私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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襲いかかるシリアス、抗う術はあるのだろうか。
あったらいいな(他人事)


いや、どんなに素がイケメンでもだよ?嘴みたいなアホマスクつけて、ハロウィンでもないのにどうどうと街を往来をするような奴は、変態だから。それは揺らがないから。だから逮捕して下さい警察の人。の巻き

「これは随分と口の悪いお嬢さんだ。ヒーローがそういった言葉づかいをするのは感心しませんね」

 

背筋が凍りそうな視線を向けた嘴だったけど、直ぐに頭を切り替えたのか吐いた言葉はトゲつきではあっても軽い物になっていた。周りの賑やかな雰囲気にギリギリ溶け込んでるレベル。ただ、依然としてエリちゃんが怯えてることに変わりないし、探られたくない腹があるのガン見えなので前言撤回しないけどね。

 

それにしても、視界の端で黒豆パイセンのジェスチャーが喧しいな。分かってます。分かってますって。上手くやります。

 

「口が悪くてすみません。でも、私ヒーローじゃないのでそこをどうこう言われても・・・。一応仮免許は取得しましたけど、資格があれば就職に有利かな?程度でとってるので、ヒーローだからとか独自のヒーロー論持ち出されても困るので止めて下さい。お答えし兼ねます━━━それにどう考えても怪しさ満点な格好してるパパさんが悪いと思うんですけど・・・・あくまで一般人として言わせて貰いますけれど、どう軽く見積もってもチンピラですよ」

 

やんわりとだから私悪くないよね?というと嘴の額に青筋が浮かんだ。一瞬だけど。あと、黒豆パイセンが卒倒しそうな顔してる。小さいおめめが限界まで見開いてる。怖い。

 

「ご忠告いたみいります。以後気を付けるようにしますよ。では━━━━」

「のん!下がってください、警察呼びますよ」

 

警察の言葉に嘴の伸ばそうとした手が止まる。

 

「警察ですか?穏やかではないですね。何か?」

 

何かって、お前ぇ・・・・。

 

視線を落とした先、私の腕の中のエリちゃんは明らかに震えてる。尋常で無いほどに。声を聞く度に私を掴む手に力が籠るし、何より小さな声だけど嘴に対して拒否するような言葉を呟いてる。少しでも嘴になついてる様子があればそれで良いけど、これで返すとか頭おかしいでしょ。

 

「この子が怖がってますので。それ以上近づいたら本気で警察に電話しますよ。知り合いにデカがいますから。あと現役の炎使うハゲヒーローもいるんで」

「・・・・・怖がっているのは迷子になる前、少し厳しめに叱ったからですよ。我が儘をいったのでね」

「だとしても、この怖がり方はおかしいでしょう。目見えてますか?頭大丈夫ですか?学生じゃないんですから、常識で考えてください。頭良さそうなのは見かけだけですか?━━━━━━そもそもこんなダサイ服着せて出掛けて、その上で一人にするのもあれですよ。靴もはかせてないし、髪もボサボサだし・・・櫛でとかすとか出来ないんですか?櫛くらい買えるでしょ、よさげなシャツ買えるんだから。ぶきっちょでそれも出来ないんですか?何が出来るんですか?ネクタイ自分でしめられてます?ていうか、そのヘンテコマスクなんですか?格好いいと思ってます?もしかして?ぷぷーっ!ダサマスクっていういかした渾名はどっかのマッソーに付けちゃったので、付けてあげませんからねぇ!?」

 

うっかり文句が出ちゃった所で、指をバッテンした黒豆パイセンが嘴の背後に見えたのでお口を一旦チャック。眉毛がヒクヒクしてる嘴に言わなきゃいけない言葉を探してから、改めてそれを口にした。

 

「・・・・・えーと、まずは、なんだろ?嘴さん、証拠見せて下さい。証拠。エリちゃんの親である証拠。身分を証明出来るものから提示お願いします。免許証、保険証、何でも良いですよ。はよ」

 

