私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
気になるなる(´・ω・`)
「ハハハハハッ!本当に、最高だぜ!力が幾らでも湧いて来やがる!こいつと、この装置があればっ!俺はっ!ハハハハハッ!!」
高笑いが響くそこで、私の目はヘリポートの床に沈む、親友とも呼べる彼から離れなかった。
「かっちゃん!私がっ━━━」
「るせぇっ!てめぇはオールマイト連れて下がれ!!碌に体力残ってねぇならしゃしゃるな!俺がやる!!」
「━━━りょ!リオのカーニバルが霞むくらい目立ってきてよろしくぅ!」
「派手に過ぎるだろうが!馬鹿が!」
私の娘と変わらない子供達の、その駆け出す背中を視界の端に入れながら、私はただ彼を見る事しか出来なかった。彼に駆け寄ることも、彼に声を掛けることも・・・何も出来なかった。私に、今の私に、そんな資格があるとは思えなかったから。
彼の為に作り上げた。
彼にヒーローとして活躍して欲しくて。
彼の笑顔がより多くの人々の未来を照らしてくれる事を信じて。
それなのに、私の作り上げたそれは彼を傷つけた。
それは誰の目から見ても明らかで、私がした事を重く突きつけている。
そんな筈ではなかった。こんな筈ではなかった。こんな事の為に、私は研究した訳じゃない。けれど、結果はそこにある。傷ついた友の、苦し気な声、痛々しい姿に。私のなした全てが。
「すまない、すまない、すまない、すまないっ!違うっ、私は、違うんだ、トシ、私はこんなっ、望んでなんか、違う、すまないすまないっ、トシ━━━」
情けない声が口から漏れていく。
止めようのない言葉が。
今更こんな謝罪に意味があるとは思えない。無駄だ。口だけのそれに意味はない。ほんの一欠片でも意味があったとして、彼に届かない謝罪ではそれすらも・・・。言葉がいかに脆いものか、私は誰よりも知ってる。生き馬の目を抜く、サポートアイテム開発にこれまで携わってきたのだ。分からない筈もない。
それなのに、言葉が溢れて止まらない。
もっとすべき事が、ある筈なのに。
「━━━━っ!メリッサパパ!!避けて!!」
ミドリヤさんの声に視線が上がる。
私の視界の中にこちらへと真っ直ぐ飛び込んでくる鋼色の立方体が見えた。スクラップを固めたような歪な立方体だ。回転をはらんだそれは、空気を巻き込みながら激しく速く飛ぶ。まともにぶつかれば、命はないかも知れない。避ける時間はまだある。足は痛むが、立って歩けない程ではない。
けれど、不思議と体は動かなかった。
怖くない訳ではない。何か対処する方法がある訳でもないのに。それなのに・・・。
迫るそれを見ながら、私はその答えに気づいた。
私はきっと、もう━━━━。
「パパっ!!」
その声にハッとした。
霞みかがっていた視界が晴れるように、何処へと遠ざかっていた意識が戻ってきた。
動かなかった筈の体が動き始める。
数瞬まで全てを手離すつもりですらいたのに。
重くのし掛かる罪の意識は消えてはいない。彼に対する申し訳なさも、胸の痛みも何も消えてはいない。
けれど、私の足は動いた。
その声に背を押されるように。
同時に私の体の横を冷気が駆け抜けていき、氷柱が立方体を押し留めるように地面から立ち上がる。けたたましい音と共に氷の粒を周囲に飛び散らせながらも、氷柱は自らの役目を果たし鋼色のソレを確かに食い止める。
呆然とその光景を眺めていると、「下がっててください」という言葉と共に、ウォルフラムの視線から庇うよう紅白の髪を靡かせた少年が体を割り込ませてきた。
右腕から漂う冷気に、先程の私を守ってくれた氷柱の姿が脳裏を過っていく。こちらを確かめるように振り返った横顔には、その背中から受けた印象通りの幼さが滲んでいた。
「君は・・・・」
「おっしゃぁ!!そのまま頼むぜ!轟!!」
「俺が切島くんに合わせる!タイミングは任せるぞ!!」
私の声を遮るように二つの声が背後から響く。
風と共に私の横を駆け抜けていった二人の男の子達は、それぞれ腕や足を構えた。
「おおおおおおらぁ!!」
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
怒鳴り声と共に放たれた拳と蹴足が、鋼色のソレへと放たれた。鈍い音と共にバラバラとソレが砕け散り、ただのガラクタへと変わっていく。
