私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
(毎日更新なんて出来るわけあらへんわ(泣き言))
「━━━━あとは、近接主体ばかりだよね」
ゆっくりと息を吐きながら。
株式会社腹パンの工場長黒豆パイセンは余裕綽々に言ってくる。本当、腹立つくらい余裕感。通報しようとも思ったけど、スマホはロッカールームなのでどうしようもなかった。通報したい。
「何したのかさっぱりわかんねぇ!!すり抜けただけでも強ェのに、ワープとか・・・!それってもう無敵じゃな━━━━」
「無敵じゃねぇ!!切島ァ!!てめぇの目ん玉は飾りか!!無敵なら態々身を隠す必要も、遠距離主体の連中を先に倒す理由もねぇだろうが!!」
かっちゃんの言葉を聞いて、轟が息を吐きながら冷気を体に漂わせ始める。
「つまり、条件さえ合えば、俺達の攻撃も普通に当たるって事だな。爆豪」
「てめぇには言ってねぇわ!!話し掛けてくんじゃねぇ!!ぶっ飛ばすぞ、ごら!!おい、分かったか!!馬鹿島ァ!!」
「お、おうっ!成る程、そういえば、そうか・・・!よっしゃ!!もう大丈夫だ!!個性のこととか細けぇことはわかんねぇから爆豪達頼むな!!━━━━俺がっ、時間稼ぐからよ!!」
焦りの消えた切島が硬化して拳をぶつけ合わせる。
ガチンと重い音と共に火花が散る。
それを見ていた黒豆パイセンが口笛を吹いた。
「熱いね!良いね!俺はそういうの好きだよ!探ってみなよ!」
そう言って駆け出した黒豆パイセンは、直ぐその体を地面に沈ませる。高速移動がくる。出てくる場所は不明。どこ狙いか黒豆パイセンの視線を追ったけど、流石に簡単には"次を"教えて貰えなかった。
なら、やることは一つ。
「全員ツーマンセル!!背中守れ!!」
私の声が響いたと同時、全員が側にいたやつと背中を合わせる。あのかっちゃんも状況が分かってるのか、渋い顔しながらもちゃんと轟と背中を合わせてる。
黒豆パイセンの攻撃の殆んどが背後の奇襲から始まってる。伊達に戦闘訓練はしてない。不意討ちでなければ、皆そう簡単には倒されない。
「━━━でもそれじゃ、君が余るね!」
背後から声が聞こえてきた。
予想通りの動きに合わせ、振り向き様に後ろ回し蹴りをかましてやる━━━けど、やっぱりすかされた。
「必殺!!!」
黒豆パイセンの手が足をすり抜け、真っ直ぐ伸びてくる。私の目を目掛けて。本来なら避ける攻撃。
けれど━━━━━まるで怖さがない。
「ブラインドタッチ目潰し!!」
目に指が刺さった。
だけど痛みはないし、感触もない。
完全にすり抜けている。
指の影から黒豆パイセンの動きを追えば、腰元から勢いよく振り上げられるアッパーが見えた。
引き寄せる個性発動。
直ぐ下に見える地面と、この目の前の拳。
出力は勿論フルスロットルで。
「━━━━━━っぐっ!?」
ぶつかる寸前、引き寄せる個性が実体化した拳を捉え、勢いよく地面へと叩きつけた。直ぐにすり抜けていったからそこまでダメージはないだろうけど、手傷は負わせられた。なら、十分。
炎で視界を塞いでから引き寄せる個性で離脱。
無言くんと背中を合わせる尾白の所へ飛び、そのまま肩にライドオン。姉弟合体、フタオジロリオンモードに移行する。行くぞ、姉弟!!
