私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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原作弔くんがリーダーしてて嬉しい、今日この頃。


食べ物系って大体普通のやつが一番美味しいんだけど、メニューの端っこに載ってるいかにもなやつに心引かれるのは仕方ないと思うの。いや、私は選ばないけどね。代わりに冒険してきちゃいなよ、ゆー。の巻き

「緑谷さん!これから暇なら、一緒に買い食いしに行こうよ!美味しいたい焼き屋さん知ってるんだ!」

 

そう言って教室のドアを開いたのは、ここ最近常連さんである黒豆パイセン。時計の針は既に放課後の時間を指し示していて、今さっき包帯先生が帰りのHRを終わらせた所。微妙な顔で黒豆パイセンを見てる包帯先生以外、もうすっかり慣れた皆は気軽に黒豆パイセンに挨拶して帰ってく。

 

「緑谷さん、どうかな?」

「・・・・はぁ。まぁ、暇ですし・・・奢りなら良いですけど?」

「よし!じゃ行こう!そこのチョコクリームと、醤油豚骨風ラーメンたい焼きっていうのが奇抜だけど美味しいらしいんだよ!クラスメイトが言ってた!」

「いや、そこはチョコクリームだけで良いです。何ですか、そのラーメンたい焼きって。見えてる地雷じゃないですか」

「そうかなぁ?いやいや、でもこういう物って名前だけじゃ分からないものだからね」

「分かりますよ。それは幾らなんでも」

 

黒豆パイセンと話してると仲間になりたそうにしてるあしどんと葉隠が見えた。なので黒豆パイセンに他にも誘っていいか聞けば悩む事なくOKしてくれた。ふとっぱらなパイセンの心意気を無駄にしない為に女子ーズ全員に声掛けすれば、インターン関連の用事があるお茶子と梅雨ちゃん以外は来る事になった。男子?男子は知らん。

 

「男の子達も行きたい人はいないかな!?」

 

あっ、自分で誘ってる。

お財布に幾ら入ってんだろ?大丈夫なん?もしやお金持ち?

 

インターンの話を断ってから今日までの、この一週間。黒豆パイセンはやたらと絡んできた。休み時間に会えば気さくに話し掛けてきて、声も届かなそうな所で偶然目が合えば全力で手を振られ、放課後になれば何処かに出掛けようと誘ってくる。最初こそ何処にでも現れるパイセンを皆も怪しい者を見る目付きで眺めていた。けど、邪気を感じさせない爽やかな笑顔を振り撒きながら、寒いギャグを連発する間抜けを晒し続けるパイセンの姿に警戒心を抱き続けるのは無理というもので・・・今では来るのが普通みたいな感じで皆接してる。包帯先生より溶け込んでる感すらある。

 

ツッコミはこの一週間の間でパプアニューギニアの辺りまで全部ぶっ飛んでいってしまったのだろうなぁ。

 

「━━━緑谷さん!聞いてる?男の子達も何人か来たいって子がいてね。彼らも一緒に・・・あっ、爆豪くんも一緒に行こう!たい焼き食べよう!」

「ああん!?行かねぇわ!つか、当たり前な面して入ってくんなや!帰れや先輩よぉ!」

「ハッハッハッハッ!爆豪くんはやっぱり手厳しいなぁ!」

 

あっ、一人は残ってた。さすかつ。

そんな機敏にツッコミを入れたかっちゃんに轟が近づいてく。

 

「爆豪、行くぞ。書類にサインして貰うんだろ」

「やかぁしいわ!行くからちと待っとけや!!」

 

書類という言葉にかっちゃんを見れば、居心地悪そうにそっぽを向いてきた。あれだけ轟に啖呵切っておいて、結局私をのけ者におハゲの所に行くみたいだから、気まずいのも当然か。でもまぁ、かっちゃんがこの数日の間、私のすべらない小話も聞かず上の空で悩んでたのは知ってるから・・・何かいうつもりはないけどね。私のすべらない、すんばらしい小話を聞かなかった事には文句あるけども。

 

「おハゲのところ?」

「・・・だったら文句あんのか、ああ?」

「文句は無いけどさ・・・まぁ、頑張れ。応援してる」

「!?・・・・お、おう?」

 

