私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
新設定出ないといいなぁ!
「緑谷!決まった!決まったぜ!」
放課後の訓練も慣れてきた週末。
訓練場に向かって見慣れた廊下をかっちゃん達訓練組と歩いていると、包帯先生から呼び出しを喰らっていた切島が廊下マジダッシュで追い掛けてきた。
「どしたん?説教大丈夫だった?」
「おう!そりゃ鬼みてぇに怒ってよ・・・・って、呼び出し=説教じゃねぇから!緑谷と一緒にすんな!」
「なんだとこの野郎ぅ!そんないつも私が説教されてるみたいな!!むきぃぃぃぃぃ!こうなったら、トドロキング!!私を馬鹿にしたあのツンツン頭をカチンコチンにしてやるのだ!!」
ズビィっと切島を指差し轟へ視線を送ったが、「いや、しねぇぞ」と普通に断られた。
くそぅ、反抗期か!
「じゃぁかっちゃん!!」
「やるか、馬鹿。それより切島、何はしゃいでんだ。っんどくせぇからさっさと話して散れや」
スルーした、だと!?酷い!
ささくれた心をお茶子に慰められている間、かっちゃんに促された切島は自身に起きた事を教えてきた。
「インターン!決まったんだよ!俺もさ!さっきインターン先から連絡きてよ!取り敢えず一回来てみろってさ!!今度の休みから俺もインターンだぜ!」
「あっ?何とかカインドとかいうのは駄目だったんじゃねぇのかよ」
「フォースカインドさんな。何とかカインドとか失礼過ぎるだろ。・・・いやさ、天喰先輩にお願いしてたんだよ。インターン先に受け入れの余裕がありそうだって言ってたからさ。天喰先輩あんまり乗り気じゃなかったから期待してなかったんだけどよ、なんかインターン先のヒーローに連絡とってくれてたっぽくてさ。これでやっと、爆豪達に追い付けるぜ!」
ニコニコしながら話す切島に、かっちゃんはいつもの「けっ」を口にした。腹立たしいとかつまらないとでも言いたげな反応だけど、その口元は何処か笑ってるように見える。切島のインターンが決まって嬉しいみたい。相変わらず素直じゃないな。
「インターン行くくらいではしゃいでんじゃねぇよ。馬鹿島が。精々━━━━」
「良かったな。切島。本当は俺ん所に余裕があったら良かったんだけどな。うちの糞親父がもう受け入れねぇって言うからよ」
「━━━━ごらぁ!!てめぇ、紅白野郎!!俺の言葉遮ってんじゃねぇよ!!インターン時にも言ったけどな、俺はてめぇとなれ━━━━━」
「おっー!いたいた!」
「おーい、爆豪ー!おーい!」
再びかっちゃんの言葉を遮るように声が掛かった。
ブチりと嫌な音がかっちゃんからする。
錆び付いたロボットみたいにかっちゃんが振り返った先にはインターンの場所を探して忙しくしてたクラスの皆がいた。全員という訳ではないけど、大体揃ってる。いないのだーれだ?誰だろ。眼鏡?
