私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
楽しみな反面、新しい設定の出現に身震いでやんす。
怖いよぉ((( ;゚Д゚)))
誰もが個性を持っているこの時代、ヒーローに憧れてヒーローを目指すのなんて大して珍しい事じゃない。物心ついた頃には俺もテレビが流すヒーローの活躍に夢中で、ヒーローのフィギュアを片手に食い付いるように眺めていた。そして将来の夢はと聞かれれば『ヒーローになるんだ』と決まり文句。
だけど、現実っていうのは思っているより厳しかった。ヒーローの世界っていうのは俺が考えていたより才能がものをいう世界だった。
俺より強いやつは幾らでもいて、俺より賢いやつは幾らでもいて、俺より優秀な個性持ったやつは幾らでもいて━━━━━俺より勇敢なやつらは幾らでもいた。
そんな現実に挫折したし、後悔したし、諦めようとした。けれど、やっぱり、それでも諦められなくて・・・俺は夢を追い掛けてまた走った。
走って、走って、走って。
そしてその先に、俺は━━━━。
「あーーーかん!ここも外れや!どないなっとんねんほんま!自分の屋敷の地下室迷路にするとか、どないな趣味しとんねん!テーマパークにでもするつもりやったんか!八斎會の楽しいヤクザ迷路パークってか・・・あほか!!なんもおもろないねん!」
忌々しげにそう吐き捨てファットガムは壁を殴り飛ばした。ズン、と重い音が響き部屋が僅かに揺れ、パラパラと天井からコンクリのカスが落ちてくる。背中からでも伝わる怒気に思わず拳を握ってしまう。
苛立つ理由は分かる。俺だってそうだ。あの時誰よりも側にいたのに止められなかった。あいつがどんなやつなのか、爆豪から何度も聞かされていたのに。そういうあいつの姿を何度も見てきたのに。
緑谷と別れてからもう十分以上経ってる。迷路のようなそこを複数のチームに分かれて探っているのに、未だに誰も合流したって連絡もなければ、俺達も痕跡すら見つけられていない。それが酷く心をざわつかせる。
あいつの強さはよく知ってるが、それでも相手は暴力の専門家。しかもここは敵のテリトリーだ。不利な条件が重なるここで、あいつが無事である保証は何処にもない。
「・・・・っくそ」
迷路の先でようやく部屋らしき場所に辿り着いたけど、そこに大した物は置いてなかった。地下室の入口のような隠しドアを探っているけど、今の所それも見当たらない。勿論あいつがいた痕跡もだ。
俺は調べていた場所に異変がない事を確認してから、ファットガムへと向き直った。
「ファットガム、こっちもなんもないっす!」
「スカっちゅーとこか。しゃーないな、一旦引き返えして皆んとこ合流するで」
「合流っすか・・・・」
「せや。取り敢えず皆と分かれた道戻るで・・・どないしてん
そう覗き込んでくるファットガム。
こんな時でも気にかけてくれてるが分かる。
だからだろう、俺はその脳裏に過った言葉をはいていた。
「なんか、なんか他にっ、出来ること・・・ないんすか!俺にっ!」
「切島くん・・・・」
「何でもっ、言って下さい!!何でも、俺やります!!俺っ、頭馬鹿だからっ、何も思い付かなくてっ、でもっ、ファットガムなら、なんかっ、なんかあるんじゃないっすか!サンイーターみたいには出来ないと思います!!でもっ、任せて貰えるなら!俺はきっとやり遂げます!!」
ファットガムが安全な道を選んでくれてるのは分かる。経験の少ない俺の分も警戒してくれてるのも分かる。
守られている、その事は。
でもそれは仕方ない事だ。
今の俺には、ファットガムの前に立って走れる程の能力がないんだから。どれだけ嘆いても、それは変わらない。
だけど、こんな事であいつを見つけられる気がしないのも事実なのだ。敵は徹底的に時間を稼ぎにきてる。今こうして道に迷わせられてるのが、戻らせるのが相手の狙い通りなら、そんな時間あっちゃならねぇ筈なんだ。
サンイーターみたいに。
ルミリオンみたいに。
あいつみたいに。
俺は馬鹿だから。
もっと、人より動かなきゃ駄目なんだ。
俺は強くないから。
もっと、人より無茶しなきゃ駄目なんだ。
こんな事じゃ駄目なんだ。
