私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
天気が悪くなってきた事を理由に、これ幸いと大型のショッピングモールを訪れてから暫く。諸々の買い物を終えた私達は、パイセンからの連絡を待っている間、懸命に時間潰しという業務に勤しんでいた。
『はいラストー、捕食者のポーズだよ!』
機械が発した無茶ぶりな言葉に、隣のエリちゃんは慌てて変なポーズを取った。色々あっただろうに、何故に鶴の構え。まぁ、私がいれといて何だけど、捕食者のポーズっていきなり言われたら混乱もするよね。もっと可愛い言い方なかったのか?と思いつつ、両手を顔の横にセットしてガオーしとく。私の姿をみてエリちゃんはハッとした顔をしてカメラにガオーした。ちょーうぃ。
『3,2,1!』
パシャと音が鳴り、最後の写真が取り終る。
撮影が終わったことに気づくとエリちゃん胸を撫でおろし見るからにほっとするけど、直ぐ落書きタイムのお知らせがきてアワアワし始めた。
「落ち着くのじゃ、エリよ。隣のブースへ移動するぞぃ、付いて参れ」
「う、うん・・・・!」
先導して隣のブースへ。
映し出された写真を適当に選択し、やり方を教えながら落書きしていけば、それを真似してエリちゃんもおずおずと落書きしていく。けれどやっぱりこういう事には慣れてないのか、落書きの仕方がおしとやか過ぎた。私の体に触れないように、写真の隅っこばかりに星やら花やらをスタンプするだけ。
「ふっ。甘いぜ、エリりん。こういうのは、こうするのだ!」
「えっ・・・」
きょとんとするエリちゃんの前で、私のご尊顔にお手本としてダンディーな髭とか額に肉とか描いて見せる。やるならやる。それが大事。こういうのははっちゃけたもん勝ちなのだ。
いやぁしかし、これだけ描いてもまだ美人ときたものだ。私って、ごいすーだなぁ。
そこそこに落書きし『どやぁ』とエリちゃんを見たら、消しゴムで私の顔の落書きを一所懸命に消し始めた。何故かちょっと半泣きだった。そういうノリは好きじゃないみたい。ごめんよ、なんか。
仕方ないので可愛くデコって終わりにしておく。笑いまったくなしの、無難な置きにいった感が悲しいけど。捕食者の所だけはネコ髭とネコ耳をかいた。これだけは譲れない。
そうして出来上がったプリはエリちゃんと半分こ。
今は貼る場所がないのでさっさとバッグにしまってると、エリちゃんが半分こしたそれを手に何か言いたげにこっち見てるのが視界に入った。
「あ、あの、みどりやさん・・・」
「緑谷さんは止めい。エリちゃんに言われると背中がムズムズする。気軽に双虎とか、双虎お姉ちゃーんとか、ふたねえーとか呼ぶが良い。あっ、ニコでも良いよ」
「・・・ふ、ふたこさん」
「ほほぅ、どうしてもさんをつけると。エリちゃん中々の頑固者だな」
まぁ、良いけど。
「それでどしたん?」
改めて尋ねるとエリちゃんは両手で握り締めたプリをずいっと差し出してきた。早速プリを交換したいのかと思って財布からかっちゃんがどアップで映ってる魔除けプリを取り出したけど、思い切り首を横に振られた。
地味にご利益あるのに。
「よし、じゃあね、夏休みにB組女子ーズ・・・っても分からないか。えっとね、私の持ってる中でも結構なレアプリを交換しんぜよう。イッチーっていってね~」
「そ、そうじゃ、なく、て・・・・お金、ないから」
そう言ってまたしょんぼりするエリちゃん。
エリちゃんこの歳でかなりの気いつかいなのか、クレープを買ってあげた時もこんな感じだった。勿体ないお化けが出るぞ作戦で食べさせたけど。
私の子供の頃はそれが本当の意味でただな事を確認して、貰えるもんはなんでも貰ったものだけど・・・じぇねれーしょんきゃっぷ?ぎゃっぷ?を感じるなぁ。
「うーん、そっか。いらないかぁ。喜んで貰えると思ったのになぁ・・・・そっかぁ・・・」
わざとらしく項垂れてみれば、エリちゃんが焦った様子で手足をパタパタさせた。
「いっ、いらなくないよ。ほしいけど、でも、ふたこさんのお金でやったやつだから」
