私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「緑谷さん!今度の休み、インターンに行こう!」
「えっ、嫌です」
学校で唯一の楽しみであるお昼休み。
皆と和気あいあいとカキフライ定食を食していると、約束通り本当にやってきた黒豆パイセンにそんな事を言われた。休みの日の予定なんて聞いてきたから、てっきりそういう事かと思ったのに・・・・マジか。マジかこの人。マジか。
「そう言わずに考えてみてよ。緑谷さんなら俺がお世話になってるサー・・・・って言っても分からないかな?プロヒーローも許可を出してくれると思うんだ。緑谷さんにとっても悪い経験にはならないだろうし、お給料も結構良いよ」
「お給料も・・・いやいや、行きませんよ。働きたくないので。ていうか、朝の時も最初にそれを言って下さいよ。即行で断ったのに」
それを聞いて黒豆パイセンは眉を下げた。
「そうか・・・まぁ、時間はまだあるから、気が変わったら教えて欲しい」
「気は変わりませんよ。大人になったら嫌でも働かなくちゃいけないのに、何だって学生の内からお仕事させようとするんですかね?まったく」
「はははっ、ごめんね」
そう言うと黒豆パイセンは私の前で割り箸を割った。そしてそのまま熱々のラーメンをハフハフしながら美味しそうに啜る。気持ちよく麺を啜りきったパイセンはレンゲでスープを飲みほっと息を吐く。
「やっぱりラーメンは醤油だよね!いや味噌も塩も、勿論とんこつだって好きなんだけどね?俺、ラーメン全般好きだから。でも、何も考えないで手が出るのは醤油なんだよ」
そう感想を言うと、またスープを飲み、メンマを齧り、湯気の漂う熱々の麺を啜ってく。私はズルズルと啜られる油でキラキラするその麺を眺めながら、思った事を口に出してみる事にした。
「いや、普通に気まずいっ!!」
「ん?」
黒豆パイセンは不思議そうな顔でラーメンを尚も啜る。
スープまで飲み始めた。ていうか、チャーシュー美味しそう・・・じゃ、なくてっ!
「何っ『きょとん?』としてるんですか?えっ、おかしいの私の方?!お茶子!おかしいの私!?普通さ、ここは『邪魔したね』って的な事言って去らない!?去るよね!?私だって去るよ?!ラーメンは啜らないし、ラーメン好きな事話し出さないよ!?」
隣へ振り向けば、お茶子は「そやねー」と少し困った顔になる。パイセンに気を使って言えないだけで、これはもう同意した顔なんですけどもっ!お茶子の隣の梅雨ちゃんも似たような顔で「けろぉ・・・」と言葉を濁してる。はい同意二つです!更に同意を求めて反対側へ振り返ってみれば、かっちゃんがパイセンを睨みつけたままアホみたいに真っ赤っかな担々麺を啜ってる。また糞辛そうなの食べてる。唐辛子って感じの臭いが凄い。かっちゃんは本当に舌馬鹿だな。地獄食ってるようなもんじゃん。
それでいつも前に座ってる轟は斜め前、かっちゃんの真ん前に移動してる。あっちはあっちで全然気にしない。かっちゃんに睨まれててても、隣でラーメン啜ってるパイセンがいても、平気な顔で当たり前のように天ぷら蕎麦啜ってる。ちょっとは気にして欲しい━━━というか、こういう時こそ私の前を確保してよぉ!前はそんなんじゃなかったでしょ!空気読めるようになってからにぃ!ていうか、その海老天うまそうなんですけど!今度海老天食べようっと!
「綺麗に追い出された眼鏡と切島は、まぁ良いとして・・・」
「ひでぇな、おい!緑谷!」
「食事中に立つのは感心しないな、切島くん」
私はもう一人のイレギュラーへ視線を向けた。普段こんな所にいないレアキャラもレアキャラ。八人掛けのテーブルにも関わらず眼鏡と切島が追い出される羽目になった原因。最後の二枠を奪っていった、そいつに。
そいつは私が見てる事に気づくと、口にしていた携帯食のゼリーの容器を握り潰し中身を一気に喉の奥へ流し込んだ。そしてテーブルに両手を勢いよくつくと、立ち上がり満面の笑みで話掛けてくる。
「緑谷さん!話終わりました!?終わりましたよね!よかった。それじゃ早速以前頼まれていたベイビースターの改良品についてご説明させて貰いますね!ああ、改良品の実物は検査から戻ってきたら直ぐ渡しますので、今日は取り敢えずこちらの資料に目を通して下さい!」
そう言うと発目は素早く隣の椅子の上に載せておいた糞重そうなバッグから書類を取り出し渡してくる。私がそれを受け取ると、書類の指差しながら説明を始めた。
