私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
放課後特訓という汗臭い日が続くこと暫く。
漸く私が七三に召集されたのは、切島が初インターンの活躍でネットを賑わせた三日後の事だった。
平日の召集なので当然授業に出る時間はない。学業成績を考えて断る事も出来るのだが、エリちゃんが待ってる事を思えばそんな選択出来る訳もなく、わたしは断腸の思いでお休みを決意。諸々の書類を渋い顔する包帯先生へ提出。しかめっ面のかっちゃんに見守られながら荷物をまとめ━━━━平日の昼間っから堂々と学校を出た。大手を振って。
授業に出なくて良いとか、堂々とサボれるとか。
そういう気持ちは少しもない。
ほんと、少しもない。
マジで。
やっほーーー!
「しっかし、奇遇だよなぁ。同じ日に召集だもんな」
学校を出発してから暫く。
電車で揺られていると近くに座っていた切島がそんな事を呟いた。私の両隣に座るお茶子と梅雨ちゃんも似たような気持ちなのか同意を口にする。私もせやな、言うとくかな。せやな。
「本当だな」
「けっ!」
そう私達に続いたのは私の前で立ってる、ぼーっと面の紅白饅頭としかめっ面のかっちゃん。おハゲの事務所に行くなら正反対に行かないといけない筈なのに・・・・これ、もう奇遇ではすまないでしょ。
七三はそれなりに準備が必要だと言っていた。その内容について詳しくは教えて貰えなかったけれど、状況を考えれば大体の予想は付く。一つは嘴達の犯罪の証拠集め。一つは警察への根回し。一つは抵抗が予想される連中を叩きのめす為の戦力集め、といった所だろう。
それなら、恐らくこれはそういう事。
かっちゃんと梅雨ちゃん辺りは勘づいてるかな?
あっ、目があった。ね、梅雨ちゃん。うんうん。
だよねー。
しかし、お茶子達は兎も角、アホみたいに忙しいおハゲが来るのは少し意外かな。仕事は幾らでもあるみたいなのに人の仕事に出張るなんて・・・何考えてんだか・・・・あ、いや、どうせ轟の事だろうな。良くも悪くも、あのおハゲは轟中心だから。
「それにしても、いつもそうやって並んでおハゲの所に行ってたの?仲良くなったね」
何となく気になって聞くと、かっちゃんが眉間のシワを深くする。流石、我らがかっちゃんである。清々しいまでに不機嫌を隠さない。
ただ、まぁ、轟は何とも思ってなさそうだけど。
「ふざけろっ!誰が仲良くだ!!こいつが勝手について来やがるだけだ!!金魚の糞みてぇに━━━━」
「あぁ、別々に行く理由もねぇからな。・・・緑谷は通形先輩とは別で行ってるのか?同じ事務所なんだろ」
「━━━てめぇは、勝手に、話を進めてんじゃねぇよ!!」
かっちゃんの怒りの鉄拳が轟の顔面へ。
サラッとかわした轟は何事も無かったかのように私に視線を向け直す。自然に。
「そっ、私は現地集合ってなってる。黒豆パイセンめちゃ早起きでさ・・・出発時間合わせるのとかキツくて」
「緑谷は朝弱い方だからな」
「そんなにでもないと思うけど・・・・どうだろ?」
いつも起こしてくれるかっちゃんに確認を取れば、額に青筋立てながら「寝覚め糞雑魚だろうが」と吐き捨ててきた。むきゃつくわぁ、こいつぅ。
皆と駄弁りながらそのまま電車の旅をして━━━で、やっぱり同じ所で降りた。そして駅から出て同じ方向に歩き出し、同じ建物の前で足を止める。
「お、緑谷さん!」
「わっ、やっほー!皆ー!」
着いたら着いたで、ビッグ3なパイセン達と合流。
もうね、疑いようもないよね。
チラッと黒豆パイセンに視線を向ければ、力強く頷き返してくる。何故かねじれんパイセンも良い顔で頷いてくる。あっちは何も分かってないな。私の二つのおめめがそう言ってる気がする。いや、間違いない。
全員纏まってビルに入り、言われた階へと向かった。
簡易の受付を通り部屋に入れば、大きめな室内にヒーローがずらっと並んでいる。お茶子と梅雨ちゃんがお世話になってると言ってたドラゴン姐さん、切島から聞いてた関西の太っちょマン、ペロリストの時に会ったジェット爺ちゃん、七三事務所ーズに・・・・ん?んんん!?
面子を確認してたら何か見てはいけないものを見てしまった。幻覚の類いなのは間違いないので首を振って、目頭もよく揉んでおく。疲れが出てるね。これは。
そしてまたパッとそこを見てみれば━━━━こっちをガン見する包帯先生がいた。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うそうそ!いやぁ、ね?いやいや、そんなね。ね。・・・・いるいる!いるやん!いやいや、授業とか、あっ、い、いやぁぁぁぁああああああああああ!!えっ?うぇおいやぁぁぁぁぁあああ!!やぁぁぁぁぁあああああ!!
