私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
どんなんねんやろ。
初めてのアルバイトを無事済ませた翌日。
欠伸をかきながらかっちゃんにおぶられつつ学校へと行くと、朝からA組の面々に取り囲まれた。私が人気者で人を引き寄せる神々しき存在であるとしても『おっとぉ?』的な勢いでだ。
何となく集まった連中の顔を見れば予想はしていたものの、その理由聞くとやっぱりインターンについて聞きたかったらしい。同じインターン組のお茶子達は私より帰りが早くその日の内に事情聴取されたみたいだけど、私が寮についたのは門限を余裕でぶち抜き消灯時間も過ぎた頃。寮に着くなり待っていた包帯先生に軽く説教され、部屋に戻ったのはそこから遅くなって11時過ぎだ。当然皆と話す機会もない。私だけがぐんを抜いて帰宅時間が遅れたのも相まって、皆の期待感が高まっているらしかった。
とは言っても今回は守秘義務が多くて話せる事もなく。私は期待に目を輝かせる皆にその旨を伝え、話せる範囲つまりはラーメンの話をした。黒豆パイセンの奢りで食べたラーメンは行列も出来ない普通のラーメン屋のラーメンだった。店構えはぱっとしないし、店内も平均的なラーメン屋って感じだったし、メニューにも特別な興味を引くような名前はなかっ━━━━超絶灼熱地獄激辛ラーメン(タバスコ練り込み麺は一声かけて下さい)はやけに目についたけど・・・まぁ、全体的には普通につきた。しかしあの味噌ラーメンは良かった。その素朴ながらもスープに込められた飽きさせない複雑なコク、あの味わいは旨いといって然るべきものだった。スープの絡んだ黄金の縮れ麺にどれだけ胸が踊ったか。最初は野菜てんこ盛りのこってり味噌が食べたかったのに!とも思ったけど、いやはやとんでもない。チャーシュー、煮卵、メンマ、ネギ、もやし。それぞれが程よく載せられたスタンダード中のスタンダードな味噌ラーメン。しかしそここそが、ラーメンの真髄。まさにシンプルイズザベストなんだよ。旨い物っていうのは、過度に盛らなくても旨い!いや、寧ろ盛りすぎは厳禁!バランスだよね!バランス!
熱くそう語ると瀬呂・尾白・上鳴・あしどん・葉隠の五人組はお腹を鳴らした。そして教室の窓から高い空を眺めながら「週末はラーメンだな」と固い約束する。なのでその店のサービス券あげた。麺大盛無料、楽しんでこい。はっぴーらーめんらいふ。
「・・・・いえ、ラーメンも大変魅力的ですが、肝心のインターンのお話を聞かせて下さい。緑谷さん」
「ヤオモモの言うとおり、しれっと話題を逸らすな。緑谷。守秘義務は分かるけど、もう少し話せる事もあるでしょ?」
おっと、勘の鋭い子が二人もおる。
やりおるわ、こやつらめ。
ってもな、実際話せる事もないんだよなぁ。
私の話って殆んどエリちゃんが関わってくるし、そのエリちゃんの事に関しては七三から口止めされてるから。相手が相手だけに、今回の件はこそこそしないといけない事が多すぎるのだ。皆を信用してない訳ではないけど、何処から情報が漏れるかも知らんし話すのはちょっとなぁなんだよね。
「いや、めんご。話したいのは山々なんだけど、やっぱり無理なんだよね」
そう言って軽く頭を下げると耳郎ちゃんと百は仕方なしと納得する仕草を見せた。インターン組のお茶子と梅雨ちゃんは私の大変さを知って何とも言えない声をあげる。
「けろっ、緑谷ちゃん初日から大変ね」
「私達は特に何もなかったから、仕事の説明を受けてパトロールだけだったもんね。何もない事はええ事やけど・・・・」
「そうね。不謹慎だけれど、少し残念だったわね。パトロールが大切なお仕事なのは分かっているけれど、そういう仕事を期待しなかったっていったら嘘になるもの」
