私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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シリアス大歓喜のヤクザ編、本格始動(*´ω`*)


失敗する時は失敗する、大切なのは失敗した後どうするかだよ?一つの失敗に泣かないで、立ち止まらないで!顔をあげて足を踏み出せば、きっと昨日より強くなれる。と偉い人も言ってるから、寝坊くらい許せ!の巻き

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、浮かべる笑顔は向日葵が如く、基本的には薔薇だよね!な私は名門雄英高等学校きっての天才美少女『緑谷双虎』、花も恥じらう16歳の現役女子高生☆!

命短し恋せよ乙女ってことで、勉強に遊びに恋に大忙しの毎日を過ごしてる私の元へ、いつものように新しい朝がきた。やったね!

 

窓から差し込む太陽の光を一杯に浴びた私は空の高さを煽り見る。見上げた空は澄み渡る青空。小鳥達が楽しそうに歌いながら飛んでいく。なんていい天気。綺麗な秋晴れね。今日はきっと良いことあるわ。うふふ。

 

暫く日向ぼっこしてから、私は枕元で充電していたスマホを手にとってサササッと操作。アプリの一つを開いてボタンをタッチして、そっと耳に当てた。

 

 

 

 

「お早うございます。今起きました!」

 

 

 

 

元気な挨拶に電話の向こうから黒豆パイセンが慌てた様子の声が響いてくる。私もびっくりしたから分かる。時計見てふぉあ!?ってなったよね!わかりみ!

 

『今起きたの?!今!?本当に今なの!?』

「はぁぁい!今起きました!マジで!私まだ布団の中ですけど!隣にはとらじろういますけど?あっははは!」

『あっはははではないよ!?ていうか、とらじろうってなに!?』

 

時刻は既に8時半を過ぎた所。本来なら七三の所で朝のミーティングとか受けてる時間なんだけど、私は自室の布団の上にいた。寮の自室のクーラーの風を直接浴びない絶妙な位置にセットした、相も変わらず安っぽいマイ布団の上にいた。抱き枕と一緒に。

 

やっちゃったよね!もうね!あはは!お茶子の言うとおり、直ぐに寝るんだったぁぁぁぁ!いやでも、仕方ないよね!?かっちゃんが寝る前に喧嘩売ってくるからさぁ!馬鹿とかアホとか言いたい放題!むきぃぃぃぃ!そもそもガチムチと包帯先生が陰湿なのが一番いけないのに!!いや、分かってるよ!?寝ちゃった私も少しは悪いさぁ!でもさ、言い方ってあるよね!なんか、こう、マイルドに言えるでしょ!?誰の脳みそにしわがないだぁ!しわあるわぁ!見たことないけども!

 

怒りも一時だけ。これからの事を考えて色々諦めて笑ってると、電話越しから早速七三の小言が聞こえてきた。何を言ってるか分からないけど、ネチネチしてるから絶対小言だ。黒豆パイセンも乾いた笑い声あげてるし。取り敢えず聞くとただでさえ頭痛が痛い頭が悪化しそうなのでスルーしといて話を続けた。

 

「えーと、で、クビですか?二度寝してもOK?」

『いや、二度寝しないで。大丈夫だから。取り敢えず今日の仕事場はこの間の事務所じゃないから、そこに直接集合ってことにしよう。仕事の内容はメールするから来る途中で読んでおいてね。着く時間が分かったら教えて・・・・・二度寝しないでね?』

「りょでーす」

『二度寝しないでね』

「うわぁい、 全然信用してなーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A組のインターンいけなかった組と朝ごはんを食べて暫く。チーターのように雄々しく走ったり、緊急事態ってことにして個性でかっ飛んだり、電車に揺られつつ仕事内容確認しながら何とか集合場所である街へついた。着替えはしてる時間がなかったので普通に私服。ヒーロースーツはリュックサックの中だ。

 

集合場所にきてスマホを確認すると、ちょうど待ち合わせの時間。けれど周りを見渡してみても黒豆パイセンの姿は見えない。黒豆パイセンが時間を遅れるとは思わなかったから、『遅刻するとは何事だぁぁぁぁぁー!!』とメッセを送ったら『緑谷さんにだけは言われたくないよ(;・ω・)』とお茶目なメッセが返ってきた。轟よりやりおる。事情を聞いたら電車が遅れてるみたい。

それならばと黒豆パイセンがつく前に着替えにいって良いかを聞けば、『いいよ。集合場所で待ってるから着替えてきて』とのこと。なので近場で着替えられそうな場所を探すことにした。

 

駅前だけあって店は多い。トイレとか借りてやるなら何処でも出来るだろう。けれどだ、いざ着替えるとなると中々に問題なのだ。なにせ私は、ヒーロースーツ着ちゃうと超有名人だから。以前のペロリストの一件以来、動画を見たとか言ってサイン求めてくる人がよくいる。普段はあんまり気づかれないけど、誰かが気づくと途端に集まってしまうのである。そもそも美少女だから仕方ないけど、やっぱり避けられる面倒は避けたいのが本音。今日は全自動人避け兵器のかっちゃんもいないし・・・。

 

取り敢えず駅から少し離れて人通りの少ない近場のコンビニに寄った。しかし残念ながらトイレは絶賛故障中。仕方なしに母様から前借りしたおこづかいで漫画とジュース、それとシュークリーム・・・といきたかったけど無かったので代わりにエクレアを購入し、次の宛を探して外に━━━━━むむむ?

