私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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シリアス「我は欲するがまま、欲するまでよ。この我が暗黒の天下でな・・・・フハハハハハハ!!」

ギャグ「フラグ乙。目に見える敗北の予感」
アオハル「フラグ乙、泣くなよ。エンディングまで」

シリアス「はい、そこーーーー!フラグとか言わない!不吉この上ないから言わなぁぁぁぁい!」

シリアル「不吉の塊がなんかゆうておるわ」


あまりのシリアスっぷりで胃もたれしそうになりながら書く『小さな約束』閑話の巻き

淡い灯りに照らされた薄暗がりの中。

俺は乾いた足音を追い掛けながら、エリを抱え直し目の前の背中に向け口を開いた。オーバーホール、治崎廻へ。

 

「最近ヒーローの連中が嗅ぎ回っているそうですが、あの娘その仲間ですかね?」

 

足音だけが反響する静寂の世界で、俺の声はよく響いた。エリは誰の話をしているのか気づいたのか不安そうな顔で俺を見るが、何か言葉を吐くこともなくただ俯く。面倒がなくて良いことではあるが、この辛気くさい態度はあまり好みではない。こっちまで腐りそうだ。多少なりとも反抗でもしてくれれば面白みもあるのだが・・・まぁ、境遇を考えれば仕方もないことか。

廻はといえば振り向きもせず「ヒーロー気取りのただの馬鹿だ」と吐き捨てた。

 

「そりゃまったくその通りですが。まぁ、あそこまであからさまに敵対するのは、これまでの手口と違い過ぎますし・・・・流石に考え過ぎでしょうね」

「病気だよ、どいつもこいつも。馬鹿は無意味に力を振るい、個性に自惚れる奴らは分相応を弁えない。何者にでも、なれると思ってる。あの小娘みたいにな」

「だからこそ、でしょ。オーバーホール」

「ふん・・・・・クロノ、風呂の用意をしろ」

 

風呂という単語に思わず仮面のしたで笑ってしまう。

吐く言葉も鋭く、簡単に人を殺すようになったが、こういう所は昔から全然変わらない。潔癖症の廻にとって今回の外出はさぞストレスだったことだろう。予定していた時間より遥かに長く外界にその身を置いていたのだ。荒々しい言葉遣いが何よりもそれを証明している。しかし一介のヤクザの若頭が超がつく程の綺麗好きとは・・・中々に愉快な話だ。まぁ、その質のせいで笑えないやつもいるが。

 

例えば、そうだな━━━━

 

「す、すんません若頭!!」

 

━━━━こいつとか、か。

 

声に視線を向けるとエリの世話係だった男の姿がそこに見えた。この男の杜撰な管理のせいで今回エリを外へと放してしまい、廻に手間をかけさせる事になった。廻の性格を知っていればこそ、それが何を意味するのかよく分かっている事だろう。こんなに早く謝罪にやってきたのが何よりの証拠だ。仮面を被っていて表情は見えないが、震えた声を聞けばどんな表情を浮かべているのか容易に想像がつく。さぞ恐ろしい事だろうな。

 

「ちょっと目を離したスキに、そのガキが逃走しやがって・・・・!次はこんな事しやせん!しっかりその娘に、てめぇの立場ってもんを教えてやりますよ!」

 

しかし、こいつも間が悪い。謝るにしても今は駄目だ。

何処かの善良な一般市民のお陰で、廻は今、最高に機嫌が悪いのだから。

 

廻は無言のまま歩を進めていく。

そして男の隣を通りすぎ様、一瞬で手袋を脱ぎ捨て、払うように謝罪を口にするそいつへ触れた。

 

「だから若頭!俺に━━━━━━」

 

バシャッ、という音と共に男が赤い液体へ変わり、廊下の壁と床を鮮やかに染め上げる。静寂の世界に鉄の臭いが満ち溢れ、ただでさえ息苦しい薄暗がりの廊下がよりいっそうの重さに支配されていった。尤も、俺によってはよく見る光景だが。

 

「掃除もだ」

「へい」

 

部下に無線で連絡をつけ廻の後に続く。

そうして俺達が辿り着いたのはいつものラボだ。

ドアを開けば消毒液の臭いが鼻をつく。

 

「クロノ」

 