声も出せず眺めていると、不意に後ろから強く抱き締められた。私がよく知る細い腕に。痛みを感じるほど強く。しっかりと。
「よかっ、た!パパ・・・!」
「メリッサ・・・・」
か細い声に罪悪感を感じた。
ほんの僅かでも、ただ自分が楽になりたくて、娘を悲しませる選択をしようとしていたのだ。そしてそれは、恐らく娘だけではない筈なのだから。
だが、後悔は今するべきではない。
駆けてくる足音に視線を向ければ、娘とそう変わらない子供達がそこにいた。
「メリッサさん!大丈夫!?」
「メリッサさん!!一人で行ったらあぶねーって!」
「轟ぃぃぃぃ!一人でなに、ヒーロームーヴしてんだ!そこはオイラの役目でしょ!何人垂らし込んだら気が済むんだ!この天然野郎!!」
「ヒーロームーヴ以前に、あんたはもっと下心を隠せ!アホ峰田!」
「皆さん!お喋りしてる時間はありませんよ!緑谷さん達の援護は轟さん達に任せ、私達は救助者を連れて下がります!いいですね!」
けれど、その動きはただの子供達ではなかった。
迅速に、的確に。必要な所に、必要な人間を。
瞬く間に彼ら彼女らは私やメリッサを守るように、先に駆け出した仲間達を助ける為に動いていく。
「メリッサ、彼らは・・・」
「ニコさん・・・ミドリヤさんの同級生。雄英高校の、オールマイトおじさまの生徒さん達」
「トシの・・・」
その言葉に、トシの言葉が過った。
『・・・・それほど悲観する必要はないさ。優秀なプロヒーローたちがいるし、私の教え子たちのように将来有望な若者たちもいる!』
目の前にある助けようとしてくれる子供達と、ウォルフラムと戦う子供達を・・・もう一度その目で見た。
誰かを救う為に最善の努力をし、誰かを守る為に体を張り、諦める事なく真っ直ぐに前を向き、ヴィランと真っ向から対峙する━━━━次代のヒーロー達の姿を。
不意にどさっと、私達の横を何かが落ちた。
警戒しつつ視線を向ければ、ボロボロになった友人の姿がそこにあった。
「いたたた、腕が引っこ抜けるかと思った。雑過ぎるぞ、緑谷少女。私が跳ばなかったらどうなっていたか・・・いや、助けて貰って文句は言えんが・・・・」
「トっ・・・オールマイト。無事か・・・?」
「デっ、デイヴ・・・・格好悪い所を見せてしまったかな?すまない、格好つけておいて」
そう苦笑いする彼に、私は笑みを返した。
「いや、お互い様さ。けれど、君は、オールマイトは、格好悪いまま終わらせないだろう?」
「当然さ、デイヴ。ヒーローとして、先生として、彼女達に見せなきゃいけない背中がある・・・!」
再び立ち上がる彼に、今も戦う子供達の背中に。
もう陰りは見えなかった。
ただ、ただ眩しくて━━━━。
◇◇◇
「わりぃ、遅れた!」
ガチムチを気合いと根性と猛る乙女力でかっ飛ばして直ぐ、アカテロに氷柱を叩きつけながら轟が現れた。私としては「良く来た、手下一号!」って感じなんだけど、かっちゃんは何が気に入らないのか盛大に舌打ちする。
「っせぇぞ!!今更来て、何のようだ!!ああん!」
「そんだけ元気が残ってるなら、間に合ったみてぇだな・・・!」
喧嘩しながらも阿吽の呼吸で、氷結と爆撃で連携をしていく二人はきっと大の親友なんだろう。喧嘩するほど仲が良いというし。しかし、あの仲の良さ・・・もしかしたらもしかするかも知れない・・・・そうふたこにゃんは思った。
アカテロの気が逸れるタイミングを見計らって、引き寄せる個性を利用したコンクリショットでアカテロの股間とか顔面とか股間とか狙い撃ちしてると、続いてレッドキャニオンヘッド切島とシルバーフレーム眼鏡も加勢してきた。
接近戦は二人で足りているので、私と同じように隙作り係をお願いしたのだが微妙な顔された。なんでなん。立派なお仕事なのに。股間にシュートするだけの簡単なお仕事ですやん。えっ、それが駄目なの?じゃ、顔面だけで良いよ。目とか狙ってね。目とか。
「っく!!チクチク、チクチクッ!!てめぇ、このクソガキ!!鬱陶しいわ!!」
我慢の限界がきたのか、いよいよこっちに攻撃が放たれた。大雑把な鉄柱攻撃。動きを見極め引き寄せる個性でかっ飛び華麗に避ける。そのまま眼鏡の背中に騎乗して、再び嫌がらせを続行。はいよー!走れ、眼鏡号!!風のように!!