 

「ナァー」

 

コンビニを出てすぐ。愛らしい声に視線を向ければ、コンビニの脇道から猫が顔を出していた。首輪はなし。野良猫だ。しかも毛がフッサフッサの猫。いつもなら放っておく。流石にやることをすっぽかして野良猫と戯れるほどお馬鹿ではない。━━━━しかし、その猫はまさかのアメリカンカールだったのだ。そう、アメリカンカール。長いフサフサの尻尾と垂れた耳が特徴的な、あの血統書つきの猫。雄英高にゃんこ大好きクラブ会長の私は一目でビビっときた。伊達に猫を追い掛け回してない。

 

素早くポケットから猫の棒オヤツを取り出す。

目の前でゆっくりちらつかせれば、猫が視線をそれを追い始める。その隙にスマホを構えて写真のアプリをタッチしたところ、私の動きに気づいた野良アメリカンカールがしゅぱっと路地裏に駆け込んでく。

 

非常事態なので個性でしゅばって追い掛ければ、逃走中の野良アメリカンカールを眼下に捉えられた。華麗に逃走する野良アメリカンカールを写メりながら追い掛けていると小さな足音が聞こえてくる。それは段々とこっちにきてるみたいで━━━━━。

 

「━━━━━っ!?」

 

突然通路の陰から白っぽい子が出て来た。

野良アメリカンカールに驚いて転びそうになってるので、引き寄せる個性でぐいっと引っこ抜いて腕の中に抱き止める。なんか思ったより軽くて拍子抜け。空中を飛びながら白っぽい子が駆けてきた通路を見たけど、誰か人の気配は見えない。てっきりその様子から何かに追われてるのかと思ったのに。まぁ、こんな路地裏に子供がいるのはあれなので、そのまま大通りに向けて体を引っこ抜く。

 

「あっ、の・・・・」

「あーごめんね。驚かせて。ロリコンにでも追い掛けられるのかと思ってさ?大丈夫だからしっかり掴まっててね。それより、ほら、こっち見てごらん」

「こっ、こっち?ふぇ!?」

 

パシャっと写真を取ると白っぽい子が目を丸くする。

大通りに着地してからスマホを見せれば白っぽい子が不思議そうに首を傾げた。

 

「・・・・?ね、こ?」

「ギリでツーショット!珍しいんだよ、この野良はさ。アメリカンカールっていって、普通は飼い猫しかいないの。高いんだよ、めちゃ高。野良アメリカンカールなんて私初めてみたよ。逃げ猫かな?何にせよ、私らついてるねぇー」

「つい、てる・・・?」

 

そうして白っぽい子はまた首を傾げた。

とても不思議そうに。

 

見た目の割にはのんびりした子だなぁと思ってると、白っぽい子からぐぅぅと間の抜けた音が聞こえてきた。少しきょとんとしていたけど、その子が自分が出した音だと気づくと、顔を赤くさせて少し恥ずかしそうに手をもじもじする。その仕草が可愛かったので頭を撫でくり回したくなったけど、手をあげた瞬間体が強張ったのが見えたので止めておいた。無理にやることじゃない。手に巻き付いてる包帯、落ち着きがない怯えた視線。極端に私の動きに肩をびくつかせる様子や小さく震える手足を見れば━━━それなりの理由があるのは分かるから。

 

代わりに腰を落として白っぽい子に視線を合わせる。

少しびくつかれたけど、頭を撫でようとした時よりは大丈夫そうでじっとこっちの目を見返してくる。

 

「初めまして。おねえさんはね、緑谷双虎っていうの。あなたのお名前は?」

「・・・・・な、まえ・・・・」

「ちゃんと言えたらオヤツとジュースを進呈しちゃうぞー。ついでに漫画もつけちゃる。どうじゃ」

 

ビニール袋から紙パックのジュースとエクレアを見せれば、白っぽい子の目がそれに釘付けになった。それから意を決したように口を開いて教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え、えり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今にも消え入りそうな。

本当に小さな声で。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

緑谷さんにとって初日の仕事となる今日、サーから与えられた任務はパトロールと監視。監視対象は『死穢八斎會』という小さな指定敵団体。最近妙な動きをみせるかれらの尻尾を掴む為、ナイトアイ事務所は以前より秘密裏に捜査していた。今でこそ小さな団体とはいえ、以前はそれなりに力を持っていた組織であり、当然油断出来る相手ではない。

 