廻の言葉に頷き抱えていたエリを下ろせば、それまで気にも留めなかったエリの腕の中にある紙袋が目に入った。これからの作業で邪魔になる事を考え、エリからそれを取りあげる。紙袋は思っていた以上に重く、袋を握れば硬い感触が指に触れた。

 

「かっ、かえし、て・・・」

 

囁くような声が聞こえると同時、廻が「どうした」と尋ねてきた。

 

「いえ、少し・・・」

 

紙袋を開くと菓子の入った小袋が三つ。それとメタリックな輝きを放つ球体が入っていた。球体は動物をモチーフにした、随分と可愛らしい形をした物。ただ用途は分からない。玩具の類いではあるのだろうが・・・・。

 

「何でしょうかね?」

「貸せ」

 

球体を廻に渡すと一瞬でバラバラと崩れ、直ぐ様元の形へと戻った。手には球体と小さな紙切れが一枚。紙切れに目を通した廻は鼻で笑い、それらを俺に放り投げてくる。

 

「なんです?番号・・・・これは携帯番号ですかね。ああ、そういえば虐待を疑ってる感じでしたっけ。あれでいて色々と考えてるもんですね。遠目から見ている分にはただの阿呆かと思いましたが、中々どうして抜け目のない」

「こうしてバレていては意味もないがな。くだらない。安い正義感だ。処分しておけ」

 

 

 

「っ、やっ━━━━」

 

 

 

ゴミ箱に手を向けようとすると、小さな悲鳴が聞こえた。見れば珍しく生きた目をしたエリの顔がある。廻は不機嫌そうに顔を歪めたが、これはそう悪い傾向でもない。

 

「エリ、これが欲しいか?」

「クロノ」

「まぁ、待って下さいよ。お叱りは後で━━━━それでエリ、これが欲しいか?」

 

俺の問い掛けに恐る恐るといった様子でエリが頷く。

 

「それならこれは条件付きでお前にやろう。オーバーホールの仕事を手伝ってる限り、これはお前の物だ。けれどもしお前が手伝いをさぼったり、今日のように逃げようとしたら取り上げる。もしかしたら、壊しちゃうかも知れないなぁ。その事は、お前もよく知っているだろう?」

 

一瞬顔を苦しげに歪めたものの、エリは小さく肯定を示すよう頷いた。球体を紙袋に入れその手に握らせてやれば、エリはそれらを大事そうに胸の所へ抱え込んだ。

 

「クロノ、勝手な真似をするな」

「少しは頭冷やしてくださいよ。らしくない。ただの飴と鞭じゃないですか。たまには飴もくれてやらないと。良いじゃないですか、こんな物で積極的に頑張ってくれるって言うんですから━━━━━それにヴィラン連合の返事によっちゃ早く事態は動くんです。今は最小の労力で最大の成果を、ですよ。全ては計画の為に。頭冷えましたか?」

「・・・好きにしろ。加減は間違えるな。情を移すような事は━━━」

「ははっ、そりゃ勿論。別に俺もこれを人間とは思ってませんし」

 

大人しくなったエリの包帯をといてソレの準備を始める。すると今度は小さな足音が廊下から響いてきた。重々しい機械音が鳴りドアが開けば、オーバーホールの部下である印の仮面を付けた赤ん坊のように小柄な男、死穢八斎會の本部長ミミックがそこにいた。

その手には携帯電話が握られている。

 

「オーバーホール、電話」

 

そう言うとミミックは携帯電話を差し出してきた。

 

「ヴィラン連合、死柄木からだ。この前の返事を聞かせてやる・・・と」

 

その言葉を受け廻は手にした道具をテーブルに置き直し、作業の為に脱いだ上着へもう一度袖を通した。

 

「クロノ、エリを部屋に戻しておけ。まずはヴィラン連合と話をつける。こい、ミミック」

 

それだけ言い残すと、廻は携帯を手にミミックを伴って廊下へと歩き出した。残された俺は準備しかけていた器材の残りを片付け、命令通りエリを部屋へと連れていく。エリは随分と先程の球体が気にいってるようで、移動中ですら指でそれを撫でていた。飴の効力は暫くはきくだろう。

 

部屋にエリを押し込め、見張りと交代して帰る時。

ふと、それを思い出した。たいした事ではない。それはほんの小さな違和感。

 

