私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
かっちゃんを囮にして登りに登った180階。
一回、室外の連絡通路通るよ!というメリッサの言葉を受け、ちょっぴり夜景を期待していた私の視界に映ったのは━━━警戒音を鳴らしながら津波の如く押し寄せるモノアイの群れであった。そう、皆の警備ロボである。
「異議ありぃ!!」
ビシッと警備ロボへ指を突きつけると「やっとる場合ちゃうから!」とお茶子にマジツッコミされた。言わずにいれなかったのぉ!許してYO!
まぁ、予想通りではあるんだけど。
「ごめんっ!緑谷!見逃した!」
索敵を任せていた耳郎ちゃんが謝罪を口にした。
顔には明確な焦りと申し訳なさが滲んでる。
私としては監視カメラの僅かな稼働音や監視ロボの移動音を聞いて、ここまで回避し続けられたこと自体出来すぎだと思ってるんだけどね?連絡通路の状態聞いた時に、どうやっても無理ゲーとか思ったもん。風力発電機の爆音に加えて吹きっさらしじゃ風の音だって馬鹿にならないし、サポートアイテムなしの耳郎ちゃんじゃぁねぇ。・・・でも耳郎ちゃんは納得してないらしい。耳郎ちゃんパネェぜぇ。
「OKOK、寧ろ良くここまでスルー出来たもんだよ。上出来ぃー上出来ぃー。んじゃ、轟達よろしくぅ!」
「ああ、下がってろ」
そう言って格好良くネクタイを緩めた轟は、私の前へと踏み出す。続いて百や眼鏡、引き摺られるようにブドウも。
取り敢えずふざけるのを止めて戦闘班である四人を前にシフト。耳郎ちゃんと上鳴で周囲の様子を再確認。お茶子はメリッサの護衛に回ってもらう。
えっ、私は?
私は、超がついちゃう程の大天才だから、出来ることを出来るだけするんだよ。臨機応変にってことで。
轟達が警備ロボと衝突しはじめた音を聞きながら、メリッサから借りてる多機能ゴーグルを掛け電源を入れる。
最大倍率20倍の可変式電子マルチゴーグルは、熱線暗視に微光暗視も可能な優れもの。インターネットに繋いでいればゴーグルで捉えたモノについて即座に調べられる検索エンジンも搭載し、GPSナビも当然搭載。スマホと同期させれば電話もメールも出来て、ラジオとテレビが利用出来ちゃって、ついでにアプリゲームも出来ちゃう、凄いゴーグルなのだ。━━━まぁ、機能フル活用すると連続使用時間は十分と少し短いのが欠点と言えば欠点だけど。いやでも、待機だけなら三時間持つし。え、三時間しか?メリッサも失敗作だって嘆いてたからなぁー。
まぁ、欠点はこの際おいておこうか。
このゴーグルにはまだ便利機能がついている。
小さな起動音と共にゴーグルのレンズに様々なマークや数値が並ぶ。視線でメニュー画面を操作していけば『ターゲッティングシステム:ハウンド』の文字が浮かんだ。そのままシステム起動を承認すれば、視界に映っている目標に対して一斉に緑枠のロックオンサインが現れ、目標との正確な距離と高低差の数値も浮かぶ。
「━━━━っふん!」
ロックオンした警備ロボ達をフルスロットルの力で引き合わせクラッシュさせていく。全壊とはいかなかったけど、ボディーを凹ませたロボ達は挙動が明らかに鈍くなった。位置の正確性のお陰か、いつも以上に力が籠ってる気がする。
轟達の動きを見ながら、手に余りそうな警備ロボを確実に処理していく。ちょっと整理してやれば、優秀なヒーローの卵達は警備ロボを次々と蹴散らしてくれる。
楽で良いね、これ。
「緑谷、この階の警備ロボは多分これで終わり!上階はバタバタしてるけど、恐らく人しかいない!下の階が馬鹿みたいに煩いから、直ぐに警備ロボが押し寄せてくると思う!」
「緑谷ぁ!見てる感じだと最上階付近何も━━━!待て待て!何か飛んで来てる!海の方!ほら!ズームしろ!ズーーーム!!」
耳郎ちゃんはナイス!━━━で、馬鹿みなり!ここはI・アイランドのど真ん中にあるタワーだよ!?360度全部海だ!!馬鹿!!ばぁぁぁぁか!!本当、ばぁぁぁぁぁぁぁぁか!!