そう言って手を出してみたけど、嘴はその手を無視して自分の背後に控えてた黒豆パイセンへと視線を向けた。黒豆パイセンはその視線に頷くとこちらへとくる。

 

「それに関してなんだけど俺が確認させて貰ったよ。ただ事情は複雑らしくてね・・・・」

 

黒豆パイセンはエリちゃんを見ると説明を止めた。

何となく察したので説明しなくていいと伝えようとしたけど、その声は嘴の「養子ですよ。まだ手続きは終わってませんが」という言葉に遮られた。

 

「そちらのヒーローの方には一度説明させて貰ったのですが・・・私には恩人、いえ、実の父親のように慕わせて頂いた上司がおりまして。その上司には疎遠になっていた娘が一人いたのですが・・・・その娘さんが何を思ったのか、ある日突然やってきてその子を、エリを"捨てていったんですよ"━━━━━」

 

吐き捨てられた言葉に、賑やかだった周りの音が消え、腕の中のエリちゃんが肩を大きく揺らすのを感じた。

 

「━━━━当初はそのまま上司が育てる筈だったのですが、その肝心の上司が体を壊し子供の相手が出来る状態ではなくなってしまったんです。調べてみれば出生記録すら出されていない子だと分かり、それで一度は仕方なく施設に預けることを検討しましたが・・・しかしその娘さんとは個人的に面識もありますし、何よりお世話になった上司の意思を汲み取りたいと思いまして、私がエリの父親代わりとして預かる事になりました。ですので、親子としての時間は短く、何かとすれ違いがありこのような事に・・・お恥ずかしい話です」

 

そうニッコリ笑う姿は不気味の一言に尽きた。随分な言い訳だなとは思うけど、不思議と言葉に嘘を感じられない。演技なら見抜くまではいかなくても違和感ぐらい気づけるのに。証拠の確認をした黒豆パイセンが何も言ってこないのだから、完全に口から出任せを話してる訳ではないのかも。何処まで本心だかはおいておいて。

あとしれっと捨てた発言した所に性格の悪さを感じるな。デリカシーのなさに私は激おこプンプン丸よ。殴っていいなら抉るように打つべしってるよね。

 

「本当に恥ずかしい話ですね」

「えぇ、本当に。あぁ、証拠という程のものでもありませんが、この子の戸籍等の手続きをしている弁護士から書類を送らせますか?口頭で問題なければ、そちらのヒーローの方と同じように、電話で説明させる事も出来ると思いますが」

 

ショッピングモールの喧騒を聞きながら考える。

そしてどうしても『現状エリちゃんを保護するのは難しい』という答えにいきついてしまう。そこまで法律に詳しくはないけど、ここから先は多分私が不利だ。仮に警察が来たとしても、弁護士とやらが法律を盾に横槍入れきてうやうむやにされる気がする。

何より1日だけ一緒に過ごした私の証言と、事実上父親同然の立場を有してる嘴の証言とでは、そもそも私の方が信用されない可能性が高い。仮に弁護士の横槍もなく、警察に私が信用されたとしても、それでも保護するのには足りない。嘴が限りなく黒に近いグレーでも、それ相応の証拠がなければ警察は介入出来ないと思う━━━━特番の『警察26時間、声なき声を聞け!子供達のSOS!!』でもそんな感じだったし。家庭内暴力を受けてる子供を保護するまでめちゃくちゃ手順踏んでた。

 

しかも相手は体の80%が陰湿成分で出来てそうなインテリ系の嘴チンピラ。話して分かったけれど、恐らくこいつは簡単に尻尾を出さないタイプの厄介者。ここまで挑発してるのに、殆んど感情が読めない。たまにアホみたいに怒るけど。いっそ殴ってでもきてくれたら楽だったんだけど・・・こいつ絶対一線を越える気ないと思う。

 

「聞いてますか?そろそろエリを返して頂きたいのですが?」

 

