私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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壁┃・ω・`)トーコーオクレテスマヌ





夫婦喧嘩は犬も食わないっていうけど、親子喧嘩はどうなんだろうね。似たようなもんだけど、犬は食うんだろうか?誰か教えて偉い人ぉー!の巻き

ソキルくんを撃退してから少し。

階段を駆けあがりながら、邪魔してくるヴィランを千切って投げー千切っては投げーを繰り返し、何とか無事に200階へと辿り着いた。目標まであと少し。気合い入れ直してふたこちゃん頑張っちゃうぞー!と意気込んで廊下を駆け出したのは少し前━━━━。

 

「・・・そんな・・・・ウソでしょ、パパ?」

「・・・・」

「ウソだと言って・・・」

「ウソではない・・・!私はっ・・・・!!」

 

━━━━そんな私は今、絶賛修羅場中のど真ん中であります。親子喧嘩なんてチャチなもんじゃないぜ・・・いや、親子喧嘩は親子喧嘩なんだけども。

 

制御ルームへ一直線に向かったまでは良かった。良かったんだよ?敵もいないし。監視カメラも極力ぶっ壊して進めてたし。良かったんだよ。順調。慣れないヒールで走ったせいか、多少足が痛む程度はダメージあったけどそれだけだった・・・・だったんだけど、その途中、開いてる部屋を見つけてしまったのだ。

 

私はね、無視しようとしたの。何はともあれ、セキュリティのコントロールを奪取する方を優先した方が良いと思って。早くガチムチ召喚したいし、ぶっちゃけ楽したかったから。━━━というか、もう当たり臭くて無視したかったの。

だってね、保管室って書いてある部屋ちょっと覗いたらさ、壁を埋め尽くすようにズラリと並ぶ何百もの金庫的な箱とさ、その部屋の中心でコンソールと向き合うメリッサパパの姿があるじゃないの。しかもさ、一心不乱にキーボードを叩くメリッサパパに脅されてる様子は見えないわけさ。監視カメラで監視されてたとしてもだよ?敵も近くにいないし、もう一人のメリッサパパの相棒のジェイソンなんてやる気満々で鼻息フガフガしながらコンソールのモニター眺めてるんだよ?もう、ふぁーってなったよね。もうこれ、そういう事ですやーんってさ。なるじゃんね?

 

だからメリッサを連れてさっさと制御ルーム行きたかったのに・・・・うっかり部屋の中見られちゃったんだよね。そしたらさ、ね。なるじゃん。メリッサはメリッサパパのこと心配してたから。入るじゃん。部屋に。

 

そしたらだよ、そしたらまたタイミング良く、メリッサパパがさ、研究品を取り返す為にヴィランを手引きしたことを仄めかすようなアホな言葉漏らすからさ!もう!馬鹿かって!やるなら完璧目指せよぉって!何処で誰が聞いてるか分からないんだよ?!

 

「こんなのおかしいわ・・・・・私の知ってるパパは、絶対そんなことしない!なのにっ、どうして・・・!どうして・・・・・」

 

そんで今である。

なぁにこれ、お腹痛い。

メリッサ泣かないで。

 

メリッサの背中をポンポンしてると、メリッサの言葉で苦しげに顔を歪めていたメリッサパパが躊躇しながらも、意を決したように口を開いた。

 

「・・・・オールマイトの為だ。お前達は知らないだろうが、彼の個性は、彼の体は、限界を迎えようとしている。このまま放っておけば、彼は・・・・」

 

絞りだされたその言葉は思いに満ちていた。

 

「だが、だがだ、私のこの装置があれば、少なくとも個性を、彼の全盛期に元に戻せる。いや、それ以上の能力を彼に与えることが出来る筈だ・・・!」

 

ジェイソンの持つ研究品の入ったケースを指差しながら、苦しげに、悲しげに、必死に、メリッサパパは語る。そうして吐き出される言葉にきっと嘘はないのだろう。

 

「ナンバーワンヒーローが・・・・・・平和の象徴が・・・・・・再び光を取り戻すことが出来る!また多くの人達を助けることが出来るんだ!!彼は、またヒーローとして戦える!!」