「改良版は以前の物より若干耐久力は落ちますが、内部に収納空間を設けました。これにより内部カートリッジを変更し、用途に合わせた特殊弾が使用可能になります。現在検査を通った物はクモの巣形のネットが飛び出す捕縛弾、催涙ガスの入ったガス弾、発信器の入った追跡弾の三種類です。閃光弾に関してですが、審査で材料に問題があると却下されてしまいました。それについてはまた別の手段を考えますのでお待ち下さい。外装に関していえば、ご希望通りベイビースターの形状に飾りを足して8タイプの動物形に変更しておきました。ポップな仕上がりにしてますから見た目はヒーローの道具として申し分ないかと思いますが、飾りにギミックはありませんし、空気抵抗を考えるとデメリットの方が大きいです。無駄な装飾だと思うんですけど本当に必要ですか?」
「えーいるでしょ。可愛いじゃん」
「緑谷さんがそう言うなら別に構いませんが━━━あっ、それとですね。例の新装備についてなんですが、試作品8号が仕上がりました。調整する必要があるので、今日の帰りにうちのラボにきて貰えますか?」
特別用事もないので調整の件にOKを出すと「以上です!では!」と資料を片付け始めた。ゼリーを流し込んだだけで立ち去る気満々である。こいつこれだけの為に来たのか。んで、お昼ご飯を何だと思ってんだか。
「ちょいちょい、お昼それで終わり?味気無さすぎるでしょ」
「いえ!問題ありません!他の必要な栄養素はサプリメントで摂取していますので!ラボに帰ったら栄養ドリンクと飲みます!」
何処が大丈夫なのか聞いてみたい。
私なら発狂するよね、そんなの。
「飲みます、じゃないからね?食べるもん食べないと倒れるでしょ。ほら口開けな、カキフライ一個あげるから」
「いえいえ!お気になさらずに!過剰な食事は消化器官にエネルギーを持っていかれ脳が鈍りますのでこの辺りでちょうど良いんです!ご心配なく!開発は遅れさせませ━━━━━ふごぉ!!」
喧しい口目掛けカキフライを引き寄せる個性でぶちこんでおいた。カキフライを飲み物のように飲み込んだ発目が珍しく少し驚いた顔する。そのまま引き寄せる個性で椅子に座るよう体を引っこ抜いてやれば、くぐもった声と共に発目が椅子の上に戻った。
「目の下に隈作ってフラフラしてるやつが調整したアイテムとか、欠片も信用出来ないからね?ビジネスパートナーとして命令。ご飯食べて寝ろ」
「しかしですね!時間は待ってはくれません!刻一刻と私の中で沸き上がる━━━━ふごぉ!!」
口答えしてきたので切島の唐揚げを口にぶちこんでやった。なんか切島が「お、おれの!」とか騒いでるけど、それはスルーしておく。丁度良いの他に無かったの。めんご。
「はいはい、文句言わない。あんまり聞き分けないと、もうテスターしてあげないからね」
「なっ!それは・・・・!?」
発目は不服そうな顔をしてるけど、テスターの話を聞いて百面相してから渋々と椅子に座った。
「それでよし。どうせお金も持ってきてないだろうし、今日の所はかっちゃんが奢ったげるから、今度からはちゃんとしなよ」
「・・・・分かりました。今度は・・・無駄に思えますけど、そうします。無駄に思えますけど」
「二回も無駄言うなし」
「━━━━いや、待てや。なんでナチュラルに俺が奢る事になってんだ。ごら」
いや、だって、私はお金ないもん。
恵まれない子猫達にオヤツあげたり、ゲームソフト買ったりしてたら何もなくなっちゃってさ。次のお小遣いの日がくるまで、お昼ご飯以外はアイス一本も買えないんだよね。あっはっはっはっ。
不機嫌そうなかっちゃんに本日二回目の一生のお願いすれば奢ってはくれなかったけど、なんやかんやお昼代として千円を貸してくれた(返済日不明)。かっちゃんからの千円を私から受け取った発目は適当にランチを買ってきて席に戻るなり不服そうにご飯を食べて始める。食べるペースの早さにさっさと帰りたい様子が見てとれる。
どんだけ開発したいんだと様子を伺っていたら、不意に顔をあげた発目と目が合った。
「・・・・カキフライのお返しではないですが、ハンバーグ少し食べますか」
「いいの?じゃ貰う。さんきゅー」
お言葉に甘えてハンバーグの切れっぱしを貰う。
口に含むとまだ熱々な肉汁が掛けられたソースと混ざり合いながら口の中に広がっていった。うまうまな所にご飯をかきこめばお口の中が更に幸せになった。ご飯がとってもススムくんなお味である。やっぱり日本人はお米だよね。
「・・・・俺の唐揚げ」
「・・・・切島くん。僕のアジフライで良ければ、少し食べるかい?」
「い、飯田!?マジでか!?」
別のテーブルで友情フラグが立ったような気がした所で、目の前に席についてた黒豆パイセンが「気持ちいい食べっぷりだね」と陽気な声で言ってきた。乙女の食事シーンをガン見とか変態か!と軽く睨めば、手招きしてるのが見えた。何だろうかと不審に思い首を傾げると、黒豆パイセンが箸でラーメンに乗った煮卵を指した。
