私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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何度読み返してみても・・・それはあかんやろ。
そう思ってしまったで、サーよ。


取り敢えず、犯罪みたら110。悪いやつみても110。女の子をくすぐってるオッサンがいる?意味わからん。プレイ?プレイなん?でもまぁ、君がそう思うなら、圧倒的に110!の巻き

何かと賑やかだった一週間が終わり、迎えた週末のその日。お茶子の目覚ましビンタで早起きした私は休みの日にも関わらず制服に袖を通して、朝早くから黒豆パイセンと電車に揺られていた。

 

ガタンガタンと音が響く車内。平日よりずっと人がいないそこで、私が思う事はただ一つ。

 

「黒豆パイセン」

「ん?どうかしたかな?」

「帰りたいっす」

「うん、直ぐ着くからもう少し頑張って!」

 

だって、皆お休みムードじゃぁぁぁぁん!?

なんで私これからバイトの面接みたいなのにいかないといけないの!?おかしくない!?学生の本分は?お勉強だよぉ?!もう、これ、殆どお仕事じゃぬぅぁい!えっ!?あなたいつも授業中寝てるでしょって?そそそそそ、そんなことないけど?あれは、集中力あげる為に瞑想してるだけだから!びっくりするほど聞いてるから!覚えてないけども!━━━━しかし、このお休みムードを目にするのは本当につらいな。別に混んでる電車が好きな訳ではないけど、周りが休んでる時に忙しなく働くのってなんかあれだ。つらい。つらぽよ。あれ、なんか涙出てきた。

 

「あれ、泣いてるの!?そんなにインターン嫌なの!?ご、ごめんね?誘って」

「違うんですっ、インターンがというか・・・皆が遊んでる時に自分だけ仕事的な何かをするのが心底嫌なだけなんです!何故に私だけ!皆も吐くほど働いたら良いのに!働けよ!月月火水木金金でしょ!?」

「わぁ、すごい、びっくりするほど自分本位だ。ハッハッハッハッ」

 

黒豆パイセンの楽しそうに笑い声をあげた。それとほぼ同時に車内へアナウンスが鳴り響く。次の駅の到着を報せるそれだ。流れたそれは私達の目的地の名前で、確認する為に黒豆パイセンを見れば頷いてくる。

 

「駅を降りたら直ぐだよ、緑谷さん」

 

どうやらもうすぐその時はくるらしい。

私は重い溜息を吐きながら窓の外を眺めた。

見知らぬ街並みが流れていくそこを見てると、ふと昨日の事を思い出す。苦々しい顔をしながらも止めないでくれた幼馴染の姿を。

 

「かっちゃん、大丈夫かな・・・」

 

前日、かっちゃんの部屋に乗り込んで黒豆パイセンとの話をすると、文句こそ言わなかったけど本当に嫌そうな顔をした。気にくわない態度ではあったけど、それが心配からきてるのが分かって文句は言う気にはならなかった。

 

『・・・なんかあったら、直ぐ連絡入れろや』

 

他にも色々言いたげだったけど、結局かっちゃんはそれだけしか言わなかった。それから不機嫌そうに冷蔵庫からシュークリーム引っ張り出しきたと思ったら、私の前にそれを置いて『食って帰れ。準備あんだろうが』とふて寝してしまった。その寝転んで見せた背中がどこか嬉しくて、ちょっと悪戯しちゃったのは仕方ないと思う。

 

私より早く出発したかっちゃん達に会う事はなかったけど、一言くらいは何か言ってあげたかったかな?メッセは送っておいたけどさ。今頃おハゲの所にはついてる頃かなぁー。んで、カバン開けたら怒るだろぉーなぁー。あはは。

 

「━━━うん、頑張れ。かっちゃん」

「?何か言ったかい?」

「いえいえ、何でもないっすー。そう言えば今日のラーメンってどこで食べるんですか?チャーシュー美味しい所が良いんですけど」

「ハッハッハッハッ!もうご飯の話か!気が早いね、緑谷さんは。任せておいて、美味しい所に連れていくよ!」

 

 

電車を降りてから少し、黒豆パイセンの言うとおり直ぐ目的地の事務所に辿り着いた。流石におハゲの所と比べるとちっさいビルだったけど、小さくてもビルを借りれるなら十分大きい事務所だろうな。こうなるとお給料に期待出来そう。━━━まあ、お給料貰うには働かないといけない訳で、働く気のない私には関係ないことではあるけど・・・・。

 

「いこう、緑谷さん。こっちが入口だよ」

「はいはーい」

 

ビルの中へ足を踏み入れてから、黒豆パイセンは紹介しようとしてるプロヒーローについて教えてきた。名前はサー・クロコ・・・・サー・ナイトアイ。七三のサラリーマンみたいな格好したヒーローらしい。元オールマイトのサイドキックでユーモアを大切にしてるんだとか。

 

「テレビだともっとストイックな感じなんだけどね。意外とお笑い番組とか好きで、ユーモアの研究してたりするよ。あっ、そうだ、サーと会ったら話し終わるまでに必ず一回はサーを笑わせるようにしてね」