そんな奴等を相手にする可能性もあって、サーは直接緑谷さんに注意を促したり仕事内容を説明するつもりだったんだろうけど・・・・緑谷さんが思いっきり寝坊したから、それは俺の仕事になってしまった。あの何ともいえないサーの顔は忘れられないよ。後でちゃんと謝って貰わないとなぁ。

 

電車の遅延で遅れ目的地について暫く。

待ち合わせ場所で待機してると緑谷さんからメッセージが届いた。アプリを開いて見てみれば『迷子うさぎゲットだぜぃ( *・ω・)ノ』『絶賛ヒーロー活動中なぅ☆』というメッセージと、緑谷さんと小さな女の子がクレープを食べながら一緒にピースしてる写真が表示される。人助けしてるのは良いことだとは思うけど、せめて合流だけはして欲しかったなぁ。

 

「それにしても・・・・」

 

写真に映った子供は格好が妙だった。

入院患者が着るような、飾り気のない無地のワンピース。袖や裾から覗く手足には肌が見えなくなるほど包帯が巻かれて、椅子に腰かけてるその子の足には靴すら無かった。緑谷さんがそういう事に気づかない訳がない。となれば警察に届ければ終わるそれをまだ行わず、態々写真を送ってきたのは、この子の処遇について判断を仰いでいるのかも知れない。

 

手足のそれに事件性がないのなら・・・例えば写真の子の年頃を考えれば、個性の発現による怪我の影響でそうしてる可能性もある。それとも単なる事故による怪我でそうしてる事だってある。━━━けれど、俺の脳裏にはあまり良いものは浮かんでこない。ニコリともせずにピースする彼女に、陰鬱とした陰が見えて仕方なかったからだ。とはいえ、俺の独断で保護する訳にもいかないが。

 

「取り敢えず、俺が判断するのは不味いかな。一度━━━━」

「すみません、少し良いですか?」

 

サーの電話番号に触れようとしたその時、背後から男の声が掛かった。その瞬間全身から冷や汗が噴き上がる。その声には聞き覚えがあったからだ。

 

「ヒーローの方ですよね。この辺ではあまり見ませんが」

 

サーに渡された数々の資料。その中にあったとある映像に同じ声が流れたのを記憶している。それは現在の死穢八斎會の中でも中心人物である、ある男を映した物だった。

 

「今見ていた写真の事で、お尋ねしたい事があるのですが・・・・お時間宜しいですか?」

 

振り返った先には鋭い二つの眼光がこちらを見ていた。

その眼光の持ち主は口元を隠すように嘴形のマスクをつけていた。黒のシャツによく映える白いネクタイを締め、その上からファーのついたカーキ色のアウターを羽織っている。格好こそ脳裏に過る映像と少し違っていたが、見間違うことなんてあり得ない。それは『オーバーホール』と呼ばれるヴィラン、ナイトアイが再三に渡って接触するなと告げていた死穢八斎會の治崎廻だった。

 

治崎は愛想笑いを浮かべて近づいてきた。敵意はほんの僅かも感じないが、警戒しているのはヒシヒシ伝わってくる。俺は直ぐに頭を切り替え、口を開いた。

 

「こんにちは、いい天気ですね!俺みたいなひよっこで答えられる事があれば喜んで。その素敵なマスク、確か八斎會の方ですよね?」

 

そう笑顔で返すと治崎は僅かに目を細める。

緊張が高まるのを肌に感じる。

 

「えぇ、マスクは気になさらず。空気の汚れに敏感なもので・・・・それより、先程の写真の件なのですが見せて頂いても?」

「申し訳ありません。一応ヒーローとしての仕事に関する写真でして。プライバシーの問題もありますし、部外者の方には━━━━」

「ええ、勿論。ヒーローの方の、大切なお仕事の邪魔をするつもりはありませんよ。ただ、今の写真に写っていたのが身内かも知れなかったので」

「身内・・・・ですか?」

 

俺の言葉に一つ頷き、治崎は続ける。

 

「ちょっと目を離した隙に迷子になった、うちの娘と似ていたんです。先程の写真の子、頭のこの辺りに角がありませんでしたか?ウェーブの掛かった長い白髪。私の不注意から怪我をさせてしまって手足に包帯が巻いてあります。どうですか、確認して頂けませんか?」

 

先程見た女の子の姿を思い浮かべれば、治崎の口にした特徴は一致していた。彼女が身内かどうかは別として、何らかの関わりがある可能性はある。

だが一つ腑に落ちない事があった。

 

「その様子だと、そうなんですね。いやぁ、随分と探しましたが、見つからなくて心配していたんです。まさかヒーローの方に保護して貰えてるとは思いませんでした」

 

欠片の感情も込もってないように聞こえる、治崎のその声が事だ。心配していると口にしながら、治崎の口はただ淡々と言葉を告げているだけ。喜びもなければ安堵もない。探したと言いながら必死さも焦燥もなかった。俺の視界に入ったのは薄ら寒い笑顔だけ。

 

「ありがとうございます。これであの子を迎えにいける」

 

そう言って頭を軽く下げた姿に、やはり俺は何も感じなかった。何一つも。


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