私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「うわっ、めっちゃテロリスト」
謎の警報騒ぎから暫く。
私達はメリッサの協力の下、非常階段や監視カメラの死角を縫いながら、レセプションパーティーの会場を見下ろせるフロアへと辿り着いていた。
そしてちょっと前に借りたメリッサ謹製の多機能ゴーグル越しに見下ろした、吹き抜けの先にあった光景は━━━━━武装集団に囲まれる紳士淑女とポンコツヒーロー達という残念極まりない光景という。
・・・・おおぅ、こいつらマジか。通信機器が全滅してる時点で嫌な予感はしてたけど・・・もうホント、もう・・・てか、ガチムチもちゃっかり捕まってるし。なにしてん?ナンバーワンヒーロー、マジでなにしてん?
いやね、メリッサが警報がおかしいって言うからね?すわっ、マジで私のローストビーフが危機すか!?って思ってきたよ?一応警戒してさ、監視カメラの死角縫ってきたよ?でもさ、あのスーパーデラックスすげー監獄タルタロスと同レベルのセキュリティがI・アイランドにあるって聞いてたからさ、いくら何でもねぇー?・・・・・・ーって、そしたらこれだよ。ホント、なにしてん?セキュリティ仕事しろYO。
「━━━━はぁーー、耳郎ちゃん、取り敢えず近くに人いる?」
心の中に湧き上がる文句を飲み込み、壁にイヤホンを突き刺す周囲を警戒してる耳郎ちゃんへ聞いてみる。耳郎ちゃんは耳に手を当てて目を瞑り━━━再び目を開けると同時に首を横へと振った。
「少なくともこの階にはいない・・・と思う。もっとずっと下。レセプションパーティーの会場だと思うけど、そこからなら人の声が聞こえる。小さくて聞き取りづらいけど。どうなってんの?パーティーしてるって感じじゃないけど」
「さっき言ったけど、めっちゃテロリスト。耳郎ちゃん、そのまま聞いといて。ガチムチの声だけ拾ってくれれば良いから」
「いや、説明になってないから・・・はぁ、いいよ。やって」
床にイヤホンを付けた耳郎ちゃんの姿を確認した後、スカートの下に手を突っ込み、太ももに装備したレッグポーチからそれを取り出した。私がそれを知ったのは販売中止からなん年も後・・・・・内心諦めていたそれを、偶然近所の駄菓子屋の隅っこで見つけた時の感動は忘れはしない。足りない分をかっちゃんに借りてまで買った私の相棒、規制前の超強力レーザーポインター!!レッドアレキサンダー!!マッッッックス!!
試しに壁へビッと光を飛ばせば、綺麗な丸い赤点がそこにつく。銃こそないけど、気分はさながら敵を狙うスナイパー。私の後ろに立つなっ、みたいな?
いやいやいや、最近のショボいやつとはやっぱり光が違うね!光がねぇ!!やっと使う機会がきたか!!ふぅぅぅぅ!!
「・・・・いや、ゴーグルもそうだけど、なんでドレス着てる癖にそんな色々持ってんの。パーティー何だと思ってんの、あんたは。てか、何そのスパイみたいなポーチ。まさか自前?」
「耳郎ちゃん、私はね・・・・面白いと思った物は、使う機会があったらいいなって、信じて身に付ける主義なの・・・・!」
「・・・・あんた、ネズミ取りみたいな仕掛けしてあるガムの玩具持ってたりしない?刃が引っ込むナイフとか。物が消える小箱とか」
「ガムの玩具はトランクにある。あとは家!」
「ウチがいうのはなんだけど、女子高生としてそれはどうよ」
耳郎ちゃんを軽くスルーしてレーザーをガチムチの見える位置に当てる。目に当たると失明しちゃうから、そこらへんは気をつけて。直ぐに光に気づいたガチムチがこちらに顔をあげ━━━なんか物凄い顔をした。えっ、分からない。どんな気持ち?それ、どんな気持ちなん?
耳郎ちゃんに視線を移すと真顔で「ヴィランを見てる時より、めちゃくちゃ動揺してる」と言われた。何でなーん。素直に喜んだらええやーん。貴方の生徒無事ですよー?ほわーーい?