かっちゃんの地雷を綺麗に踏み抜いた瀬呂と上鳴は、それは良い笑顔で近づいてくる。かっちゃんの様子に気づいてないらしい。二人の後ろにいるあしどんとかは冷や汗流して恐る恐る近づいてるっていうのに・・・アホだな。
教えてやろうかな?と思ってると不意にスマホが震えた。開いてみれば、予想通りのものが画面に映り込んでいる。
「爆豪、俺達もさ、今日から訓練参加するぜ!仲間入れてくれよ!頼むぜ!」
「いやいやまいったね。時期が悪いみたいでさ、インターン全然決まらなくってよ。もう待ってても駄目っぽいから、今回は諦めて有意義に過ごそうぜって、なってよ。な、皆?」
そう言って二人が後ろの皆に同意を求め視線を向けると、妙に開いた物理的な間隔にやっとこさ気づき眉を顰める。「参加、だな?」という怒りの滲んだかっちゃんの声が投げ掛けられ、漸く状況を理解し二人は顔を青ざめさせた。
「・・・・あ、あの、あっ、そうだ瀬呂!俺達やることあったよな!」
「!?あっ、そうだった!忘れてた!!そういえば俺達ってば特別に先生から課題だされてたっけな!そういう訳だから爆豪!俺達━━━━」
バチっと、かっちゃんの掌で光が弾ける。
瞬間二人が開いてた口を閉じた。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと訓練場いけや。顔の原形分からねぇくれぇにボコボコにしてやるからよ」
「「ひぃぃぃっ!!」」
泣きべそかきながら暗い表情で訓練場へ二人。
それを追って皆もゾロゾロと続いてく。ただ、怒らせた二人と違って訓練について楽しげに色々話しながらだ。
かっちゃんはそれを歯軋りしながら見送った後、スマホを弄ってる私を見てきた。何か言いたげに。
「大丈夫・・・そんなに心配しなくても。ちゃんと分かってるから」
「なら、いい。━━━━けどな、もしその時が来たら俺には教えろ。いいな」
「・・・・・うん、ありがとね」
そう笑顔を返すと、かっちゃんはつまらなそうに鼻を鳴らした。いつものように。
訓練を始めて少し。
「そう言えば、ガチムチって何で七三とギクシャクしてんですか?」
合流したインターン断念組相手に暴れるかっちゃんの姿をぼんやり眺めながら、私はスポドリ片手にふと気になったそれを聞いてみた。七三の事務所にいってからずっと気になってはいたんだけど、エリちゃんの事とか色々あってすっかり忘れてた。・・・正直どうでも良いことでもあるけど、それが原因でいつまでも七三に睨まれるのは気に食わないから解決出来るならしときたいのだ。
私にそんな事聞かれるとは思ってなかったのか、隣で腰掛けていたガチムチは飲んでいたお茶を盛大に噴き出した。きちゃないので少し離れておく。
「ごっほっ!ごほごほっ!ぶっほぉっ・・・!!━━━━えっ!?えっ、あ、えぇっ!?あ、その、ナイトアイから何か聞いたのかい?」
「聞いてはないですけど、訳ありなのは態度とか見てれば分かりますよ。この間の後継者の件以外で何かあるじゃないですか?面倒臭いんで仲直りしてくださいよ。━━━で、私の給料あげるように交渉して下さい」
はっきりそう伝えるとガチムチが困ったように笑った。
そして「まず、給料のお願いはしないからね」と断ってから話し始める。
「・・・・・しかし、こんなに簡単に見抜かれるとはね。君より大人のつもりなんだけどなぁ・・・私は自分が情けなくなるよ」
「情けないのは知ってるんで、理由はよ。私にも迷惑掛かってるんですよ?はよ」
「はははは、ごめんね。あんまり面白くない話だから、君に教えるつもりはなかったけど・・・迷惑掛けてるんじゃ仕方ないか。私もいつまでも、このままにするのは良くないと思うし」
そうしてガチムチが教えてくれたのはまだ七三がコンビだった頃の話。ガチムチと七三コンビはそこそこ上手くやってたそうだけど、ある大怪我を負った時に今後の活動について意見が分かれて大喧嘩したそうだ。ガチムチは現役続行、七三は意外にも引退を勧めたらしい。
「彼はね、個性を使って私の未来を予知した。結果は凄惨たるものらしくてね・・・そうなる前に引退して欲しいと言われたよ。新たな人生を歩んで欲しいと。素直に嬉しかったよ、心配してくれたのは。けれど、私も辞める訳にはいかなかった。平和の象徴として、やるべき事が幾らでもあったからね」
