのは言うまでもない。
・・・一人くらいは味方してあげても、良いんだよ?
えっ?私?いや、私はしないけど。めんどい。
それに・・・心にもない事はあんまり言わない主義なんだ、私は。そう、あんまり。ん?そうだよ、かっちゃんの件は含まないよ・・・はぁ?彼女なのに?え、誰が?誰の?かっちゃんが?私の?いや、彼氏じゃないよ?おい、誰だ、誰が勝手にかっちゃんを私の彼氏にしたん?メリッサになに吹き込んでん?おおん?━━━いや、違うって、照れ隠しとかじゃ、ちがっ、違━━━━。
━━━私はそんなに趣味悪くないぃぃぃぃ!!
◇◇◇
夏の日射しが眩しい、晴天のその日。
I・エキスポのアトラクションの一つ『ヴィラン・アタック』が行われてる会場で俺は、空を爆炎と共に駆けながら、次々にターゲットを爆砕する友人の姿を眺めていた。
『これはすご~い!クリアタイム、十五秒、トップです!』
司会の人の感嘆の声に、掌から黒煙を漂わせる爆豪は物足りなさそうに鼻を鳴らした。
俺のクリアタイムを十八秒も更新しといて、その態度はどーよ・・・と思わないでもないが、あれでいて楽しんでいるみたいだし、何より何処か誇らしげなので余計な事は言わないでおこうと思う。人それぞれ、楽しみかたは自由。そういう事にしとこ。深く突っ込むと、それはそれで面倒な事になりそうだし。
「おっす、お疲れ!凄かったぜ、トップだってな!」
帰ってきた爆豪にそう手をあげると、くだらないと言いたげに「けっ」といつもの言葉を発した。手は叩き合わせてくれなかったし態度はそっけないが、そろそろ俺にも分かるようになってきた。嬉しいんだな。うん。
「・・・てめぇは、てめぇでちったぁ頭使えや。切島ァ。ルートをちゃんとすりゃ五秒は縮められるだろうが」
「まじか!?五秒も!?どこから行くんだ!?」
「足らねぇ頭で考えろや、ボケ」
このツンデレ野郎!少しくらい教えてくれても良いだろうにっ!くそっ、五秒も・・・まじか!
ルートを考えつつ再挑戦について考えてると、司会の人のアナウンスが響き渡ってきた。
どうやら新しいチャレンジャーがきたらしい。
「・・・ああ?」
ふと、隣から地を這うような声が聞こえてきた。
何事かと視線を移せば爆豪が会場を睨み付けるように見ていた。その苛烈な視線に釣られて会場を見てみれば、紅白に染まった髪の・・・よく知ってる轟の姿があった。
ヒーロー関係者が多く招待されていると聞いてるし、それならヒーローの息子である轟がいること自体はなんら問題はないし、不思議でもない・・・・のだが、今はそういう事がどうとかではなく、その、ちょっと間が悪いとしか言えない。よりにもよって、このタイミングかぁ。
嫌な予感を覚えながら会場を見ていると、案の定轟は見事に最高タイムを更新してきた。まさかの十四秒。トップ更新である。うわぁー。
爆音と共に爆豪が会場へと飛んで行く。
止めようとしたけど一歩出遅れた。
やられた。
「ごらぁぁ!!てめぇ、なんでここにいやがる!!当て付けか!?ああん!?舐めんなっ!即行でてめぇの記録なんざぶち抜いてやるわ!!」
「ん?ああ、爆豪か。お前も来てたのか、相変わらず元気だな。俺は招待受けた親父の代理で・・・緑谷は一緒じゃないのか?」
「なっ、あっ、くっ・・・あんだぁこら!?てめぇに関係ねぇだろうが!?いなかったら、なんだ!喧嘩売ってんのか、ごら!!」
「?喧嘩は売ってないが・・・・いないのか?そうか。あいつが好きそうな露店があったから・・・教えてやろうかと思ってたんだが」
急いで会場へと戻ったら、ナチュラルに煽る感じになってる轟と、それに見事に踊らされる爆豪で混沌としていた。いつもながら噛み合ってないんだよなぁ。そろそろどっちかから空気読んだりしないんだろうか。しないだろうな。出来ないだろうな。知ってる。
「はいはい、ストップ!お前ら恥ずかしいから会場で騒ぐな!司会の人が困ってるだろうが!」
「ああん!?んだ、切島ァ!邪魔してんじゃねぇぞ!!殺すぞ!!どけやぁ!!」
「ああ、切島も来てたのか。緑谷みてないか?」
凄い、この二人。自分の用件しか言わない。聞く耳とか持つ気ないのかなぁー。ないんだろうなぁー。
というか、なんで轟は緑谷来てる体で話すの?来ない時だってあるだろ?その爆豪といつも一緒みたいなの言わないで!今だけ、マジで頼むから!
爆豪、I・エキスポの件で緑谷にフラれた後、俺んとこに来たんだぞ!?止めてくれよぉ!八つ当たりされる!
「・・・やっぱりてめぇ、喧嘩売ってきてんな」
「・・・いや?喧嘩は売ってないんだが?」
あまりに不穏な空気に、司会の人がチワワみたいになってしまった。そりゃ、最高タイムをポンポン叩き出すような強個性持ちが睨み合ってたら怖いよなぁ・・・俺は慣れたけど。
どうしようか・・・そう途方にくれたのも束の間。
その声が頭上から響いてきた。
「おっ、かっちゃぁーーーーん!おーーーい!あっ、紅白饅頭もいるじゃん!おーーーーい!」
その声に見上げれば観覧席の柵の所で、手を大きく振りながらチャームポイントのポニーテールを揺らす女子がいた。
「んで、てめぇがいんだ双虎!!」
「・・・緑谷」
そう、その女子は緑谷双虎。
同じ学校でヒーローを目指す仲間。
━━━で、爆豪からのI・エキスポの誘いを一刀両断した女子だ。それはもう見事な一太刀だった。
緑谷本人的には、遊びの誘いを断っただけなんだろうけど・・・・爆豪のあの落ち込みよう見てると、何かしようとしてたんじゃないかと思うんだよな・・・意外と、爆豪はロマンチストだからな。
「それにしても、なんで緑谷がいるんだか」
仲間との偶然の再会を素直に喜びながら、緑谷がどういった経緯で来たのかぁーとか、緑谷が来た以上荒れるんだろうなぁーとか、あれこれ心配しつつも手を振っておいた。
ついでに、取り敢えずこの二人は任せよう。
とかも思いながら。