私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
シリアル「基本、ここにはないで」
ギャグ「せやな」
アオハル「せやせや」
レセプション会場を占拠されて、一体どれ程の時間が経ったのか。会場は未だ銃器を手にした男達が当たり前のように闊歩し、狂気と恐怖の入り交じった沈黙に支配され続けていた。
マッスルフォームを維持し続けているせいか、体が異様なほどに重く、軋むような痛みが走り始めた。━━━だがそれは大して苦ではない。己の不甲斐なさにより沸き上がる止めどない怒り、それに呼応するように動き出そうとする体を押さえ付ける方が、ずっと辛く難しかった。
人質がいなければ。
セキュリティのコントロールを奪われてなければ。
言い訳は幾らでも浮かんでくるが、肝心な打開策は一つとして浮かんでこなかった。ヒーローを名乗っておきながら、なんと情けない事か。
まんまと友を連れ去られた。怯え震える市民に、悔しさに顔をしかめる仲間達に、手を差し伸べるどころか声すら掛けられない。辛うじて難を逃れた緑谷少女達に、無責任にも逃げろと伝える事しか出来ない。
何が、ヒーローか。
何の為に、これまで積み重ねてきたのか。
「━━━━!」
不意に目の前の床に赤い光の点がついた。
周りに悟られぬよう視線を天井へと向ければ、逃げた筈の緑谷少女の姿がある。なんか凄い手話的なものを見せて来るが、驚くほど意味が分からない。ヒーロー活動の一環として、完璧でないにしろ多少手話くらいは読み取れるつもりなのだが・・・・。
「緑谷少女、君、手話出来ないだろう・・・」
私の困惑の篭った呟きが伝わったのか、緑谷少女がヤレヤレといった様子で肩を竦めた。
いや、ヤレヤレはこっちの台詞なのだが。
緑谷少女は何かを考える素振り見せた後、何かを思い付いたように手をポンっと叩く。嫌な予感を覚えつつ眺めていると、徐に天井に向かって指差した。
次に両手を前に持ってきてカタカタと動かす。
何となくキーボードを叩いてる様子に見え、確認の為「パソコンか、それに関わることかい?」と呟いてみればそうだと言わんばかりに頷いてくる。
それからも身振り手振りで状況を伝えられ、頭を悩ませながら何とか理解したのだが・・・・その内容は決して喜ばしいものではなかった。
どうやら緑谷少女は上階にある管制室へ行き、警備システムのコントロールを取り返すつもりのようだったのだ。敵はただのチンピラとは訳が違う、統率のとれた武装集団。ヴィランというよりは兵士に近い者達だ。その危険性は言うまでもない。
声を上げようとしたが、敵の見回りが側にきてしまいそれも出来ない。必死に目で訴え掛けたが、緑谷少女は聞いてませんとアピールのつもりか、ツーンとそっぽを向いてしまう・・・・あの子は本当にっ!もう!
やきもきしてると、緑谷少女の隣にメリッサまで現れた。今度は心臓が口から出るかと思うほど、本当にびっくりした。一緒にいる可能性は考えていたが、まさかそこにいるとは思わなかったのだ。
見回りが遠ざかった所で、無茶をしないよう声を掛けようとして━━━━そのメリッサの真剣な眼差しに言葉がつまった。先程まで少しふざけていた節のある緑谷少女の瞳にも、強い決意の色が宿っている。
それは言葉より雄弁に、彼女達の覚悟が伝わってきた。
どうしてもか、と思いを込めて視線を向けた。
けれど伝えられるそれは変わらない。
それから間もなく、二人は姿を引っ込めてしまった。緑谷少女の茶目っ気たっぷりなウィンク一つ残して。
見通しのよくなった吹き抜けを見つめ思うのは、彼女達の瞳に宿った小さな希望の灯火。酷く弱く、頼りなく、けれど灼熱に燃える熱い瞳。
幼かったメリッサの姿が頭を過る。
デイヴのような『ヒーローを助ける、ヒーローになりたい』のだと笑う幼い彼女のそれが。
そしてヒーローに否定的な言葉を吐きながら、いつも誰よりも先に誰かの為に走り出す、大切な者の為に命を懸けられる、大馬鹿者の可愛い生徒の姿も。
教師としてヒーローとして、彼女達を褒める訳にはいかない━━━━━━だが、今の私に何が言えるというのか。私はまだ、何もしていない。ならば、偉そうに彼女達に説教するのは、私が私の為すべき事を果たし終わってからだ。
そうだろう緑谷少女、メリッサ・・・・!