サポートを一旦止め、馬鹿の視線を追うと確かに夜空に迷彩柄のヘリが飛んでいる姿が見えた。武装こそ見えないけど、明らかに軍用の物に見える。
「馬鹿みなり!!例の必殺技だ!!ヘリを打ち落とせ!サンダーボルトエレクトリックレールガンZEROキャノン!!」
「ないない!そんな技ない!━━ていうか、爆豪のネーミングセンスよく馬鹿にしてるけど、緑谷も大概だからな!?」
ちっ!本当使えないやっちゃで!必殺技くらい、パッと撃てよ!切羽詰まってんの!こっちは!!
それにしてもどうするか。
逃走ルートであるヘリが来た以上、向こうの計画はいよいよ仕上げの段階だ。下手したら全部終わったのかも知れない。もう悠長な事はしてられない。計画が済んでしまえば人質に価値が無くなる。━━━もし、メリッサパパが純粋に人質として連れていかれたのなら、最悪が起こりうる可能性は高い。そうでなくても技術目的での誘拐もありうる。
「━━━━轟!ここ任せて良い!?」
そう声を張り上げると、轟は一瞬こっちを見て顔をしかめる。けれど、直ぐ警備ロボ達と向き直り、力強く最上階を指差した。
「無理だけはするな!直ぐに追い付く、行け!」
「話分かるぅー!行ってきます!」
最後っぺに手当たり次第、警備ロボ達をフルスロットルで引き合わせぶつけとく。壊れはしないけど、皆に多少の余裕は与えられるだろう。
そのままお茶子達の方へ向かうと、少し呆れたような顔でお茶子が掌を見せてきたので、素直にタッチしといた。お茶子も慣れたもんだなぁ。私が何をしたいか分かってるみたい。
「タイミングはニコちゃんに任せてええの?」
「ええで」
「ふわっと真似せんでよ。もうー」
私とお茶子のやり取りにメリッサが目を丸くしてる。
私はそんなメリッサの手を取り、お茶子の掌に触れさせた。私とメリッサの体がフワッとする。
「あっ、ニコさん!?何を・・・!?」
「鳥になってみようかなって?」
すっと、メリッサのアイディアを元に目指していた190階に位置する非常階段の入り口を指差せば、見るからに顔を青くさせた。分かりやすい。そうだよね、そういう反応になるよね。そこまで道ないもんね。
「しっかり掴まっててねぇー、うっかり離しちゃうとお星さまになっちゃうぞ☆」
「えぇ!?まっ、待って、まだ心の準備が━━━━━きやぁぁぁぁぁぁ!?」
メリッサの腕をがっつり掴んだまま、引き寄せる個性で体を思い切り引っこ抜く。ビル風に煽られて予想以上に流される空の旅路。腕にしがみつくメリッサはもう半泣きである。私でもちょっとビビるくらいだから、仕方ないけどね。ミスったら、マジお星さまになっちゃうなぁ。あははは、こわっ。
空間を対象に体を引き寄せ、飛ぶ方向を調整。
尚且つ加速し、警備ロボ達の茶々を振り切ってく。
十秒もしない内に非常口付近の壁が個性の射程内に入る。すかさず壁を対象に体を引き寄せつつ、着陸の為に減速も開始。一人なら慣れてるから緊急停止上等だけど、運動不足してそうなメリッサがいるからね。あくまで慎重に。
着陸と同時にお茶子へ合図を出せば体から軽さが消え、懐かしの地面が足裏に触れる。メリッサはヒールなので踵がカッツーンってなって悶絶した。ごめん、そこまで気を使えなかったわ。
「まぁ、なんだ、行こか」
「そ、それはそうなんだけど・・・第一声くらい心配してくれると思ってたわ」
「えぇ、じゃぁ、あーゆーおーけー?」
「・・・Don’t worry 心配してくれてありがとっ!」
ある意味元気になったメリッサと一緒に非常口を潜る。
そしてまた目にする非常階段。もう、いい加減見飽きた。あと10階もあるとかうんざりする。エレベーターかエスカレーター使いたい。
もう!完璧なプロポーション保ってんのに、太ももだけパンパンになったらどうしてくれるの!いや、登るけども!?気合いと根性と不屈の乙女力で登るけども!?
