私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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ヤクザ編、アニメやってから書こうかなぁ(´・ω・`)


ヤクザ編どうしようか悩みながら書いた『The fourt eyes monster sings a miracle』の閑話の巻き

長き人生の中、ワシは幾つか知った事がある。

人はどうしようもなく愚かで、酷く脆く、救いがたい存在ではある事。そしてその愚かで脆く救いがたい人は、時として人智を遥かに凌駕する奇跡を起こす事━━━世界はまだ、ワシを落胆させる程、退屈には出来ていないのだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はははっ、ははは、ははははははは!!」

 

流れる映像に笑いが止まらなかった。

初めは単なる個性移植者のサンプル映像、つまらない研究資料の一つになると思っていた。だがどうだ。ワシの目の前に広がるそれは。それこそ、これこそっ!ワシが求めていたモノだ。やはり人は、やはり人はっ、どこまでも愚かで、どこまでも救いがたく、そして━━━━かくも美しい奇跡を生み出す。ワシら科学に通ずるものでさえ及ばぬ人智のその向こうにあるそれを、理外の向こうにあるそれを。

 

『ぐああああああっ!?なっ、何がっ、起きてっ!?腕がっ!!俺の、腕がっ!焼けっ、やけて!!あああああああ!!』

 

モニターから流れる被験体の悲鳴すら、ワシを祝福せんとする福音に聞こえる。そうだ。お前のような有象無象が、どうこう出来る代物ではない。この奇跡の前では、こやつようなたかが個性一つ受け入れる事が精一杯な役立たずのジャンクは、形を残す事すら烏滸がましい。

 

ワシは映像を巻き戻し、それを見つめた。

 

荒いカメラの画像の中、一人の少女の姿が映る。

正に満身創痍といった様子の彼女は、何か意を決したように息を吸い込み構える。

 

そして、そしてだ。

これだ。

 

少女の口から吐き出されたのは、リチウムの炎色反応とよく似た深紅の炎。だが炎に秘められたそれは、リチウムが見せる安い光とは一線を画すモノ。灼熱と呼ぶに相応しいそれは、正に奇跡の産物なのだ。

 

吐き出された炎は人の肌を雑作もなく容易く焼き尽くし、鋼鉄すら一瞬で溶かし尽くす超高温。瞬間的な火力で言えば、あのエンデヴァーに匹敵するだろう。

だが、だ。だが、本来見るべき所はそこではない。

 

モニターをコマ送りにし、ワシはその奇跡に瞠目する。

金属片の波の物量を前に霧散し、驚異的かつ異常な速さで再び集まる深紅の炎の姿を。以前、彼女は似たような真似をした。全国区で放映された、その映像の中で。

 

彼女の個性は文字に起こせば他愛ないモノ。物を引き寄せる個性、それが彼女の力。されど、その個性はその文字にはない、一つの可能性に到達した。本来彼女の個性は己と指定した対象物の間に引力に似た力場を発生させるものだった。だが、彼女は、戦いの最中個性の対象物を、己から切り離す事に成功したのだ。

そしてその上で彼女は炎という、それまで対象にしてきた物質と比べて観測し難いプラズマに対し、空間が湾曲して見える程の出力で個性を発動した。

 

それはあまりに不安定な発動で、直後に操作不能に陥り集束したエネルギーが暴発したが、確かに彼女は一つ個性の極地へと足を踏み入れた。

 

そして彼女のそれは、今に繋がる。

 

「ははははっ、何度見ても、素晴らしい」

 

熱を視認できるサーモグラフィーへ画面を切り替えれば、それが如実にワシの目に映る。炎だけではない熱その物に意志があるように、彼女の放ったそれは常に集束し圧縮し続けている。光すらその身に留めようと、モニターに映る熱の流動は異常の一言に尽きた。

 

映像を正しく分析するならば、彼女の炎は対象物に引き寄せられているだけではなく、炎自身が熱を集束させる驚異的な引力を発動しているのだろう。

そう、炎その物が、だ。

 