普通に応援したら物凄い妙な目で見られた。

なんなん?なんて目で見てきてん?なにが「変なもんでも食ったのか?」なん?んんん?もしかして喧嘩売ってる?買っちゃろか?貯めたポイントカードきって買っちゃろか?私にだってからかって良い時とそうじゃない時を判断出来る分別くらいあるわぃ。こんにゃろ。

 

かっちゃんにメンチ切ってると「緑谷もくるか?」と轟が聞いてきた。最近、轟のお兄ちゃんムーヴが強い。双虎にゃんその優しさに、胸の所がちょっとホワっとしちゃったぜ。

 

「━━━だからといって、行かないけども」

「?そうか。・・・親父が言った事を気にしてるなら、そこら辺は心配しなくて良いぞ。事務所としては、緑谷の受け入れに関して前向きらしいからな。サインは俺が書かせる」

 

キリッとした顔でそう言う轟の顔はやたら格好良く見えた。その面構えは、もう完全に私のうぉにぃちゃんである。いや、あんちゃんかも知れない。

しかし、ナチュラルイケメンなだけあってボーッとしてないだけで雰囲気がめちゃくちゃ変わるなぁ。普通にイケメン。いつもこの顔ならモテるだろうに・・・・いや、今でもキャーキャー言われてたか。一緒に食堂行くと般若の顔で睨んでくる女子のオンパレードだし。あれ地味に怖いんだよね。

 

取り敢えず元より行く気はないし、お気持ちだけ貰って断っておく。すると「俺個人としては、一緒に行きたかったんだけどな」とか何とか可愛い事言ってきたので、褒美にチロ●チョコを進呈してあげた。よきに計らえ。

 

かっちゃん達を見送ってから黒豆パイセンを先頭に出発。包帯先生の「馬鹿な真似はするなよ」という見送りの言葉を背に私達は女子ーズ(ridお茶子・梅雨ちゃん)と瀬呂・尾白・常闇の三人をお供に学校を旅立った。

 

皆でスイーツの話をしながら歩くこと十分ちょい。

学校の直ぐ近くの大きな公園の中、噴水のある広場に目的のたい焼き屋の車を発見した。ちゃんと営業中である。メニューが書いてある看板を黒豆パイセンと女子ーズの面々で覗けば、オススメにチョコクリームの絵が載ってる。なんかトッピングも出来るらしく、アイスクリームとかホイップクリームとか載せられるらしい。全部載せの写真とか載ってるけど絵面が凄い。横にされたたい焼きにクリームとかチョコフレークとか果物とかアホみたいに盛られてる。もうたい焼きである意味がない捨て身スタイルである。甘い物は好きだけど・・・うぇ、想像しただけで口の中が甘い。私、何事も程々だと思うの。

 

「おぉ~全部盛りっ・・・・!」

「葉隠、それは止めときな。通形先輩のお財布の為にも、自分の為にも。流石にこんなに食べれないでしょ」

「!?・・・そっ、そうですよね!えぇ、勿論!そうですとも!芦戸さんの言うとおりです!葉隠さん、お夕飯も近いんですから!」

「・・・・ヤオモモ、普通にこれにしようとしてたでしょ?しっかし、なにこれ。見てるだけで口の中甘くなってくるんだけど」

 

皆の言葉を聞いて男連中も覗いてきた。

そして総じて微妙な顔をする。

 

「白亜の悪夢っ」

「女子でも無理なら、俺なら死ぬな。・・・尾白、地味男から勇者にジョブチェンジ出来るチャンスだぞ」

「ミスタードンマイこそ勇者チャンスだぞ。汚名返上の為に頑張ればいいよ、瀬呂」

 

「尾白くぅん、言うじゃなぁーいのぅ?」

「瀬呂こそ面白い冗談だったよ。ははは」

 

「一触即発、混沌の訪れ・・・か」

 

よく分からんけど・・・まぁ、楽しそうだから放っておく。

 

そんな間にも黒豆パイセンはカウンターからこっちを眺めていた店員のおっさんに注文を始めた。

 

「醤油豚骨風ラーメンたい焼き人数分お願いします!」

「おう、兄ちゃん!冒険者だねぇ!五百円まけちゃる!」

「ありがとう御座います!!」

 

まてまてまてまてまてまてまて。

まて、おい。こら。良い顔でサムズアップをするな。その立てた親指へし折るぞ。

 

説得の結果、女子はチョコクリームになり、男連中は醤油豚骨風ラーメンになった。瀬呂と尾白はそこに自腹で全部盛りを敢行。今は出来上がったそれを、体をガタガタ震わせながら食べてる。大量のホイップクリームが気持ち悪くなってきたのか。醤油豚骨と甘い物がミスマッチ過ぎたのか。ほんま、あほやで。

 

「はぁ、愚かな。白亜の悪夢を自ら召喚するとは」

 

さっきも聞いた。常闇ン、それなに?ホイップクリームのこと?

