私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
だからあれだよ、期待すんな。
次は、期待すんなよぉぉぉぉ!!
(このペースで完結までいったら、死ねる)
はぁい。国を傾けちゃうほど超絶美人、皆のスーパーアイドル、近い将来国民栄誉賞を貰う予定の緑谷双虎ちゃんです。きゃぴるーん!
色々あって私は今、大きめの水溜まりに浮かぶ船の上で遊覧中なの。風はなし、水面は静か。お魚さんは一杯。あっ、跳ねた。
これでジュースの一つでもあったら最高なんだけど、手元にあるのはブドウ頭のエロ小僧だけ。あ、お供のカエルちゃんもいるわ。うふふ。
「緑谷ちゃん、一人で微笑んでる場合じゃないわ」
いい気分で外を眺めているとカエルちゃんこと梅雨ちゃんが話し掛けてきた。足元でブドウが逃げようとしたので踏んでおく。ぐりぐり。
「はぁ、はぁ、緑谷ぁぁ!こんな事してる場合じゃねぇぇぇって!ありがとうございます!!」
「緑谷ちゃん、峰田ちゃんをそろそろ離してあげて。それよりも今はこの状況をどうするか考えましょう」
今の状況、実はとっても不味い。
何故なら船を囲むお魚さん達はただのお魚さん達ではなく、お魚さんのフリをしたただのチンピラなのだ。しかも水系が得意系の集まりだ。
上鳴がいれば感電を狙う所なんだが、いま手元にあるのはブドウとカエルとヨガ炎。あかん、相性最悪やで。どないしょ。手伸びないかな。伸びないな。
黒モヤから一転、気がついたら水溜まりの真上に放り出された私は梅雨ちゃんに助けられて船の上にいる。ブドウも巻き込まれたみたい。ブドウはこの状況にも関わらずセクハラしようとしてきたから踏みつけてあげた。啼けよ豚野郎とか言ったら凄い興奮してた。変態やないか。
「とりま、逃げるか、戦うか、殺すか。選ぶところから始めよっか」
「ヒーローを目指す者としても一市民としても、殺しちゃ駄目よ。緑谷ちゃん」
「事故ならしょうがない、てこと?」
「事故も駄目よ」
事故も駄目だった。
「船の燃料水に垂れ流して、全部燃やそうと思ったのに」
「しれっとそういう事を思い付く所が怖いわ。緑谷ちゃん、本当に過去に何かやってない?」
「その話まだ続ける?どれだけ疑ってるの?」
「そういう発言続けるからよ」
うーむ、そんな事言ってもなぁ。
陸にあがってくるなら話は別だけど、現状どうしようもないんだよな。
肉弾戦なら負ける気しないのにね。
「船の電子機器を水に放り込んで感電死狙い」
「感電までならまだしも、死は駄目よ」
「いや、だって、そんなに上手く調整出来ないよ?」
「それなら別の方法を考えましょ」
それってなんて無理ゲー。
前から思ってたけど、ヒーロー側ってすごく不利だよな。犯罪者集団は殺すも良し、逃げるも良し、人質をとるも良し。なんでもありで状況打開を望めるけど、ヒーローは無力化の一択だもんなぁ。
これだからヒーローは。
「ねぇ、緑谷ちゃん。あの人オールマイトを殺すって言ってたわ」
「ん?」
梅雨ちゃんがいきなりオールマイトの話をし始めた。
ファンなの?君もファンなのん?ならかっちゃんと仲良くしたげてよ。あの子友達いないから。あ、違うね、そんな感じじゃないね。どした。
「オールマイトの事、当たり前だけど誰でも知ってるわ。ヒーロー達も、私達も━━」
「私は知らなかったけど」
「話の腰を折らないで緑谷ちゃん。話は戻すけど、オールマイトの事誰もが知ってるの。それはヴィランもなのよ。誰よりも恐れている筈なのに、彼等ここに来たのよ。オールマイトがいると知った上で」
梅雨ちゃんが何を言いたいかわかった。
「あいつらは本当の馬鹿・・・!」
「殺す算段がついたんじゃないかって事よ」
そっちか。
どっちかだとは思ってたんだよー。
本当だよ?疑わないで。そんな目で疑わないでよぉ。
「ま、勝てる喧嘩しかしないからね、あの手の連中は」
「どっちかといったら、緑谷ちゃんはチンピラよりだものね。その辺りの気持ちは緑谷ちゃんの方が分かる筈よ」
「梅雨ちゃん本当は私の事嫌い?」
「思った事を何でも言っちゃうだけよ」
梅雨ちゃんと話してるとブドウが泣き出した。
「なに冷静に話してんだよバカかよぉ!オールマイトぶっ倒せるかもしれねー奴らなんだろ!だったら、倒すとかそういう事は止めて大人しくしてよーって!雄英のヒーローが直ぐに来てく━━━━ありがとうございます!!」
「峰田ちゃん締まらないわ」
ブドウを踏みつけながら考えてみる。
取り合えず大人しく待機するのは駄目だ。
時間が経てば水系のあいつらが有利になるだけ。一番良いのはフィールドをカエル、じゃなかった変える事なんだけど、逃げるにしても距離が遠すぎる。ブドウを捨てて私だけ梅雨ちゃんに運ばせるなら、いけない事もないけど流石に良心が・・・傷まないな。別に。
「ブドウ、このまま置いていっていい?」
