私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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ナインが強すぎて、私が泣いた。
ちょっと待って、どうしたらいいの。
勝てへんわ、あんなもん。


ヒロアカの映画を観にいって、取り敢えずヒーローズライジングをブルレで買う事を決めて書いた『未来を見つめる者達』の閑話の巻き

「ナイトアイ!!少しは休まないか!!ずっと走りっぱなしだ!!もたないぞ!!」

 

背後から掛かる声に、私は腕時計を確認した。

別れてから十分以上掛かっている。

しかし未だに胸ポケットにスマホは鳴らない。

 

私は薄暗がりの通路を走りながら口を開いた。

 

「いや、先を急ぎましょう。刑事さん。休むのは全てが終わってからでも出来ます。今は先に進んだ彼女達が心配だ」

「それはっ、分かる!俺もガキがいる身だ!!でもな、さっきのヴィラン連合みたいな隠し戦力があるかも知れねぇ!!」

 

その懸念はある。

トゥワイスのように他の連中メンバーがいる可能性も、それ以外の特級の戦力が控えてる可能性もある。

だが、それでも私の勘が先を急げと急かしているのだ。

 

迷うことなく走り出した彼女の背中に。

我が事務所に見切りをつけ、助けると言って背を向けた彼女の背中に。

 

私は見た。

 

 

 

『私がっ、きた!!』

 

 

 

どうしようもなく憧れたあの人が見せてくれた。

輝かしいばかりの、それを。

 

見誤っていたのだろう。

曇りきった目で何も見ていなかった。

彼女は間違いなくオールマイトの弟子なのだ。オールマイトが認めた人物だったのだ。

 

「・・・・・ニコ」

 

名前を口にした時、胸元のそれが震えた。

足を止めて確認すれば、ファットガムの名前でメッセージと位置情報の載った画像が画面に映っていた。

 

メッセージは短く綴りられていた。

ニコとエリちゃんと合流した事。

ミリオがニコ達を逃がす為にオーバーホールと戦闘している事。

 

「はぁ、はぁ、なっ、ナイトアイ!誰からだっ!」

「ファットガムからです。先に向かったニコと要救助者の少女と合流したと。位置情報も添付されていました。それと現在オーバーホールとルミリオンが戦闘しているとの事です」

「本当か!!よし、お前ら!もうひと踏ん張りだ!ナイトアイ先導頼むぞ!取り敢えず、位置の分かる救助者達の元に!」

「勿論です」

 

刑事の言葉を受け、私は地図を片手に駆け出した。

 

 

 

「ニコ、ミリオ、もう少しだけ待っていてくれ」

 

 

 

口にした言葉はすぐ足音に消えていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

薄暗いその空間に酷く鈍い音が響く。

人の体を拳で打つ、その音だ。

 

目の前の男は焦点の定まっていない目で宙を仰ぐと、ぐらりと大きく体を揺らした。

そして力なくゆっくりと地面へ崩れ落ちていく。

 

テンプルへの渾身の右のフック。

何度もヴィランを沈めてきた一撃。

拳に確かな手応えもあった。

 

 

 

けれど、これで何度目か。

 

 

 

「━━━━透過、本当に厄介な個性だ」

 

 

 

声が聞こえた直後、地面が粉々に砕け散る。

攻撃の前兆に個性を発動させればコンクリートのトゲが波のように押し寄せていき、急所のある場所を的確に貫いていく。反応していなかったら即死の攻撃。思わず額に冷や汗が滲む。

 

畳み掛けられる前に一旦距離を空け体勢を立て直す。

その間に治崎はと言えば、倒れる所か悠々と服の乱れを直していた。苛立ちの宿る顔にダメージは感じない。

この掌には確かに手応えが残っているのに、だ。

 

「・・・・・腹の立つ話だ。お前達のような餓鬼にいいようにされている事も、何度も汚い手で触れられた事も、予定通り進まない事も、こんな手に出ないといけない所まで追い込まれている事も!!何もかも・・・!」

 

