私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
えええええええええええええええええ!!!!????れありぃぃぃ!?
皆と別れてから五分ほど。
ゴーグルの機能と黒豆パイセンの個性を活用して、可能な限り最短距離でエリちゃんの足取りを追っていた私と黒豆パイセンは、暗闇の先にその背中を見つけた。
ファー付きの緑のジャケットの男、ロングコートを揺らす奴・・・・それと、ロングコートの陰から見える見知った白髪の女の子を。
黒豆パイセンから視線で合図され、即座にベビースターのホルダーに手を掛けた。本来なら投降するように声を掛けるべきだ。けれど、嘴まつげには逮捕状が出てる。上の騒ぎの件を合わせれば、不意討ちかまして踏ん捕まえてもお咎め殆んどない筈。故に見敵必殺。さーちあんどですとろーい。脳天に叩き込んでソッコー仕留める!!気を失った所で、身体中に山芋刷り込みつつワサビを尻の穴に突っ込んでヒーヒー言わせてやるぜぇ!!
「ふたこ、さん━━━━」
私を呼ぶ小さなその声に、嘴まつげが振り向いた。
一瞬遅れてベビースターを射出したけど、嘴まつげの掌に防がれ━━━━━私のペンギン丸(ベビースター)は銀の粉塵になって宙に舞い散った。ぺぺぺぺっ、ぺ、ぺっ、ペンギン丸ぅぅぅぅぅ!!
「誰かと思えば、あの時の学生か」
足を止めた私達を、嘴まつげは鬱陶しそうに粉塵を払うと蔑むような目で見てきた。なので真っ直ぐ見返して、両手で中指立てて見せつけてやる。遠目だけど額に青筋が浮かぶのが見える。沸点ひくぅ・・・。
「何を考えている」
「沸点ひくぅ・・・頭にヤカン載せたらお湯でも沸かせるんじゃない?カップラーメン差し入れしようか?・・・・む?むむ?」
「ニコ。まだ彼女がそこにいる。気持ちは分かるけど、煽るのは少し控えて」
「あ、いや、んん?」
妙なタイミングで声が出た。流石にまだ挑発するつもりはなかったんだけど・・・・?
なんぞ?まぁ、文句はあるけど?あれか、我慢出来ないレベルで嫌いなのか。なるほど。わかりみ━━━な、訳あるか。私が話す前、何か聞こえた?いや、聞かれたのかな?誰に?嘴まつげじゃない。コートの方・・・?いや、なんか違う気がする。
かといって辺りを視線で探ってみたが特別何もない。嘴まつげの近くにある通路の角とか怪しいけど。
そうこうしてると嘴まつげが笑ってない目を細めて「事情が~」やら「見てみぬ~」やら「この子に~」やら、ごちゃごちゃなんか言ってきた。どうせ大した事言ってないので、真面目に聞いてる黒豆パイセンにそれは任せて、私は取り敢えずこっちを覗いてくるエリちゃんに手を振っておいた。ついでに口パクでご挨拶。やっほー、きたよー。サンダル履いててくれてありがとねー。ちょー助かったー。隣のインテリ気取りの短足短気糞ダサロリコン嘴まつげに嫌な事されてないー?
「何を言おうとしてる」
「やっほー、きたよー。サンダル履いててくれてありがとねー。ちょー助かったー。隣のインテリ気取りの短足短気糞ダサロリコン嘴まつげに嫌な事されてないー?━━━━っ、むむ!?」
「ニコ!?」
また声が聞こえた後、知らず知らずの内に口から言葉が漏れでてた。偉そうに何か言ってた嘴まつげが眉間にしわを寄せる。ついでに額の青筋も増える。マジ短気。なになに、聞いて欲しかった系?うける。━━━というか、流石におかしいと思ってゴーグルの省エネモードを解除し機能全開で周囲を声の聞こえた方向を検索しなおしてみれば、サーモグラフにて通路の陰に潜んでる二人の姿を発見。引き寄せる個性で引っ張り出せば、苦痛の声をあげながら嘴マスクを着けた黒ずくめの男と酒臭い男が床に転がった。
本当はバカップルもドン引きな熱烈なキスをこの二人にやらせるつもりだったんだけど、急に意識がぼやけて個性が上手く使えなかった。それどころか立ってるのすら辛い。隣にいる黒豆パイセンも同じなのか、頭を押さえながら足取りがおぼつかない感じで目の前の連中を睨みつけてる。
「油断し過ぎましたか・・・!」
「~~ひっく、いてぇ~ぜぇ~うえっぷ!くそぅ!いきなりシェイクしやがって、吐きそうだァ」
黒ずくめの方はコートの埃を払いつつ懐から銃を取り出し、酒臭いのはフラフラしながら一升瓶を抱え直すと壁を蹴り天井へとしがみつく。それにしても、皆マスクしてるな。なにこれ。チームの証的な?それとも空気悪いの、ここ?
