私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
もしくは六時間は寝かせて下さい!!
瞳を閉じて三時間はキツイ(´・ω・`)
緑谷少女と別れた後、デイヴと昔話に花を咲かせていられたのも少し。私は彼の勧めを受けラボで体の状態を調べて貰っていた。日本にいる際もこれらの診察は受けているし、内容が大きく変わるとも思えないが・・・それでも一縷の願いを込めてそこにいた。
叶うのであれば現役を後数年。せめて彼女達が一人前のヒーローとして表舞台に立つまで。
「どうかな、デイヴ」
尋ねた私の声に、デイヴは「焦らせないでくれ」と苦笑を浮かべた。それは昔から彼が見せる、懐かしい笑顔だった。
「君の悪い癖だ。大人になれば少しはと思ったが、せっかちなのは相変わらずか」
「そ、そんな事はないと、思う、のだが・・・・」
「そうやって何度私の静止を振り切って走り出したと思っているのやら・・・良い機会だ。覚えている限り口にして行こうか?さてさて、何時間必要になるかな?」
「ははっ。OK、勘弁してくれデイヴ。降参だ。君ほど記憶力がある訳ではないが身に覚えがありすぎる。申し訳なかった」
素直に謝罪を口にすれば「そこは感謝してくれよ」と楽しそうな声が聞こえてくる。
「感謝といえば、メリッサには改めて言っておかなければな・・・・」
私がそう言えばデイヴは眉尻を下げ、少しだけ困ったような顔をする。デイヴとしても私の来訪は予想外だったのだろう。部屋にやってきた私を見て、驚愕を露にしたその顔が忘れられない。
「何か忙しそうにしていたのは気づいていたが、まさか君の事だったとは思わなかったよ。学校で研究発表の展示会をするのは聞いていたが、それの準備も大分前に終わっている筈だったしね・・・サプライズに喜んでいたメリッサに、まさか私がサプライズされるようになるとは思わなかった」
「奥さんに良く似て、素敵なレディーになったものだ」
「ああ、本当に・・・・」
少しだけ寂しげな目をしたデイヴだったが、すぐに悩むような素振りを見せた。どうしたのかと尋ねてみれば、「中身はすっかり私よりになってしまったのがなぁ・・・」と何とも言えない顔で呟かれ、思わず笑ってしまった。私としては目標を持って努力に励む彼女を立派だと思うが、男親としては複雑な物があるらしい。
「娘からボーイフレンドの話を聞いた事がないんだ・・・大丈夫だろうか」
「それは・・・えっと、聞きたいのかい?メリッサからボーイフレンドの話を?」
「正直に言えば聞きたくはないな、あまり。だがな、研究職は悪いとは言わないが・・・婚期を逃す事が多いからな。いや、何も結婚する事が全てではないのだが・・・だがな・・・・・カレッジ時代のジョーイを覚えているか?」
そう言われてみれば、デイヴの友人にそんな女の子がいたな・・・と思い出したが・・・。
「ジョーイ・・・ああ、まぁ・・・」
「少し前、良い相手はいないかと、打診が来た・・・」
「えぇ、あぁ、うん・・・・それは・・・」
私とデイヴはジョーイの幸せを願いながら、メリッサに良い相手が出来ると良いなぁと思いを馳せた。
少しだけ緑谷少女の顔を浮かんだけれど、彼女には引き取り手がいるので、その事について考えるのを止めた。彼女には余計なお節介でしかない。いや、メリッサの件もそうなのだろうが。
それから暫くして、私を取り囲んでいた装置が小さな電子音を鳴らした。どうやらデータを取り終えたらしい。
結果に期待したい所だったが、やはりそう上手くは行かないらしい。
視界の端に映っているデイヴの顔色が優れない。こちらからは見えないが、恐らく彼の目の前にあるモニターに宜しくない結果が表示されているのだろう。それが分からない程、彼と付き合いが短いつもりはない。