「━━━━っメリッサ、ストップ!!」
「ふぇ!?」
192階の踊場に踏み込んだ瞬間、嫌な気配を感じてメリッサを停止させる。メリッサが足を止めた直後、上階の手摺を越えて人影が降りてきた。
鋭利な光を携えた、人影が。
「━━ふっ!!」
勘に従って壁際へと体を引っこ抜く。
振り下ろされた光はスカートの端を切り裂き、それまで私のいた所に突き立てられた。金属の床に容易く突き刺さる様子から、相当に鋭いのが見てとれる。個性か武器かは不明だけど。
まぁ、何にせよ、一旦距離をとるに限る。
私が張り付いてる反対の壁に向かってその人影を引っこ抜く。一瞬体が浮き上がるけど、直ぐに両手から鋭利な何かを地面に突き刺し耐えてきた。反応があまりに早い。相当場数を踏んでる。
けれど、それは私も同じだ。
アホが耐えている間に溜めておいた僅かな呼吸を、一気に炎として吐き出す。吐き出したそれは火力自体低いけど相手を驚かすには十分だったらしく、その人影にバックステップさせた。
ようやく一息ついて人影をまじまじとみれば、何処か見覚えのあるドジっ子の姿がそこにあった。赤みがかった髪、目の下の変な模様、生意気そうな眼差し。
そして━━━━
「ソキル!」
「馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ!クソガキ!!」
━━━そうこの悪態!短気さ!チョロさ!良いよね、弄りがいの塊だよ。ソキルくんは。
「じゃ、そきるんにしとく?」
「誰がそきるんだ!!こらぁ!!てめぇ舐めた事言ってっとマジで殺すぞ!!」
「いやーあはは。ソキルくんレセプション会場にいないから、何処に行ったのかと思ってたんだよー。あんまりの間抜けっぷりに、リーダーにハブられたかと思って心配してたんだけど・・・良かったね!仲間に入れて貰えて!」
「こっ、このクソガキがぁ!!」
顔を真っ赤にしたソキルくんは、その図体に似合わず一瞬で間合いを詰めてきた。個性を使用したようには見えない。恐らく身体能力による移動だ。純粋な身体能力の高さは私より上かも知れない。
「━━━シッ!!」
突き出される右をかわし、カウンターで横っ腹へ左蹴りぶちこむ。右腕の陰から狙い打ちした、引き寄せる個性で加速させた必殺の一撃。手応えならぬ足応えはあったけど、ソキルくんの顔色は殆んど変わらない。
「良い動きしやがるな━━━が、軽りぃ。所詮ガキか」
本人からも自己申告があった。
そんなに効いてないらしい。
だよねー。
返されるように放たれた蹴りをかわし、追撃に放たれた腕から生えてるっぽい刃をかわし、大人げないタックルもラリアットも組技もかわす。攻撃への回転が早くてどうにも手が出しずらい。調子づかせない為にも、カウンターぶちこんでおきたい所だけど、どうにも最初の一発以来警戒されてしまって中々隙がない。防戦一方ってやつだ。まぁ、避けるのに集中してれば余裕だけど・・・でも、勝てもしないからなぁ。
しゃーない、試してみるか。
ソキルくんを天井へと引っこ抜く。
咄嗟に床に刃を突き刺し耐えようとしたけど、それも向かう先が上なら意味がない。床から斜め後ろに天井へ向かって飛び、背中をしこたま強く打ち付けた。
苦悶の表情を浮かべるソキルくんを見ながら、私は息を吸い込み頭の天辺に一旦あげておいたゴーグルを再装着、そのまま電源を入れた。そしてレンズに映るメニューを操作、熱線暗視を開始する。