「緑谷くん!囮になるのは構わない!仲間の為に出来る事がそれなら、僕は精一杯務めを果たそう!!だがな、不本意なのだが!!物凄く、不本意なのだが!!その攻撃だけは何とかしてくれないかな!?」
「えぇー、でも一番アカテロが反応するし?てぃ!コンクリをあいつの股間にシュート!超エキサイティング!って、楽しいよ。やってみれば分かるよ」
「てぃ!ではないからな!?分かりたくもないし、僕の背でエキサイティングしないでくれ!」
「分かった分かった・・・・てぃっ!」
「いや、分かってないな!」
眼鏡に乗りながら嫌がらせをしていくと、攻撃は更に激しさを増していく。時折眼鏡の足だけではかわせない場面も出てくる程の猛攻だけど・・・・まぁ、私がそういう時かっ飛ばせば問題ない。どうしてもあかんって時は、そこら辺にいる切島盾にすれば良いし。━━━よって、全然問題ない。どしたどしたぁー、当たらん、当たらんよー!ノーコンピッチャー!内角だよ!内角せめてこいよぉ!ビビってんじゃないよー!ていうか、頭完全にプッツンしてるよね?これ。私のこと見すぎじゃん。
案の定、薄くなった防御を掻い潜り、豪火と爆撃がアカテロに叩き込まれる。汚い悲鳴と共に、アカテロを守っていた金属の盾が━━━いや、もうスクラップの盾といっていいそれがボロボロと崩れていく。どんどん薄くなる守りに(笑)。
「っそ!くそっ!!こんな、ガキ共に!!俺がっ!!オールマイトを倒したっ、俺が!!」
いや、倒してはないから。
私助けにいったから知ってるけど、あの筋肉ピンピンしてたよ?ダメージ自体はそんなだったよ?どっちかっていうと、時間制限の方が問題っぽかった系だもん。
まぁ、教えてやらんけども。
「ふざけやがって!!俺を!!俺をっ!!誰だと思ってやがる!!」
怒号と共に鉄柱の嵐が吹き荒れた。
狙いなんてつけてない。
タワーから吸い上げた金属をそのまま周囲にばら蒔くような、そんな手当たり次第の滅茶苦茶な攻撃。
離れていた私達は軌道自体が単純で避けられたけど、アカテロに肉薄していたかっちゃんと轟は話が別。
避ける時間もなく、その攻撃の波に飲まれていく。
「っ━━━━━!眼鏡!アカテロに突っ込んで!!」
「なっ、しかしあれでは!」
「お願いっ!!まだ間に合う!!」
スクラップの波から爆音が聞こえるし、氷柱が見えてる。恐らくまだ二人とも意識はあるし、抵抗する余力も残ってる。けれど、このまま放っておけば、抵抗出来なくなれば、スクラップの圧力に潰される可能性は高い。
だから、今━━━━。
「━━━おしっ!殿は、俺の役目だろ!!飯田、緑谷!!ついてこい!!」
私の声を聞いてさっき使い捨ての盾にした、ボロ雑巾みたいになった切島が駆け出す。私はその背中に、心の中でちょっと謝る。さっきは肉壁にしてすまん、って。
眼鏡は少し悩んだものの、攻撃の波を掻き分け走る切島の背中に足を踏み出した。
「攻撃が激し過ぎる!流石にヴィランまでは行けそうにないぞ!!どうするつもりだ!緑谷くん!」
「私の個性の射程内まででいい!そこまで行けばっ・・・私には108も必殺技があるからね!遠距離必殺技くらいパッパラーだよ!!」
「パッパラーが何かは分からんが、頼むぞ!」
遠距離技は少ないけれど、ある。
けれど、この攻撃の波を押し退けて届かせる物は恐らく一つだけだ。アカテロやソキルに放ったニコちゃん砲。それも最大火力。
息を限界まで吸い込み、溜める。
眼鏡にしがみ付きながら射程内へ入る瞬間を待った。
ついに構えていた腕に個性が反応するのを感じ、私は溜め込んだそれを一気に吐き出す。
ニコちゃん108の必殺技。
ニコちゃん砲、強火、完全燃焼バージョン。
アカテロへと真っ直ぐ飛ぶ蒼炎はスクラップを焼きつくしながら進む。嵐のようなそこを強烈な熱波と共に。
けれどそれも長くは続かなかった。次第にスクラップに身を削られて炎が小さくなっていってしまう。結局アカテロの目と鼻の先に辿りつく頃には小さな火花しか残らず、それもスクラップの波に飲み込まれていった。
距離を詰めれば、何とかなる。
後三メートルだけでも近づければ、アカテロの意識を攻撃からこちらに向けさせられる威力はある。
けど、足の止まった切島の様子を見てれば、これが限界なのだ。もう一歩先に進む事すら難しい。
距離が足りない。
どうしても。
押し退けるパワーがあれば話は違うけど、さっき放ったのが最高火力だ。訓練していけば、これ以上があるかも知れないけど、今はこれが最高。
考えろ。
考えろ。
考えろっ!