再び治崎の掌が地面に触れる。

一瞬で粉々に砕け散った床は、何十何百のトゲと形を変えて俺を囲む。切っ先の鋭利さは、治崎の殺意を伝えてくる。

 

だが、これで俺は止められない。

 

「何度やっても無駄だ!!治崎!!」

 

透過し地面へ沈む。

治崎の足元を狙い位置調整。

素早く個性を解除、体をそこへ向けて弾かせる。

 

 

「その名前を━━━━呼ぶなっ!!!」

 

 

勢いよく地面を飛び出した先に、治崎の掌があった。

触れる寸前で再び透過を発動。

体の中を治崎の腕がすり抜けていく。

 

通り過ぎ様、エルボーを顔面へ放ったが、これは予想されてたようで軽くかわされた。掠りすらしない。

だが、それは想定内。

 

エルボーを突き出した勢いで体を回転。

独楽を頭の中でイメージしながら体を縮めて腰を回す。小さく、速く、鋭く。全体重と遠心力を乗せた裏拳を治崎の顔面へ放り込む。

 

碌に回避行動が出来ない治崎はすかさず掌でヒットポイントをガードするが、その動きを読んでいた俺の裏拳はガードをすり抜け治崎の顔面だけを歪ませた。

 

 

「━━━━ぐっ!!」

 

 

手の甲に走る衝撃。感触。

仕留めた時のような手応えはあった。

けれど、これも何度目か分からない。

 

 

ふらつく治崎に畳み掛けようとしたが、不意をつくようにコンクリートのトゲが天井から落下してきた。あまりにタイミングが良すぎる。恐らく偶然ではなく、俺の行動を読んだ上で狙ったのだろう。

この攻撃自体はかわせたが、追撃のタイミングは逃してしまい治崎に個性による回復を許してしまう。

 

どうしても決められない、意識を刈り取る為の止めの一撃が。一撃、二撃攻撃を叩き込むのは幾らでも出来るのだが・・・いや、その攻撃ですら、今は治崎に打たされている気がする。証拠にこれだけ打っているのにも関わらず、戦闘不能になるような致命傷は全て避けられているのだ。

それに攻撃を当てる度、少しずつだが俺とのタイミングが合い始めてるのも気に掛かる。治崎は明らかにこちらの呼吸を把握してきてる。俺も治崎の呼吸を把握してきているのでお互い様ではあるが、その個性の殺傷性の高さを考えれば完全にタイミングが盗まれる前に決着をつけるべきだろう。

 

もっとも今回に限り、この時間経過は俺に有利に働く。何せサーや他のヒーロー達が後詰めとして向かってきている事は間違いなく、救うべきエリちゃんは緑谷さんが連れていってくれたのだから。

 

前情報が確かなら組の戦力で俺達は止められない。

事実、通路を伝ってたまに聞こえてくる戦闘音が段々と近くなってきてる。他の皆が順調にこちらに向かってるのは明白だろう。

時間稼ぎの兵隊を取り締り、直に後詰めのヒーロー達がやってくる。そうなれば治崎は集まってくるヒーロー達や警官への対処をしなければならず、そこに加えて俺達が保護したエリちゃんの捜索・及び身柄の確保しなければならない。

そして仮にそこまでどうにか行えたとしても、今度はエリちゃんを確保したままヒーローや警察の包囲網を破って逃走までしなければいけない。個性も所詮は身体機能の一つ。そこまで体力が持つ訳がない。

 

だから、ここで無理をする必要はない。

出来る限り変則的に攻めて、安全マージンを確保し続け、徹底的に時間を稼ぐ方が無難だろう。

 

そう、無難だ。

状況を考えれば考える程に。

 

けれど、俺にはそれが悪手に思えてならない。

あくまで勘でしかないが嫌な予感がする。

今倒すべきだと、頭の中で警鐘が鳴り止まないのだ。

 

 

 

だから、次で決める。

 

 

 

呼吸を整えながら治崎を中心に状況を確認する。

地形、空気の流れ、治崎の言動、気配。

全身で感じる全てを頭に叩き込む。

 