「緑谷!?まじで!?置いてくの!?オイラの事!?」
「私一人なら岸まで梅雨ちゃんが届けられそうなんだよね。陸にさえ上がらせれば、まず間違いなくあいつらボコボコに出来るけど、どうよ?」
「オイラを見捨てんのかよ!?」
「見捨てる!」
「断言すんなよ!!?あ、ありがとうございます!!」
やかましいのでぐりぐりしてやる。
ブドウはこれをすると感謝するので、もうこれで良いと思う。
梅雨ちゃんに運ぶように視線を送ったら首を横に振られた。
「緑谷ちゃん、出来ないわ。峰田ちゃんを置いてはいけない」
「ちょっと置いとくだけだから、ちょっとだけだよ。本当にちょっとだけ、先っちょだけ」
「それは世界で一番信用出来ないやつよ」
意外と頑固な梅雨ちゃん。
ヒーローがどうたらとか、そういうことなのかも知れないし、性格的な話かも知れない。
でもね、二人とも分かってないのかも知れないけど、命懸かってるからね。今。
「瀬戸際なんだよ、梅雨ちゃん。生きるか死ぬか」
「分かってるわ。でも駄目よ」
「梅雨ちゃんは分かってないよ。今動かなかったら死ぬんだよ?どんなめに合わされるか分かんないんだよ?」
水場で有効なのは梅雨ちゃんのみ。
その梅雨ちゃんは戦闘能力が皆無。
唯一戦える私は水場では勝負にならない。
ブドウは使えない。
それなら、選べる選択肢はあってないような物なのに。
「それでも駄目よ。皆で生き残る事を考えるのよ」
死ぬほど頑固ちゃんだな、梅雨ちゃん。
ま、だからヒーローなんて職業を選ぶんだろうけど。
はぁ、なら仕方ない。
「じゃ、釣るか」
「釣る?」
「そ、釣る」
上手くいくか分からないけど、他に方法も無さそうだしねぇ。
「見せてやろう、私がグランダー双虎と呼ばれるが由縁をなっ!!」
「呼んだことないわ」
◇◇◇
入学してからずっと緑谷双虎という生徒を見てきた。
容姿が綺麗だった事もあったけど、それよりどこか他とは違っていたから目についたの。
授業態度は最悪。
初日からお昼に登校するという大遅刻をかまし、基本的に授業中は寝てるか爆豪ちゃんにちょっかいをかけるかしてない。たまに真面目に教科書を見てるかと思えば、熱心に落書きしてたりする。
不真面目。
不良。
そういう言葉が似合う、そういう子だった。
でもその割には皆の輪の中にいたわ。
口は少し悪いけど誰に対しても気さくに話し掛けていくし、良い意味でも悪い意味でも人によって態度を変えない人だった。弄り度合いは変わるけど。
あまり話した事はなかったけど、今回の授業で機会があった私は話してみたの。想像通りの人だった。口は少し悪いけどけして悪い人じゃない。口は悪いけど。
だから、驚いた。
船の上で緑谷ちゃんに「峰田ちゃんを置いていく」って言われた時は。それまでの優しいイメージが砕け散って、私、軽蔑してしまった。緑谷ちゃんが状況を鑑みた上で言った事なのは分かるけど、どうしてもそれは出来なかった。だから言ったの「駄目よ」って「皆で生き残る事を考えるのよ」って。
子供じみた言葉だった。
それは言った私が一番良く分かってた。
状況は最悪で打てる手だって殆どない。
緑谷ちゃんの言葉は多分正しい。
私は緑谷ちゃんのようにアイディアの一つも出さないで、駄々を捏ねるだけ。最悪よ。
なのに、緑谷ちゃんは困ったように笑うだけ。
呆れもしなかった。私の言葉に。
そして緑谷ちゃんは言ってくれたの。
「釣るか」って。
意味は分からなかった。
でも、私の言葉を笑わないでくれたのはわかった。
状況を分かった上で、それでも皆で生き残る方法を考えてくれたんだって。
「その為にも、力貸して貰うよ、二人共」
そして緑谷ちゃんは私の力を信じてくれていた。
私、その時分かったの。
憧れたんだって。
ヒーローに成りたくて勉強を一杯したわ。
私は特別優れてなかったから他の事が手付かずになって、口下手な事もあって、どんどん孤立していったわ。ヒーローに成るために必要だった事だから後悔はない。色々あって大切な友達は出来たし。
でも、やっぱり寂しくは思ったの。
だから、雄英にきたら沢山友達を作ろうって、そう思ってたの。
だから、憧れたの。
私みたいに何かを手放さないで、皆といられた緑谷ちゃんに。
そして、少しだけ嫉妬していたの。
私みたいに努力しないで、当然のように私が欲しかったものを持ってる緑谷ちゃんに。
でもね、それも間違ってた。
緑谷ちゃんは努力する方向が違ってただけなのって。
ヒーローになるための努力とか、良い成績をとるための努力とか。そういうのじゃなくて。
緑谷ちゃんはきっと━━━━
「緑谷ちゃん、任せて。私に出来る事ならなんでも手伝うわ。━━━だから、皆で生き残りましょ」
私の言葉に緑谷ちゃんは笑顔を浮かべてくれた。
そして力強くサムズアップしてくれる。
「任せんしゃん!一人残らず、刈り取ってくれるわ!!わっははは!!」
「意識だけよ、刈り取っていいのは」