ヒーローになるなら、もっと何かしなくちゃ━━━━俺は━━━━。
「お願いします!!多少無茶でもっ、何か━━━━」
バシッと、両肩を叩かれた。
痛みに顔をあげればファットガムに両肩を掴まれていた。眉間にしわを寄せた顔でジッとこっちを覗いてる。
「気持ちは分かった。痛いほど、バシバシ伝わったわ。せやけど、あかん。たとえ仮に君が無理してどうにかなる状況やったとしても・・・・俺はそないなこと君に提案せえへんで」
「なんっ・・・・俺っ!」
「ヒーロー同士、仲間やからな」
言われた言葉に、俺は声が詰まった。
「ルミリオンもそうやし、ニコの事も同じや。仲間や。せやから皆心配しとる。無茶な行動に怒りもする。何でか?仲間やからや。・・・それやのに仲間の一人である君に無理させて、そんで怪我でもさせたら意味ないねん。ヒーローは綺麗事を実践するんが仕事や。あの子らも、そして君も、全員が無事で終わらな意味ないねん。分かるやろ」
「分かってますっ、それが一番なんだって事は。でもそれは・・・・」
「せやな、ただの綺麗事や。世の中全部が全部上手くいく、なんて都合の良いことあるわけあらへん。最悪だってあるかも分からん。せやけど、それでも、ヒーローならこんな時、誰よりも冷静にならんとあかんで。救えるもんも救えんようになってまう。一旦落ち着きぃーや。はい、深呼吸ーすぅてぇーはいてー」
促されるまま深呼吸すれば、視界が少しずつ開けて見えてくる。頭の中を渦巻いてた嵐のような感情が、少しずつ静かになってくのが分かる。
そうしてると、ファットガムが肩においた手を外した。
「少しは冷静になれたか?ええ顔や。切島くんのその頭の切り替えの早さは美徳やな。うんうん」
「あっ、いや、別にそういう訳じゃ・・・ないんすけど」
「あの時もやけど謙遜することないわ。君は自分が思うてるほど馬鹿でもないで。ちゃんと周りが見えとる。だからこそ、あの時君は守れたんや」
そう言われて、大阪での事が頭に浮かんだ。
ありがとうと感謝された、あの日のこと。
「それは・・・でもあれは、たまたま相性が良かっただけで」
「相性が良かったから、君はあの人らの前に立ったんか?ちゃうやろ。そない安い気持ちで、いざゆー時に人は人の為に動かれへん」
不意討ち気味に背中を強く叩かれた。
痛みにこらえながらファットガムを見れば、丸顔に笑みを浮かべて口を開く。
「なんでそんなに自信ないんか分からんけど、胸を張りぃや。俺ん中で、君はもう、一人のヒーローやで。頼りにしとる」
「ヒーロー・・・・っ、うっす!━━━━━っ!?」
返事を返した直後、馬鹿デカい音が聞こえてきた。
振動もハンパではないし、吹き込んでくる風に焦げ臭さも感じる。爆豪との特訓でよく知ってる感覚。何かが爆発した時に起こる━━━それだ。
一瞬爆豪がきたのかと思ったけど、直感的に『違う』と本能が伝えてくる。それに従って考えてみれば、直ぐその理由が分かった。爆豪ならこの程度で終る訳がないから。聞こえてくる筈なんだ。他の爆音が。
「きりっ、烈怒頼雄斗!!行くで!!どないなってるか分からんから警戒━━━━」
「ファットガム!!完全に勘っすけど、これ緑谷のやつっす!!あいつ確か、爆豪から爆薬貰ってた!!移動中の車ん中で、危ねぇから止めろって言ったの、俺覚えてます!!あの量なら、多分・・・・!」
「ほんまか!なら、敵と交戦中ってことか・・・・今の音聞いて敵の方も寄ってくるかも知れんな。味方も散らばっとるし、あんましたないねんけど・・・しゃーない、ちと無茶すんで!!付いてきぃや、烈怒頼雄斗!!」
ファットガムは自分の体を何度か殴りつけた後、勢いをつけるように思い切り腕を回して━━━壁に拳を叩き込んだ。
凄まじい音が部屋に鳴り響く。
そして拳のめり込んだそこからヒビが入っていき、コンクリの壁を粉々にして吹き飛ばす。
「はっはっ!どないや!吸着させて集めた、俺のパンチの衝撃は!!なんぼもでけへん必殺技やけどな!!こないな壁、ものでもないで!!」
壁の先に広がっていた通路に踏み込みながら、ファットガムはまた自分の体を殴りつける。