そしてこれまでの行動パターンを考慮し、最も起こりうる可能性の高い未来を探す。

無限の可能性の中から自分の命を預けられる━━━そのたった一つの答えを。

 

それは都合の良い未来じゃない。

それは不運に見舞われた最悪の未来じゃない。

導き出すの必然の未来。あるべくしてあるそれ。

 

予測、予測、予測、予測━━━━━

 

 

『次を常に考えろ、ミリオ』

 

 

━━━━━━予測。

 

 

 

「治崎、お前は強いよ。一介のヤクザとは思えない身のこなしだ」

 

 

 

俺の言葉に治崎は眉間にしわを深くさせる。

 

 

 

「でもね、俺の方が強い・・・!!」

 

 

 

握り拳を突き付けそう続ければ、額に大筋が浮かぶ。

 

 

 

「だから、最後にもう一度だけ警告する!もう諦めろ!抵抗しなければ手荒な真似も、不当な扱いもしない!俺がさせない!牢の中で、静かに自分の罪と向き合え!」

 

 

 

心からの本音を、想いを込めて伝えた。

だが、治崎の顔に浮かんだのは反省でも諦めでもなく、純粋なまでの怒りだけだった。

 

 

 

「いい気なもんだな、上から目線で説教か?・・・・そんな力を持っているから、そんな台詞を吐けるのか?病気だよ、お前も、あの小娘も、どいつもこいつも・・・・!!」

 

 

怒号と共に治崎の指が地面に触れる。

 

 

 

「だから、治してやるんだよ・・・・!お前らがすがる、全てを!!戻してやるんだ、この世界を!!俺のっ、手で!!邪魔をするなァ!!」

 

 

 

部屋中の地面と壁の表面が粉々に砕け散る。

舞い上がる粉塵を目に、俺は透過を発動した。

直後、部屋中から無数のトゲが、石柱が、ところ狭しと現れる。唯一の安全地帯は治崎の周囲のみ。

 

それを確認して、俺は地面へと体を沈めた。

 

沈みきった所で方向を調整。

角度を調整しながら個性を解除。

暗闇の中を駆ける。

 

弾き出されるように飛び出したのは、予定通りの治崎の真正面。手を伸ばせば触れられる、目と鼻の先。

それに反応して治崎の掌がこちらへ伸びるが問題はない。予測は出来ていた。反応する事も、逃げではなく反撃を選択する事も━━━━見えていた。

 

治崎の腕に被せるよう、透過した拳を振り抜く。

殺意を纏った掌が俺の顔をすり抜けた瞬間、実体化させた拳に鈍い感触が走る。くぐもった声が響く━━━が、手応えは浅い。死角からの攻撃とはいえ、速さに重きをおいてコンパクトに打った拳。僅かに怯ませただけだ。ダメージは低い。

 

けれど、それで十分。

 

「━━━汚いっ、手で!!触れるな!!」

 

払うように振るわれた右腕を左肘でカチ上げる。何も避けるだけが戦いじゃない。掌にさえ気を付ければそれはただの打撃でしかなく、理性を失った攻撃は隙でしかないのだから。

空を切った右の掌と目を見開く治崎の顔を視界に捉えながら、がら空きになった鳩尾へ右のアッパーを叩き込む。鈍い感触がめり込んだ拳から伝わってくる。

 

けれど、まだ━━━治崎の目は死んでいない。

 

苦痛に歪む声を聞きながら、再び透過を発動。

当然のようにくる反撃をかわしながら体を回転させ、全体重を込めて治崎の顔面へと後ろ蹴りを放つ。

 

衝撃と共に治崎の体が浮き上がる。

跳ね上がった顔の表情は分からない。

だが、直ぐ様俺の足に触れようとする治崎の手を見れば、意識を刈り取れていないのだけは分かる。

 

呼吸は、まだ持つ。

なら一気にここでありったけを。

畳み掛ける。

 

 

 

 

『ファントム・メナス』

 

