私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
カッコつけよってからに!
止まるんじゃねーぞじゃねーぞ!!
更新はしないって、言ったでしょーがぁぁぁぁ!!
(体力ゲージレッドゾーン)
釣りを開始してから10分程だろうか。
船の上は大量のお魚さんで溢れ返っていた。
陸に打ち上げられた魚さん達は可哀想にびちびちと苦しそうにのた打ち回っている。
一思いにやるのが優しさかも知れない。
でも、双虎ちゃんはトドメを差したりしない。
何故なら良い子だから。サンタさんが毎年プレゼントを届けに来てくれるくらい、良い子だから。だから無闇矢鱈に攻撃とかしないのだ。
精々のた打ち回るといいわ。
生き地獄を見せてやるぅ。
「うわっ!緑谷!そっちに一人行ったぞ!!」
元気なお魚さんもといチンピラその一が重たい体を引き摺ってこっちに向かってくる。拘束が甘かったみたいだ。おやおや、元気だねぇ。
「クソガキがぁ!!」
私は針に掛かってる新たなお魚さんを水から引っこ抜き、向かってくる元気なお魚さんにシュートした。
釣りたての魚をやんちゃな魚にシュート!!超エキサイティング!!
よし、意識もぎ取ってやったぁ!ごらぁ!ざまぁ!
「緑谷ちゃん!前方一つ来るわ!」
高台から辺りを見渡す梅雨ちゃんから、お魚さんの追加報告。
私は前方へと向き直り、引き寄せる個性をフルスロットル発動する。直ぐに腕に引き寄せた反動が返ってくる。
固定した足と個性を発動してる腕が引きちぎれそうに引っ張られるが、気合いと根性と不屈の乙女力で踏ん張りきる。主に背筋。
「━━━━ぬぅおぉぉるぅぁあ!!」
水から引っこ抜くと、バランスを崩したチンピラがジタバタしながら勢い良く私に向かって飛んできた。だけど私は慌てない、何てってたってスーパーガール。
直ぐ様、命を刈り取るような形に腕を構え、飛んでくるチンピラの首目掛けて的確に叩きつける。
そう、大和撫子専用の必殺技、女子の嗜み、ラリアットである。
びたーんとチンピラが床に激突し、白目を向いて泡を噴いた。
見よ、この威力。
ぜひ我がクラスの女子全員に習得して貰いたい必殺技である。
「ブドウ!拘束!」
「わ、分かってるって!!」
横たわるチンピラにブドウが氷変わりに黒団子をつけまくってる間、私は大きく深呼吸して息を整える。
流石に連続フィッシングは堪える。
グランダー双虎でも堪える。
あの黒団子、食べられないのかな。
お腹減った。
「緑谷ちゃん!!ラスト四人!!左右から来るわ!!」
どうやら、チンピラがお船に乗りたいって自主的に向かってきてるみたいだ。
それなら、都合がいい。
本当に・・・。
同時に四人は駄目だろ!!
殺す気かぁ!!
普通の釣り師は大体一対一してるでしょう!?
「━━っそがぁ!!上等だよ!完璧無双系女子舐めんなよ!?纏めてっ、ぶっ潰してやんよぉぉぉぉ!!」
両の腕に渾身の力を込めて、私は引き寄せる個性を発動した━━━━
◇◇◇
釣り作戦。
緑谷から最初に作戦を聞いたとき、オイラは正気を疑った。だってそれは、オイラと緑谷が前面に出た作戦だったから。
緑谷の作戦を簡単に説明すると二つ。
一つ目は、緑谷が引き寄せる個性でヴィランを水から引っこ抜くという事。
二つ目は、船にあげたヴィランをオイラが個性で拘束するという事。
前者は兎も角として、後者はオイラが矢面に立つ事になるから全力拒否した。だってそうだろ、拘束するって事は近づかなきゃいけなくて危ないし、それにもしかしたら恨まれるかも知れない。
拘束だけだったら蛙吹が出来るって言ったんだけど、拘束するにもロープみたいな物がないし、蛙吹には全体のフォローと動けない緑谷の代わりに目になる役割があるから駄目だって言われた。
ついでに、一番危ないだろうけど、やらなかったらやらなかったで魚の餌にするって言われた。あの目はマジだった。
それでも納得いかなくて文句を言ったんだけど、そうしたら緑谷は自分の個性について説明を始めた。
緑谷は二つの個性を持っている。
一つは火を噴く個性。もう一つは引き寄せる個性。
今回の作戦で使うのは引き寄せる個性らしいのだが、この個性も万能って訳ではないのだという。
個性で引寄せられるものは自分の体重以下の物のみらしい。それと言うのも引寄せられる物が自分より重いと、逆に自分の方が引き寄せられてしまうらしいのだ。それにそういった物に対する個性使用は体に掛かる負担が大きく、他の事に対応する余裕が無くなると言っていた。
引寄せられるデメリットは体を固定すれば問題はないが、体に掛かる負担はどうしようもない上、体を固定すればいざという時に対応に遅れる為、どうしてもフォロー要員が必要になってしまうのだと。
その点、蛙吹は冷静に物事を判断出来るし、舌を伸ばせば中距離からの援護も出来るとあって、フォロー要員としては最適なんだと。
だから、引き揚げたヴィランを拘束する事が出来るのは手が空いていて、拘束するのにうってつけの個性を持つオイラしかいなんだって。
脱ぎ捨てたマントをロープ変わりにして体を固定する緑谷を眺めながら、それでもオイラは気持ちが定まってなかった。
置いていかれなかったのは良かったけど、その代わりあのヴィラン達に向き合わなきゃいけないのは怖くて仕方がなかったんだ。想像するだけで手が震えた。