アホ連中を横目に公園のベンチでのんびりたい焼きを頬張ってると、豚骨臭いたい焼きを持った黒豆パイセンが隣に座った。さっきまで座ってたあしどんと葉隠はジュース買いにいっていないし、直ぐ誰か座る訳じゃないから空いてるけど・・・・豚骨臭いし離れて欲しい。チョコクリームの味がぶれる。

 

軽く視線でどくように訴えたけど、黒豆パイセンはそんな事を気にせずたい焼きにかぶりつく。豚骨の臭いが更に強くなった。なに、いやがらせ?

 

「・・・・うん!なんかべちゃっとしてるね!」

「それってどういうあれですか?」

「一言で言うなら不思議な味だね!豚骨っぽいけど、なんかよく分からない味!」

「そーですか。良かったですね」

「いやーこんな感じとは。ハッハッハッハッ!まいったね!」

 

それは不味いと言ってるのと同じですやん。

黒豆パイセンはそれでも美味しそうにたい焼きを食べきり、ふぅと息をつきながらベンチに背を預けた。その食べっぷりに少し美味しいのか?と思ったけど、常闇んが普通の醤油豚骨たい焼きに顔をしかめていたのでただの錯覚のようだ。危ない、騙される所だった。

 

「一週間、付きまとってごめんね。それと俺に付き合ってくれてありがとう。緑谷さん」

 

不意にそんな声が聞こえた。

視線を向ければ黒豆パイセンは少しだけ真剣な顔で空を眺めながめている。

 

「良いですよ、別に。美少女に生まれた宿命みたいなものなんで。・・・それに、先輩はあれから一度もインターンの話しなかったじゃないですか」

 

黒豆パイセンはこの一週間、本当にアホみたいに絡んできた。だけど、あの日以来インターンの事は言ってこなかった。ただ話し掛けてきて世間話したり、遊びに誘ってきたり、手を振ってきたり、挨拶してきたり━━━それだけだ。教室にやってくるのは少し『うわぁ』とは思ったけど。

 

「インターンは嫌だって言ってたからね」

「それは確かに言いましたけど・・・それじゃ何しにきてるか分からなくないですか?先輩、どんな理由があるのか分かりませんけど、私をインターンに誘いにきたんですよね?」

「そうだよ。でも、強要させたい訳じゃないし、君に嫌な思いさせたい訳でもなかったから。まぁ、仕方ないかなって」

 

仕方ないで勧誘終わらせたのか、この人。

本当になんで私の所に通ってたんだか。

 

「前から思ってましたけど、先輩って結構アホですよね?」

「ハッハッハッハッ、それはよく言われる。もっと器用に生きられたら、いい返事も聞けたのかも知れないけど・・・俺はどうもそういうのは苦手でさ」

 

そう言って真剣だった横顔に苦笑いが浮かぶ。

 

「でもね、そこで諦める事も出来なかったんだ。どうしても緑谷さんにはインターンにきて欲しかったから。気が変わってくれないかなって、そんな事を思いながら話し掛けてた」

「結果は散々だったみたいですけどねぇー」

 

皮肉を言ったつもりなんだけど、黒豆パイセンは何故か楽しそうな笑った。

 

「いやいや、そんな事ないさ。楽しかったよ、良い時間を過ごせた。緑谷さんの周りは毎日賑やかで、見ていて飽きなかった」

「そうですか?」

「少なくとも、俺が見てる間はね」

 

そう言われても特別何かあった覚えはない。

黒豆パイセンがいてもいなくても大体あんなものだ。

何が面白かったのか考えてると男連中のうめき声が聞こえてきた。見ればホイップクリームを口の周りにつけたアホ二人が、未だに白い山が載ったたい焼きを手に項垂れてる。見かねた百が嬉々として向かっていった所を見れば、あのホワイトデビルの寿命も風前の灯火だろうなぁ。

 