ヒーローとしての権限を使って保護する。

私では無理だけど七三まで巻き込めば出来なくはない。ただそうなると一つ気になる事がある。恐らく私が送った写真である程度察しのついた黒豆パイセンが、何故あの七三に連絡してる様子がないのか?ずっと無視してたけど、黒豆パイセンはこんなエリちゃんを見ながらも、私に退くように伝えてくる。正義感が強そうなパイセンが?それはあまりにおかしい。ガチムチとまではいかなくても、黒豆パイセンは相当ヒーロー野郎だ。

 

なら、それなりの理由がある。

例えば目の前の男が、七三がぼやいていた"教えられない仕事"に関係ある人物である・・・・とか。

 

七三が本当に秘密裏に動いているなら、関係者であるこいつの事をヒーローとしての立場から刺激したくない筈だ。だとすれば、黒豆パイセンは七三のことも口にすらしてない可能性がある。そうなってくると当然協力は見込めない。私も迂闊にそれを口にする訳にもいかない。どれだけ今後に影響あるのか分からない。どんな規模で、何を追っているのか。ことと次第によっては取り返しがつかない事もある。今のこれでさえ、狂わせてる可能性がある。

 

 

でも、だ━━━━━━━。

 

 

「っ!ふっ、ふたこ、さん」

「大丈夫、そのままくっついててね」

 

 

━━━━━ここでこの子を見捨てたら、私は今晩のご飯を美味しく食べれる気がしない。

 

 

ぎゅっと抱き締める力を強めれば、子供特有の熱いくらいの体温が服の上からでも伝わってくる。

震えも、荒くなった吐息も。

 

私の様子を見て嘴が目を細めた。

 

「・・・・どうするつもりでしょうか?」

「どうするつもりだと思います?」

 

胡散臭い愛想笑いに笑顔を返せば、嘴から殺気が漏れた。垂れ流されるドロドロした濃厚な殺気に思わず指先が反応する。咄嗟に個性を使う衝動を抑えこんだから良いものの、引き寄せる個性でうっかり地面にキスさせる所だった。危ない危ない。

しかし黒マスク程ではないにしても、ダサマスク並みのヤバい雰囲気を発するな。この嘴。平然と隠せる分、こっちの方が遥かに質が悪いけど。

 

 

「緑谷さん━━━━━━━っ!」

 

 

黒豆パイセンの制止の声が詰まるのとほぼ同時、周囲から嫌な気配を感じた。嘴を警戒しながら周囲を確認すれば、ここを囲むように配置された何人ものチンピラの姿が視界に映る。しかも、その内の何人かは雰囲気が嘴と似通ったものを漂わせてた。怪しい怪しいとは思ってたけど、ただのチンピラって訳でもないらしい。

それに、これだけ人の多い所なら大丈夫かと思ってたけど━━━━どうやらその宛も外れたみたい。気づけば人通りは酷く少なくなってる。

 

嘴へ視線を戻すと嘴が笑みを浮かべながら、自らの手を覆う手袋にそっと指を掛けた。

 

「もう十分でしょう。くだらない話し合いは。これ以上はお互いの為にならない・・・・それくらいは分かりますよね?安い正義感で家族のことに首を突っ込まないでくださいよ。お嬢さん」

 

そう言うと嘴はエリちゃんへ視線を向ける。

 

「我が儘はその辺りにしよう。私も悪かったよ。なぁ、仲直りしよう━━━━━分かるだろ、エリ?」

 

その言葉と同時にエリちゃんが腕の中から抜け、嘴に向けて駆け出す。直ぐ個性で引き戻そうとしたけど、黒豆パイセンに視界を遮られタイミングを逃した。黒豆パイセンを押し退けてもう一度エリちゃんの姿を捉えた時には、嘴がその小さな手を握り締めていた。

 

「ご迷惑をおかけしました。では」

 

そう言って立ち去る二人に向け足を踏み出すと、黒豆パイセンに肩を掴まれた。視線を向ければ申し訳なさそうに首を横に振られる。

 

二人の姿が人混みに消えた頃、周りを囲むように展開していたチンピラ達も姿が消える。暫くして嫌な気配が感じられなくなり、静かになっていたそこに本来の喧騒が戻り始めるとようやく黒豆パイセンが手を離した。