二人の話に周りの皆も納得した様子で頷く。
「━━━そう言えば、かっちゃんもそこそこ遅れたんでしょ。矢鱈とボロボロだし、何かあったんじゃないの?」
お茶子と一緒に叩き起こしにきた時から気にはなってたけど、かっちゃんの顔や捲り上げた袖の下に覗く腕には絆創膏やら包帯やらが張り付いてた。目に見える所に青アザやら小さなかすり傷もあって、何かあった事は明白。しかも同じ所にいった轟も似たような感じなら、インターンで何かあったのは間違いない。
昨日は帰ってメールもイタ電もしないで即行寝たから、インターンの事はまだかっちゃん達に聞いてないんだよね。私も。
私がそう尋ねると前に座っていたかっちゃんが面倒臭そうな動きと共に振り返る。その顔には相変わらず不機嫌を誤魔化すことなく伝えてくる眉間の深いシワがあった。
「・・・なんもねぇわ」
「なんもない顔じゃないじゃん?」
「っせぇ、なんもねぇつっんだよ」
答える気がなさそうなので似たような格好してる轟へ視線を送れば、目の合った轟がコクンと小さく頷く。
「いつもはもっと忙しいらしいが、俺達の行ったタイミングじゃ大した事件はなかった。パトロールもなければ、出動もなしだ。これは糞親父と手合わせして出来たもんで、俺達もインターンらしいインターンはしてないから話せる事は殆んどないぞ」
轟が淡々とそう言うと皆が沸き立った。インターンの話としてはあれだけど、手合わせしたその相手は一応現役No.2ヒーロー。私は別に何とも思わない。あのおハゲと手合わせとかしんどそうとか思うくらい。だけどヒーロー好きの皆からすれば、それだけで話題に十分こと足りる内容だ。だから盛り上がるのは当然なんだけど・・・肝心の轟はピンときてない顔してる。本当、嫌いだな。おハゲのこと。
かっちゃんはと言えば、おハゲとの手合わせを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔でグルグル喉を鳴らしてる。体から溢れる不機嫌オーラに、側にいた切島達が音も立てずにそっと離れてく。何されるか分かったもんじゃないもんね。分かる。もうただの狂犬ですものな。
しかし、この様子だと相当ボコられたんだろうな。それも一方的に。かっちゃんプライドだけはエベレストより高いけど、それと同時に冷静に戦力分析出来る人だ。ドロップキックかました私にも分かったんだから、おハゲとの戦力差は少し戦えばかっちゃんにも痛い程分かる筈。負けても仕方ないのは察しても、それでも尚こんな状態になるなら、面白いくらいボコられた以外ないだろう。可哀想にぃー。
「まぁ・・・どんまい、かっちゃん」
同情から哀れなイラかつの頭を撫でてやる。
相変わらずチクチクしてて手触り悪し。
一瞬呆けたかっちゃんだったけど、何度か撫で撫でしてると眉間のシワを更に深くして手を弾いてきた。
「てっ、てめぇっ、んだそのムカつく面は!喧嘩売ってんのか!?ああん!?どんまいはそこの醤油顔にでも言っとけや!!」
「・・・・おい、爆豪。それは俺が傷つくぞ。激しく傷つくぞ。泣いちゃうぞ」
「勝手に泣けや、ボケ!!死ね!!」
「ストレートに酷いっ!」
尾白に慰められる瀬呂、皆に取り囲まれる轟、不機嫌オーラを周囲に放ちまくるイラかつ、ラーメンに思いを馳せるあしどん達━━━━━からスマホへ視線を落とした私は、今日も今日とて日課のログボ巡りを始めた。包帯先生がくる前に回り切らねば。忙しいなぁ、忙しいぃー。えっ、なに、お茶子。収拾つけなくて良いのか?何が?えっ、私が?何故に?い、嫌だ!無理だって!あんな混沌としてるもんどうにかなるわけないじゃん!いや!むりぃ!むりぃぃぃぃ!