「緑谷さん、煮卵って好き?」
「えぇ?まぁ、コンビニのおでんとかでは、必ず頼む程度には」
「じゃぁ、俺の煮卵あげるよ。ご飯中に変な話しちゃったお詫びにさ」
「えぇ!マジすか!あざっす!」
良いというなら貰う。私の辞書に遠慮という文字はない。あざーすっていって終わりである。ただより恐い物はないけれど、一旦あげると言った上でそれが何の対価なのか明確なら迷うまでもない。
さっと煮卵をキャッチしようと箸を伸ばすと、横から箸がやってきて私の箸をガシッと掴んだ。箸と箸を合わせるとはなんて罰当たりなっと箸が伸びてきた方向へ振り返らば、鬼のような顔したかっちゃんの顔があった。
「な、何故にっ?かっちゃん別に煮卵好きでも・・・はっ!!貴様っ、貴様もか!煮卵の魔力に、ついに!かっちゃん!煮卵は渡さぬ!渡さぬぞ!」
「・・・・煮卵だな?」
「えっ?」
私の睨みを軽く流したかっちゃんは、レンゲで担々麺の上に載ったソレを掬い上げた。美味しそうな醤油色ではなく、マグマのように真っ赤に染まったソレを。ランチを配膳してくれたおばちゃんが笑いながらかっちゃんの担々麺に入れたオマケ、ランチなんたら料理長が面白半分で作って食堂スタッフが誰一人食べられなかったとか聞いた激辛煮卵を。
「ほらよ」
ゆっくり近づいてくるソレからは危険な香りがする。
もはや食べ物の臭いではない。数十キロの唐辛子を集めて握り固めた塊!みたいな、そんな感じのヤバい臭いがする。
「いっ、いらない!」
拒否したけどレンゲは関係なしに迫ってくる。
箸を放って両手で止めようとしたけど、馬鹿力が凄くて全然止まらない。最近体つきゴツくなったなぁとは思ってたけど、今かっちゃんの腕に込められたそれは私の予想を遥かに越えたパワーだった。何こいつぅ!?マジで!?
目と鼻の先まできたソレに死ぬほど焦ってると、丁度大口をあけた切島が目に入った。咄嗟に引き寄せる個性で煮卵を引っこ抜けば、邪悪な赤い塊は弾丸みたいに回転しながらレンゲを飛び出す。そしてもう一つの対象である切島の口の中にシュートされた。
「━━━━━ごふぁっ!?なっ、ん、だ・・・・ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?おうぇぇぇぇぇぇぇぇ!!かっ、きゃれぇっ!?ひゅぇ!?かぁぁぁぁぁぁ!!」
「切島くん!?」
のたうち回る切島を横に息をつけば、かっちゃんが不機嫌そうに舌打ちした。舌打ちしたいのはこっちだけど、下手に舌打ちするとあの得体の知れないスープとか口に突っ込まれそうだから余計な事は言わないでおく。恐いっ。
スープの辛さを想像して思わず震えると、前から笑い声が聞こえてきた。
「ハッハッハッハッ!君たちはご飯の時でも楽しそうだね。どんな時でも笑えるのは良いことだ。でも食べ物で遊んではいけないよ?それで煮卵はどうする?」
「すみませんしたぁ・・・えー、あー、煮卵はー、今はちょっと良いです。口の中が辛くなりそうで。うぇ」
「そっか、アハッハッハッハッ」
楽しそうに笑う黒豆パイセンの隣。
大人しく蕎麦を啜ってた轟と目が合う。
轟は蕎麦の上に載った海老天と私を何度か見たあと、それを小皿に載せスッと差し出してきた。
言葉は無かったけどその優しい顔に察する。
きっとかっちゃんに虐められた私を見かねてくれたのだ。分かる。今なら轟の気持ちが分かる。轟お兄ちゃぁん。
心の底からベストブレンズにしてお兄ちゃんである轟の優しさに感謝して小皿を手に取る。けれど、一瞬目を放した隙に海老天はそこから消えていた。何が起こったのか分からず呆けてると、隣からバリバリと小気味良い音が聞こえる。
そっと視線をそこへ向ければ、海老天を咥えたかっちゃんがいた。かっちゃんは海老天を咀嚼し終えると「はっ、んな大したもんでもねぇな」と吐き捨てる。
そんな姿を見てから数秒の間をおいて、私の中で戦いのゴングが鳴り響いた。
「・・・・・おう、さっきからこの野郎。久し振りに切れちまったよ。校舎裏に来いや。爆発頭」
「おう、上等だ。ボケが。こっちもどっかの馬鹿のせいでストレス溜まってんだ」
それからお互い胸ぐらを掴み合い、メンチをきりながら校舎裏まで行ったのだが、喧嘩を始める前に包帯先生に見つかって正座をさせられた。トイレ以外、授業中も休み時間も関係なしで放課後まで正座させられた。
足が死ぬほど痺れたのは言うでもない。
という訳で、包帯先生ぇぇぇぇ!寮までおぶって下さい!!あっ、違う!今日は発目の所にいかないと、そういう訳で包帯先生!サポート科の実習棟までお願いします!えっ?自分でいけ?這ってでもいけ?そんなせっしょうぉうなぁあぁぁぁぁー!