今度から装備にマスク増やそうと心に決めている間に、エリちゃんのあんよからサンダルが取り上げられた。嘴まつげの個性でバラバラに崩れたそこから、私と靴やのおっちゃんが仕掛けた発信器件無線機な発目ベイビーが出てくる。
「餓鬼と侮っていたが、どうやら少しは考える頭があったらしい。随分と早いご到着だとは思ったが・・・・こういう事か」
パキ、と発目のベイビーが砕けた。
結構高いって言ってたのに。
「ヒーローごっこがしたいなら、相手はよく選んでするんだったな。音本、酒木。後はお前らに任せる。俺はここにいなかった。そういう事だ」
嘴まつげがそう言った瞬間、黒ずくめの銃口がこっちを向いた。
「━━━━っ、パイセン!」
「分かっ、てるさ!」
返事を耳にし、直ぐ様炎を吐き出した。
ただの目眩ましだが敵を躊躇させるには十分だったらしく、私達が後方へ退く猶予は余裕で稼げた。乾いた炸裂音と共に飛んできた弾丸が風を切り見当違いの方へとぶつかり甲高い音が響かせる。
「っち、反応の早い!流石はヒーローですか━━━あなた方の個性は!?」
黒ずくめのアホな質問が飛んでくる。
勿論素直に答えるつもりは━━━━。
「俺の個性は透化!!発動中は、あらゆる物をすり抜けられる!!━━━っ!?」
「私は火を吹く個性と引き寄せる個性!!口から火を吹き、物を引き寄せる事が出来る!!━━━━━━ぬぅっ!?」
またついて出た言葉に、私は漸く理解した。
これまでのそれは無理矢理出させられてたのだろう。これは恐らく心の中の言葉、考えを強制的に口に出させる個性。抵抗手段は不明。ただ、今の感じやその前の事を考えれば問い掛けるという発動条件ある可能性が高い。
「成る程。私達を引き摺り出したのは、こちらのお嬢さんの個性か━━━━厄介な。ミミック達をスルーしてきた以上、技量もあるのでしょうね」
「おい、ヘッタクソ!外してんじゃねぇ~や!酔っ払ってんのかァア!?」
「酔っているのは君だ」
「俺かぁあ、イイエテミョー!!タハハハ!おぇ」
「はぁ、もう黙って、私のサポートだけしていれば良い。この特別な私の、ね」
銃口が再びこちらを向き、天井にぶら下がってる奴がナイフを取り出してくる。
するとその二人の姿を確認した嘴まつげが通路の奥へと歩き始めた。続いてエリちゃんを抱えるコートのやつも。エリちゃんだけ回収しようとしたけど、頭と体がフラフラしててどうにも個性が上手く発動しない。
「さて、お前達は━━━━━」
何か言いたそうにしてる黒ずくめはスルーして、私は立ち去ろうとしてるその背中に、否が応でも届くように声を張りあげた。
「待てこらぁぁぁぁぁ!!エリちゃん置いてけぇ!!この短足短気糞ダサロリコン嘴まつげぇぇ!なにお持ち帰りしようとしてんだ!!ああん!?ネットに若頭は幼児愛好家って書くぞ!八斎會は幼児愛好家の聖地って書くぞ!!いいのぉ!?書くよ!本当に書くよぉ!あんたの写真付きのアカウント作って、一万冊のエロ本所有してるって暴露するからね!ついでに八斎會ロリコン政党結束するから!!あーーもしもし!発目!今から頼みがあるんだけど良い!?ちょっとネットに━━━━」
パァン、という乾いた音が鳴り、足元を銃弾がすり抜けていった。無線するふりしてゴーグルに当てた手をそのままに、そこへと視線を向ければ黒ずくめのマスク野郎がプルプル震えてる。寒いの?冷房効きすぎ?な、わけないか。
「貴様ァ!!若を愚弄するな!!若は幼児愛好家などではない!!若は偉大な野望を持っている!!お前のような小娘に、何が分かる!!」
めちゃおこ。怖いくらいおこ。
だけどおこなのはこっちも同じだ。
こっちだって、腸煮えくり返ってるのだ。
「あぁん!?分かってたまるか!!ばぁぁぁぁぁぁか!!あれが幼児愛好家じゃなければ、誰が幼児愛好家なんですかぁぁぁ!?監禁して悪戯してんのは知ってるからぁ!!はい通報ー!はい、アウトー!ヤクザとみせかけて、実はここ幼児愛好家の秘密結社なんじゃないの?へいへい、ロリコンビビってる!社会制裁にビビってるぅ!」