「それじゃこうしよう。これは二人で撮ったやつだから、お金も半分こ。その分の支払いは出世払いで良いよ」
「しゅっせばらい?」
きょとんとするエリちゃんの前で屈んで目を合わせれば、赤いルビーみたいな瞳に私の顔が映り込んだ。
「大人になってからで良いよってこと。クレープの事も気にしてるなら、それもそういう事にしよ。エクレアも、ジュースも、サンダルも。漫画は・・・読んでないからなし━━━━どうよ?ニコニコふたにゃんローンは金利0パーセントの安心で安全な運営をしております。今ご利用のお客様にはなんと!先着一名様にインターン限定版のニコのサインも付けちゃおう!」
「よく分からないけど、なんかすごい・・・・うん、しゅっせばらいにする。お名前と判子、いる?」
「のん、いらない。覚えとく、覚えていられるまで」
覚えてるつもりはないけど、ていうか普通に直ぐ忘れそう。あっははは、しかし名前と判子かぁ・・・子供ってこういう事何処で覚えてくるんだろう?謎だ。
それからまた暫くエリちゃんとゲーセンで遊んでると、ポケットに忍ばせたスマホが鳴り始めた。テンションあげあげな音楽に混じる不協和音、聞き慣れないその音楽は黒豆パイセンからの電話を報せるものだ。通話ボタンを押して耳に添えれば『緑谷さん!?』という黒豆パイセンの声が聞こえてくる。
「はいはい、皆のスーパーアイドル、緑谷双虎です。どうしたんですか?」
『えっ!?なに、聞こえないんだけど!?どこにいるの今!?で、何してるの!?』
「だからぁ!はいはい!皆のぉ!スーパー!アイドルぅ!緑谷!双虎ですけども!?どうしたんですかぁ!?」
そう返した瞬間、足元が僅かに狂いbadの文字が目の前のモニターに浮かんだ。ピッカピカに光ってた機械が通常状態へと戻り、画面端のコンボ数がリセットされる。後ろにいたギャラリーと隣で眺めていたエリちゃんから「あぁぁぁーー」という落胆の声が響いてきた。だよね、あと少しだったのに。
『今の声なに!?本当に何処にいるの!?あとこの煩い音楽なに!?ていうか、俺のメール見てくれた!?』
「えっ!?何ですか!?聞こえないんですけども!?それより何か分かりました!?もう直ぐオヤツの時間になっちゃいそうなんですけど!?七三の所に預けるんですか!?サツさんですか!?それとも私が定時あがりでそのまま連れ帰れって事ですか!?帰りますよ!もう!」
『駄目だよ!連れ帰ったら!!メール送ったの見てないの!?親御さんが━━━━』
『もう一曲、遊べるダン!』
「よっしゃぁ!次こそパーフェクト狙いにいっちゃうんで、ギャラリーの皆応援よろしくぅ!」
「がっ、がんばれー!」
「「「「イェーーーーー!!!」」」」
『よっしゃぁ!じゃぁないからね!?後ろの人達も煽らないで!!その子、そういうので凄く調子に乗るタイプの子だから━━━って、緑谷さん!?あ、緑谷さん!こら!また、何か始めたでしょ!!聞こえてるからね!!そっちの騒がしいの、聞こえるんだからね!?聞いて、お願いだから!!』
もうひとダンスしてからダンスダンスの達人V5にてパーフェクトを叩き出してから電話を掛け直すと、どうやらエリちゃんの親御さんが待ってるらしい。何時間も。何度もメールしたとか言われたけど、全然気づかなかった。言われてみれば、クレープを食べた後一回もスマホ見てない。やっちゃっちゃ。
━━━えっ?そもそも合流する事を一番に考えないかって?なに言ってるんですか!目の前に心身共々傷ついてそうな子供がいるんですよ!?そういう時こそ、一番に考えるのは子供の事でしょ!正義の心で凍った心を溶かす為に全力で相手をするのがヒーローじゃないんですか!時間がなんですか!仕事がなんですか!合流がなんですか!事務的に処理すればそれで終わりですか!?人任せで良いんですか!?見損ないました!七三のことはこれからもセクパワハラ野郎として嫌悪の眼差しで見つめることにします!!それが嫌だったら、今回のは経費で落として下さいありがとうございます!!ちっ、違いますぅ!私が遊びたかった訳じゃありませぇぇぇん!