「はぁ?笑わせる?」

「そうしないと門前払いされちゃうから」

 

えぇぇ・・・・なにそれ、お笑いの芸能事務所なの?ここ?ヒーローが芸能人と似たようなことやるのは知ってるけど・・・・うーん?マジか。

 

「そんな事、いきなり言われてもなぁ」

「ごめんね、急に。やっぱり難しい━━━」

「ピンのネタなんて、数えるくらいしかないですよ?あんまりウケなかったやつ。どうせなら黒豆パイセンとのコンビネタやらせて下さい」

「━━━訳でもないんだね。よし、きた!喜んで協力するよ!」

 

別に門前払いとかされても良い。働かなくていいならそれだけだ。一つ確認したい事はあったけど、それは黒豆パイセンから聞けば良い。でもこっちのネタがつまらないで追い出されるのは話が違う。癪である。ちょー癪。私を誰だと思ってるのかって話だ。生まれながらのエンターテイナー、歌って踊れておまけに漫才だって出来ちゃう世紀の美少女とは何を隠そう私の事だ。笑いが所望というなら是非とも笑わせてしんぜようではないか。

 

お茶子達と研鑽したネタを黒豆パイセンと打ち合わせ。

何度か軽く合わせた後、私達は即席漫才コンビ"タイガー&ボブ"を結成しサー・クロコ・・・んんんっの所へ向かう。戦争を止めてみせるっ!

 

「やつを笑わせて、私は先にいく!!ねぇ、ボブ!!目指せイッポンッッッ!!」

「ハッハッハッハッ、おぉー」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

自らの事務所にてヴィラン連合と死穢八斎會の追加報告を聞いた、その直ぐ後のこと。私は少し引いたレバーから手を離した。

 

「イヒャヒャヒャヒャ!ちょっ、サーっ!勘弁しっ、ヒャヒャヒャ!むりぃ!ほんと、もう、むりですっへひゃぁ!」

 

絶え間なく笑い声をあげるバブルガールは反省を示す言葉をその口から紡ぐ。しかしこれで何度目になるか考えれば、口からの反省だけでは明らかに足りない。暴力的な行為はあまり好かない事ではあるが、教育の仕方にはこうして体で覚えさせた方が身に付く事もある。私は心を鬼にして手元のレバーを引き、彼女を捕らえるくすぐりマシーン(通称TICKLE・HELL)の出力をあげた。

 

「バブルガール・・・常々、私は教えているな。元気とユーモアのない社会に未来はないと」

「はっひぃ!もひろん!!聞いてみゃすぅ!!アッ、ヒャッ、ヒャヒャ!」

「ならば何故学ばないのか。今の報告のどこに、ユーモアがあったのか答えてみなさい」

「はひぃっ、い、いや!いやいや!ユーモア混ぜる話じゃなかったじゃないですか!?かなりエグい話だったんですけど!?」

 

口答えしたのに合わせレバーを更に引けば、バブルガールの笑い声はそれに合わせ大きくなった。・・・まったく、見込みはあるのだが中々飲み込みが悪い。

 

「だからこそユーモアが必要なのだ。かのナンバーワンヒーロー、オールマイトはどんな時でも笑顔とユーモアを忘れなかった。どんな凄惨な現場でも、人々に笑顔と希望を与え続けた。ヒーローにとってのユーモアとは、単純に人を楽しませ笑わせるだけではなく、傷ついた心を癒し勇気づけるものでもあるのだ。分かるか?」

「あびゃ、あひゃっ、は、はひ!分かりました!!すごい、分かりましたぁ!!だから!止めて!止めて下さいよっ!!」

「ならば、一つ何か言ってみなさい。私がクスリとでもきたならば、装置を止めよう」

「むりむりむりむりむり!!ひゃはっ、ひゃ、めっ、滅多にっ、笑わないくせにぃ!!くっ、くそぅぅぅぅ!!誰かっ、私にっ、いひひひひっ!笑いのっ、神ををを!」

 

脇腹を高速でくすぐられ続けるバブルガールはその顔を百面相させながら唸り━━━━そして目を見開いた。

 

「こばっ、一つぅ!小話をば!!」

 

この状況で小話とはいい度胸だ。このような雑な前フリで私を笑わせるつもりとは。

しかし、その心意気は確かに受けとった。手助けはしてやろう。

 

私はバブルガールの心意気に応える為にスーツのボタンを外し、片側を勢いよく広げシャツをはだけさせながら手を差し出す。彼女が言いやすいように。

 

「OK!COME ON BUBBLE GIRL!!YEAAAAAAAH!!」

「ぶっはっ!!止めてっ、止めて下さいよ!ばっ、ばっかじゃないですか!?なんで、ひゃひゃ、なんで、サーが笑わせにきてるんですか!?真顔で、それはっ、ずるっいひゃひゃひゃ!!」

 

私は楽しそうに笑うバブルガールを暫し観察した後、静かにレバーを引いた。悲鳴のような笑い声があがったそんな時、不意に入口のドアが開く音が聞こえた。振り返ってみれば、ポニーテールを揺らす女子高生と何故かシャツを片側だけはだけさせたミリオの姿があった。

 