「なんだ、緑谷。俺がいると、何か不味い事でもあるのか?」
「滅相も御座いません!!拙者っ!何もっ!言っておりませんで御座るます!!ごゆるりとどうぞ!!」
「お前に言われるまでもない・・・問題だけは起こすなよ」
「ははぁぁぁぁぁ!!」
スチャっと敬礼を返せば、満足したのか鋭い視線が別方向へと向けられる。心臓に悪い。なんで先生まできとんねん。あかんやろ、あかんでしょ?ねぇ、お茶子ぉ、あかんよねぇ?え、丁度良かった?どういう意味!?
悪い意味で心臓が高鳴らせてると、「緑谷双虎!?」という驚愕に満ちた怒鳴り声が響いてきた。声の感じから誰か分かってるけど、一応確認すれば紙コップのコーヒーを手にしたおハゲがいた。口元からコーヒーが零れてる。きちゃない。
「き、貴様っ!どうやってここを嗅ぎ付けた!?」
犬かなんかか、私は・・・・とツッコミを入れたいけど、包帯先生の目があるし。うぬぬ。
「まぁ、ご冗談を。私、サードライアイさんに呼んで頂き、こちらに参った次第で御座いまして・・・何もエン・・・エン・・・え◎%〓※@*ω$ψЮさんの後を追い掛けてきた訳では御座いませんことよ。おほほほ」
「そんな奇妙な発音を求める名ではないわ!!エンデヴァーだ!戯け!その程度も覚えられんのか貴様は!!いや、態とか!態とだな!!貴様!!━━━━━はぁ、しかし、サードライアイ?聞かん名だな。何処の新人だ、こんな馬鹿を雇ったのは。ったく。それと、なんだ、その気持ち悪い話し方は。悪い物でも拾い食いしたのか?ん?」
・・・この野郎ぅ、後でぶっ飛ばす。
笑顔で決意を固めてるとおハゲの所のサイドキックの人達が顔を見せた。手を振られたので包帯先生に目をつけられない程度に返しておく。やほやほー。えっ?どうして来なかったのって?いやぁ、なんかぁ、何処かの誰かがぁ、邪魔したからみたいなぁ?いや、誰とは言わないんだけど。
おハゲがサイドキックにジト目で追い詰められてるのを他所に、緊張した面持ちのバブっちから号令が掛かった。どうやらいよいよ始まるらしい。
バブっちへ皆の視線が集まると、側にいた七三が背筋を伸ばし一歩前へと出る。
「本日はお忙しい中、私共の呼び掛けに応えお集まり頂き、誠にありがとう御座います。感謝の言葉もありません」
「あなた方に提供して頂いた情報のおかげで調査が大幅に進みました。これより以前よりお話していた指定ヴィラン団体・死穢八斎會の件についての情報共有━━━」
「━━━━及び、首謀ヴィラン・オーバーホール逮捕を主とした協力要請、その内容について詳しくご説明させて頂きます。本日は宜しくお願いします」
よく通る声が部屋に響いてから暫く。
バブっちを司会、謎のムカデの人をその補佐につけ協議は始まった。
七三達の事務所はある事件を切っ掛けに嘴の怪しい動きを察し調査を開始。調べて直ぐに不審な金の動きや、他組織への接触が見られたらしい。更に詳しく調べていくとヴィラン連合である手下Aと接触したのを確認したとか。
その話になると、ジェット爺ちゃんが顔をしかめ声をあげた。
「連合の接触っては、こいつが初めてか?」
「あっ、えっと・・・・」
「バブル、それは私が。申し訳ありません、グラントリノ。こちらではそれ以前にヴィラン連合が接触していたのかは・・・」
「まっ、だろうな。わりぃな、話遮っちまって。続けてくれや」
バブっちがパニくるとすかさず側にいたムカデの人が割って入ってきた。華麗なフォローに先輩味がある。チラッと側に座る黒豆パイセンに視線を向けると、「センチピーダー、うちの事務所のサイドキックだよ」と教えてくれた。成る程、あれがラストメンバーかぁ。七三よりキャラ立ってるなぁ。へぇ。
「えーこのような過程があり!『HN』で皆さんに協力を求めた訳で」
「そこは飛ばしていいよ」
「うん!・・・・じゃなかった、はい!」
緊張してんなぁーバブっち。
辿々しい説明をぼんやり聞いてると、南米ラッパーなヒーロー(多分)がゴチャゴチャ言い始めた。お茶子達がねじれんパイセンとHNがどうたらと話してたのが気になったらしい。子供邪魔じゃね?的な感じっぽい。━━━━ん?私ですか?えっ、HN?さっき話してたやつですか?いや、知らないですけど・・・・興味?無いですね。ムカデさんも飛ばして良いって言うし、大した事じゃないんでしょ。後で気が向いたらググります。気が向いたら。
グイグイ世話をやこうとする黒豆パイセンを押し退けお茶を啜ってれば、切島の所の太っちょマンが元気良く立ち上がった。お腹がボヨンと揺れる。
「ピリピリすんなや、ロックロック!そないな所ツッコんどったら、それこそ話が終わらんやろが!それにや、今回の件の大お手柄なスーパー重要参考人こそ、うちで世話しとる雄英の環と切島くんやで!」
ばっと手を差し向けられ切島が困惑を顔に浮かべる。