 

きっと、ガチムチの事が大好きなんだろう。

ガチムチの為に、ガチムチの事を思って。

何もかも捨てて、こんなに頑張っているんだろう。

 

「頼む、オールマイトにこの装置を渡させてくれ!作り直している時間はないんだ!そのあとでなら、私はどんな罰でも受ける覚悟も━━━━」

「はい、メリッサパパ。ストップ」

 

でも、そういう事言ってる場合じゃないから。

 

メリッサパパの言葉を遮り、何か言いたそうにしてるメリッサの口を塞ぐ。ちゃっかり逃げようとするジェイソンには引き寄せる個性で地面とキスして貰った。南無。

 

状況が飲み込めずきょとんとする二人をそのままに、引き寄せる個性で引っこ抜き、研究品入りのケースをキャッチする。少し中身を振ってみたけど、ちゃんと梱包されてるのか音はしない。開けてみようとしたけど、電子錠でがっつり閉じてある。ちゃんと入ってるのか中身を確認したい所だけど、まぁ仕方ないか。取り出したばっかみたいだし、大丈夫でしょ。ね。うん。

 

「メリッサパパに確認。茶番に付き合うって言った連中に、何処まで話しました?」

「えっ、茶番・・・いや、そうなんだが。すまないが話す訳にはいかない。君とメリッサをこれ以上巻き込む訳には━━━━」

「あぁ、そういうのは良いんでキリキリ答えて下さい。言わないとアックスボンバーかましますよ」

 

威圧感たっぷりにそう伝えれば、メリッサパパは少しシュンとしながらも話始めた。

 

「・・・計画は彼らと立てた。個人的な話と他の研究テーマを抜けば、殆どの情報は共有してるつもりだが━━━」

「じゃ、今回奪取するつもりだった研究品については?」

「━━━それは、詳しくは話していない。こちらにとって重要である旨は伝えてあるが、その程度の筈だ」

「筈だ?」

 

安心出来ない言葉にメリッサパパを凝視すると、メリッサパパの視線が倒れているジェイソンへと向く。

 

「基本的に、計画についてはサムに任せていた。キャストを集めたのも、そもそも彼だ。私はサムよりセキュリティに詳しかったから、計画案に多少口出しはしたが・・・・」

「じゃぁ、あいつらがこのケースの中身を知ってる可能性はあるんですね?」

「それは・・・サムに聞いてみない事には。ただ、逃亡先の斡旋も彼らがしてくれると聞いてるが」

 

これでほぼ決まりだろう。

メリッサパパは確かに茶番計画に加担してしまったけど首謀者ではない。ついでに言えば、白目剥いて床に転がってるジェイソン・・・・じゃなかったサムも違う。二人は乗せられただけだ。

 

「メリッサパパ黙って聞いて下さい。まず最初に、サムさんは恐らくこのケースの中身についてテロリスト共に話してます。ついでにいえば、研究品を茶番を引き受けた連中に売り渡すつもりです」

「なっ、そんな馬鹿な。彼は━━━━」

「サムさんがどいう人かは知りません。興味もありません。しゃらっぷして下さい。良いですか?リスクと見合わないんですよ。全然。茶番して貰うのに、報酬は幾ら払いましたか?それはI・アイランドを敵に回して、尚も見合う物ですか?茶番とはいえ、起こすのは犯罪ですよ?」

「━━━━━っ!い、いや、だが・・・・」

「茶番を引き受けた連中は、初めから研究品と貴方の身柄を押さえるつもりだった可能性が高い。ここまで協力させてしてしまえば、メリッサパパは逃げるに逃げられないでしょうし。・・・これがどれ程の物か知りませんけど、茶番を引き受けた連中にとって計画を実行するリスクと最低でもトントンになると思ってる筈です。そうでなければここまで派手に動く訳ありません」

 

そう教えるとメリッサパパは目を見開いた。

少し視野が狭くなっていたみたいだけど、元々頭のいい人だ。切っ掛けを与えれば直ぐに理解したっぽい。

 