━━━━はっ!えっ、包帯先生!?違っ、私のせいじゃないし!本当ですって!なんで疑いの眼差しを向けてくるんですか!?そういうのが生徒を非行に走らせるんですよ!?傷つくんですけども!?いや!いかない!そっちにはいかない!どうせ叱るんでしょ!いやぁぁぁぁ!!
忙しない午前中を終えて、迎えたお昼休み。
かっちゃんに寿司を奢って貰うべく食堂に向かってると、ガリガリなガチムチが気さくに話し掛けてきた。嫌な予感がして回避しようとしたけど「冬休み」と小さく呟かれ大人しくついていく事に・・・・・勿論かっちゃんも。一人で楽しくお寿司なんぞ、許さぬ。
そうしていつもの部屋でテーブル挟んで座り向き合うと、ガチムチは焼き肉弁当と淹れたばかりのお茶を二人分出してニッコリ笑った。
「話は聞いたよ・・・・・・」
その言葉に嫌な汗が噴き上がる。
そもそも遅刻から始まった昨日の事を改めて振り返れば、客観的に見ると怒られる要素は幾らでもある。それが如何に不可抗力が故の結果だったとしても、現場にいなかったガチムチからすれば、それはそれで、これはこれ程度のもの。つまりそれを七三に聞いた上で、こうして呼ばれたとなれば理由は考えるまでもない。そういう事だ。
テーブルの陰でかっちゃんの服の裾をそっと引っ張る。
届け、私の無言のSOS!フォローしろ、この野郎!幼馴染でしょ!分かるでしょ!と━━━━しかしぃ、かっちゃんは気づかない。横目で確認したら、まさかのきょとん。でも段々と顔色が呆れたような表情になって、思い切り溜息を吐かれた。いや、SOSを出したのは私ではあるけども。けどもさ・・・お前ぇぇ。
「━━━━はぁ、何したか知らねぇが、面倒臭ぇさっさと謝れ」
「ちょっ!何かした前提で話さないでくれますぅ!?私は至って普通にアルバイトしただけですけど!?それを何!何も聞いてないくせに、もう完全に私が何かしたとか決めつけて話題を先回りしないで下さいぃぃぃ!」
「じゃぁ、何をしたのか客観的に言ってみろや。出来るもんならな」
「オ仕事、シタヨ!本当、コレ、本当の話ヨ!」
「碌に内容話せねぇ上に、片言になるレベルで何かやらかしてんじゃねぇか」
さっと視線を逸らそうとしたけど、顔を掴まれてそっぽ向けない。両の頬っぺたがかっちゃんハンドに押し潰され、私の麗しのお顔がタコみたいになってしまう。息をするとぷひゅーとか変な音が漏れる。脱出しようにもかっちゃんが馬鹿力過ぎて身動きが取れず、ぷひゅーという情けない音をあげるしか出来ない。乙女の顔に、なんてやつだ。この野郎ぅ。
「爆豪少年、違うよ。離してあげて。今日は緑谷少女を説教する為に呼んだ訳ではないんだ」
「ああ?説教じゃねぇーならなんだよ。オールマイト」
他に何があるのかと言わんばかりの言い種で、かっちゃんが少し剣呑な雰囲気を出す。するとガチムチはお茶で少し口を潤してから口を開いた。
「相澤先生から聞いたよ。緑谷少女、今日の放課後から訓練場の使用許可申請出してるだろ?通形少年と戦闘訓練をするとか」
「・・・・あっ?」
かっちゃんが片眉を上げてる様子を横目に眺めつつ、話を頭の中で整理し直すと漸くピンときた。きっと例の件だ、と。
「ガチムチが責任者やるんですか?」
「相澤くんが忙しくてね。口頭になってしまうけど、多少なりとも指導もさせて貰うよ。宜しくね」
昨日、七三の事務所に暫く厄介になる事を決めたついで、私は黒豆パイセンの先を読む戦い方について、指導したと思われる七三から話を聞いた。聞く前からあれは経験が物をいう技術だとは思ってはいた。口で教えられた所で、何か身に付く類いのものではないと。