 

「・・・いこう、緑谷さん。まずはサーの指示を仰ごう」

 

何処か元気のない声を出しスマホを手に歩き出した黒豆パイセンの背中を眺めながら、私はバッグから取り出したソレ━━━━メリッサ・発目合作ベイビー試作第一号、多機能ゴーグル『ホークアイ』シルバーeditionの電源を入れた。

 

 

 

「いやぁ、持つべきものは友達だよね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『バブルガール、すみません。治崎と接触してしまいました。言い訳にもなりませんが、治崎の関係者を保護してしまい・・・・』

 

何事かと電話に出ると、ルミリオンはとんでもない事を口にした。隠れてる最中だというのに変な声が思わず漏れてしまう。そんな私を見てサーが不機嫌そうな視線を向けてくるがそれどころではない。

 

「サー、ルミリオンが、治崎と接触したそうです」

「・・・・・!状況の確認を急げ。ただし慌てさせるな」

「あいさー、了解しております」

 

スマホを改めて耳につけ、私はサーの指示通り話の先を促す。ゆっくり落ち着いた声で聞き返せば、僅かにだけどルミリオンの声に安定感が戻る。

結果、ルミリオンの口から元気なく語られたそれは最悪とは言いがたくとも、それまで以上に治崎を警戒させる行為に他ならなかった。緑谷さんが思いっきりかましたそうだ。

 

『すみません。俺の力不足で』

 

いつもの彼と違いあまりに覇気のない声。ただ一度の失敗でそこまで思い詰める事はない、そう言いたいけれど、それはそれだけ今の状況を正しく理解している事の裏返しでもある。簡単に心配はないとはいえない。

 

出会いはあくまで偶然。

与えた情報は少なく、逆に得た情報もある。

けれどそれが対価として釣り合うかと言われれば難しい所だ。

これは本当に些細な遭遇ではあったけれど、これを切っ掛けにヒーローの私達が嗅ぎ回っている事を勘づかれでもすれば、これまでの調査が無に帰す可能性もある。

捕らえられたヴィラン達が野放しになる事の意味、そこから生まれるかも知れない被害者のことを考えれば、その声色も仕方ない。私にも似たような経験がある。その時はサーや他のヒーローのお陰で大きな被害は出なかったけれど、いつもがそうなるとは限らない。未然に防げるのに越したことはないのだから。

 

事情を一通り聞き終わり、ルミリオン達に起きた事をサーに話せば、僅かな思慮の後に真一文字に閉じていたサーの口が開く。

 

「一旦合流する。撤収準備を始めろ」

 

即決に下された言葉はあまりにも短い。

けれどその即決さこそが何よりも二人の安否を気づかっている事を示していて、険しい横顔にも優しさが見える気がした。

 

「・・・・どうした、返事は」

「あっ、は、はい!すみません!了解です!」

 

サーを見ている事がバレてギロリと睨まれた。

反省の声と共にスマホをもう一度耳につけると、ルミリオンから電話越しに心配されてしまう。年上なのに情けない。

 

「━━━あーっとね、兎に角話は分かったわ。サーと私が行くまで待っててね。確認なんだけど、二人とも怪我はないのよね?」

『はい、そういった事は。俺も緑谷さんも無事です。緑谷さんからも声をき━━━━緑谷さん?あれ、何処いっちゃったんだろ・・・・』

 

どうやら緑谷さんはそこにいないらしい。

せめて無事である事を確認したかったんだけど。

お手洗いだろうか?それならルミリオンに探させるのもあれか。

 

 

「まぁ、良いわ。直ぐ行くから、緑谷さんと合流したらそのまま待機して」

『はい、了解です━━━━━』

 

 

そうして呑気な考えで電話を切った時、私は知るよしもなかったのだ。その時彼女が何処で何をしているのかを。電話直後に入った、一件のメッセージの事を。

彼女が、緑谷双虎という女の子が、どれだけやんちゃで、これまでどれだけのトラブルを起こしてきた・・・嵐のような娘であったかを。

 

その時はまだ。


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