溜め込んだ炎を一気に吹き出す。
火力はさっきより上だけど、それでも目の前のソキルくんを仕留めるのは難しいだろう。青色に染まるまで溜め込めば話は別だけど、流石にそこまで時間は与えてくれるほど間抜けでもないと思う。━━━だから、ちょっと工夫だ。
吐き出した炎を対象に引き寄せる個性を発動。相手は勿論、皆の人気者ツンデレチョロいんソキルくん。
熱を視認しながらの個性発動は思ってた以上にやり易く、拡散していく筈の炎が急速に集まり始める。
引き寄せる力の出力をあげれば、炎はソキルくんへと加速しながら一本の熱線へと変わった。
「なっ!?お、おいっ、てめぇ!?」
悲鳴のような声に視線を向ければ、落ちてくるソキルくんの姿が見える。表情は分からない。今レンズ越しに見えるのは、温度によってカラフルに色づけされた何とも言えない景色だから。
ニコちゃん108の必殺技。
ニコちゃんブレス派生『ニコちゃん砲』。
━━━━弱火Ver.!!。
流星のようなそれは、ひりつくような熱風を周囲へ撒き散らしながら、白の軌跡を残しつつ宙を走る。
迷いなく真っ直ぐに。
「・・・少しでもニコさんの役に立てればって、その、ゴーグルをあげたけれど・・・・これは・・・」
「うわぁ・・・・」
ニコちゃん砲をぶっぱなして少し。
私とメリッサは髪の毛をチリチリに縮れさせ白目を剥き泡を吹き横になったまま動かないソキルと、鋼鉄の壁にぽっかり空いた大きくて綺麗な穴に呆けていた。
嫌な予感がして直撃する寸前で対象を壁に変えたけど・・・・当てなくて本当良かった。こんなもん喰らったら火葬場すらいかせられないよ。なにこれ、怖い。バターを溶かすようにとまではいかないけど、あっという間に壁に穴が空いてったもんね。なにこれ、ちょう怖い。放った私自身もびびってるんだから、放たれたソキルは本当に怖かったろうな。だからアンモニア臭いのは、許すよ。ソキルん。
この技危な過ぎるので封印かな?と思ってると、メリッサに肩を掴まれた。説教かと思い視線をそこへ向けると、目をキラキラさせたメリッサがいた。
わたし、このめ、しってる。
「ニコさん!凄いわ!!初めて使うサポートアイテムでここまで成果を出せるなんて!!視覚的情報が個性の精度に影響出やすいって聞いたけど、ゴーグル一つでここまで出力があがるなんて!そうよね!?緑谷さん!!これまでは炎を引き寄せるのに相当の集中力が必要だって言ってたけど、今は以前と比べてどれほど変化しているか分かるかしら!?あぁ、ゴーグル使用前の記録をとっていれば分かったかも知れないのに!はっ!そうだわ!視覚的情報以外、例えば聴覚や触覚から受ける情報もあれば━━━いえ!待って!違うわね!対象物への理解も必要だったわね。それなら━━━━」
私は思案し始めたメリッサをそっとおんぶし、何か言われる前に階段を駆け上がった。
えっ?あと8階もある上に、敵が出てくるかも知れないのに、そんなんで体力とか色々大丈夫かって?
大丈夫!メリッサの話全部聞くよりはマシ!!
よぉうし、ふたにゃん頑張っちゃうぞ!!
「━━━と思うの!!ニコさん、どうかしら!?」
「良いんじゃないかなぁ、知らんけど」
メリッサと発目を会わせたら、ビッグバンとか起こるんじゃなかろうか・・・。
階段を駆けあがりながら、私は雄英に巣くう変態発明家を思った。