私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
まじか、ホリー。
エリちゃん救出!嘴まつげ監獄in!違法薬物回収!ヤクザ屋さん家・爆発☆四散!!仮免ヒーローニコちゃん大活躍!!テレビのワイドショーに引っ張りだこ!!連日ニコに迫る特番放送!ニコ関連商品販売!印税ガッポガッポ!!━━━━━という予定だったんだけど、現実はそう甘くはなかった。
淀んだ空気が流れる暗闇の中、銀の一閃が迫る。
殺意の籠ったそれは身を翻した私の自慢の髪を僅かに切り裂き、その残骸と共に宙へ銀の軌跡を描いた。
私はその光景を視界に捉えながら、怒声と共に殺意の元凶を蹴り上げる。
「邪魔っ!!すんなってぇの!!」
鈍い感触と共に人を蹴り上げた衝撃が足に伝わる。
目の前のそいつは蹴りの衝撃に確かに飛んでいくが、十字にした腕で的確に防いでおり、そのダメージは予想より下回っているだろう。
それこそ僅かな時間で体勢を立て直し、反撃してくるレベルで。
案の定、そいつは手にしたナイフを投げ飛ばしてくる。
向かってきたそれを拳で叩き落としてる間に、崩れていた体勢を整えたそいつは二本目のナイフを取り出し切っ先を向けてきた。
「邪魔なのは貴女の方です。なんでこんな所に、いるのでしょう?私は暇な貴女と違ってとっても忙しいので、その背中のを寄越してさっさと死ぬなり、尻尾まいて逃げたりしてくれませんか?」
「はぁぁぁん?寝ぼけたこと言ってると、二度とその腹立つニヤケ面出来ないように、原型留めないレベルで顔面ボコボコにしますわですわよ。あんたこそ"また"尻尾まいて逃げれば?お得意でしょぉお?」
「やっぱり、私貴女嫌いです」
「奇遇、私も嫌い」
黒豆パイセンと別れて地下道を駆ける事少し。
音もなく気配もなく、突然こいつは現れた。
ヴィラン連合のど腐れアホ女だ。
協議の時にこいつらが関わってるかも~なんて話は聞いてたけど、まさかここで邪魔してくるとは思わなかった。狙いはエリちゃんっぽいし、ここにいて余裕ぶっこいて襲撃してる以上、どんな形であれヴィラン連合がヤクザとお仲間なのは確定だろう。少なくとも、今は。
「あんた、あんた・・・・えっと、なんだっけ、と、と、とぐろ━━━━━」
「・・・トガです。何ですか、そのニョロニョロしてそうな名前。殺しますよ」
「似たようなもんでしょ。くねくねくねくね地面這いずり回ってさ。で?ヴィラン連合のあんたが、ここで何してん?あぁ、あれか!性格悪過ぎでクビになったんでしょ!分かる分かる!あんた協調性とかなさそうだもんね!あははっ、それで三下やくざに拾われて転職と・・・はははっ、うけるー!どこまで堕ちるわけ?たはー!!」
「ムカっ!!違いますぅ!トガは━━━━っち、油断も隙もあったものじゃありませんね。このカス女」
ポロっと何か言うかと思ったけど、流石にそこまでアホじゃないか。やっぱりこいつ頭は良く回る。それに腹立しいくらい目も良い。さっきから引き寄せる個性を発動しようとすると、こっちの気を逸らすような攻撃したり、フェイント交じりに移動してくるから狙いが定まらず出力が安定しない。こいつじゃなければ、最初の一撃で地面か壁にめり込ませてノックアウトしてるのに。たく。
「ふ、ふたこさん」
アホ女の動向を窺ってると、背負ったエリちゃんが不安そうな声をあげた。首に掛かってる腕を撫でながら「大丈夫」と伝えれば小さな返事と共にぎゅっとくっついてくる。
そんな私達の様子を見て、アホ女が差し向けてたナイフを下げて思い切り脱力する。そんな仕草なのに相変わらず隙がないのは忌々しい。試しに指を動かしてみれば、どちらにでも動けるよう足が僅かに開く。
「━━━━はぁ、少し興醒めですかね。やるならやるで、それ下ろして貰えません?こっちも攻撃しづらくてしょうがないんですよ。貴女もそうでしょう?さっきから動きにキレがありませんよ」
「残念。あんたみたいな雑魚助と違って、努力する完璧超人の天才ニコさんにはこの程度ハンデにもならないんだなぁ~。それにあんた程度のへなちょこ攻撃、この子に当てさせるわけないでしょ?なんなら三味線もひいてあげよっか?持ってないけど」