彼女達が覚悟を決め戦うのであれば、私も泣き言はいってはられない。信じよう、耐え抜いて見せよう。
君達が活路を開く、その時まで。
・・・・そう言えば、近くに彼の姿は見えなかったのだが・・・いるんだよな?頼んだ筈だからいるとは思うのだけど。そもそも彼が彼女の側を離れるなんて・・・なんだろう、違和感が。あっ、そういえば、彼女随分と自由に・・・もしかして、いない・・・?はっ!!そう言えば、レセプションパーティーが始まる前、騒がしくなる前に顔を出すとかなんとか言って━━━そう言えば彼来てないな!!忘れてた!!えっ、なに、どこかで迷ってたりするの!?嘘っ!?爆豪少年!?
ばっ、爆豪少年っ!私は、なんて大変なことを!!
申し訳ない!頼む、一刻も早く合流を!!
何かやらかす前に!!!
◇◇◇
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
背後から聞こえる悲鳴を無視しながら、私は次の目標に手を翳す。階段の先にある壁に狙いをすまし、手に渾身の力を込めて一気に引っこ抜けば、体が前方へとかっ飛ぶ。
ぶつかる前に次の階段上に見える壁に狙いをつけ、同じ要領で体を引っこ抜き更にかっ飛ぶ。
また後ろから悲鳴が聞こえてくる。
「ちょっと、五月蝿いんですけど!?見つかったらどーすんの!騒ぎたいなら、明日ジェットコースターに幾らでも付き合うから止めてくれません!?」
「ごめっ、ごめんなさっ、い!ニコさん!?でもっ、きゃぁ!?ひゃぁ!?」
「うひょぉぉぉぉぉぉ!!オイラきてるぅ━━━っぐへ!?あっぎゃぃ、頭っ、あっ、ちょ!!ぐがががががががが」
少しだけ後ろを見れば、私から伸びたヒモの先で数珠繋がりに引き回される皆の姿と、轟の氷の滑り台を楽しそうに逆スライダーしてるメリッサの姿が見えた。どうしてそうなったのか、ブドウはメリッサからヘッドロックかまされてる。
「轟っ!!お茶子っ!!まだいける!?」
視線を前へと戻し、体を引っこ抜きながら聞く。
私の直ぐ後ろで後続への氷のスライダー作りつつ引き回されてる轟から「問題ねぇ!進め!」と言われ、自分を含めた全員の重力を消しているお茶子からも多少苦しげではあったけど「大丈夫!」とのお言葉を貰った。
けれど、轟もお茶子も持久力はあまり長くない。特にお茶子はもう限界だろう。訓練の様子からそれは理解してる。一番後ろで逆スラをコントロールしてる百も限界だろうし、この先交戦する可能性がある以上無理は禁物だ。
切り良いところで休憩にしようかと考えてると、背後から耳郎ちゃんの「行き止まり!!音が籠ってる!!」という叫び声が響いてくる。
声に従い上階をよくよく見れば、がっつりシャッターが降りていた。楽しい電車ごっこも幕引きという事で、引き寄せる個性で体にブレーキを掛け止める。どれだけ速度が出ていても、重さ自体がなければそこまで負荷もない。余裕を持って止められる。
轟は自力で何とかなりそうなので放って置き、メリッサから順番に停止させていく。なんかウォータースライダーの係員の気分。立ち位置的に逆だけど。最後尾の百を回収した所でお茶子が重力を解除させ、出発してから初めて地面に降り立つ。やっぱり地面だよね。
「━━━━━はぁぁぁぁぁ!!死ぬかと思ったぁぁぁぁ!!緑谷はアホだアホだとは思ってたけど、ここまでアホだとは思わなかったわ!!」
上鳴が情けない声をあげながら四つん這いになると、似たり寄ったりの悲鳴が皆から上がった。お茶子はやっぱり無理がたたっていたのか、踊場の隅っこであられもない姿になってる。百と耳郎ちゃんが全力で隠してくれてる。優しみが深いな。
「ニコ、さん・・・凄いわね。皆にっ、はっ、はっ、い、色々聞いてたけど・・・あんな、っぷ、凄いわ」
「メリッサもお茶子んとこ行ってくれば?」
「あ、ありがと・・・うっ」
気絶したブドウをそっと床に捨てていったメリッサは、何も言わずお茶子の隣に行った。何をしに行ったのかって?聞くんじゃないよ。野暮ってものだよ。お花摘み的な、あれだよ。うん。
「━━━それはそうと、轟は大丈夫?」
チラッと様子を見れば、なんか湯気がもやっと出てた。
熱くなるやつで体温調整してるみたい。あれだけ使いたがらなかったのに、人間変われば変わるもんだ。
