私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
長々とお付き合い頂いてありがとー( *・ω・)ノ
おまけ閑話をもう一話あげるとは思うけど、まぁ、おまけは所詮おまけじゃけぇ。そっちはそっち。のーかんや。
「いつまで寝てやがる、このボケ」
不機嫌な声に目を開けると、そこには正しく不機嫌な顔をした我が幼馴染かっちゃんの姿があった。
寝ぼけ眼を擦りながら体を起こして、部屋を見渡してみる。家具の位置はそのまま、私のトランクケースは昨日置いた場所、テーブルにはお土産が山になってる。食べ散らかしたおやつの袋もゴミ箱からチラチラしてる。
うむ、間違いない。私の部屋だね。
誤ってかっちゃんの部屋で寝ちゃったのかと、一瞬ガチで勘違いしてしまった。めちゃ焦った。ガチムチとかに変な誤解とかされたらキツイからね。けどそうじゃないなら問題ない。
もう一度ベッドに体を預けた私はシルクのシーツに何度か頬擦りして感触を味わい、再び高級抱き枕をぎゅっとして目を瞑った。・・・・ぐぅ。
「起きろってんだろうが!!チェックアウト所か、とっくに昼まで過ぎてフライト時間なんだよ、この馬鹿が!!起きろや!!」
「あだっ!?」
女の子にするとは思えないチョップ。痛みと共に私の大切な知能指数が減っていく。きっと3は無くなった。馬鹿になったらどうすんの!?シンジラレナーィ!!
「女の子の頭、ポンポン叩いて!頭おかしいんじゃないの!?馬鹿なんじゃないの!?女の子には優しくしないといけないって、かっちゃんパパも言ってるじゃん!いつになったら覚えるの!?それともなに!?爆発する度記憶もポーンしてるの!?メモリーカード差してやろうか!!8MBのメモリーカード差してやろうか!!まったく!爆発するのは髪型だけにしてよ!!ボンバッちゃん!」
「誰がボンバッちゃんだごら!!帰りの便が同じ筈のてめぇがっ!いつまで経っても来やがらねぇから!!何してやがんのかと思えば・・・なんでてめぇ、昨日は五時から嫌がらせ電話する気力があって、出発の今日に限って寝てんだ!?オールマイトからの『私の手に負えないから起こしにきてくれ』なんてふざけた連絡で、んで俺が、空港からダッシュしなきゃなんねんだよ!!ふざけんな、ああん!?」
「勝手に走っといて文句言わないでくれますぅ!?競歩すれば良かったじゃん!?シュパシュパ歩けば良かったじゃん!?足腰はなんの為に鍛えてんの!?この為でしょ!!」
「少なくともこの為ではねぇよ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「ああん?!やんのか、のらーーー!!」
お互い睨み合いながら胸ぐらを掴みあった所で、廊下の方から「緑谷少女、爆豪少年、そろそろ出ないと不味いんだけど・・・」とガチムチの頼りない声が聞こえてきた。そう言われて時間を確認すれば、確かに争ってる時間は無さそう。
かっちゃんに視線を向ければ、考える事は一緒なのか目が合う。数秒のアイコンタクト。それからどちらともなく手を離した。
「ちっ、おい準備しろ」
「言われなくても・・・・帰ったらKO●2002で決着ね。逃げんなよ」
私のお土産をまとめ始めようとしていた、かっちゃんの手がピタリと止まった。チラッとこっちを見たかっちゃんの眉間には、ぐぐぐいっとシワを寄ってる。
「てめぇがハメ技しねぇならな」
「・・・・・ハメ技はする」
「なら、俺もやるからな」
「かっちゃんは駄目。あと、かっちゃんはキャラランダムだからね。選んじゃ駄目」
「んな理不尽な勝負あってたまるか」
かっちゃんに片付けを任せ、私はバスルームでシュパパパッと身支度。鏡でポニーテールの出来をばっちり確かめてから纏めた荷物をかっちゃんにライドさせ部屋を出発。数日過ごした高級ホテルにサヨナラグッバイ。あんなベッド、大人になったら買うんだーっと心に決めて、はいよー、爆号!空港まで進めぇ!