「烈怒頼雄斗!!目標まで最短行くで!!他のヒーローは兎も角、ちとエリちゃんの事が気に掛かんねんけど・・・ここまでの敵のやり口考えたら、近くにエリちゃん放置っちゅー事はあらへんやろ!!ただ何があるか分からん!!いざというときは庇ってや!!勿論、出来る範囲でや!!」
「すいません!ファットガム!!俺、それには返事出来ないっす!!やっぱり俺は・・・・・仲間の為に体張るのが、誰よりも前に出るのが!!俺の出来る事なんで!!無茶させて貰います!!」
「ははははっ!!悪い子やな!!━━━まぁ、ええで!好きにやってみんかい!!これも経験や!!ただぁし!引き際だけっ、間違えたらあかんからなぁ!!!」
再びけたたましい音が響き、コンクリの壁が吹き飛ぶ。
だが今度の壁は厚く、別の空間には繋がらない。
けれどファットガムは気に留めることなく、同じ要領で自分の体を殴り付けてから拳を壁に叩き込む。
二度目の攻撃で大きくヒビの入った壁はガラガラと崩れ、今度こそ別の空間が見えた。
「っち、まだか!思うたより遠いな!!」
ファットガムは走りながら次の壁を目指す。
そしてまたさっきと同じように、ファットガムが自分の体を殴りつけようと拳を振り上げる。するとそこに赤い血が滲んでるのが見えた。
「ファットガム!!拳がっ・・・!」
「問題あらへん!!皮膚がちっと切れただけや!!骨もいっとらん!!それより今は急がなあかん!!とっておきつこーたなら、それなりにピンチっちゅうことや!!」
怒号をあげながら壁を叩き壊す姿に、思わず苦笑いしてしまう。俺を安じて声をかけてくれたのに、その本人がこれなのだから。━━━でも、それが俺には羨ましかった。
考えるより先に・・・俺には出来ない。
俺はいつだって考えてしまう。
あの時だって、それだけの余裕があっただけなんだ。
「烈怒頼雄斗!!この先何か聞こえたで!!」
追い掛けていると突然そんな言葉が掛かった。
拳を構えるファットガムを視界に捉えながら耳を澄ませば、確かに壁の方から何かが聞こえる。
「━━━ちっ!流石に殴り飛ばすのはあかんなっ、味方巻き込むかも知れん!!何処か入れるとこないんか!?」
「ファットガム、だったら俺が!!」
「むっ!?自分なんかあるんか!?」
ここの壁の厚さは分からねぇ。
でも俺ならファットガムより、適切な穴が開けられる。当然壁の先に与える影響は小さい。時間だけは少し掛かっちまうが。
『
心の中で必殺技の名を呼びながら貫き手を叩き込む。
拳と違って伝わる衝撃は小さい。けれどその一撃は確かにコンクリを貫いていき、別の空間へ掌を届かせた。
直ぐに手を引いて、俺はそこ目掛けて声をあげた。
「俺達はヒーローだ!!そこに誰かいるなら離れてくれ!!次はもっとデカイ穴開ける!!五秒後に行くぞ!五ッッ━━━━━」
「おねがいっ、たすけて!ふたこさんがっ!」
聞こえた声に、二発目の拳を叩き込む。
拳を叩き込んだ場所から貫通した穴へと、深い亀裂が繋がっていく。三発、四発、五発と重ねていけば亀裂は更に深くなり壁が崩れ始める。
「誰かしんねぇけど離れてくれ!!突き破る!!」
全身を最大硬化して全体重を込めて壁へとタックルをかませば、俺の体は隣の空間へと入り込む。
そこで周囲を見渡せば直ぐ近くに白い髪の女の子がいて、弱々しくある方向へ指を差した。
視線をそこへと向ければ、緑谷と大柄の男が見えた。
見た瞬間直ぐに分かった。緑谷の動きにキレがない。特訓中、一度として俺が攻撃を当てられなかった姿は何処にもなかった。僅かにでも遅れれば、その攻撃の勢いから致命傷は避けられない。直感的にそう思った。
「━━━っぬぅ!?あれっ、あかん体詰まった!抜けられっ・・・・ちょっ、烈怒頼雄斗!!あかん、一人でいったら!!」
だから、だろうか━━━━。
「ニコッッ!!」
━━━俺の足が駆け出して止まらないのは。
「━━━━ははっ、狙ってきてんの!?レッドライオット!!」
緑谷の掌がこちらを向いたのを見て、俺は全身を硬化させた。全身全霊の全力最大硬化。
今俺が出来る、最大最硬。
『
俺の姿を見て緑谷が笑う。
あの顔は死ぬほど無茶させる顔だ。
だけど何処までも信用してる顔でもある。
そうだ、俺は━━━━━あの顔に急かされた。