緑谷は余裕そうな顔で着々準備をしてる。
あいつは強いから、あんなに余裕なんだろうなって本気で思う。オイラみたいな弱い奴の気持ちなんて、少しも分からないんだろうなって。
そんな時だった、蛙吹が話し掛けてきたのは。
「峰田ちゃん、大丈夫?」
気休めの言葉だけど、やさぐれていた気持ちが少しだけ和らいだ気がした。
「大丈夫な訳ないだろ、でもオイラしかいないんだろ。じゃ、もうやるしかないじゃんか」
「そうね、峰田ちゃんがしっかりやってくれたら、私も助かるわ」
そう言ってくれる蛙吹の言葉は嬉しかった。
今まで頼りにされた事なんてなんてなかったから。
だから、ちょっといい気になって緑谷に対して愚痴を溢してしまった。
「いいよな、緑谷はさ。強い個性あるし、普通に強いし。オイラみたいな奴の気持ちなんて━━━」
「峰田ちゃん」
「━━っんだよ!?」
愚痴ったオイラに蛙吹は厳しい視線を送ってきた。
何がいけなかったのか分からなかったけど、その目を見て二の口は告げなかった。
「緑谷ちゃんはああ言ったけど、この作戦で一番危険なのは彼女なのよ?最初に敵とぶつかるのは緑谷ちゃんなんだから。個性の反動がどれくらいになるのか分からないけど、負担だって緑谷ちゃんが一番大きい」
「それは・・・でも、あいつはオイラと違って━━━」
「緑谷ちゃんは峰田ちゃんが思ってるような人じゃない。緑谷ちゃんは貴方が思うほど勇敢じゃないわ」
言葉がでなかった。
それは緑谷には縁遠い言葉過ぎたから。
「でも、あいつ現に黒いモヤのヴィランにだって殴り掛かっていったぞ!!」
「私も、あの時はそう思ってた。でもね、きっと違うの」
蛙吹は緑谷を見た。
「緑谷ちゃんも必死なのよ。必死で生き残ろうとしてるの。だから、あんな厳しい言葉が出てくるの。━━━今更になって思えば、緑谷ちゃんの言うとおり、緑谷ちゃんを連れて岸に辿り着く事が出来ていれば、形勢はこっちに傾いたと思うわ。緑谷ちゃんが強いのは見たでしょ?陸の上なら、これだけのヴィランに囲まれてもなんとか出来る自信があったんだと思う」
「でもそれじゃオイラが━━━」
「恐らくだけど、船に残った峰田ちゃんが後回しになる可能性は高かったわ。少なくとも、ヴィラン達は峰田ちゃんが水場で逃げ出せる能力が無いことは私が助けたせいでバレていたし、個性が分からないから警戒して近寄らなかったと思う。それよりも二人で逃げた私達を狙ってきた筈よ。一人は水場では足手まといだしね」
あの時の提案が見捨てた訳でない事を知って、オイラは驚いた。だって、あんな突き放すような言い方だったのに、生き残る可能性が高いものを選ばせようとしていたなんて思わなかったから。
でもそれならどうしてそう言ってくれなかったのかと思ったけど、それはあくまで可能性で確実ではない事を思い出して下手に口にしなかった事を知った。
「油断した一人二人のチンピラヴィランなら、峰田ちゃんの奇襲でどうにかなったでしょ。貴方の個性は強いもの」
「それは・・・多分」
「出来るわよ、峰田ちゃんなら。入試を突破出来たんだもの」
囲まれた今となっては、絵にかいた餅。でも、あの時ならまだ、出来た作戦。
負うリスクも少なくて、どちらかが助かる可能性が高くて、かつ出来るだけ安全な。
それをオイラが駄々を捏ねて台無しにした。
オイラは胸が締め付けられるような痛みに襲われた
「今度の作戦は一度でも誰かが崩れたら終わりなの。乗り切れば皆で生き残れるけど、一人でもミスすれば皆助からない。━━━それを、私が緑谷ちゃんにそれを選ばせたの」
「ちがっ、それはオイラがっ!」
「違わないのよ。私なの、無理を押し付けたのは。だから、峰田ちゃん力を貸して。私のせいで危険な選択をしなくちゃいけなくなった。その無理を緑谷ちゃんは叶えようとしてくれてる。だから、お願いよ峰田ちゃん。頑張ってくれる緑谷ちゃんの為に力を貸して、助けてあげて━━━━」
ざぱぁんと、最後のヴィラン達が宙へと投げ出された。
四人同時に引き揚げた反動なのか、緑谷の腕はガクガクと震えている。
固定された足はうっすらと血が滲んでいて、どれだけ無理をしたのか嫌でも分かった。
ヴィランを倒そうと緑谷が頭をあげようとしていたのが目に入り、オイラは咄嗟に叫んでいた。
「━━後はっ!!オイラに任せろ!!」
怖かった。怖くて仕方なかった。
けれど、ボロボロにまでなって戦う緑谷の姿に、どうしようなく負けたくなかった。
ヒーローになりたくてここに来た訳じゃない、モテモテになりたくてカッコイイヒーローになりたかった。
だから、こんな美味しい場面で、女の緑谷にカッコイイ所を取られる訳にはいかなかった。
「グレープラッシュ!!!」
中学生の時からずっと考えてきた、オイラの必殺技。
オイラが投げたそれは、宙に浮いていたヴィラン達に引っ付き合わさり、一塊の大きな団子に変えた。
「ブドウ!褒めてつかわす!!」
妙に偉そうな緑谷の声が掛かり、オイラは恐怖で震えてた体を気合いで押さえつけて振り向き様にガッツポーズを見せて言ってやる。
「オイラだってな、やるときはやるんだよ!!」
この日、この時を、オイラはきっといつか思い返すだろう。
オイラが初めて、誰かのヒーローになった、この日を。