体育祭の映像から分かる通り、あの個性は対象物の変成に極端に弱い。事実その出力低下は著しく、布切れ一枚引き寄せる事が出来なかった。つまり引き寄せる個性で、それは本来あり得ない事なのだ。

 

炎はあまりに歪で、集束の影響から常に変成し続けている。体育祭の時同様に引き寄せる対象を極限まで拡大させれば話は別だろうが、この炎に関していえば基本的に流動しているのは熱だけ。ここまで変成している炎を引き寄せ続けることなど、出来る訳もない。ならば、だ。ならば、何故こうも個性の力が働くのか。

 

答えは至ってシンプル。

 

吐き出された炎その物に、自らの放出する熱を集束する力があるからだ。そう、彼女は混ぜ合わせたのだ。自らの意思で、個性の特性を融合した。新たな力を、個性を、己で作り上げたのだ。

 

「ああ、素晴らしい」

 

これは奇跡だ。紛れもない、奇跡。

 

人為的に個性を融合した者は、未だかつて存在しない。

先生のように組み合わせて使う者はいたが、あくまでそれは組み合わせているだけだ。個性が反発しないようにバランスを取り、ただ同時に発動しているだけ。個性の融合とは天と地ほど違う、別の所業。

 

「欲しいな、欲しい」

 

この検体が欲しい。

もしこの現象を正確に解析出来れば、個性によって形成された社会がひっくり返る。個性の融合によって得られる物は、情報は、数知れないだろう。自由自在に新たな個性を作り出す事が出来るのは勿論、もしかすれば誰にもなし得なかった個性因子の解明すら可能かも知れない。

 

「あぁ、欲しい。欲しいなぁ、この検体がっ」

 

何度見ても、何度見ても。

ワシには理解出来ん、その奇跡の産物が。

 

手に入るのなら、出来る限り大切に保管し、ありとあらゆるデータを取ろう。頭の天辺から足の爪先まで、指一本一本まで、正確に計測しよう。採血し、そこに含まれる成分を分析しよう。可能なら解剖したい所だが、いやいや、それをするにしても一番最後にした方が無難だろうなぁ。個性使用時の肉体的な反応や個性因子の動きを見る必要がある。それならクローン体を作ってみるべきか。遺伝子情報が変わらなければ、ある程度の成果も・・・・いや、いや、個性因子は何とも気紛れだからな。

 

 

 

『随分とご機嫌じゃないか、ドクター』

 

 

 

モニターに目を奪われていると、聞きなれた先生の声がスピーカーから響いてきた。先生の個性については理解はあるが、よもやワシの部屋にまで感知が及んでいるとは思わずほんの僅かだが動揺してしまった。すると、先生が笑い声をあげる。

 

『そんなに驚くことないじゃぁないか、ドクター。僕は随分前から話し掛けていたんだよ?それに、知らずに僕の所に回線を繋げたのはドクターの方さ。手元を見ることをオススメするよ』

 

言われて手元へと視線を下ろせば、確かにワシ自身が先生の部屋に繋がる通信機の電源を入れていた。悪い癖だ。考えに夢中になると周りが見えなくなる。

 

「すまなかった、先生。面白いものを見つけてしまってな」

『ほぅ、ドクターが面白い・・・ね。それは随分興味をそそられる話だ。でもまぁ、その話は後に聞くとして、件の彼がどうなったか知りたい所なんだけど、そろそろ情報はあがってないかな?』

「それなら丁度良い。今その映像を見ていた所だ。直ぐ先生の部屋で鑑賞会と行こう。話したい事もある」

『そうか。楽しみにしているよ、ドクター』

 

楽しげな先生の声に、ワシは通信を切る手を止めた。

先生もそれに気づいたのか『どうかしたのかい?』と不思議そうに尋ねてくる。

 

「先生、一つだけ確認したい事があるのだが」

 

ワシの声に先生から伝わる雰囲気が変わった。

発言によっては、先生の不興を買う可能性もある。

だが、口にしないという選択は選べなかった。

 