「それでは、今ここを占拠している彼らは・・・」

「純度百パーセントの犯罪者だと思いますよ?余計な恨みをかわないように、人質を傷つけたりはする気ないみたいですけど」

「わ、私は、なんて事を・・・・!」

「はいはい、そういうのは後でして下さい。分かった所で一緒に逃げますよ。監視カメラオシャカにしてますから、直ぐに連中が来る━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その通りだ、博士」

 

 

背後から高圧的な声が聞こえた直後、乾いた破裂音が耳に響いた。メリッサパパの太ももから赤い飛沫が飛び、苦痛に満ちた声が鼓膜を揺らす。メリッサの悲鳴を聞きながら振り返れば、レセプション会場にいた赤髪の仮面テロリストが銃を構えていた。

 

テロリストが手にした銃に向け引き寄せる個性を発動。フルスロットルで引っこ抜く。彼方に飛んでいく銃を横目に、赤髪を床にキスさせてやろうとしたけど、そっちは上手く出来なかった。僅かに体をびくつかせるだけで終わる。よく見れば床から盛り上がった金属っぽいツルが体に巻き付いて固定してるのが見えた。

 

「・・・速いな、それに力もある。悪くない。流石に名門校のヒーロー候補なだけあるか。下で暴れてるやつも、そうだったか?」

「どうせ素性はバレてんでしょ、確認しなくても良くなくなーい?それでテロリスト先生ー、答え合わせはしてくれないの?」

「はははっ、先生か。俺にそんなくだらないジョーク言いやがったのはお前が初めてだ。お前みたいな馬鹿なら大歓迎だ。百点満点をくれてやるよ、ヒーローの卵・・・!」

 

そう言って赤髪が地面に触れれば、床が生き物のように波打ってきた。床に弾かれるよう宙に投げ出されると、その床が裂け触手みたいに襲ってくる。

 

「っふ!!」

 

引き寄せる個性で体を引っこ抜きかわしていく。

天井も壁も床も個性の射程内、物の配置は大体把握してる。何処に向かってだろうとモーションなしでぶっ飛べる。

触手をかわすと直ぐ別の触手が飛んでくる。

それも一本だけじゃない、何十本も。

けれど、見た目程脅威でもない。何十ものそれも一人が動かしている物だ。コントロールにも限界がある。

 

案の定大雑把な動きをする触手を体を引っこ抜きながらかわし観察を続ける。そうすれば見えてきた。動きの規則性。癖。ムラ。━━━ついでに攻撃出来る隙も。

息を限界まで吸い込み、触手をかわしながら接近。一気に炎の有効射程内まで踏み込む。

そして顔をしかめる赤髪に向かって、溜め込んだそれを一息に吐き出す。

 

ニコちゃん108の必殺技『ニコちゃん砲』。

 

吐き出された青の灼熱が熱風を巻き起こしながら飛ぶ。

彗星のような輝きを放ちながら。

その身に触れる空気を焼き尽くしながら。

 

青の一撃が衝突した瞬間、空気を揺らす爆発音が部屋に鳴り響く。

熱波と共に黒煙が周囲へ吹き荒れ、小さな悲鳴がメリッサ達の方から聞こえてくる。

 

普通なら、これで終わりだ。

けれど、こいつはソキルくんとは違う。

 

「っ!!」

 

嫌な予感に体を引っこ抜くと、私のいた所を突き刺すように黒煙の中身から金属の棒が飛び出してきた。

当たればあばら持っていかれそうな一撃を前に、思わず舌打ちが溢れる。攻撃を受けた直後なのに、集中力がまるで切れてない。慌てて攻撃したのではこうはならない、これは頭が冷えきってる奴の行動。

 

黒煙が落ち着くと、半分融解した金属の壁が見えてきた。 金属の壁は役目を終えたように崩れ、嘲笑するような笑みを浮かべた無傷の赤髪が姿を現す。

 