まだまだえきぽんで賑わう街を駆け抜けて少し、この島に来たとき最初に見た馬鹿デカイ空港に着いた。いや、着いたというより戻ってきたというか。ね。
空港の入り口を潜って直ぐ、待っていてくれたっぽい同じ飛行機組の皆の姿を発見。集結した女子~ズWith切島に手を振ればお茶子が少し怒り顔で「ニ~コ~ちゃ~ん~!!」と迫ってくる。おこやん。
「だから、昨日、あれっほど!無駄話も程ほどにして、はよ寝よういうたのにぃ!お昼一緒に食べる約束もすっぽかして!!それに、飛行機乗り遅れたらどないするつもりやったん!!」
「せやかて、お茶子」
「せやかても、しかしも、でもも、だっても、butもないの!ニコちゃんだけやのうて、オールマイトも困るんやからね!!帰りの飛行機代もただやないんよ!誰のチケットで来てるの!言うてみ!」
「へ、へいっしゅ!ガチムチです!」
「お茶子さん、随分心配してましたもの。怒るのは仕方ないですわ」
「けろっ、お茶子ちゃん、お母さんみたいね」
「ニコのお母さんとかぁ、大変そうーだぁねぇー」
「そうだぁねぇー三奈ばあさんやぁー」
「何ポジなの、バカ2」
「爆豪お疲れな!」
「っせぇ。疲れとらんわ」
ああ、あっちから陽気な会話が聞こえてくるのに!こ、怖い、こっちは怖いよ!空気が違う!お茶子怖い!!お金が絡むとほんと鬼のように怒るな、お茶子はっ!
前も買い物いった時とか、服買う時とかお菓子買う時とかは特別なんも言わないのに、蛇のオモチャ買おうとしたら「こんなん何に使うん?」「無駄遣いは感心せんよ?」「いや、絶対そんな使うことないて」「いらんて」「いや、いらん」「せやから買うないうてるやろ!!元あった所においてきー!」って滅茶苦茶怒られたもんな。あれ欲しかったのに。あのクネクネ感が良かったのにぃ。いや、まぁ、確かにそこまで欲しくもなかったけども。
お茶子のお説教熱が一段ヒートアップした所で、百と耳郎ちゃんがお茶子の肩をぐいっと引き寄せた。
「お茶子さん、緑谷さんを叱るのも程ほどに。私達もそろそろお時間ですから」
「そうそう。緑谷へのお説教は向こうついてから、しこたまやれば良いからさ。帰ろ帰ろ」
「ちょっ!二人共!まだ話は━━━━あっ・・・・」
抵抗しようとしてたお茶子の動きが止まった。
お茶子の視線の先へ顔を向ければ、息を切らして走ってくる人影が見えた。金色の髪を揺らして走る、I・アイランドで出来た友達の姿が。
「ニコさん・・・!」
「やほ、メリッサ」
メリッサは額に大粒の汗をかきながら私の元まで駆け込んできて、盛大に足をもつれさせてすっこけた。それはもう見事なこけっぷりで、メリッサのエンターテイナーとしての輝きを見た気がする。━━━━とまぁ、ふざけるのは程ほどにして、引き寄せる個性でぐいっとやってキャッチしてあげた。よしよし、いきが良いねぇ。
「ごっ、ごめんなさい!━━━ふふっ、でもまた助けられちゃったわね」
「そりゃ、助けるともさ。目の前で盛大におコケなさってくれたからねぇー。おっちょこちょいも程々にしないと、その内大怪我するよ?・・・・かっちゃんみたいにっ!」
「おい、こら。誰がおっちょこちょいだ。ぶん殴るぞ」
おっちょこちょいだろうがぁ!!タワーをグルグルさ迷ってたのは聞いたからな!!切島に!!いや、切島は自分が迷ったとか言いはってたけど!!信じない!私は信じない!!かっちゃんは変な所でいつもやらか━━━━いぎゃぁぁぁぁぁ!!アイアンくローはやめろぉぉぉぉ!!地味に握力鬼みたいなんだからっぁぁぁぁぁ!!でる!何かでちゃ、あっ、なんか良い匂いする。なにこれれれれれっ、だだだだ!!わかったっ!嗅がないっ!嗅がないからぁ!!