取り敢えず耳郎ちゃんが聞いてる事をジェスチャーで伝えると、ガチムチは察しがついたみたいで口を開いた。
読唇術しながら耳郎ちゃんの通訳で改めて内容を確認し、状況はおおよそ掴めた。どうやらヴィランがタワーを占拠し、警備システムも掌握されてる模様。通信障害もその延長だろう。ヴィランの目的は不明。特別に名前を名乗ってはいないそうだ。
そして警備システムが掌握されてる以上、島中に配置された警備ロボットのコントロールも当然向こう側。つまりは島内全ての人達が人質状態で、ガチムチもそこにいるポンコツヒーロー達も抵抗出来なかったようだ。
あっ、あとついでにメリッサパパとその友達がどっかに連れてかれたらしい。
理由は分かったけど、しっかしなぁー。
いや、でも、そこは何とかしようよ。
プロでしょ、あなたた達。
「どうすんの、緑谷・・・?オールマイトは下手に動くなって言ってるみたいだけど・・・でもこれさ、放っておくと不味いんじゃないの?」
耳郎ちゃん冴えてるねぇ、私もそう思う。
通信障害まで起こせば、連絡の取れなくなった外部から間違いなく干渉が始まる。I・アイランドは科学的にかなり価値がありそうだから、これ程の異常が起きたなら遠くないうち近くの国からヒーローやら警察やらが群れで飛び込んでくるだろう。そうなったら大抵のヴィランは一網打尽。何を目的にしてたとしても、この手段はあまりにリスクが高過ぎる。
なら、理由がある。
これだけのリスクを払うだけの価値が。
「・・・・・一旦、皆と相談しよっか」
何をするにも、皆の言葉を聞く必要がある。
どんな手段を取るにせよ人手は必要になるし、どんな風に動くにせよタワー内部に詳しいメリッサの協力は必須になるからだ。
私の言葉を聞くと耳郎ちゃんは頷いた。
警戒しながら非常階段の方へと進む耳郎ちゃんの背中を見ながら、私はさっき見た武装集団の事について考えていた。全員ではないけど、私はそいつらの中の数人に見覚えがあったのだ。
空港で異様な空気を放っていた、あの連中。
特にあの赤髪は忘れない。
あと、ダメンズ・ソキルも。
「・・・・通報しとけば良かったか」
「なんか言った?」
「何でもなーい」
やはり乙女力マックスの私の勘は馬鹿に出来ないなぁ。神がかってるね。うんうん。
非常階段に戻ってから全員集合させて、しゃがんで出来るだけちいちゃくなりながら見てきた事を説明する。なんか小さい頃思い出すな、この感じ。
説明を一通り終えると、予想通り一同暗い表情を浮かべた。特に父親をヴィランに連れていかれた事を知ったメリッサは顔を真っ青にさせ、全然大丈夫じゃない感じで震えてる。
でも言わなきゃ良かったとは思わない。
勝手な考えだけど、私なら家族のピンチを知らない方が良かったなんて、絶対に思わないから。
まぁ、言い方は考えた方が良かったかもだけど。
「━━━それで、緑谷。どうするつもりだ」
誰よりも先に轟が尋ねてきた。
顔はいつもと同じ無表情だけど、その目には何処と無くやる気を感じる。
「ふむ、脱出が難しい以上、大人しくしてるのが一番安全かもね。ガチムチから聞いた話が本当なら、ヴィランには明確な目的がありそうだし、案外それを達成すれば大人しく帰るかも?」
轟は何処か不服そうだけど、百は「ありえますわね」と神妙な顔で頷く。
「ここまで綿密に計画を練ったヴィラン達です。不測の事態は望んでいないでしょう。下手に人質に手を出せば、引っ込みがつかなくなる事を知っている筈です。今回のレセプションパーティーには、財界に名の通ってる方もいらっしゃいますから・・・・」
そんなパーティーに招待されたの、私?
絶対マナー違反で追い出されるじゃんよ。
ナイフ左だっけ?