疑いの声を振り切って、通話停止ボタンをタッチ。
メールの内容を確認してからスマホをポケットへ華麗にinしてると、心配そうにしてるエリちゃんと目が合う。
「━━━━━という訳で、エリちゃんの親御さんがこっちに迎えにくるそうです」
「おやご、さん・・・・・・まま・・・」
「あっ、それは聞いてなかった。どうだろ聞いてみる?残念、パパでした!ってくるかもよ?」
「ぱぱっ・・・・」
目を見開いたエリちゃんは少しだけ嬉しそうにして、直ぐに表情を曇らせて俯いた。笑ってはくれないものの、ようやくそれなりに元気になってくれたのに、またしょんぼりしてしまうとは。家庭環境が気になる。冗談抜きで。
今しがた確認したメールの内容はあまりに素っ気なさ過ぎた。私が送ったメッセに対して碌な返答がきてない。『親御さんが見つかった』『合流したい』という答えにもなってない返答だけ。電話でも最低限の情報しか与えて来なかった。そこに親御さんとやらがいるなら、エリちゃんと電話で会話するくらい選択肢としてあっただろうに。黒豆パイセンはかなり目敏い。私やかっちゃん並み、いや恐らくそれよりずっと上のレベルで。それなら私が写真を送った意味も、警察に届けなかった意味も気づいた筈だ。その上でメールでも、電話でも一切それに触れてないなら・・・・それなりの理由がある。
何よりエリちゃん自身、自分の事を話したがらない辺り地雷臭がプンプンなんだけども。
さて、何が迎えにくるのやら━━━━。
「ふたこさん」
考えに耽ってると、エリちゃんの声が聞こえてきた。
視線を落とすと指をモジモジさせながら地面を見つめるエリちゃんの姿が目に入る。
「なになに?」
「ママ、迎えに、きてくれる・・・のかな」
小さな呟きがやけに耳に響いた。
「どうかなぁー?エリちゃんママは会った事ないからなぁ。まぁ、うちの母様ならこういう時は腕捲りしながらくると思うけどね。絶対地を這うような声で『双虎ぉぉぉ!』って怒鳴り込んでくるよね。エリちゃんママもそんな感じ?」
私の言葉にエリちゃんは首を横に振る。
「・・・・分からない。ママのこと、あんまり覚えてないから。ずっと、会ってないから」
「そっか・・・」
「でも・・・・・来てくれたら、良いなぁ」
自分の指を見つめながらエリちゃんの言葉には淡い希望があった。漸く話してくれたそれは、本来普通で当たり前の事なのに、まるでそれが夢や幻みたいに考えてるように聞こえる。それだけ聞けばこの子がどんな環境で生きてきたのか、ある程度予想はつく。
「━━━よしよし、んじゃま、エリちゃん。親御さんが迎えにくるまで暇だからオヤツ買って待ってよう」
「オヤツ・・・・ジュース、も?」
「勿論、ジュースも買っちゃおう。何が良い?」
「あの、りんご、のジュースが良い」
「OK、OK、ご要望のままにエリ姫様」
小さな手を引きながら、私はお菓子を買いに歩き出す。これから私がやるべきことを考えながら。
まぁ、何がともあれ、その親御さんとやらにはじっくりOHANASIAIをしようとは思うが。
よぅし、手甲嵌めなくっちゃネ!
大量のオヤツと七三と書かれた領収書を手に、待ち合わせ場所となってるショッピングモールの広場に戻ると、黒豆パイセンと見るからにカタギじゃない輩がいた。嘴みたいなマスクを付けて、目付きが矢鱈と悪い輩だ。エリちゃんが私の服の裾を掴み恐怖で顔を歪めたので、即Uターンを決めたんだけど「エリ」という声が掛かってきてエリちゃんの足が止まる。
「探したんだぞ、何処に行ってたんだ」
男の軽い口調が聞こえると、エリちゃんの体が小刻みに震えた。なので常識的に判断してエリちゃんを輩から隠すように抱き締めて、原因へ思いっきりガン飛ばしながら掌を前に突き出し『止まれや、ボケが』と言外に伝える。足を止めた輩に私は満面の笑みを返した。
「こっ●倶楽部熟読してから出直せ、ボケなす」
空気が一際冷めた気がする。