「流石に焦ったぞ。まさか餓鬼にここまで出来るとは思わなかったからな・・・・でもな、やっぱりてめぇは餓鬼だ」

「はぁ?」

「ヒーローなら、ちゃんと守らねぇとな」

「━━━━っ!メリッサっ・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い痛みが頭に走った。

 

 

 

 

 

 

何処遠くから聞こえる悲鳴を耳にしながら、私の体は床へと引き寄せられていく。

 

 

 

 

 

ぼやける視界の先。

赤髪がゆっくり口を開いて━━━━━

 

 

 

 

 

 

「お遊戯の時間は終わりだ、ヒーロー」

 

 

 

 

 

 

━━━━そんな言葉が耳に響いていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ニコさん!!」

 

私の側から聞こえる娘の悲鳴を聞きながら、金属の鞭に頭を打たれ床に崩れ落ちた彼女を見て、私は今更ながら己のした事を理解した。

 

オールマイトを理由に・・・いや、友人を、トシを言い訳にして何をしようとしていたのか。仮にこの計画が成功したとして、誰よりもヒーローである彼が受け入れる筈もない。ましてや喜ぶことなんて・・・あり得ない。そんなこと、私が誰よりも知っていた事だろうに。

 

私はヒーローに成りたかった。

だが私には個性という、一番必要な才能がなかった。

努力しても、努力しても、私の脆弱な個性は誰かを救う力など持ち得なかった。

絶望した運命を呪った。だかそれでもヒーローという夢は捨てられず、私はせめてヒーローの力に成りたくてサポートアイテムの開発者を目指した。

 

そして、彼に出会った。

 

相棒となった彼の圧倒的な活躍に胸が踊った。

私のアイテムを身に纏いヴィランと戦う彼の勇姿は、かつて私が抱いていた夢そのものだったからだ。

私は彼に、トシに、私の夢を見た。彼は私の憧れそのものだった。

 

だから、だから私は━━━━━彼に。

 

 

 

 

 

「博士、いつまでそうしてる。来て貰おう」

 

 

 

 

威圧的な声に視線をあげれば、ケースを手にしたウォルフラムの姿があった。浮かべた獰猛な笑みは彼の側でいつも見てきた、ヴィランが浮かべるそれだった。

 

何故、こうなるまで気づけなかったのか。

私は彼の隣で何を見てきたのか。

幾つもの後悔の言葉が頭を埋め尽くしていく。

 

呆然とするしか出来ない私の前に突然影が掛かった。

ウォルフラムと比べてあまりに華奢な青い影が。

 

「私のパパにっ、何をするつもり!」

 

聞き慣れた声に血の気が引いた。

誰かなんて考えるまでもなかった、ここにいるのは娘しかいないのだから。

 

「メリッサっ!いい、これは私の問題だ!!ウォルフラム!!頼む!!娘には・・・!!」

 

私の声が届く前に娘の体が横に飛んだ。

ウォルフラムの振り払った拳が目につく。

音を立てて地面を転がった娘の頬は赤く染まり、溢れた苦痛の声に頭が熱く滾った。

 

「止めろ!!娘に、私の娘に手を出すな!!」

「だったらちゃんと躾けときな。俺はな、身に掛かる火の粉を払っただけだ。正当防衛ってやつだ。それよりあんたには来て貰うぞ。装置の調整はあんたにしか出来ないらしいからな。断っても良いが、その時はそれなりの代償を払って貰う」

 

代償が何なのか、言葉にされなくても嫌でも分かる。

切り捨てられない以上、私に残された答えは一つしかないのだ。

 

「・・・・・わ、分かっている。協力する。だから頼む。娘には、手を出さないでくれ」

 

その言葉を聞くとウォルフラムは声をあげて笑った。

 

「ようこそ。楽しい楽しい、ヴィランの世界へ。案内は俺が務めよう。何処までも深く潜っていこうぜ、デヴィット・シールド博士」

 

そう言って差し出された手に、私は手を重ねた。

 

私に力を貸してくれた仲間達に。

私を支えてくれた亡き妻に。

私に夢を見せてくれた友に。

 

愛する娘に、己の愚かさを懺悔しながら。


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