話の流れを見ればこの間の活躍が関係してそうだけど、心当たりとか無いんだろうか。その隣の天ちゃんパイセンは心当たりがあるのか自分の掌を見ながら何とも言えない顔をしてる。
「話させてもらう前に━━━━取り敢えず、初対面の方も多い思いますんで!ファットガムです!宜しくね!」
「「丸くてカワイイ・・・」」
「お!アメやろーな!当たりはファットガムオススメ、関西限定販売のたこ焼き味や!」
お茶子と梅雨ちゃんの呟きに局地的な飴な雨が降る。
たこ焼き味は兎も角、色とりどりの飴の包みの中には高級感漂う物も見えた。ので。
「ひゅーひゅーーー!!かっぁわいいいいい!!」
「おーー!おおきにーー!元気なお嬢ちゃん!!俺もまだまだ捨てたもんやないな!ほれ、アメ・・・・あっ、しもた。切らしてもうた」
「でぇぇぇぶ!!でぇぇぇぇぇぇぇぶ!!」
「ひどない!?その掌返しは!?」
スパン、と良い音が響く。
痛みと同時に私の知能指数が減った所で、太っちょマンは真面目な顔に戻り話しを再開した。━━━んで、私の隣の席、黒豆パイセンとは反対側へ包帯先生がついた。背筋が伸びた。
「まぁ、話を戻しますわ。知っとる人は知っとるかも知れませんが、俺は一時期個性に作用する薬物、主にブースト辺りの取り締まりをしとりました。せやから、それ関係の薬物はそれなりに色々と知っとるつもりです。せやけど先日の烈怒頼雄斗デビュー戦、今まで見たことない種類のモンがうちの環に撃ち込まれた。それが"個性"を壊す"クスリ"」
部屋が一気にざわついた。
個性ありきのヒーローにとって死活問題だ。
当然の反応だろう。
隣にいた黒豆パイセンもじっとはしていられず、直ぐ天ちゃんパイセンの安否を確認する。
結果は無事との事で、証拠として個性で変化させた牛の蹄を見せられ安堵の溜息を吐く。
「見てもろたら分かるとは思いますが、こいつは時間を掛ければ自然治癒します。あくまで効果は一過性のもの。せやけど、問題はその原理や。こいつは個性の大本"個性因子"そのものを傷つけるんですわ。今回はこうして回復しとりますが、クスリの濃度やら何やらが調整出来るモンなら・・・個性を完全に消すことも可能かもしれんのです」
太っちょマンはそう言うと包帯先生を見た。
視線を受けた包帯先生は首を横に振る。
「俺の抹消とはちょっと違いますね。俺の個性はあくまで個性因子に働きかけ、一時的に停止させているだけだ。抑制してるだけで、攻撃してる訳じゃない。個性の発動を止めれば、対象は個性として力を発揮する」
「まっ、つまり似て非なるもの、ちゅうわけですわ。危険性に関してもご理解頂けかと思います」
「━━━ふん。個性を壊すか。それで、当然解析はしたのだろうな」
太っちょマンの言葉に続いて偉そうなおハゲの声が響く。妙な緊張感にバブっちが変な声をあげたけど、太っちょマンは大して気にした様子もなく手を大きく広げる。
「当然、色々ツテつこぉて調べました。せやけど、撃たれた環の体は個性因子が傷ついとる以外異常なし。使われた特殊弾はバラバラ、クスリの一滴も残ってりゃしまへん。それを発射した銃も特別な仕掛けもない。ホンマお手上げでしたわ━━━切島くんが、特殊弾を確保してくれへんかったら」
「へぇ・・・・俺が・・・・俺が!?」
「おう、せやで。だからお手柄ゆーとるやろ。まだ自覚しとらんかったんか、君。何んもヴィラン倒すことばっかりがお手柄やないんやで。ぼーっとしとらんと、シャキッとせぇや」
「うっ、うっす!」
切島が姿勢を正すのを確認すると、太っちょマンは満足そうに頷いてくる続ける。
「そんで調べた結果、ムッチャ気色悪いモンが出てきた・・・・人の血ぃや細胞や」
吐き出された言葉に空気が凍る。
察しの悪い切島は相変わらずポカンとしてるけど、他の面々も大体の事情が分かったらしい。お茶子と梅雨ちゃんなんか顔色が極端に悪い。かっちゃんも轟も苦々しい顔をしてる。
私は事前にエリちゃん本人から聞いていたから、正直そこまで衝撃はない。
衝撃は、ね。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あの糞嘴まつげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
今度会ったらすかした横っ面にシャイニングウィザードぶちかまして、エルボーで顔面粉砕して、毛穴という毛穴からかっちゃんの爆液流し込んで、毛根という毛根死滅させてやっからなぁぁぁぁぁ!!きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
ふぅ!すっきりしたぁ!!
あっ、どうぞ。
協議始めてどうぞ!!
うるさくしてすいませんでした!!どうぞ!!