「「・・・・・」」

 

様子を見るにすぐに察した。

彼女こそがミリオの言っていた紹介したい者なのだろう。あのオールマイトが推薦した、次期ワンフォーオールの担い手として選んだ少女。

 

どう声を掛けるべきか悩んでいると彼女が私と自らの隣にいるミリオの姿を何度か確認し、真一文字に閉じていた口を開いた。

 

「・・・・・うわぁ」

 

嫌悪の籠った視線と共に、そんな声が聞こえてきた。

目には明らかな侮蔑が見てとれる。いい大人が向けられるものではない。変態や犯罪者を見るような目だ。

 

「い、いや!違うんだよ!?緑谷さん!サーはね」

「えっ?いやいやいや、えっ?いやいや、えぇぇぇないわぁぁぁぁぁ。あっすいません、ちょっと電話良いですか?」

「えっ?電話?うん、急ぎなら・・・まぁ、仕方ないね。良いけれど」

 

スリーコールくらいだろうか、彼女が耳につけたスマートフォンから男の声が聞こえてきた。怒鳴りつけるような乱暴な声である。しかしそんな声に気も留めず、少女は話を続ける。

 

「もしもし、かっちゃん。やばいとこにきちゃった。助けて」

「助け求めちゃったよ!」

「ついでに警察とガチムチにも連絡して」

「ちょっと待って!ちょっと、待って!!本当に!電話代わって良いかな!?お願いだから!!━━━あっ、もしもし!爆豪くん!?大丈夫!犯罪とかないから!本当に!通報はちょっと待って!お願いだから!」

 

少女からスマートフォンを借りたミリオが電話相手に理由を説明してる間、少女はこっちにひたすら侮蔑の視線を向けてくる。完全に変質者に向けるものだ。顔が整っているせいか、細められた眼差しが余計に冷く感じる。寒気がする程だ。ヒーローになってから様々な視線に晒されてきたが、流石にこれは堪えるものがある。

 

少女は私を警戒しながら通り過ぎていきバブルガールを捕らえてるマシーンの側へいった。そして少しマシーンを観察した後、スイッチであるレバーを停止位置におく。

 

「だ、だれか、しらひゃい、けど、たす、たすかったぁぁ・・・あり、がと、う、ねぇ」

「いえいえ、大丈夫ですか?直ぐ警察きますからね」

「けっ?けいさつ?な、なんで?」

 

少女はバブルガールと少し話した後、こっちをゴミを見る目で見てきた。

 

「鍵とか、持ってます?これの」

「・・・・鍵は、ない。装置の横に解除ボタンがある」

「ふぅん?」

 

少女はこちらをチラチラ見ながら、マシーンの解除ボタンを押しバブルガールを解放した。崩れ落ちるバブルガールをそのまま背負うと入口に向かっていく。

 

「あれ!?緑谷さん!?何処いくの!?えっ、帰るの!?」

 

ミリオの声に少女が振り返ってきた。

そしてやはりこちらを見る目は大概だった。

虫けらを見てるかのようだ。

 

「・・・・お笑いが厳しい世界なのは分かります。誰かを笑わせるのは、一筋縄ではいかないでしょう。テレビ見てて、心底思いました。文化祭で初めて友人と漫才コンビを組んだ時、痛いほど知りました。それこそ頭をしぼってネタを考えて、血反吐を吐くほどネタ合わせして、そうやって努力しないと駄目なんでしょう━━━けど、こんな乱暴なやり方、私は見過ごせませんよ。こんなもので、笑いが分かるわけないですからね!」

 

「笑いっていうのは、私達漫才師が心からお客を笑わせる為に!楽しんで貰う為に!自分の楽しい物を詰め込んで詰め込んで!それを誰かに伝える為に、心血を注いでお話を作って表現して!魂を燃やしてやるものでしょう!一発芸だって!コントだって!そこは変わらない!誰かを笑わせる!その気持ちが一番大切なんですよ!ハートですよ!ハート!」

 

「私は私のやり方でてっぺんとってやりますよ。貴方達が忘れてしまった、古くさいやり方で!彼女と!!それではお世話になりました!!」

 

バタン、と扉がしまった。

彼女達は部屋に残っていない。

私は彼女の背中が消えていった扉を眺めながら、自らのしてきた事を考えた。私は一体何をしてきたのか。人を笑わせる為に、こんな安い装置を使ってまでっ!使って・・・・。

 

 

「・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・?」

 

 

 

ふと顔を上げると、呆然とするミリオの顔が視界に入ってきた。ミリオは私を見て何とも言えない顔をしてる。そんなミリオを見ていると、ふとそれが過った。

 

「・・・ミリオ、彼女を止めにいってくれないか。色々誤解はあったが、取り敢えずこれだけは伝えて欲しい。━━━ここはまず、お笑いの芸能事務所ではない事を・・・!」

「はい、取り敢えずそれだけは伝えておきます!」

 

それから数十分後。疑いの眼差しを浮かべながら、110の表示が浮かぶスマホを持って戻ってきた彼女に、我が事務所の方針をいの一番に話したことは言うまでもない。ついでに通報はよしてくれ、という事も。


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