案の定コツらしきものはなく、七三からはただひたすら多種多様な人物との対人戦闘訓練をこなす事だと、ありがたぁーーーいアドバイスを貰う事になった。
それで話自体は終わりだったのだが、側にいた黒豆パイセンが対人戦闘訓練の相手をすると言い出してきた。七三も他人への指導は良い経験になるとか言って━━━でっ、気がついたら放課後に戦闘訓練する事が決まっていた。正直そんなに乗り気ではないんだけど・・・どうせ暇だし・・・エリちゃん関連の情報集めも、七三達がしっかりやってくれるって言ってたし・・・・それにこれからの事を考えれば、個性を交えた上での戦闘経験は今以上に必要だしね。
しかし、昨日は説教からの流れで、包帯先生に訓練場の件をお願いした時は難しい顔されたけど・・・・特に問題もなく訓練場が使用出来そうで良かった。
「・・・・まぁ、宜しくお願いします」
「ああ、こちらこそ。いやぁ、それにしても君がやる気になってくれて本当に嬉しいよ。近接戦闘においては私もそれなりに自信があるから、そっちのアドバイスは期待しててね」
「そこら辺だけは本当に凄いですもんね、ガチムチは。本当、そこら辺だけは」
「HAHAHA・・・・・本当の事かも知れないけど、そこら辺だけって言うの止めてくれないかな。お願いだから」
「━━━━━━おい」
ガチムチと話してると、不意に酷く不機嫌そうな声が隣から聞こえてきた。チラッとそこを見れば機嫌が最高潮に悪いかっちゃんの姿がある。・・・何故に?お昼食べ損ねたから?それは私だってキレたいわい!お寿司の筈だったのにぃ!よもや焼き肉弁当になるとは!いや、焼き肉弁当も嫌いではないけども!!
「どういう事だ、こら。俺は何も聞いてねぇぞ」
「そりゃ、まだ言ってなかったし。━━━という訳で、かっちゃんも放課後訓練しよ。良いでしょ?」
「あっ?・・・・おっ、おう」
最初からかっちゃんも誘う気だったし、何より誘って欲しそうだったので普通にOKしとく。━━━━と言うか、暇そうなやつは皆誘うつもりだったので、別にそこら辺は全然問題ない。サンドバッ・・・・・練習相手は幾らいても良いのだ。新装備の具合も確かめたいし、個性の技も調整したいし、やりたい事は幾らでもある。
OKを貰ったかっちゃんは何か酷く動揺していて、何とも言えないぎこちない動きで弁当を食べ始めた。
その様子をぼんやり眺めながら、かっちゃんに続いてご飯を食べ始めるとガチムチがそっと耳元に顔を近づけてくる。何事かと耳に手を当てて聞く用意をすれば、小さな呟きが鼓膜を揺らした。
「・・・・緑谷少女、わざとやってるの?」
「・・・・・・わざと?」
「あっ、いや、何でもないよ。程々にしてあげてね」
「程々に?よく分かりませんけど、まぁはい」
それから直ぐ、話題はインターンの事に移った。
どんな仕事をしたのか?とか、七三とは上手くやってるのか?とか、これから七三の下でインターンを継続していくのか?とか。なんかそんなんだ。守秘義務ばかりで碌に話せる事がなかったけど、ダンスゲームでパーフェクト出した事だけ証拠の動画と共に教えといた。どやぁ。
沸き上がるギャラリーとパーフェクトを祝ってる姿が流れる映像を見てガチムチは一言だけ「インターンに行ったんだよね?」と怪訝そうな顔で聞いてきたので、私は力強く頷いておいた。これもちゃんとした業務やったんやで。遊びではなかったんやで。ほんまやて。嘘ちゃうねん。そんな二人して疑いの眼差しで見んといてよ。あっ、確認の電話はしないで!七三は忙しいから!本当、忙しいから!!迷惑になるよ!本当に!!ね!!あっ・・・・。
はい、説教されました。
よもや一日の内に二度も説教されるとは・・・。
うん、厄日!!