「以前の、先生のお気に入りの事だが・・・・場合によってはワシが貰い受ける事は可能だろうか」

『んー?ドクターが異性に興味持つのは意外だなぁ。何か悪い物でも口にしたのかな?ははは。━━━しかし、随分おかしな事を聞くね。まるで彼女が僕の物みたいな語り口じゃないか』

「違うのかね?」

『違うとも。彼女は彼女だけのものさ。当然だろう?』

 

軽い口調で先生は詭弁を口する。

言葉通り受け取れば自由にしろと言っているのだろうが、これは間違いなく警告だろう。自分の玩具へと関心を向けた、ワシに向けての。余計な真似はするなと、そう言っているのだろう。

 

「先生、聞いてくれ。彼女は、もしかすれば先生の体を治す切っ掛けになるやもしれん」

『僕の体を?それは嬉しいな。けれど、本当はドクターが単に彼女を弄り回したいだけだろう?』

「それはっ、否定はせん。可能ならば生体データの全てを記録し、各種実験し、そのままサンプルとして保管したいくらいだ。だがな、先生にも利はあるであろう?体が治るのであれば、後継などという物に頭を悩ませる必要はない。再び、先生の時代が始まる」

 

ワシの言葉に静寂が訪れた。

少しの間を、されど先生にしては長い間を持って、先生の声が再び部屋に響く。否と。

 

『僕にも利はあるとは言ったけど、それはまだ可能性の話だろう?それもかなり低い可能性だ。それじゃ彼女を使い潰す理由には、些か足りないね。あまりに勿体ない』

「であれば、可能な限り現状を維持する。後遺症の出ない実験であれば問題もあるまい」

『そういう話ではないんだけどなぁ、ははは。まったくドクターは仕方ないね。機会があれば、考えておくよ』

 

先程の詭弁を嘘のように、先生はまるで彼女を所有物のように語る。こういう所が本当に恐ろしい。これに気づかず、一体何人の人間が・・・いやいや、あのような頭の回らぬ連中など何人いても意味などないか。検体として体を提供出来たのだ、寧ろ誉れであろう。

 

『━━━さて、ドクター。部屋で待っているから、出来るだけ早く頼むよ。ここ最近の唯一の楽しみなんだ』

「先生らしい、趣味の良い娯楽だな」

『ドクターには負けるさ』

 

そう言われてしまえば、ワシは笑うしかない。

人の事など言えた義理ではないからな。

 

「折角の鑑賞会なら、ポップコーンとコーラでも差し入れるか。先生」

『はははっ、そいつは良い提案だ。けれど、今日の所は遠慮しておくよ。僕は静かに鑑賞するのが好きでね。・・・しかし、ふふっ、ドクターが冗談を言うなんてどんな風の吹き回しだい?』

「なに、久方ぶりに良いものが見れたのでね。年甲斐もなく興奮しているだけじゃよ」

 

通信を切るとモニターの音が耳についた。

そこへと視線をやればオールマイトに拳を叩き込まれ、苦悶の表情と共に声にならない叫びをあげ落ちていく被験体の姿が見える。移植した個性と装置の反動か、被験体の体は著しく劣化していく。碌に調整もしてない以上、ある意味では当然の結果ではあるが、何ともつまらない結果になったものだと溜息が溢れる。

 

被験体の記録をまとめていると、ペタペタと床を叩く足音が聞こえてきた。振り返れば小さなそれがのそのそと歩いてくる姿がある。

 

「おお、おいでジョンちゃん」

 

手を伸ばせば小さなそれはワシの腕の中に飛び込んできた。軽く様子を確認したが、生体としての異常は今の所見受けられない。ジョンちゃんの個性の範囲の狭さに、若干の調整不足感を感じるが、それは追々で良かろう。慌てる事もない。

 

ジョンちゃんを床に戻し、残りの記録をまとめてからワシは部屋を出た。退屈している、先生の元へ向かって。


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