「いきなり何だ!?緑谷!?」
「オジロリオン!見える範囲全力警戒!違和感があったらそっこー声あげて!!」
「!・・・・わ、分かったっ!」
「無言くんもオジロリオンと同じ!目を増やして警戒!!耳郎ちゃんで無理なら、音じゃ位置は掴めない!」
「・・・・!」
一人余ってオロオロする切島には、顔へ引き寄せる個性発動。無理矢理、顔をこちらへ振り向かせる。
「切島はパイセン見失ったら即硬化!」
「お、おう!分かった!!」
「他はコンビ組んだやつと視界をカバーしながら隙を見つけて随時攻撃!カウンター狙いじゃなくてもOK!!ずっとすり抜けていられる訳じゃない!!タイマン避けて数で押しきれ!!後は、馬鹿じゃないんだから自分で考える事!!以上!!」
本当なら攻撃の隙をついて攻撃するのがベスト。
だけどさっきの様子だと対策はバッチリされてる。
それなら下手な付け焼き刃は逆効果。得意を押し付ける方がまだ建設的。そもそもの地力に差があるから、これもどれだけ持つか分からんけども━━━━。
「緑谷くん!何かそちらに━━━━」
眼鏡の警戒するような声が鼓膜を揺らす。
そしてそれとほぼ同時。
オジロリオンの「石だ!緑谷!」というその声も。
「フェイク!!警戒!!」
叫んだ瞬間、眼鏡とお茶子の短い悲鳴が聞こえた。
「居たぞ!緑谷!」
オジロリオンの声を聞きながら視線を向ければ、倒れていく眼鏡達と地面に沈む黒豆パイセンの姿が視界に入る。警戒しててもこれだ。やってられない。
「お、おい!大丈夫か飯田、麗日!」
そんなお茶子達の姿に、お菓子兄貴が葉隠から離れてふらっと近づこうとした。引き寄せる個性で葉隠の所まで飛ばしてやろうかと思ったけど━━━少し遅かった。その前に葉隠が黒豆パイセンに腹パンされる。
「仲間想い、大事だよね!ヒーローを目指すなら!でも━━━━━━」
地面に崩れ落ちる葉隠の隣で、黒豆パイセンも地面に沈む。音もなく一瞬で姿が消える。
そしてまた短い悲鳴が鼓膜を揺らした。
「━━━━時と、場合は考えなくちゃね!!」
お菓子の兄貴が崩れ落ち、黒豆パイセンの姿が現れる。裸で格好はつかないけど感じる威圧感は十二分。その姿にはヴィラン連中とは違った怖さに満ちてる。
てか、あの筋肉の塊を一発でノックダウンとか、どんなパンチ力してん?やだ、怖い。あたい受けたくない。帰りたい。
「ふむふむ、ひーふーみーよー・・・後六人か。思ったよりずっと手強いな。流石に修羅場は潜ってないか。よし、それならこっちも、もう少しギアを━━━」
言い終わる寸前、氷柱の波が黒豆パイセンを押し潰す。
当たったかは分からないけど、かっちゃんはそこ目掛け爆撃を叩き落とす。轟音が鳴り、氷の粒が周囲に飛び散る。
「やかぁしいわ!!マンガ面!!グダグダ言ってねぇで、さっさと死ねや!!」
ヒーロー目指してるやつの台詞とは思えない怒号を発しながら、追撃にもう一つ爆撃を落とす。再びの轟音。今度は氷だけじゃなくて、飛び交うそれに石の粒も混じる。けれど、爆撃でボコボコになったそこに、黒豆パイセンの姿はない。
目を凝らせば、かっちゃんの後ろに拳を構える黒豆パイセンがいた。
「凄い個性だ、でも振り回すだけじゃ当たらないよ!」
「奇襲なら━━━━黙ってやれや!!馬鹿が!!」
爆破で加速した裏拳が背後を振り払う。
私の回し蹴り同様すかされるけど、かっちゃんはそのまま爆破で更に回転。加えて連続で爆破、回転を加速させる。そしてその勢いのまま、接近したパイセンの顔面目掛け裏拳を振り抜く。
拳が起こす音にしてはエグい音が鳴り響いた。
ただし空を切る系の音だけど。
「ハッハッハッ!凄いパンチだ!1年目でこれなら、将来有望だね!」
軽い口調と共にまた黒豆パイセンが地面に沈む。
かっちゃんはすかさず地面を爆撃で抉り飛ばしたけど、やっぱり黒豆パイセンを捕捉出来ない。
「緑谷!何かないか!」
オジロリオンの叫びが聞こえてくるけど、答えに詰まる。何かあるならとっくにやってる。
現状、もうどうにもならない。
策を練るにしても今ある手駒が限定的過ぎるんだもん。
かっちゃんは個としては間違いなく強いけど言うことあんまり聞かないし、轟は大雑把な範囲攻撃は出来ても小技とか出来ないし、無言くんも室内だと個性対象が少なくてあれだし、切島は馬鹿だし、オジロリオンは自分の得意な戦闘技術の部分でパイセンに完全に負けてるし・・・・搦め手を得意とするメンバーを最初にやられたのがあまりに痛過ぎるぅ!くそ、あの黒豆パイセンめがぁぁぁぁ!!
「オジロリオン!」
「思いついたか!言ってくれ!」
「逃げてぇ!!全力で逃げてぇ!私がフォローするから!」
「分かった、兎に角走って・・・作戦、なんだよな?」
「いや、私が叩かれたくないから」
「作戦でも何でもなかった!」
ふざけてる?のんのん!本気!あれに勝つ方法とかないから!勝利条件が黒豆パイセンを戦闘不能なら、無理ポヨだから!
「━━━ぐっへ」
下からそんな声が聞こえ、オジロリオンが前屈みに崩れ落ちてく。オジロリオンの背中を守ってた無言くんも。嫌な予感がして下を見れば、地面から上半身だけを生やした黒豆パイセンがいた。オジロリオンの腹に突き刺さってた右腕がゆっくり引き抜かれる。
「逃げるのも間違いじゃない。そういう判断が出来ないとプロヒーローとして長生き出来ないからね!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!変態がちん●ん丸見えできたぁぁぁぁ!」
「えっ、あれえぇっ!?」
動揺した瞬間、引き寄せる個性を発動。
黒豆パイセンの顔面にパイセンの拳をフルスロットルで引き合わせる。当たる寸前で引き抜き寄せる個性がすかる感覚が走ったけど、パイセンの顔面はその自分の拳で歪んだ。
「見ぃつけたぁ」
思わず溢れた私の声に黒豆パイセンが目を見開く。
そして私の目に恐らく映ってるそれを見て、不適な笑みを返してきた。
「初戦闘中それを探り当てたのは、師以外じゃ君が初めてだよ・・・・!」
それだけ言うと黒豆パイセンが拳を構え直して地面から飛び出してきた。そしてそのまま私の腹目掛け拳を振り抜く。だけど簡単には当たってやらない。
体を背後に見える地面にフルスロットルで引き寄せ。
流石にノーモーションには反応出来ないみたいで、黒豆パイセンの拳が空を切っ━━━━!?
「惜しい。俺はまだ、飛び出しきってないよ」
途中で止まった拳と、地面に沈み込んだままの片足が見えた。黒豆パイセンのそれまでの言動と合わせ考えれば、直ぐそれに思い至った。その言葉が何を意味してるのか。
明後日の方向に飛ぶ筈の黒豆パイセンの体が、私の方向目掛け弾かれるように飛んでくる。
拳を構えたまま、しかも全裸で。
色んな意味で最悪のそれは。
「━━━━ぐぇ!?」
鈍い痛みと共に終わった。
「ギリギリちんちん見えないように努めたけど!!すみませんね女性陣!!とまァーーこんな感じだよね」
結局あの後、かっちゃん達もそれなりに健闘したものの見事に全員腹パンで沈められ、拳による説明会が終わった。タフネスかっちゃんはなんやかんや三発耐えたみたいだけど、今はグロッキーで一人倒れてる。下手に耐えるから・・・かっちゃん?大丈夫?かっちゃーん?駄目だ、返事がない屍のようだ。
というか、呆気らかんとしてる黒豆パイセンに言いたい。お前服脱いで腹パンしただけやんけ、と。犯罪だよ、犯罪。ツカッチーに報告だよ。
「俺の個性強かった?」
軽い口調に腹パン被害者の会の皆から非難の声があがる。強すぎるとか、ずるいとか、チート野郎とか、変態とか、変態とか、露出狂とか、粗チン野郎とか。心ない罵倒にショックを受けながら、黒豆パイセンは自分の個性である透過の話を始めた。
アホみたいに長い話で、興味なかったので殆んど右から左に流したけど、やっぱりパンチ食らう前に見た地面から弾き飛ばされたように見えたあれや、ワープのような高速移動は個性の特性を利用した特殊な移動方だったみたい。だと思ったよね。くそぉぅ。
それから苦労話というか服が脱げた話とかしてたんだけど、ありがたい話を聞くと眠くなる病が発症してウトウトしてしまった━━━ので聞いて無かった。
目が覚めた時には黒豆パイセンがテンション爆アゲで熱く語ってる所だった。
「長くなったけど、コレが手合わせの理由!言葉より"経験"で伝えたかった!インターンにおいて我々は『お客』ではなくて一人のサイドキック!プロと同列に扱われるんだよね!」
「それはとても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち合う・・・・!けれど恐い想いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一級品の"経験"」
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
それを聞いた皆は納得したように拍手する。
百は「話せば直ぐ終わりましたのに」と悪意なく皮肉ってたけど。うんうん、まったくもってせやな。多分、質問時間とか普通に設けられたよね。有益なお話聞けたよね。腹パンしなくても、全然すんだよね?腹パンしたかっただけでしょ?寧ろ?そういうのは、そういうお店でやってよね。マジで。
それから程なくしてチャイムの音が体育館に響き渡り、お腹への痛みを残しながらインターン説明会が終わった。帰り際、目があった黒豆パイセンは放っておいて天ちゃんパイセンとねじれんパイセンと連絡交換をお願いした。ねじれんパイセンは即行でOK、天ちゃんパイセンも「俺なんかの連絡先なんて、価値ないと思うけど」と渋りながらも教えてくれる。黒豆パイセンのはノーセンキューしておいた。アナタ、ハラニ、パンチシタカラ、キライ。イヤ。キシャァァァァ、コッチクルナァー!
◇◇◇
「無駄にケガさせるかと思ってたの、知らなかったでしょ!?でも全員がケガなしで偉いなぁと思ったの今」
1年生へのインターン説明会の帰り道。
俺達の隣を歩く楽しげな波動さんの言葉に、興奮気味にミリオが口を開いた。
「いやしかし、危なかったんだよね!ちんち━━━」
「誰か面白い子いた!?気になるの不思議。私はね、やっぱり、あしどんちゃんの角が気になる!ね、あれ不思議!ね!」
波動さんのお陰で最後まで聞こえなかったけど。
ミリオ、それは女の子に言っちゃ駄目なやつだからね。
後でちゃんと注意しておこう。
だけど今はそれよりもある事が気になった。
「・・・・ミリオは、随分と気に入ったみたいだね。あの子だろ、ミリオが気にしてたの」
俺の言葉にミリオは満面の笑みを浮かべた。
恐らく教室に入ってから━━いや、もっと前からミリオは誰かを気にしていた。それが誰かは聞かなかったし、ミリオ自身何も言わなかったから傍観してたけど、戦い始めて直ぐそれが誰だったのか気づいた。獲物を見つけた肉食獣のように、獰猛な笑みを浮かべ彼女を見つめるミリオを見れば。
事実、ミリオが気にするだけの事はあった。
彼女は全体的に未熟ではあったけど、初の顔合わせで今のミリオに一発でも攻撃を当てたのは、俺の知る限り一人もいない。
「噂には聞いてたけど吹っ飛んでるね!彼女!不意討ちの手際もそうだったけど、それよりなにより個性を見抜く目!行動を予測する分析力!目潰しに動じず反撃してくる胆力!作戦を組み立てる頭の回転の早さ!人を指揮する能力にその影響力の高さ!その上ユーモアだってある!・・・驚いたよ、あれで1年生なんだぜ!?負けてられないよな!環!」
「負けてられないのは・・・そうかも知れないけど、でも今のミリオには、勝てる人を探す方が難しいと思うよ・・・・」
「そんなことないさ!世界は広い!俺より凄いやつなんてゴロゴロいるって!相澤先生はああ言ってくれたけど、俺自身No.1なんて言われる器じゃぁないからね!━━━まぁ、それを目指してる事に、なんら変わりはないけれど」
ギラっと光が灯った瞳に傲慢さはない。
宿ったそれは、ただひたすらの灼熱の向上心。
ミリオは雄英のトップに立って尚、まだここが限界だとは欠片も思ってないのだろう。
「ふふふ、それにしても、サーが気に入りそうな子だったなぁ」
「・・・サー・ナイトアイが?」
「ああ、サーに良い報告が出来そうだよ!」
嬉しそうにそう言ったミリオの陰から、ニュッと波動さんが顔を出してきた。その表情は何処か不服そう。
「もー!二人で何を盛り上がってるの!私も交ぜて!リューキュウさんの話をすれば良いの?」
「・・・別に、インターン先のプロヒーローの話をしてたんじゃない━━━」
波動さんを止めようとしたら、ミリオがぐっと胸の所で力強く拳を握った。
「よし、波動さん!面白そうだからリューキュウさんの話聞くよ!」
「ミリオまで乗ったら収拾がつかなくなるから。それにのんびり話しながら帰る時間は━━━━━」
ミリオを止めようとしたら波動さんがこっちに身を乗り出してきた。
「それじゃこの間のインターンの時の話をするね!」
「・・・・うん、聞くよ」
結局止められなかった俺達は波動さんのとりとめのない話を聞きながら、波動さんの歩調に合わせて長い廊下を進んだ。チャイムの音が鳴るまでに教室に戻れなかったのは言うまでもない。