とは言ったものの、実際問題エリちゃんを背負ったまま戦えるほど生易しい相手でもない。あいつの狙いがエリちゃんである以上、一旦置いて戦うのは論外。隙をついて連れ去られる可能性が高い。目の前のこいつもそうだし、さっき私達を襲った妖怪コンクリ七変化が横からかっらさってくるかも知れない。まだ潜伏してるやつだっているかも知れない。不確定要素が多すぎる今、それは悪手だ。
かと言って、このまま徒に時間を使うのも宜しくない。戦闘はなるべく避け、何とか撒く必要がある。
せめて誰かと合流出来てれば、それに輩の相手押し付けてトンズラこけるんだけど・・・・ゴーグルに浮かんでる七三や包帯先生の反応は、この糞迷路の中では近いとは言い難い距離。あっちもあっちで妨害受けてるだろうし期待は出来ない。
ならもう仕方ない。
予備がないから、ギリギリまで使いたくなかったけれど、ここらが使い時━━━━。
「とっておき、あげる!!」
「━━━っ!」
━━━通路を塞ぐように炎を吹きつける。
タメなしの炎にアホ女を退かせる威力はない。
けれど、一瞬の隙さえあれば良い。
ホルダーの留め具を外し、ベビースターを射出。狙いは勿論、炎の先にいる目障り極まりないアホ女。
だけど個性の対象はアホ女ではなく、アホ女が炎の壁に消える寸前までいた真上の天井。
この一発は、それでもお釣りがくる。
「エリちゃん、ぎゅぅぅ!!」
「っっっっっ!!」
私の声にエリちゃんが背中へ顔を埋めてしがみつく。
エリちゃんの感触を確かめながら引き寄せる個性で一気に後退し、そのまま通路の影に飛び込んだ。
瞬間、射出したベビースターが炎の中に飲み込まれ━━━━閃光が通路中へと走った。
ニコちゃん108の必殺技━━━━Extra。
『喚んで楽しいニコニコ召喚術・爆殺卿』。
「BAN!」
轟音と共に爆風が巻き起こる。
アホ女の短い悲鳴が聞こえたような気がしたが、直ぐに轟音にかき消された。爆発の衝撃でゴーグルが突然のショート、視界が真っ暗になって何も見えない。分かるのは肌から伝わってくるヒリつくような爆炎の熱、吹き荒れる突風が吹き飛ばしてくる礫の痛みだけ。背中のエリちゃんを庇いながら耐える事少し、それが終わりを迎えた。
様子を見にゴーグル外して通路を覗き込めば、ボロボロに崩れた天井と黒焦げた残骸が転がってるだけ。あいつの姿は見えない・・・・けれど、何となく何処かでピンピンしてる気がする。
「ふたこ、さん、おっ、終わったの・・・?」
恐る恐ると言った様子で聞いてきたエリちゃんが肩の所から覗いてきた。大丈夫だと伝えようとしたけど、それより早くエリちゃんが目を見開いた。
「ふたこさんっ、顔っ、け、ケガしてっ!」
言われて触れて見れば、何かで切ったのか頬の所から血が流れていた。探ったらちらほら血が出てたり火傷してたりしてた。触ったらちょっと痛い。
「あー、ビシバシなんか当たってたからね。まっ、OKOK。いつもの事だから。それよりエリちゃんはOK丸?痛い所はない?無茶させてごめんね。ビュンビュン振り回されて気持ち悪かったでしょ」
「わっ、わた、しは、大丈夫だ、よ。でもっ・・」
「わっはは。心配してくれてありがと。でも私こそ大丈夫。エリちゃんと違ってバリバリ鍛えてるし、何より学校に帰ればチートばぁちゃんが完璧に治してくれんのよ。しかも、タダで━━━━━だからね、自分がいなかったらとか、そういう事考えちゃ駄目だよ」
俯きかけていたエリちゃんにそう言うと、弾かれるように顔があがった。
そしてその潤んだ赤い瞳に私が映りこむ。
「誰がなんて言おうと、私は不幸なんかじゃない。エリちゃんが側にいてくれて嬉しいし、楽しいし、幸せだよ。証拠にほら、こんなに笑えてる━━━━それともエリちゃんは嫌?私と一緒にいるのは好きじゃない?」
意地悪だと思いながらもそう聞けば、エリちゃんは弱々しくだけど首を横に振ってくれる。小さな声だったけど「一緒の方が良い」とも。
「言ったね、それじゃエリちゃんも頑張ってね。親友の私一人だけ頑張るなんてズルいもんね?」
「えっ、あっ、がんばる・・・でも、わたしなにも」
「ええっ!?じゃさっきのは嘘!?ショック!ニコちゃんショッッッッック!!はー、傷つくわぁ!親友に裏切られて傷つくわぁ!」
「あっ、あ、あの、がっ、がんばる!」
「よし約束ね!私も頑張る、エリちゃんも頑張る!それでおあいこ!まずはしっかり掴まること!」
そう言えばエリちゃんは慌てて体にしがみついた。
分かりやすく頑張ってくれるようで助かる。