あいつはいつもそうやって笑う。
お前なら出来るだろって、当然のように頼ってくる。
なら、応えたいだろう。漢として。あの目に失望されたくねぇんだ。
だってあいつは、俺のヒーローだ。
誰よりも前を走る。誰よりも無茶をする。
そして誰よりも戦って、救う。
俺の目指した先にあいつがいる。
だから、ここで引く訳にはいかない。
無茶でも、無謀でも。
そこに追いかけたい背中があるんだから。
地面を蹴ると同時、体が弾かれるように飛ぶ。
緑谷と交戦していた男に向かって。
「あぁ!?なんだ、良いところなんだ!!邪魔すんじゃねぇよ!!」
拳が振り上げられる。それが怖くないとは言わない。怖いさ。なにせ戦う様子を見て分かったから。
男の一撃は重い。恐らく俺が受けたことがない程の威力だ。下手したら爆豪の必殺技を超える程の、必殺も必殺。だから怖くない訳がない。
だけどそれでも、不思議と引く気は起きねぇ。だってあいつの目が信じていた。俺を。俺の硬さを。
「ぬうおおおぉぉぉぉッッッッ━━━━━!!!」
女とは思えない緑谷の野太い声が鼓膜を揺らす。
怒鳴り声が響く中、速度は更に加速していく。
景色が線へと変わる。
直後、激しい衝撃が頭に走った。
目の前がチカチカするが、それと同時に短い悲鳴と何が折れる音が鼓膜を揺らす。何とか視線をそこへと向ければ、腕を押さえうめき声をあげる男が見える。
「!?まさかっ、乱波が押し負けただと!!くっ、不味い!!バリアを━━━━ふっぺッッッッ!?」
汚い悲鳴に視線を移せば、股間を押さえて踞る別の男がいる。近くに転がる瓦礫も。
大体想像がついたせいか、無事な筈の自分のそれもヒュっとした。
「くくっ、はははは!!面白れぇなぁ!!今日は!!次から次へと、なんだ祭りかなんかか!!最高じゃねぇか!!もっと戦おうぜ!!まだやれるよな!!戦えんだろ、あ゛あ゛あ゛ん!!」
白い何かが突きだした腕をブラブラさせながら、男が無事な左腕を力強く振り上げる。横目に緑谷を見たが援護が出来るようには見えない。
それで、腹は決まった。
「こいやぁ!!!」
気合いを入れ直し構える。
すると男の拳が振りかぶられた。
始まる嵐のような打撃。直ぐに受けた拳の数も分からなくなった。耳に響くのは拳圧が巻き起こす風の音。瞳に見えるのは拳の残像。体に感じるのは拳を叩き込まれた痛みだけ。
「━━━っつははっ!すげぇな!!なんで立ってられる!!ははは!!最高だぜ!!本当にっ、たまんねぇ!!お前!!最高のサンドバッグだ!!」
だけど、だけどだ。
耐えられる。
まだいける。
「おまえ!!良いな!!」
割れた側から硬めていけ。
硬め続けろ。
俺は盾だ。
「俺は━━━━━━守るヒーローだ!!!」
拳へと頭突きを叩き込んだ。
衝撃で頭がふらつく━━━けどそれは男も同じ。
弾かれた腕を見て歯を食い縛ってる。
だけど、それが限界だった。
立っているのがギリギリで、腕にも足に力が入らない。息をするのでやっとだ。
「ははっ!良いぜ、てめぇからぶっ殺してやる!!しっかり受け止めろ、飛び入りの!!守るヒーローさんよぉ!!」
ぼんやりする意識の中、拳を振りかぶる男の姿が見えた。耐える為に体に力を込めたが、少しも硬化しない。
もう駄目かも知れないと考えが頭を過った時、体が後ろへと引っ張られた。よく知ってる感覚に、頬が弛む。
「ははっ・・・・そうこなくっちゃな。ニコ」
そう呟いた俺の前に黄色い影が割り込んだ。
まるで巨大な大砲のように。
空気を裂き、空を駆けて。
「━━━━いつまで、うちの可愛い後輩どついてんねん!!このダボがァ!!!」
轟音が空間中に響き渡った。
ファットガムの拳を叩き込まれた男の姿は一瞬で部屋の端の壁にまで吹き飛び、拳圧で巻き起こった砂埃がそれを隠してしまう。
微妙に細くなったファットガムに起こされていると、白い髪の女の子と手を繋ぎこっちに向かってくる緑谷が見えた。疲れの滲む顔で相変わらず笑ってる。
「とどめ取られてやんのー!ははは!」
こんな時くらい、と思わなくもない。
だけど緑谷らしい言葉に俺は拳をあげた。
「こんな時くらい、労えよ。ったくよ」
多分、ボロクソの顔に笑顔を浮かべながら。