「えぇ・・・辞めれば良かったのに。意外となんとかなると思いますよ?ガチムチいなくても。後釜なら、ほら、ハゲとかもいますし。そもそも飽和とか言われるレベルでヒーロー余ってるじゃないですか」
思った事を伝えるとガチムチは微妙な顔をした。
僅かに流れる静寂にかっちゃんの怒鳴り声とインターン断念組の悲鳴が響いてくる。
「そ、そうだね。人に頼らなさ過ぎたと、今はそう思ってるよ。反省もしてる。もっと後進達に機会を与え育てるべきだったと。でもね、当時の私にとって━━━━」
「ていうか、仮に私がガチムチの誘いで後継者OKしてたら、私にその役目をパスするつもりだったんですか?そのまんま。引退勧められるレベルの怪我して続行しなきゃならないとか・・・ちょっと鬼畜過ぎません?嫌ですよ。普通に」
「━━━━━ごめんね。なんか、本当にごめんね。正直そこまで深く考えてなかったというか、焦っていたというか・・・うん。本当に、ごめん」
しょんぼりするガチムチはその後もボソボソと事情を説明してくれた。喧嘩別れしてからガチムチはヒーロー活動を続け、同時に後継者候補を探したそうだ。それで私に目をつけて、それをウキウキしながら七三に報告したらしい。ガチムチなりに自分の為に引退を勧めてくれた優しい友人へ、精一杯の気をきかせたつもりだったんだろう。
けれど、そこで第二次大喧嘩勃発。
割と常識人らしい七三は、『中学生のっ、しかも女の子に平和の象徴を継がせる!?務まる訳がない!!何を考えてるんだ!!』ってぶちギレられたそうだ。以前も聞いたけど大いに同意なので、今度七三と会うときはシュークリームお土産に買ってこうと思う。
「それでまぁ、結局またこじれてしまってね。細々と取り合っていた連絡もこなくなってしまった。・・・・風の噂でナイトアイが以前から私の後継者候補にどうかと名前を挙げていた彼を・・・通形少年を、自ら育成し始めたのを聞いてはいたんだけど」
「・・・ガチムチ愛されてますね。同性婚とか私は差別しませんよ」
「あっ、愛?いや、そういうのじゃないから・・・・ないよね?」
取り敢えずガチムチと七三の確執は分かった。
七三は喧嘩別れした後も、まだ後継者の件に関して諦めてはいないんだろう。ガチムチを少しでも早く隠居させる為に、黒豆パイセンを育てて次代の平和の象徴にするつもりなのだ。
だからこそ、ガチムチ自身に後継者候補だと言われる私が気に食わないんだろう。気持ちは分かる。私だって可愛がってた野良猫をぽっと出の人間に拐われて、微妙に手の届きそうな所でイチャイチャされたら恨む。ずっとは恨まないよ。猫が幸せそうなら涙を飲んでお別れジャーキーする。幸せそうじゃなかったら?それはね、もうね、うん━━━━っんね!!
「━━━━ふぅん。話は分かりました。んじゃ、取り敢えず七三にごめんねしてこの話終わりにしましょうよ」
「いや、そんな簡単には・・・子供の喧嘩じゃないんだから」
「難しく考えるから、難しくなっちゃうんですよ。きっと、子供の喧嘩もガチムチ達の喧嘩も、本質はそんなに変わらないと思いますよ?嫌いで嫌いで、もう顔も見たくない!って訳じゃないなら、さっさと謝るなりなんなりして仲直りした方が建設的だと思いますけどね?ヒーローなんて仕事してるんですから・・・」
その言葉の続きを言うつもりはない。態々言わなくてもヒーローとして誰よりも戦ってきたガチムチなら、私に言われるまでもなく知ってる筈だから。
案の定、ガチムチは苦笑いを浮かべて私から訓練場へと視線を逸らした。
「・・・あぁ、そうだね。まったくもって耳が痛いよ。今度彼の仕事が落ち着いてから、ゆっくりお茶しながら話すとするさ。しかし君に言われるとはなぁ・・・ふふふ」
「何ですか?私に言われると何ですか??言ってごらんなさい。せぃ」
「自分の胸に手を当てて考えてごらん」
「セクハラですか?」
見事過ぎる返しをしたつもりだったけど、予想に反してガチムチは私の言葉を聞いても焦らなかった。それどころかむず痒くなる視線と共に不敵な笑みを返してくる。いつもなら必死になって弁明とかしそうなのに・・・思わず居心地悪くて体を少し引くと、勝ったと言わんばかりに笑ってくる。
「ぬぅ・・・何ですか?」
「いや、何でもないよ。ああ、そうだ。授業を受け持っている先生方から、緑谷少女の授業態度も大分良くなったって聞いたよ。まだ船を漕いでる時もあるみたいだけど、一応授業中は教科書とノートを開いてるって。セメントスとマイクがそれは良い顔で褒めてたよ」