体を起こした私は、それを彼へ問いかけた。
「デイヴ、率直な感想を聞かせて欲しい。私は後何年戦える?」
吐き出した言葉にデイヴは一度こちらを見て、何かに悩むようそっと目を閉じた。
「・・・・・・個性数値に関しては・・・以前より低下はしているが、これまでのデータに基づけば後5年の猶予はあるだろう」
「5年か・・・・それは良かった。日本では━━━━」
「だが勘違いしないで欲しい。それは君が今の状態を維持した場合の話だ・・・!そしてそれは、君がヒーロー活動をしている限り・・・・・」
悔しさの滲んだ声が響いた。下を向いてしまった彼の表情は見えないが、モニターに触れる指の震えを見れば、どんな表情をしているかは見当がついた。
そしてその姿に、私は不謹慎ながら本当に良い友を持ったと、誇らしいと同時に嬉しく思ってしまった。
「━━━オール・フォー・ワンとの戦いで損傷を受けたのは理解している。それからの戦いの日々も。君がヒーローに拘る理由も私は知っている・・・だが、どうして・・・・」
こうなる前に、伝えてくれなかったのか。
デイヴは口をつぐんでしまったが、私にはそう聞こえた。
「すまない、デイヴ。心配を掛けてしまったな」
「・・・・いや、私の方こそすまない。一番傷つき、苦労しているのは、他でもない君だ。・・・少し取り乱した、本当にすまない」
そう言うとデイヴは側にあった椅子へと腰を下ろす。
ようやくあがった顔には愉快とは到底言えない、暗さの滲む複雑な感情が浮かんでいた。
その表情に掛ける言葉を見つけられずにいると、デイヴはゆっくりと口を開いた。
「このままでは、平和の象徴が失われてしまう。日本のヴィラン犯罪発生率を六パーセントで維持しているのは、ひとえに君がいるからだ。ほかの国が軒並み二十パーセントを超しているというのに・・・。君がアメリカに残ってくれればと何度思ったことか・・・・」
いつになく弱気な言葉に、私は純粋に驚いた。
少なくとも彼とコンビを組んで以来、一度として見なかった姿だからだ。奥さんを亡くした時でさえ、彼は涙をこらえ前を向いていた。娘の為にも、自分が平和を作るのだと・・・そう研究に励んでいたのだ。
だというのに、今の彼の顔には力が無かった。
「・・・・それほど悲観する必要はないさ。優秀なプロヒーローたちがいるし、私の教え子たちのように将来有望な若者たちもいる!君のようにサポートしてくれる方たちもいる!それにな、私だって、一日数時間はオールマイトとして活動できる━━━━」
「しかし、オール・フォー・ワンのようなヴィランが、どこかでまた現れる可能性も・・・」
「デイヴ」
彼の言葉を遮るように声を掛ければ、ようやく彼の目が私を捉えた。
「その時の為にも、私は平和の象徴を降りるつもりはないよ」
少しでも安心して欲しくて掛けた言葉に、デイヴは顔を足元へと向けた。表情は窺い知れない。
それから少しの間をおいて顔をあげたデイヴの顔には、迷いも後悔もない、強い決意の色が宿っていた。
「弱気な事を言って済まなかった。そうだな、君が頑張っているというのに、私がへこたれている場合ではないな━━━━覚悟は出来た、私も」
「そうこなくてはな、頼りにしているよ。友よ」
「あぁ、トシ」
検査を終えた後、検査の為に脱いでいたヒーローコスへ袖を通していると、デイヴからI・エキスポのレセプションパーティーの話を聞かされた。出来る限り人目を避けたかったのだが、どうにも私の参加を皆が期待しているらしく要請の連絡がデイヴの所へ来たようだ。
断るとデイヴの面子を潰す事にもなるで、借りの一つも返すつもりで了承すれば「借りを返すつもりなら、今回の件だけでは足りないからな?」と笑われてしまった。
「・・・・しかし、レセプションパーティーか」