「ロリコンでもなければ、ビビってもいなぁい!!我々は、我々こそが支配する側の人間だぁ!!酒木ぃ!!」
怒鳴り声と共に銃のトリガーにかかった指が。
ナイフを持った腕が。
動き出す。
「ありがとう、ニコ。十分だ」
けれど、それより早く黒豆パイセンが壁に沈んだ。
次の瞬間、弾かれるように壁を飛び出したパイセンは、こちらを攻撃しようとする二人に拳を叩き込む。
瞬きする間も与えない、高速の連擊。
嵐のように鈍い音が響いた後、二人が力なく体勢を崩す。それと同時にぼやけていた頭がすっきりして、ふらついていた体に力が籠る。
「なんでっ、こん、な、動け━━━━━」
酔っ払っいの言葉を遮るように、黒豆パイセンの拳が再び二人を襲った。二度目の連擊。今度こそ意識が切れた二人が地面へと落ちる。
「酩酊どころじゃない感覚を、いつも味わっている。俺は特別じゃない、弱いやつだからね。━━━だけど、それでも、救うと決めた。笑顔を守ると決めた。ヒーローになると、決めた!だから、動けなくても動くのさ!!」
どぷん、と地面に沈んだパイセンは、また弾かれるように飛び出す。嘴まつげに向けて真っ直ぐ。
「治崎っ!!」
声に振り返った嘴まつげに拳を振り抜く。
嘴まつげには寸前でかわされたけど、拳を振り抜いた勢いを利用した回し蹴りはエリちゃんの体をすり抜け、コートの奴の顔面にクリーンヒット。鈍い声を溢しながら、コートの奴がエリちゃんを手離した。
「ニコ!!」
その声にすかさず引き寄せる個性で━━━コートの奴を地面に叩きつけてからエリちゃんを引っこ抜く。キャッチした後すぐはエリちゃんが目を見開いて驚いてたけど、ぎゅっと抱き締めればそれに応えるようにしがみついてくる。
「遅くなってごめんね。よく頑張った」
そう言って頭を撫でると胸に顔を埋めたまま、エリちゃんはぐずぐずと泣き出した。そして小さな声で、震える声で、危ない目に遭わせてしまった事を必死に謝ってくる。こんな時なのに、それでもこの子は私達の為に、涙を流してくれる。優しい子だ。本当に。
「━━━━戻って、こい。エリ。何度言ったら分かるんだ。お前は、そういう事を望むべきじゃない。そんな資格ないだろう。何人、不幸にしてきた」
響いてきた嘴まつげの声にエリちゃんの体が震えた。
胸元から僅かに覗く顔が酷く青ざめてる。
「お前のつまらない我が儘のせいで、また俺は手を汚さなくちゃならない。また不幸な人間が生まれる。思い出せ、お前は人を壊す・・・そう生まれついている」
崩れていた体勢を立て直しながら。
頬を袖で拭いながら。
ゆっくり、身を屈めていく。
「行動一つ一つが人を殺す━━━お前は呪われた存在なんだよ」
地面に伸びる掌が視界に映る。
その光景に嘴まつげの言葉で熱くなっていた筈の脳が急速に冷えていき、脳裏に目の前の男の個性の情報が過っていく。『オーバーホール』触れた物を分解・再構成するという、何でもありなその個性の情報が。
「パイセン!」
「ニコ行け!!彼女を外へ!!俺は━━━━━」
エリちゃんを抱き締め、引き寄せる個性をフルスロットルで発動。後ろの通路へと体を全力で引っこ抜く。
私がその場を退いた瞬間、地面が粉々に砕け散る。
「━━━━━ここで、治崎を捕らえる!!」
粉塵の海を突き進んでいくパイセンの姿に背を向けて、私は引き寄せる個性で更に加速。
元来た道を進んだ。
「ふたこさん!わた、わたし・・・!」
「大丈夫!!あの黒豆みたいな目したパイセンね、腹立つことに私でも勝てないから!」
「かてな、い・・・」
「ちょー強いってこと!!私らがいなかったら、絶対に勝つ!だから、逃げるよ!!」
エリちゃんが頷いたところで、大きな音が通路に響く。
振り返ればさっきまでいた所がコンクリートのトゲで塞がっている。パイセンの姿はもう見えない。
「本当、お願いしますよ。パイセン」
私はゴーグルが記録してきた地図を頼りに進む。
まだ僅かに聞こえる、パイセン達の戦闘音を耳にしながら。