記憶してるルートに向けて駆け出そうと足を踏み出した時、不意に床が大きく傾いた。暗がりの廊下に目を凝らせば通ってきた道が塞がっていくのが見える。
『見つけた』
何処からともなく響く声が鼓膜を揺らす。
即座に反転しようとしたが、来た道がコンクリで塞がれている。後はもう強行突破しかない。
「━━━━っち!やっぱ、時間掛け過ぎた!あのくそ女ァ!!」
息を限界まで吸い込み、コンクリを消し飛ばす為のルージュブレスの準備を始めた━━━━が、それより早く地面が大きく傾いてく。ブーツのスパイクで地面に体を固定したが、刺した側からぐにゃついて体勢を整えるのもままならない。
「ふたこさん、あっ、あれっ!」
エリちゃんの声に視線を向ければ、傾いた廊下の壁に穴があった。人一人簡単に入るような大きな穴。果てしなく嫌な予感するが抵抗手段がない。
次の瞬間には押し潰すように迫ってきた壁に押され、その穴に突き落とされた。
落下しながら入ってきた場所を見上げるが、既に塞がっていて帰る事は出来なさそう。ルージュブレスなら穴を空ける事も出来ると思うが、密閉された空間で使うにはあの技はリスクが高過ぎる。なによりあの妖怪コンクリ七変化がきてしまった以上、壊しても直ぐに再生されておじゃんになるのが目に見える。相手が無理してるのなら耐久戦を仕掛けても良いが、決着がつく前に敵の増援がくる可能性も否めない。
仕方ないので引き寄せる個性で減速しながら坂を下っていく。しがみつくエリちゃんの様子を確認しながら少しずつ下りていくと大きな空間に出た。廊下というより部屋のように見える。
「おぅ、何だか賑やかだなぁ。今日はよ」
地面に降りたって直ぐ、低い男の声が聞こえた。
視線をそこへとやればまたマスクを被ったやつがいる。
今度は顔全体を覆う系の鳥っぽいマスク野郎。
筋肉が浮かび上がるぴっちぴちのシャツを始め、ガタイの良さや拳に装着されたグローブをみれば、小細工を弄する系じゃなくガッチガチのパワー系。
明らかに近接戦闘よりのやつだ。
「女ってのはちと頂けねぇーが、オバホの命令だからな。ぶん殴らせて貰うぜ」
男はそんな事を良いながら肩を何度かグルグルと回し、怒声をあげながらこちらに駆け込んできた。エリちゃんの体を押さえながら、引き寄せる個性で体を横へと引っこ抜く。直後轟音と共に拳が目の前を横切っていった。一発じゃない。瞬きする間に、数えただけで三発以上。
「はっはっ!!初見でかわすたぁやるなぁ!!面白れぇ!!女だからって手加減はいらねぇよなぁ!!」
男がこちらに向かって構え直した所で、溜め込んでたそれを吐き出した。
ニコちゃん108の必殺技。
『ルージュブレス』
思い切り吐き出した紅の炎は、狙った肩の関節に向かって空気を焼きながら進む。ダサマスクの筋肉すら貫いた攻撃。当たればまず間違いなく無力化出来る。
男はそれを見て笑い声をあげると腕をグルグルと回転させ始めた。迎撃する気満々。知らないって怖い。
「飛び道具ってのは好かねぇが、ごっついの持ってんじゃねぇか!!面白れぇ!!女にしとくにゃ勿体ねぇぜ、ってぇなぁぁあ!!!」
拳を振り被った瞬間、炎と拳の間に半透明の膜が現れた。甲高い音が響き、男の拳が弾かれる。私の炎は多少時間が掛かったものの膜を突き破ったが、直ぐ様新しい膜が現れ防がれた。そのまま三枚突き破った所で、炎が膜の表面を焦がしながら霧散して消えていく。
「油断大敵、だ。乱波。俺が防がなければ、その自慢の腕・・・・ほぼ間違いなく焼き切れていたぞ」
「うるせぇよ、天蓋。・・・・それより早く、俺の拳が炎なんざかき消していたっつんだよ」
男はその光景に分かりやすく落胆し、後ろに振り返った。そこには和服を着た、目を瞑る嘴マスクマーク2がいる。本当、ここはマスクだらけか。
「戦いは常にクールに、私欲に溺れるな。オーバーホール様の言い付けを忘れるな。相性は良好。我々のコンビネーションで確実に処理するんだ」
「っち、んどくせぇ・・・・何だっけかぁ?あぁ、エリとか言うガキ回収しろってやつか。まぁ、良いか。じゃぁ、あっちの女の処理は俺の好きにして良いんだよな」
「元よりそのつもりだろう。好きにしろ」
意気揚々とこちらに向かってくる腕グルグル男と糸目マスクを眺めながら、私は心の底から溜息を吐いた。
「次から次へと・・・・ここテーマパークだっけぇ?」