「そういえば、エリは、あんなサンダル持っていたか?」

 

知っていそうな面倒見係りの男は死んでいる。

他の連中にいたってはエリの所持品に興味を持つ事もない。となれば現状知っている人間はいないという事だ。そう考えると考えるだけ馬鹿らしく思い、俺はそのまま部屋を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

綺麗。

 

わたしの手の中にあるそれは、とても綺麗だった。

わたしの顔が映り込むくらい磨き込まれていて、撫でるととってもツルツルしてる。腕を伸ばして天井に翳して見れば、部屋の灯りを反射したそれがキラキラと光った。まるでお月様みたい。

 

ふたこさんがくれた物。

友達の印にって、わたしが貰った物。

いっぱいある中から選んでいいよって言われて、いっぱい悩んで決めた可愛いトラさんのボール。ウサギさんも良かったけど、でも、これが一番ふたこさんみたいだったから。

 

『がおー、今日からよろしくだがおー』

 

眺めていたら手渡しされた時の、あのふたこさんの変なモノマネを思い出す。トラさんならもっと怖い声出すのに、ふたこさんは変な声でがおがお言っていた。全然違うって言ったら、今度は動物園に確めに行こうって言ってくれて・・・・。

 

「がおー」

 

違う、もっと怖い声だ。

昔、あんまり覚えてないけど、ママとパパと見たトラさんはもっと怖い声だった。

 

「がおー」

 

違う。

 

「がおー」

 

違う。

 

 

「がおー・・・・・」

 

 

違う。

 

 

 

 

「・・・・どんな、声だったんだろう」

 

 

 

 

覚えてると思ってたのに、わたしもふたこさんと変わらなかった。ふたこさんみたいにがおがおって言ってる。でもきっと、ふたこさんよりはトラさんだ。だって、ふたこさんのトラさんは、本当に変な声だったから。

 

ぼーっとしてるとお腹が鳴った。

ふたこさんとクレープを食べてから何も食べてない。ボールを枕の所へおいて、テーブルの上に置いておいた紙袋を開いた。そこにはしゅっせばらいで、ふたこさんと買ったお菓子が三つも入ってる。きっとどれも美味しい。だってふたこさんがそう教えてくれた。

 

わたしは飴が一杯入った袋を取り出した。

切り口を裂いて袋を開けると、透明な包みに入った色んな色の飴があった。赤いのも、オレンジのも、黄色いのも、緑のも皆ある。

 

包み開けて赤い飴を口に入れた。

口に中に甘い味が広がる。コロコロ口の中で転がすと、色んな所が甘くなっていって嬉しくなる。

 

「おいしぃ・・・・」

 

ふたこさんが教えてくれた。そうやって口にすると、もっと美味しくなるよって。きっとそれは本当で、きっと嘘じゃない。だって、あの時、一緒に食べたクレープは美味しかったから。

 

それなのに、あんまり美味しくなかった。

口の中が甘いのでいっぱいなのに。

 

目の所が熱くなって、目の前がぼやけた。

ほっぺたの上を冷たい物が流れていって、手にぽたぽた落ちてく。

腕は痛くないのに、今日は嫌なことまだされてないのに・・・・胸の所が、きゅぅって痛くなった。

 

どうして、あの時、ふたこさんから離れてしまったんだろう。大丈夫って、言ってくれたのに。約束したのに、また遊ぼうって。しゅっせばらいしないといけないのに。きっと、ふたこさんは怒ってる。きっと、わたしのこと嫌いになっちゃった。ママみたいに。悪い子だから。わたしが━━━━。

 

 

 

 

『━━━━━』

 

 

 

 

小さな音が聞こえた。

 

 

 

 

『━━━━━』

 

 

 

 

また、聞こえた。

 

 

 

『━━━っん━━━━━る』

 

 

 

耳を澄ませると、また聞こえた。

ゆっくりそこへ近づいていくと、それが目についた。

ふたこさんが選んでくれた、花柄の入った白いサンダル。手にして耳に近づけると、聞こえた。

 

『電波━━━いに、悪い━━━━』

 

途切れ途切れだけど、聞こえた。

 

「・・・ふた、こさん?」

『━━━っお、出てくれた。やほやほ、エリちゃん。エリちゃんの頼れるスーパーアイドルにして、アトミックなベストフレンズ双虎お姉ちゃんだよ』

 