 

 

 

治崎の動きを予測。

掌の軌道を読み、個性を発動。

反撃をかわし、こちらの攻撃を叩き込む。

 

何処までも冷静に。何処までも冷徹に。

ナイトアイから教え込まれた戦闘技術を、余すことなく叩き込み続ける。

 

その瞳から怒りの火が消えるまで。

 

「もう、諦めろ!!治崎!!」

 

拳が顔面へとめり込む。

 

 

「━━━━ざけっ、る、なっ・・・・俺はっ・・・!」

 

 

苦痛に歪む治崎の瞳から、燃え上がっていた意思が消えていく。

反撃しようと振り回されていた腕から、力が抜けていく━━━━━━。

 

 

 

「若ァっ!!」

 

 

 

突然、背後から男の声が響いてきた。

視線を向ければ地面を這いつくばりながらも、銃をこちらに構える仮面の男が見えた。先程、俺が倒した筈の"考えている事を喋らせる"個性持ちの男だ。

銃口の向きや角度から着弾位置を予測。必要部分のみ透過を発動。乾いた破裂音と共に飛んできた弾丸が体の中を通り過ぎていく。

 

「私がっ、時間を稼ぎます!!どうか先にっ!!貴方の夢を!!私に、見せて下さい!!オーバーホール!!」

 

引き金を引きながら男が叫ぶと、それに応えるよう天井から石柱が落ちてきた。思わず飛び退けてかわす。

こちらにダメージは無かったが、それより距離をあけてしまった事、止めを逃した事が痛い。

警戒されれば先程のように連打を叩き込むのは難しくなる。決めるなら今だった。

 

「オーバーホール!!あいつらがっ、ヴィラン連合が裏切りやがった!!」

 

天井から響く声に聞き覚えはない。

けれど銃を持っていた男が思わず「ミミック」と口にした事で、それが散々邪魔をしてきた入中だという事が分かった。

 

「回収したクロノから薬を奪われたとっ!!探したがっ、もう何処にもいねぇ!!野郎共っ!!俺達を!!」

 

薬という単語に、俺はようやく気づいた。

目を引くような派手な攻撃ばかりしていた理由。戦闘中にも関わらず、僅かなミスも許されないリスクの高そうな自分の修復をし続けた理由。

 

全て、薬を持たせた男を逃がす為の時間稼ぎ。

周囲を見渡してもみたが、やはりエリちゃんを抱えていた男の姿は何処にもない。

 

「━━━━ミミック、落ち着け。他に誰を回収した」

 

治崎の静かな声が響く。

先程までの怒りに満ちたものではない。

酷く落ち着いた声だ。

 

そのあまりの変わりように息を飲んでしまう。

 

「はぁ、はぁ・・・あ、ああっ、す、すまねぇ、居場所が分かりやすかった、活瓶しか回収出来なかった。エリと小娘は命令通り、乱波達の所にやったが・・・他は、何も。体力がっ、もう・・・・」

「活瓶をここに出せ。お前も側にこい」

「あぁ・・・・分かった」

 

落ちてきた石柱からぐったりとした大柄な男と肩で息をする男が現れる。恐らく肩で息をしているのが入中の方だろう。先程荒ぶっていた声と同じだ。

 

「早く治してやってくれ、こいつはまだ使える」

「ああ、心配するな。お前も、こいつも━━━━ちゃんと使ってやる」

「あっ?・・・・・ッッッぐぅ!!?なっ、にをっ、オーバーホールっ!!」

 

入中の顔面をわし掴みにして、治崎は底冷えするような声で続けた。

 

「オヤジの為だ。お前らの全てを、俺に捧げろ」

「っっ!止めっ、止めろ!!オーバーホール!!治崎━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

「その名で呼ぶな━━━━━━俺はこのイカれた世界を壊し、世界を治す。オーバーホールだ」

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━っ!!止めろっ、治崎!!」

 

 

 

 

 

 

俺がようやく声をあげられた時。

鮮血が飛び散った。

 

 

 


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