アイアンクローから逃れた後、私はメリッサと改めて向き合った。メリッサは頭を擦る私を見て凄く楽しそう。曇ってた顔で謝られたりするよりずっと良いから構わないけど・・・・ちょっと笑い過ぎじゃありませんこと?
「めぇぇるるるりぃっすわぁ?」
「ふふふっ、ごめ、ごめんなさい。でもおかしくって。ふふふ、ドレスと一緒で、よくお似合いよ。二人とも」
「んんんん?ドレスぅ?」
じっと見つめると漸くメリッサは口を押さえて笑うのを止めた。まだめちゃくちゃプスプス空気漏れてるけど。
もう、まったく。
呆れた視線を向けると、メリッサは私の目を真っ直ぐに見てきた。口元は弧を描いてるけど、さっきとは少し違う笑み。
「本当はね、言いたい事、沢山あったの。短い間だったけど楽しかったって・・・パパのこと助けてくれて感謝してるんだって・・・怪我をさせてごめんなさいって。他にも沢山。でも、でもねっ、ニコさんを見て分かったわ。私があなたに掛ける言葉」
メリッサは笑顔を見せてきた。
それまで見せてきた中でも、一番の笑顔を。
「ありがとう、ニコ。また会いましょうね!」
そう言って差し出された手に、私も掌を伸ばした。
触れあった掌がしっかりと握られる。
力強いそれには、メリッサの精一杯の気持ちが籠っていた。
慰めの言葉とか、一応色々と考えていたんだけど・・・どうやら無駄になったみたい。
私が考えてるよりずっと、メリッサは強かったみたいだから。
「メリッサ・・・今度は電池長持ちしさせた上で、全機能も超進化させた最強ゴーグル卸してね!格安で!」
返した言葉にメリッサは楽しそうに笑い声をあげた。
「良いわよ!ニコになら、特別価格で提供してあげる!ニコのおかげでデータが取れたし、きっと良いものが出来るわ!でも、その分しっかり宣伝してよね?ニコの宣伝不足で売れなかったら、在庫の山押し付けちゃうんだから!」
「在庫の山売った場合、私の取り分は?」
「2:8ね。ニコが2」
「メリッサ、意外とがめついなぁ。それ殆んど私が頑張るんだから4:6くらいにはしてよ」
「もう、慈善事業じゃないのよ?開発費だってあるし・・・じゃぁ3:7まで譲歩してあげる」
「3.5:6.5!ビター文まからん!」
「ニコ、人のこと言えないわよ?」
それからなんやかんや試作品のモニターを引き受ける事を約束したり、ゴーグルに欲しい追加システムの話したり、ゴーグルの調整役として発目を紹介したり・・・別れの会話にしては、風情もくそもへったくれもないいやに現実的なお話をがっつりした。周りはガチムチも含めて呆れてたけど、メリッサはやる気に満ちていて「9月には試作品を送るわ!」と意気込んでいたので、仮にこれが今生の別れだろうと本望だと思う。というか、私にセンチメンタルを求めないで。無理だから。そういうの。
空港のゲートを潜る時。
メリッサから大きな声を掛けられた。
少しも疑いもなく、私には似合わないそれを。
「じゃぁね!マイヒーロー!」
私はただ手を振り返した。
友達の言葉に。
精一杯に。
「・・・ゴーグル売る時はガチで手伝ってね。かっちゃん」
「俺に頼むくらいなら、端から安請け合いすんな。大馬鹿が」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねぇわ」