私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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まさかの二話投稿。休みの日って、素晴らしい。


『Conflicting darkness』な閑話の巻き

大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ。

それを見失った俺だからこそ、誰より胸を張って言える。それは性格がとか、個性がとか、生まれがとか、生い立ちがとか・・・そういう単純な話じゃぁない。

 

単純な話さ。

 

恐らく人を作る上での根底、当たり前にあるそれだ。

寧ろ持ってねぇやつのが圧倒的に少ないだろう。

誰しも自分がなんなのか、誰に教えられるまでもなく、物心ついた頃にゃ大なり小なり持ってるもんだ。

 

持ってないさ。

 

勇気のあるやつ、臆病なやつ、お人好しなやつ、卑怯なやつ、乱暴なやつ、気弱なやつ。それを伝える言葉は幾らでもあって、きっと誰しもがそのどれかで、そのどれでもないんだろう。だが、きっと、誰しもが自分が何なのか答えるに違いない。根拠のない自信を持って。

 

根拠もあるさ。

 

けれどな、一度そいつを手放しちまうと途端に分からなくなる。それまで堅牢だと思ってた足元が崩れ落ち、自分が何処にいたのか、何処を見ているのか見失う。暗闇に落とされるように、視界の先には黒以外何も映らない。否定と肯定が頭を巡る。お前は誰なのか、そんな自問自答を繰り返す。呆れる程に延々と。

そうしていつか気づくのさ。

 

てめぇが、どうしようもなく。

狂っちまったって事に(狂ってないって事に)

あ?で、結局何が言いてぇのかって?

 

俺がてめぇのお友達だよって事さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見るからに不衛生だな。ここが拠点か?」

 

俺の背後を歩く男が不意にそう呟いた。

新人候補の癖に生意気なやつだ。大人しく付いてくるってのが礼儀ってもんだろうが。まぁ、俺達みたいなロクデナシが常識語るのもおかしな話ではあるが。

 

しかし、言われてみればひでぇ場所か。

雑木林の奥にひっそり佇むそこは、十年近く前に打ち捨てられた小さな工場。錆び付いたドアを開けばよく分からない資材が埃と一緒に積まれ、オイルだか何だか分からない液体が床に染みを作ってやがる。おまけに虫はいるわ、ネズミはいるわ、蛇はいるわと小動物のテーマパーク状態。お世辞にもパーティー会場とは言えねぇな。

前はシャレ乙なバーで楽しくやってた事を考えると、ここは確かにほんの少し見映えが悪いが━━━都会でも元気にドブネズミしてた事を考えりゃ、俺達にはよく似合ってると思えなくもないけどな。

 

「ああ!いきなり本拠地連れてくかよ。面接会場ってとこ」

「面接会場か・・・勘弁してくれよ。随分と埃っぽいな・・・病気になりそうだ」

「安心しろ、中の奴らはとっくに病気だ」

 

工場内を進んで少し、開けた場所に辿り着いた。

予定通り、死柄木を始め皆の姿がある。トガちゃん、コンプレス、マグ姉。面接官が勢揃いだ。

軽く手を上げればコンプレスが同じように手を上げて返事を返してくれた。

 

「話してみたら意外と良い奴でよ!!死柄木と話をさせろってよ!感じ悪いよな!!」

 

男を紹介すると死柄木がじっと男を見つめ、スッと息を吐いた。

 

「・・・・とんだ大物連れてきたな・・・トゥワイス」

 

大物という言葉に男を見れば、男は品定めするような目で皆を見た後「大物とは皮肉が効いてるな、ヴィラン連合」と軽く口を叩く。黙らせようかとも思ったが、肝心の死柄木は大して気にした様子もない。元より品性のあるお友達でないことも考え、ただの戯れ言だと放っておく事にする。

 

「何、大物って。有名人!?」

「"先生"に写真を見せてもらったことがある。いわゆるスジ者さ。『死穢八斎會』その若頭だ」

「極道!?やだ初めて見たわ危険な香り!」

 

死柄木とマグ姉の会話を聞いてトガちゃんが不思議そうに首を傾げる。少し考えた後、背の高い機材に腰掛けるコンプレスへ視線を向けた。

 

「私たちと何が違う人でしょう?」

「ん?そうか、最近の子はヤクザ屋さんってピンとこないかぁー。よーし、中卒のトガちゃんにおじさんが教えてあげよう」

 

そういうとコンプレスは指を鳴らす。

弾けるような音と共に、両の掌に銃とドスに似たナイフが現れた。コンプレスはそれを手元で遊ばせながら語る。

 

「昔はね、こーんな武器を持った裏社会を取り仕切る恐ーい団体が沢山あったんだ。でも、ヒーローが隆盛してからは摘発と解体が進み、オールマイトの登場で時代を終えた。シッポが掴まれなかった生き残りはヴィラン予備軍って扱いで監視されながら細々生きてんのさ。ハッキリいって時代遅れの天然記念物」

「天然記念物???ナイフなら私も持ってますよ?ヤクザ屋さんですか?」

「ハハハッ、そうだねー。でも刃物持ってればヤクザ屋さんって訳じゃぁないよ。結局、本質的な所にそう変わりはないから、あとは所属によって呼び方が変わる感じ。俺達はヴィラン連合に所属してるから、そのままヴィラン屋さんって所かな?」

「ふーん、なんとなく分かりました。トガはヴィラン屋さんですね」

 

納得した様子のトガちゃんが男に無邪気な視線を向ければ、男はつまらなそうに「まぁ、間違ってはいない」と呟く。馬鹿にされたわりには表情や態度に変化はない。キレた野郎かと思ってたが、こういう時に冷静でいられるのは何よりだ。まともなお話が出来る。

 

「それでその細々ライフの極道くんがなぜウチに?あなたもオールマイトが活動休止してハイになっちゃったタイプ?」

 

マグ姉の言葉に男は軽く首を横に振る。

 

「いや・・・・俺としては、オールマイトよりもオール・フォー・ワンの消失が大きい」

 

その言葉に死柄木の気配が僅かに変わる。

重く息苦しくなるような、それに。

男は気づいてる様子だったが気にせずに続けた。

 

「裏社会の全てを支配していたという闇の帝王・・・俺の世代じゃ都市伝説扱いだった。だが、老人たちは確信をもって畏れてた。死亡説が噂されても尚な。それが今回実体を現し・・・タルタロスへとブチ込まれた」

 

「つまり今は、日向も日陰も支配者がいない」

 

「じゃぁ次は、誰が支配者になるか?」

 

男が声を発する度に死柄木の機嫌は更に悪くなっていくが、死柄木は何も言わず男に先を促す。

するとそんな死柄木の姿に「宛が外れたな」と小さく呟くと、そのまま話を続けた。

 

「順当に考えれば、オール・フォー・ワンの後釜はお前だろう。━━━だが、お前の中にプランはあるか?目標を達する為の、明確なプランが」

 

「ヒーロー殺しステインを始め、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚ムーンフィッシュ・・・どれも駒として一級品だがすぐに落としてるな?使い方が分からなかったか?」

 

「いかれた人間十余人もまともに操れない者が、あの怪物の後釜?名前に惹かれ集まる折角の駒が、先の連中と同じように、無駄に消費されるのは想像に難くない。なんとも勿体ない話だ」

 

男の言葉を静かに聞いていた死柄木は「それで、結局何が言いたい?」と返す。死柄木らしくない穏やかな口調に、背筋に寒気が走っていった。最近の死柄木はこういう時がある。得体の知れない、気配を発する時が。

 

「俺にはお前達と違ってプランがある。明確で確かな結果をもたらすプランだ。ただそれを遂行するには莫大な金が要る。時代遅れの小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きは中々いなくてな。だから、お前達の名前が必要なんだ━━━━━俺の傘下に入れ。お前達を使ってみせよう。そして俺が、次の支配者になる」

 

男が言い切ると死柄木は乾いた笑い声をあげた。

脳裏にあの日見た、先生と呼ばれた男の姿が過る。

 

「夢のある話だ、是非頑張ってくれ。それじゃ話は終わっただろ?手ぶらで"帰す"のはあれだが、今はお前を喜ばせるような物が手元になくてな。出口はあっちだ」

 

出口へ向かって手を差し向けた死柄木に男が目を細める。纏う空気も鋭い物へと変わった。

 

「・・・俺の話を聞いてなかったのか」

「聞いていたさ。小学生が将来の夢を語る作文みたいに、夢の沢山詰まったお話だったな。それで?俺達とそれがなんの関係がある?ああ、心配するな。お前らの邪魔はしないさ。俺達の目の届かない隅の方で、俺達の邪魔にならないようにいそいそ企めばいい。好きにしてくれ━━━俺が、許可する」

「誰が、何を許可する・・・と?」

「お前がやりたいプランとやらの、許可だよ。聞いてなかったのか?」

 

その言葉を切っ掛けに殺気がそこに溢れた。

死柄木と男以外の全員が思わず戦闘態勢をとる程の、全身を針で刺されるような濃厚な殺意。吐き気すら込み上げるそこで、死柄木は肩を揺らしながら笑う。

 

「何を怒る必要があるんだ?"オーバーホール"。折角許可してやったのに」

「お前の許可を得る理由はない。お前は偶然目の前で空いた椅子に腰掛けただけの、ただの紛い物だろう。違うのか」

「そうだとして、お前と俺の肩書きが変わる訳でもないだろう?お前の欲しいヴィラン連合の名前は俺の物で、お前は碌に人も金も集められない死穢八斎會という落ちぶれたヤクザの一構成員でしかない。それが分からないなら、分不相応な夢なんて見ずに残飯でも漁ってろ。お前ら落ち目のヤクザ者にはお似合いだろ」

 

死柄木の言葉にオーバーホールは体から垂れ流す殺意を強め手袋を外した。その姿に俺は手首に収まってる武器の止め金に指を掛けたが━━━それより早く、オーバーホールの体が不自然な体勢で飛んだ。

 

「おいたは駄目よ、極道くん。これでもウチの大切なリーダーなんだから」

 

声の先にはマグ姉が磁石によく似た武器を構えていた。

マグ姉の個性が使われてる証拠に、オーバーホールの体に淡い光がまとわりついてる。オーバーホールは抵抗してるように見えるが、体はどんどんとマグ姉の元へと引き寄せられていく。

 

「勘違いしてるみたいだから言っておくわ。私達はね、誰かの下で使われる為に集まってるんじゃないの」

 

近づいていくオーバーホールの姿を見ながら。

 

「こないだ友達と会ってきたのよ。内気で恥ずかしがり屋だけど、私の素性を知っても尚、友達でいてくれた子。彼女が言ってたわ『常識という鎖に繋がれた人が、繋がれてない人を笑ってる』ってね」

 

マグ姉はゆっくり武器を振りかぶる。

 

「何にも縛られずに生きたくてここにいる。私達の居場所は私達が決めるわ!!それを邪魔しようってんなら、あんた死になさいよ!!」

 

そして怒号と共に武器が振り下ろされる。

鈍い音が鳴りオーバーホールの膝が折れる。

けれど、倒れはしなかった。

 

 

 

「先に手を出したのは、おまえらだ」

 

 

 

その声とほぼ同時だった。

マグ姉の上半身が弾け飛んだのは。

 

周囲に飛び散った赤い斑点、鼻につく鉄の臭いでようやく我に返った。音を立てて地面に崩れ落ちる、その下半身から目が離せなかった。

 

「待て、コンプレス!」

 

死柄木の声に顔を上げると、オーバーホールを押さえにいったコンプレスの姿が見えて━━━━━また、赤い飛沫が視界に入り込んできた。

 

「ってぇぇぇぇぇ!?」

 

地面に崩れ落ちたコンプレスの隣を死柄木が駆ける。

伸ばした掌は真っ直ぐオーバーホールへ向けられていた。

 

「━━━━盾っ!!」

 

オーバーホールの声に見知らぬ男が現れ、死柄木との間に体を割り込ませる。死柄木の個性は触れたそいつを瞬時に塵へと変え、オイルに汚れた地面へ新しい染みを作り出す。

 

「危ない所でしたよ、オーバーホール」

 

その言葉と共にオーバーホールの周りに仮面を着けた集団が現れた。ある者は壁を突き破り、ある者は天井から飛び込み、ある者は物陰から姿を見せる。

 

「待てっ、どこから!!尾行はされてなかった!」

「大方どいつかの個性だろう、頭冷やせトゥワイス」

 

頭を冷やせ?頭を冷やせだと?なんで、どうして、そんな事が言える。冷やせる筈がねぇ。死んだんだ。目の前で、マグ姉が。無くなっちまったんだ、コンプレスの腕が。今にも沸騰しちまいそうだってのに、それを、冷やせだと?死柄木!

 

声をあげようとしたが、死柄木の嫌に冷たい視線に言葉が出なかった。コンプレスのうめき声が聞こえ、死柄木のことはおいてそこへ駆け寄れば、傷口から赤い液体が止めどなく溢れているのが見えた。

 

「大丈夫か!?コンプレス!!」

 

声を掛けたが返事はなかった。

痛みのあまり気を失っているか、荒い呼吸を繰り返し呻くだけ。

 

「穏便に済ましたかったよ。ヴィラン連合。こうなると冷静な判断を欠く。そうだな戦力を削り合うのも不毛だし・・・ちょうど死体はお互いに一つ・・・キリも良い。頭を冷やして後日また話そう━━━━ああ、腕一本はまけてくれ」

 

腕一本をまけろ?

死体が一つ?

キリも良い?

不毛?

 

おい、おい、おい・・・。

何を言ってんだ。

こいつは・・・・!!

 

「てめェ!!!殺してやる!!!」

「弔くん、私刺せるよ。刺すね」

 

俺に続いてトガちゃんも武器を構えた。

後は曲がりなりにもボスである死柄木の言葉待ちだったんだが、死柄木は一言「駄目だ」と言いやがった。

 

「責任をとらせろ!!!死柄木!!」

 

怒鳴りつけたが死柄木はオーバーホールに視線を向けたまま動かない。その姿を見てオーバーホールは俺達に背を向けて出口を開いた。

 

「直ぐにとは言わないが、なるべく早めが良い。他の連中が勢いづく前に手を打ちたいからな。・・・それはあんた達も同じだろう。ヴィラン連合」

 

ヒュ、とオーバーホールから白い紙切れが投げられた。

それは死柄木の足元に落ちる。

 

「冷静になったら、電話してくれ」

 

それだけ言うとオーバーホールは仮面の集団を引き連れて工場の外へ出ていく。死柄木を無視して追い掛けたが、錆び付いたドアの向こうには薄暗い雑木林があるだけだった。


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