「ハッハッハッハッ、ほらね?」

「いや、あれはあいつらがアホなだけで、私のせいではないんですけど」

「そうかも知れないね。でも君がいないと、皆はそもそもここにいないと思うけどな?」

「いや、男連中誘ったのは先輩ですが?」

「ハッハッハッハッ!口では敵わないな!降参だよ」

 

一頻り笑った後、黒豆パイセンはまた真剣な眼差しをこっちに向けた。

 

「緑谷さん、これを最後にする。サー・ナイトアイの所へインターンにきてみない」

「行かないですよ・・・って言いたい所なんですけど、断る前に理由聞いても良いですか?」

「深い理由はないかな。俺が緑谷さんを気に入ったから!それだけ!」

 

気に入ったって所に嘘はなさそう。

たけど、"それだけ"は少し嘘が混じってる気がする。

目をじっと見つめれば黒豆パイセンは困ったように眉を下げる。それから少し葛藤した後、諦めたように溜息をつくと口を開いた

 

「・・・そうだね、それだけは流石に嘘かな。緑谷さんの姿に不安を覚えたからだよ。目潰しの攻撃、避けれたのに避けなかったよね?」

「避けなくても大丈夫だと思ったので」

「それでも普通の人は避けるよ。まして攻撃へ意識は割けない。緑谷さんは俺の動きを追っていたよね。あの瞬間、俺はぞくりとしたよ。指の隙間から目があった時。単純に凄いと思った。オールマイトが推薦するだけあるって熱くなった」

 

そう言う割に、黒豆パイセンの顔に高揚感は見えない。

代わりに私を見つめる瞳に映ってるのは、少しかっちゃんが浮かべるモノに似てる気がした。

 

「緑谷さん、君はいつかヒーローになると思う。きっと俺より強くなれる。きっとそれは沢山の人を助ける。君が守りたいものを守れると思う。━━━けれど、いつか君は何かを犠牲にする。自分の意思で。君は極限の中でその選択が出来る人だ」

 

「だから、俺は教えたいと思った。気に入った後輩がいつか不幸に見舞われた時、自分を守れる手段を一つでも増やしたいと思った。その為には訓練じゃなく、実戦の中で伝えるのが一番だと思ったんだ。少なくとも俺は、インターンの経験で強くなれたから」

 

「どうか考えて欲しい。君自身の為に。君を支えてくれる人達の為に。いつか君に救われた誰かの為に。俺は笑顔に囲まれてヒーローを続ける、君が見たい」

 

今度の言葉に嘘は見えない。きっと本心からの言葉だろう。何を企んでるのかと身構えていたのに、すっかり拍子抜けだ。まさか打算も何もない、ただのお節介だとは思わなかったけど。

 

言われてる事は分かる。私のことは、私が一番知ってる。きっと私は、そういう選択をする時が来ると思う。きっとその時、後悔なんてしないだろう。きっとそれが、最良だったっと胸を張って言える筈だから。

でもそれはきっと、私にとってだけの最良なのだ。

 

実力が伴えば、選択肢はずっと増える。

今まで選べなかったそれも。

 

「・・・そこまで分かってるなら、止めたりしないんですか?」

「緑谷さんの人生は緑谷さんの物だからね。それに止めたって君は止まらないだろう。そういう人だ。違うかな?」

「まぁ、そうかも知れないですね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・明日の休み、何処に行けば良いんですか?」

 

ぼんやり空を眺めて考えた後、そう口にすれば黒豆パイセンが目を輝かせた。なので勘違いしないようにそれだけはしっかり伝えておく。

 

「取り敢えず、先輩の紹介したい人を見に行くだけですからね?仮に向こうから許可が降りても・・・多分やらないと思いますし。後、帰りにラーメン奢って下さい。チャーシューと味たま追加で」

「いいよ!いいよ!来てくれるだけでも!サーに伝えておくよ!よぉーーし!そうと決まれば準備しなくちゃね!!行ってくるよ!」

「いや、準備って何を?それより歩いてる行ける場所じゃないんですよね?そのヒーロー事務所って。電車でいくなら━━━━━━って何処に行くのーーん!?黒豆パイセェェェェェェン!!ちょ、集合場所とか、時間とか、色々決める事があると思うんですけどぉ!?ちょ、マジか、あの人!」

 

それから暫くして、取っ捕まえた黒豆パイセンにラリアット食らわせたけど、その事について反省はしてない。

やつがわるい。まる。


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