「俺の方は問題ねぇ、少し冷えただけだ。それより緑谷、お前の方こそ大丈夫か?」
「お茶子のお陰で負担なかったしねー。でも、流石にちょっと疲れたかな。ずっと集中してたからさ」
「肩貸すか?」
「そこまではいらなーい。のーせんきゅー」
切れていた呼吸を整え、作戦の内容をもう一度頭の中で復唱する。折角80階も駆け上がってきたのだ。ミスはしたくない。
私が立てた作戦はそんなに難しくない。
早い話がセキュリティの甘い場所を通って最上階へいき、テロリスト仕様になってるセキュリティシステムを再起動させる。たったそれだけだ。
まぁ本来、それをやるのが至難だったりする訳なんだけど・・・・まぁ、今回は敵がポカしてるので、そこまで難しくもないんだけどね。
メリッサから色々と話を聞いて分かったけど、テロリスト共はかなり甘い見通しでここに来たことが分かった。事前情報は殆んどなかったのか、監視システムはコントロール下においても、その扱い方がまるで分かってないように思う。私達が簡単にガチムチ達を見下ろせる場所につけたのなんて良い証拠だ。
このタワーのセキュリティは大きく分けて二つ。
一つは監視カメラやセンサーによる固定型のセキュリティ。もう一つは各種センサーと対人兵器を内蔵したロボットによる移動型のセキュリティだ。
本来はこの二つは組み込まれたコンピューター制御の下、複雑に連動して稼働してる筈だ。メリッサ曰く、ほぼ人の手が必要ない、自立稼働する完成されたシステムなんだとか。
そしてそんなセキュリティのレベルは世界を探しても最高峰に位置する高レベル。ドキュメンタリー番組で見たタルタロス通りのセキュリティだと言うなら、それこそアリんこ一匹通さぬ程の精度がある筈だ。
なら、どうして今私達が無事で暴れられるのかと言えば、それはもうテロリスト達がアホなんだとしか言えない。人質を確保する為にロボットを多く使ってしまったせいで、必要な場所に必要な警備がいなくなってしまってる。非常階段なんて、本当になんもなかった。
下手にコントロール出来てしまったせいで、逆に隙だらけになったよ。みたいな?はははっ、笑えないねぇ。
「でもなぁ・・・」
不安材料があるのだ。
テロリスト共がこうもポカする連中だとすると、これ確実に手引きした奴等がいる事になる。だってそうだろう?侵入者であるテロリスト共、コントロールするセキュリティシステムへの認識が甘すぎる。こんな事では、一番セキュリティが厳しい筈の管制室へ辿り着ける訳ないし、コントロールなんて夢のまた夢だ。
ガチムチから連れていかれた人の事は聞いてる。
一人はメリッサパパ、もう一人はメリッサパパの同僚ジョン・・・マイケルだったかな?いやジョンだな。電波が死んでる以上、テレビ電話で愉快な人質紹介はしないだろう。そもそもテロリスト共には時間がない。連れていくには、それ相応の理由がある。
どちらかに何かをやらせる為に、脅かす為に人質が必要だったのか?いや、それはもう足りてる。都市全ての人が人質だ。
メリッサパパかもしくはジョンの身柄そのものが必要で、片方は理由を掴ませない為の囮か?いや、それなら別の人を選んだ方が良い。二人は同僚で、同じ研究に取り組んでたらしいし。
それならどうしてか。
「・・・・・そうじゃなきゃ良いけどね」
「何かあったのか、緑谷?」
「うぅん。こっちの話」
暫しの休憩が終え出発しようとした頃、けたたましく爆音が鳴った。何事かと警戒したけど、周辺で何かあった様子はない。こんな時の索敵系女子!!っと耳郎ちゃんを見れば、周囲の音を拾っていた耳郎ちゃんが「うわっ」と声をあげる。
「な、何かあったのかよ・・・?」
「オイラもう分かったぜ」
「奇遇だな、僕もだ」
上鳴達のぼやきに、女子ーズも顔を見合わせる。
そして何もいわず肩を竦めた。
「ニコさん、もしかして・・・」
皆に続いたメリッサの呟き。
私も果てしなく嫌な予感がする。
「爆豪か?」
轟がいつもの無表情で呟くと、耳郎ちゃんは苦笑いを浮かべて頷いた。なんか知らないけど「めちゃ怒ってる」らしい。
はぁ、まったく。人が隠密してる時に、なんでそういう事するかね?かっちゃんは本当、何処まで行ってもかっちゃんな!人に迷惑掛ける事しかしない!まったく!幼馴染として恥ずかしい限りだよ!!えっ?ブーメラン?なんの話なん?