隙間を縫っていけるような小さなコンクリを飛ばす。
駄目だ。火花をかき消す程の攻撃。届く前に砕け散る。万が一届いたとして、どれ程の威力が出るのか。散々に加速を邪魔された攻撃に。
本体を直接引っこ抜く。
駄目だ。挑発の為に個性を見せすぎだ。対策されてる。金属で体は固定されてる。何より個性の効果範囲ギリギリ、誘導だけならまだしもダメージを与えられる程強く引き寄せられるかと言われれば無理だ。近づけない以上、これは出来ない。
アカテロの近くにある物を引き寄せる個性でぶつける。
駄目だ。近くにある物の殆どが金属。アカテロの個性の力を押し退けて引き寄せられると思えない。埋もれて何かあるかも知れないけど、物がはっきりしないと引き寄せようがない。問題外だ。
引き寄せる個性の射程範囲内ギリギリ。
誘導は出来る。邪魔さえなければ炎は届く。届けば必ず意識が逸れる威力がある。だからぶつけるなら、炎だ。
なら、考えろ。何が必要だ。
届かせるのに、何がいる。
火力は勿論だけど━━━違う。違うっ!火力じゃない!
必要なのは届くこと。
火力は足りてる。
届かせること。
それが、何よりも必要。
届かせる。
炎を。
私はまた、大きく息を吸い込んだ。
限界の限界まで溜める。
「緑谷!そろそろやべぇ!」
イメージ。
イメージする。
完成体を、そこに。
「緑谷くん!切島くんがっ━━━!」
炎が散らばってしまうなら、散らばらないようにすれば良い。
それでも散らばるなら、集まれば問題ない。
届くまで、形を保てばそれで万々歳。
私の引き寄せる個性を、炎に乗せる。
具体的にどうすれば良いかなんて分からないけど、体が私の全部を覚えてる。炎の噴き方も、物を引き寄せるやり方も。どこに力をいれて、どこに何が必要なのか、感覚的に把握してる。私は、私を知っている。
狙いを定め、私は溜め込んだそれを吐き出した。
吐き出したそれは蒼くもない。でも赤と呼ぶにはあまりに赤く、それはきっと真紅と呼ぶ方が正しい色合いだった。
炎は飛ぶ、真っ直ぐに。
蒼炎より速く。
蒼炎より激しく。
蒼炎より苛烈に。
真紅は止まらない。
何度散り散りになっても、お互いがお互いを引き寄せ合う。眼前の障害を焼き払いながら、眼前の障害に砕かれながら、また身を寄せ合い再生し更に過熱しながら。
まるで一つの槍のように真紅は走る。
「━━━━っ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
私の放ったそれはスクラップの波を抜けた。
アカテロの体に、その肩に、確かに突き刺さる。
スクラップの波は力を無くしたように地面に落ちていき、轟音が響いて埃が周囲を覆う。
段々と遠くなるアカテロの悲鳴と、ぼやけていく視界の中。私の目はアカテロに飛んでいく黄色の人影を見た。
矢鱈とムキムキした、よく見る背中。
周囲から響くオールマイトコールを聞きながら。
私も精一杯力を込めてノッた。
「今度こそぉ、やってくれるかなぁぁぁぁ!?」
「いいともっ━━━━━プルスウルトラァァァァァ!」
渾身の拳が放たれた。
突風が吹き荒れ、人を殴ったとは思えない程の轟音が鳴る。拳を受けたと思われるアカテロは、空へと木の葉のように舞い上がっていく。
物音に視線を落とせば、爆発したり氷柱が突き出したりする瓦礫の山を見つけた。
私はその光景を眺めながら、静かに目を閉じる。
めちゃ疲れたんですけど。
そんな愚痴を溢しながら。
シリアス「俺の出番終わりって、本当?」
シリアル「えっ、うん、まぁ、多分」
シリアス「左様か・・・」
シリアル「左様じゃ」