「何か問題あるかい?体のことなら出来る限りフォローするつもりだが・・・」
「いや、連れの事を考えてね・・・」
いつもの緑谷少女の姿を頭に浮かべると、私は心配からお腹と頭が痛くなってきた。爆豪少年と合流しているならまだ安心出来るが・・・一人でいさせるのは色んな意味で怖いものがある。本当に、色んな意味で。
「何も、なければ良いのだけど・・・」
口にすると余計に心配になってくる。
取り敢えず爆豪少年にメールを入れた。返事は返ってこなったが、もしかしたら読むまでもないのかも知れない。何となくだけれど、彼女はもう彼の側にいる気がする。
パーティーへ出る準備をする為に部屋を出ると「トシ」と声が掛かった。振り返れば、中途半端に手を伸ばした友人の姿が目に入る。
「・・・どうした?」
「・・・・いや、何でもない。・・・会場で」
再会を約束する言葉を口にすると、デイヴは伸ばし掛けた手を胸元へ引き戻し、いつもの笑顔を浮かべた。
学生時代から変わらない、私の無茶に対して彼がいつも見せてくれた、仕方ないなと言わんばかりの笑顔を。
◇◇◇
彼を見送って直ぐ、私は自分のラボへと戻ってきていた。先程得た彼のデータを改めて確認し、そのデータを元に行っていたシミュレート結果に目を通した。今の段階ではまだ調整は不足を否めない結果ではあるが・・・そのシミュレート結果は、確かな可能性を示している。
『その時の為にも、私は平和の象徴を降りるつもりはないよ』
気安げに、胸を張っていう彼の姿が脳裏に浮かぶ。
医療に関して十分といえないまでも、多少の知識を持つ私でさえ目を疑うような重傷を負いながら、それでも任せろと笑う友人の姿が。
戦うというその言葉が真実なら、彼は間違いなく二年もまともに生きられない。いや、二年などと悠長な事は言っていられないだろう。彼の個性は体に大きな負担を掛ける。使い方次第では明日にも、次の瞬間にも命を落としてしまうかも知れない。
そしてそれを知ってもなお、己の言葉を真実にしてしまう彼だからこそ、私は完遂しなければならない。彼がもう一度羽ばたく為に。
新たに条件と調整を加え、再シミュレートを開始する。画面に現れたシミュレートの進行具合を示すパーセントゲージから目を離し、私は人工臓器と移植に関する論文を画面へとアップし読み進めていく。
個性については問題ない。
研究を進めていけば、直に私の発明品は彼を救ってくれる筈だ。だが彼には個性の減退を防ぐだけでは不十分。同時平行に彼の体も癒さなくては、根本的な解決にはなり得ない。
彼は生きなければならない。
何故なら彼はこの世界の光。
人を救い悪を倒し、人々の不安を晴らして沢山の笑顔を作り出していく━━━平和の象徴なのだ。
「ヒーローが必要なんだ。君がまだ、この世界に必要なんだ」
平和の象徴である君が。
オールマイトが。
脳裏に若かりし頃の彼の笑顔が浮かぶ。
初めて君を知った、君に救われたその日。君と歩んだ日々。君が教えてくれた夢を。
『ありがとう。俺はデヴィット・シールド。君は?』
『オールマイト。ヒーロー志望の学生さ』
━━━━あの眩しいくらいの笑顔も、伸ばした手に返された力強い掌も。
『最新素材で作った君専用のコスチュームだ。これで多少の無茶も出来る』
『いいね』
━━━━鏡の前でコスチュームにはしゃぐ君の姿も、共に笑い合った日々も。
『平和の象徴?』
『私が目指すのは、皆が笑って暮らせる世界。その世界を照らし続ける"平和の象徴"になりたいんだ』
━━━━夕日を眺めながら君が教えてくれた、途方もなく大きな夢の話も全て・・・・私は昨日の事のように覚えている。
「トシ、君は、私が必ず━━━━━」
私を救ってくれた君を。
私の光となってくれた君を。
この手で、きっと救ってみせる。
━━━━私の何を犠牲にしても。