わたしが聞きたかった、もう聞けないと思ってた声。

 

『いやぁ、ごめんねぇ。サンダルフォンで。他に仕込む所なくてさ~。いや、でも、サンダルフォンってなんか響き格好良くない?電気とか出しそう』

 

暗くて静かな部屋の中で、その声だけがわたしの耳に響いた。

 

『はっ、そうだ。無駄話してる時間なかった。さっきからね、ちょいちょい試しに繋いで確認してたから大丈夫だと思うけど、近くに嘴つけたチンピラ達いないよね?監視カメラとかある?あったらバレないように布団被って欲しいかな?流石にバレると面倒だから・・・・エリちゃん?』

 

でも思ってた声と、少し違くて。

 

『エリちゃーん。おーい。ありぃ?また電波悪い?』

 

そんな訳ないのに。

わたしは悪い子なのに。

呪われてる子なのに。

 

『エリちゃん、聞いてるー?聞いてたらうんとかすんとか言ってぇ。無視とか辛ぽよだからさぁー泣いちゃうよ?私、泣いちゃうよ?』

 

ふたこさんの声は、優しくて暖かいままだった。

聞いてるとふわふわしてぽかぽかする。

笑って話し掛けてくれた時と一緒。

 

「━━━━ご、ごめん、ごめんなさいっ」

 

目の前が見えなくなった。

さっきだって見辛かったくらいなのに、直ぐそばにあるサンダルも滲んで。もう何も。

 

「ごめっ、ん、なさいっ、はっ、はな、なれぢゃっで。く、くっ、くっついててって、言われたのにっ」

 

声が思うように出なかった。

たくさん謝りたいのに、喉に何かつっかえてるみたいに。変な声だけが漏れて。

 

「怖いめにっ、あわ、せちゃって、ごめんな、さいっ、わたしが、わがまま言ったせいで、迷惑をっ、かけて、ごめっ、なさい。嫌いにっ、ならないでっ━━━」

『大丈夫、嫌いになんてならないよ』

 

優しく声が聞こえた。

わたしは悪い子なのに。

おかしいことなのに。

 

「・・・・うっ、ぁ」

 

あの人が言ってた、わたしが不幸にするって。だからママもパパもいないんだって。だから痛いことしなくちゃいけないんだって。悪い子だから。悪いことした分、良いことしないと駄目だから。だって、悪い子のままじゃ、ママもパパも迎えにきてくれないから。

 

「・・・・ぇ」

 

でも、もう嫌だ。

 

「・・・・あ、ぇ」

 

腕が痛い、どっちもずっと痛い。

 

胸の所がきゅって、痛い。

 

痛いんだ。ずっと。

 

 

 

ふたこさんと遊びたい。

 

約束したこと、ちゃんとしたい。

 

お外に出て、またクレープ食べたい。

 

また、一緒に。

 

 

 

 

「・・・・たす、助けてっ、ふたこさ、ん。助けて」

 

 

 

 

『あいよ。助けるよ、約束する』

 

 

 

 

絞り出した声に、ふたこさんは直ぐそう言った。

それが当たり前みたいに。

 

だからびっくりした後、わたしは教えてあげた。ここは危ない場所だって。こなくていいんだって。助けて欲しいけど、ふたこさんに怪我して欲しくないって。

そうしたらふたこさんは笑い声をあげた。

 

『OKOK、大丈夫。分かってるよ。だからね、酷いことをいうようだけど直ぐには無理なの。思った以上に屋敷の警備やばくてさ。屋根まではこれたんだけど・・・こっからがねぇ。無理に入るとしても私一人だと正直キツイ。仮に入れても出るのがちょっとなぁ・・・』

 

『だから、あともう少しだけ待ってくれる?もうほんの少しだけ。準備を整えてくるから。私もエリちゃんも怪我をしないで外に出る為の、その準備を』

 

『でももし、どうしても辛くて仕方なかったら、サンダル思いっきり壁とか床に叩きつけて。中に仕込んだ機械はね、壊れると私の元に連絡が入るようになってるから。そしたら、直ぐに助けにいく。何がなんでも、絶対に。それも約束・・・・どうかな?』

 

優しい声に、わたしは返事を返した。

精一杯の気持ちを込めて。


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