「えぇっーーと。じゃぁ、やっぱり、ニコちゃんの言う通り、大人しくしてた方がええかもって事?」
「そうですね。緑谷さんの見立て通り、明確に目的をもっている集団であれば、下手にヴィランを刺激することは悪手になるかも知れません。本来出ない負傷者すら出る可能性があります」
「八百万、俺らはヒーローを目指してる・・・・それなのに━━━━」
「轟さんの気持ちは分かりますが、ここは一旦冷静になって下さい。私達はまだヒーロー資格もない━━━」
言い争いになりそうだった二人の会話を遮るよう、眼鏡の手が二人の間に滑り込まされた。
「そこまでだ、轟くん!!ここはオールマイトの指示に従い、緑谷くんの案通り大人しく身を潜めるべきだ!!これは訓練ではないんだぞ!!下手に動けば人質はおろか、己自身の命を落とす可能性すらある!出来るだけ安全な場所を探し、避難するべきだ!!」
眼鏡の言葉に上鳴とブドウが「そうだ」と乗っかった。
「オールマイトだって捕まえるヴィランだぞ!オイラたちにどうこう出来る訳ねーだろぉ!!」
「飯田と峰田の言う通りだと思うぜ?ほら、別に直接救出とかしなくてもよ、何とか外部と連絡をとって救援を要請するとかさ?俺馬鹿だからわかんねーけど、他にも色々方法あるだろ。俺達が出来ること」
少しずつ、流れが避難へ傾き始める。
それは状況を考えればおかしくはないし、恥ずかしい話でもない。皆も別に助けに行きたくない訳ではないだろう。ここにいる全員・・・あっ、いや、私以外ちゃんとヒーローを目指してる。志があったり、誇りがあったりする筈なのだ。逃げるのはきっと本意ではない。
それでも直接的な行動を回避しようとするのは、皆自分の力量を正しく理解しているからこそだ。勇敢さと蛮勇は違うもの。
「私も、避難する事を推します」
皆が次の言葉を探してると、不意に絞り出すような声が聞こえた。皆視線が声の主へと集まり、それに応えるよう俯いていたメリッサの顔があがる。
顔色は依然として良くないけど、狼狽えてただけのさっきとは少しだけ違う雰囲気があった。
「さっき言ったように、脱出は難しいわ。だから、身を隠した方が良いと思う。このタワーには幾つかセーフルームがあるの。そこは通常のセキュリティから独立してるから、ヴィランに捕捉される可能性は低い筈よ。仮に発見されてもかなり頑丈なシェルターでもあるし・・・助けが来るまで待つことは可能だと思う。もしかしたら緊急時の連絡手段として、有線の通信機器があるかも知れないし・・・私が案内するわ。だから避難を」
メリッサの口から吐き出されたそれ。
その言葉の意味が分からない奴はここにいないだろう。
誰よりも駆け出したいメリッサが、そう言ってしまえば反論は出しづらい。
私としては意見が半分に割れた時点で、ガチムチの案を採用して大人しくしてよーぜコースを選らぶ気満々なんだけど・・・・でもねぇ?
「━━━━━耳郎ちゃん」
一声掛けると、それまで何処か遠くを見てた耳郎ちゃんがこっちを見た。まだ迷いは見えるけど、こっちもこっちで答えはもう決まってるっぽい感じがする。
「ロックに言っちゃいなよ、ゆー」
「・・・ははっ、アホ。でも、ありがと」
私から皆へ顔を向けた耳郎ちゃんは額に汗を浮かべながら、何処か緊張した様子でゆっくり口を開いた。
「ウチは、助けたい」
全員がその声に止まった。
「オールマイトの声を聞こうとした時・・・・聞こえたんだよ、声が。下にいる人達の声がさ。皆、すごく怖がってる。すごく不安なんだよ。状況なんて分かってなくて、皆怖くて不安でたまらないんだよ。━━━ちゃんと分かってる。何もしない方が良いかも知れない事もさ。ヒーロー資格のないウチらが、余計な事しない方が良いのもさ。でも、ウチは、あの声を、聞かなかった事にしたくない・・・・!」
そう言って耳郎ちゃんは私の目を見た。
目尻にうっすら涙が浮かんでて格好はついてないけど、それは力強くてクールな瞳だった。
「緑谷、お願い!自分の我が儘なのに、ごめんっ、ウチ何も思いつかないんだ・・・・だから━━━」
「仕方ないにゃぁー耳郎太ちゃんはー。良いよー、ふたえもん協力しちゃうよぉー」
「━━━緑谷、ありが・・・いや、耳郎太ちゃんって誰!?」
そこまでお願いされたなら仕方ない。
涙が引っ込んだ耳郎ちゃんを横目によっこいしょーっと立ち上がると、轟が何も言わずに続いた。
やる気ありすぎでしょ。
「みっ、緑谷くん!?なっ、んでっ、えっ、君は避難をする事に決めたんじゃないのかい!?」