「・・・・えっ、は、え?あの、私が言うのも何ですけど、もしかして先生達みんなして私に喧嘩売ってきてます?」
「そう思うなら、普段の行いを改める事だよ。相澤くんが本気で心配してたよ。インターンで何かあったんじゃないかって。相澤くんに相談されたの私初めてだよ。それでどういう風の吹き回しなんだい?」
色々と言いたい事はあるけど、それは止めといた。
何となくだけど、今日のガチムチは手強いと思うのだ。全部突っ込んでいったらかなり疲れる気がする。━━━というか、まぁ、この数日ずっとこの感じなんだよな。何というか勘が矢鱈といいと言うか、よく私の動きを見てると言うか・・・・休んだお陰で、体の調子が戻ってきたのかな?これまでアホみたいに働いてたし。こっちとしては指導が的確で助かるけどさ。
「━━━━それで?」
「・・・はぁ、言えば良いんでしょ。言えば」
ポケットにしまっていたスマホを取り出してガチムチへと見せた。不思議そうな顔をしたガチムチの前でアプリの一つを起動させれば、HOUNDの文字が浮かび上がり直ぐ様地図が表示される。操作を続ければ地図に赤いマークが点灯し、座標位置の数値が表示される。受信ログを追えば、つい先程変わらぬ位置から反応があったのが分かる。
「これは・・・・」
それを見て七三から話を聞いてたガチムチはハッとした。これが何か分かったんだろう。
そうだこれは、紛れもなくあの子が戦ってる証。
「私の言葉を信じて、今も戦ってる子がいます」
寂しくて辛い場所だけのそこで。
たった一人で。
「耐えてくれてる、待ってくれてる子が」
いつでも呼んで良いと言ったのに。
あの子は、律儀にまだ待ってくれている。
私が迎えに行くのを。
「だったら、応えない訳にはいかないじゃないですか。何が役に立つか分からないし、出来る事はやっておきたいんですよ」
装備を一つでも、技を一つでも、知識を一つでも━━━私はその時が来るまでに身に付けたい。
私に出来ることなんてそれしかないから。
あんな接触をしてしまった以上、私が捜査活動する訳にはいかない。恐らく私の素性はもう割れてる。体育祭やペロリストの事件であれだけ顔を晒してしまったのだ。嘴野郎のような頭を使うタイプのヴィランが、自分達にとっての厄介者を把握してない訳がない。あの時点で気づかず餓鬼だなんだと舐め腐っていたとしても、それに必ず気づくだろうし、雄英の後ろ楯を持つ私を警戒する。そして必ず、私の動向を追ってくる。
その中で私が大したおとがめもなく自由に動き回っている事が知れたら、嘴野郎に余計な警戒心を与えてしまう事になる。それは七三達の動きを大きく阻害させ、結果救出をより遅れさせる事になる。最悪、あの子の救出の機会を失うことだってあるかも知れない。
だからこうして校内にいる事こそが、私に出来る事でやるべき事。監視もそう長くは続かない。動きがないと分かったら人手は必ず別に回される。エリちゃんから聞いた話が本当なら事は既に動き始めていて、人手は幾らあっても足らないのだから。
だから私が動くのはそれから。少なくとも、敵の動きを把握してる七三達から許可が降りてからだ。
ただそれでも、もしあの子が私を呼ぶのなら話も変わるけれど。
「・・・・緑谷少女」
「?何ですか?」
声に視線を上げると同時、頭がワシワシと撫でられた。
細いけれど強さを感じる大きな手は少し乱暴で、せっかく整ってる髪型が少し崩れてしまう。
むっとして顔をあげると、ガチムチの笑顔があった。
「ナイトアイに話したい事が増えた。早く仲直り出来るように頑張るよ。ありがとう、緑谷少女」
「何ですか、それ━━━━」
「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!もう無理!もう無理!」
「馬鹿野郎!上鳴ぃ!前見ろ!前!!爆豪から目を離すんじゃねぇ!!一瞬で持ってかれるぞぉ━━━━ぷぁ!?」
「瀬呂ぉぉぉぉぉぉ!!みっ、緑谷すわぁん!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!彼氏押さえてぇぇぇぇ!!」
なんか悲鳴聞こえる気がするけど、彼女ではないから放っとこうか。うん。