「決めてはないけど?そういう選択もあるよねって話。そもそも、あいつらがどれだけ信用出来るんだか知れたもんじゃないし。何より主導権握らせっぱなしは、やっぱり不味いと思うしね」
「それは、そうだろうが・・・」
元より待ってるだけなんてアレだし。
「他にも食べ物の恨みがあるし、折角のバカンスめちゃくちゃにされた憎しみがあるし、それに勝算がない訳でもないし。━━━あとは、そうだなぁーー・・・・無茶しようとする友達は、放っておいてあげない派だし?」
「━━━━っ!それは・・・狡いぞ、緑谷くん」
眼鏡は顔を悔しそうに歪める。
狡い自覚はあるので舌だけ見せておいた。
耳に痛かろう、ははは。
「緑谷さん。勝算について、お話を聞いても?」
「ニコちゃん、何かあるなら聞かせて」
おっと勝ちの目があるかもと聞いたらこれだ。
流石、私につぐ乙女力の持ち主達。切り替え早いね。いいよ、いいよ。現金なこと大変結構、こけこっこーだよ。そうこなくっちゃ。
「あっ、上鳴とブドウは来ても来なくても良いよ」
「そういう言い方する!?行くっつーの!ここで逃げたら流石にダサすぎだろーがよ!峰田!ここは一丁、格好良いところメリッサさんに見せてやろうぜ!!」
「マジかよ、上鳴!?あ~~~っ、くそ!やけくそだぁ、このやろう!!上等だぜ!!ヴィランなんてボッコボコにして、黒団子にしてやるよ!!」
おや、なんかこっちもやる気になってる。
何故に?いや、来てくれるなら・・・まぁ、頭数に数えるけどさ。死ぬほどこき使ってやろ。
皆の姿にメリッサが目を丸くしてた。先程の悲壮な顔なんて何処か飛んでったみたいで、凄い間の抜けたポカン顔してる。
「━━━ね、私も驚きだよ。ちょっと案があるって言ったらこれだよ?皆してなんなんだろうね?せめて聞いてからでしょ。まったく」
「ミドリヤさん・・・」
「ちっ、ちっ、ちっー緑谷さんじゃーないんだなぁ」
私は結われた髪をほどき、いつものように一つにまとめる。軽く頭を振って具合を確めれば、やっぱり一番しっくりきた。
メリッサから借りたゴーグルもつければ、少しだけパーツは足りないけど戦闘準備は整う。
「ここからの私は緑谷双虎じゃない。ちょっとやんちゃな見知らぬ通りすがり、お節介番長ニコさんと呼ぶと良い」
「いや、なんなんそれ」
冷たいお茶子のツッコミが入るやいなや、皆して色々ツッコミが入ってきた。やれ番長感がないだとか、いつもの緑谷なんだけどとか、そもそも番長ってなんですか?とか、やっぱりその髪型可愛いなとか、爆豪が番長じゃないの?とか━━━━うるさぁぁぁぁい!私が番長だぁ!!かっちゃんでは断じてない!!あんなのと一緒にするな!私の人望舐めるなよぉ!!あと、轟!急に褒めるな!普通に照れる!!
ツッコミにツッコミ返してると、吹き出す音が聞こえた。視線を向ければメリッサが困ったように笑ってる。
「ごめん、なさい。あのね、ミドリヤさんに・・・・ニコさんに、お願いしたい事があるの」
「はいよ・・・といいたい所だけど、お願いはこっちからして良い?」
「えっ?」
私はメリッサの目を見ながら掌を差し出した。
少しだけ驚いた顔をしたけど、言いたい事は伝わったみたいだ。もう言う必要はないかもだけど・・・・一応伝えておく。
「私の作戦にはさ、どうしてもメリッサの知識が必要なの。悪いんだけど、力貸してくれる?メリッサパパの事は、今の私にはどうにも出来ないけど、メリッサの事は絶対に守るから━━━━あそこの童貞肉壁コンビが」
「緑谷!?聞こえるんだけど!?」
「オイラ達に何させる気だよ!?」
「命をとして・・・・」
「「勝手に命とされた!?」」
喚く二人を尻目に、メリッサは掌を握り返してきた。
「ごめんなさい、ニコさん。お願いは聞けないわ。━━━━私は、私の意思で行くの。手伝わせて」
「・・・メリッサって割と頑固系?」
「ふふっ、今更気づいたの?そうじゃなきゃ、アイテム開発なんてやってられないわよ」
「あー納得した」
それから皆に作戦を伝え、私達は行動を始めた。
私のローストビーフを・・・・いや、バイキングを叩き潰してくれた、その借りを返す為に。
えっ、それは私だけって?マジか。
皆普段からさぞ美味しいものを頂いているんですね!そうですか、そうですか!・・・・お茶子は私の味方だもんねー!ねー!お茶子ぉ!こっち見ろぉー!ダイエット方法は食わないって言った、あのハングリーさを滲ませながらこっち見ろぉ!!
ふぅ、てか、かっちゃん何処にいるんだろ。
ここに来てる気はするんだけど・・・・変な所でしゃしゃり出てこなければ良いけど(フラグ建設)。