私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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あけましておめでとう( *・ω・)ノ
アニメも漫画も盛り上がっておりますヒロアカを応援しつつ、今年も執筆していく所存であります。
ことよろですぅ!


ん、投稿遅い理由?
済まんな、それはただの怠惰やで。
P公に聞かれたら脳が震えるほど拷問される、ただの怠惰ですねぇ(狂気)!!




昔のえらいひとは言いました、攻撃は最大の防御だと。一部の隙も与えず攻め続けることは優れた守りであるのだと。だから私は皆に言います・・・・逃げるんだよぉーーー!の巻き

「絶対☆撤退宣言!!」

 

頭の上の所で両腕使って大きくばってんを作り叫ぶと、都合の良い事に周囲にいた全員の視線がこちらへと集まった。あの嘴まつげ━━━いや、六本腕のお化けロッポンは幸いこちらに気づいてる様子がない。自分の近くで飛び交ってる黒豆パイセンに夢中である。

 

少し呆けていた皆だったけど、状況を理解するにつれてバラバラの意見を口にし出した。太っちょマンはパイセンの援護にと、切島は撤退する事に反対はしたかったけどぐるぐるヤクザの安否の確認と回収をしたいとか。ニコちゃん困ってしまう。そんなもんしてる時間あると本気で思ってる所に。

 

第一に相手の目的はエリちゃんである。それこそ血眼になって追い掛けてくるだろう。私がチンピラ達からリンチパーティーされたのもそれが理由だ。今は視界が狭いのか黒豆パイセンが相当ウザイのかなんなのかこっちに気づいてないけど、気づいたら秒で向かってくるだろう。こんな狭苦しい逃げ場も碌にない室内で、壁も地面も関係なしで自由に動く化け物をエリちゃん守りながら戦う?アホやで。出来るわけない。━━━なのでエリちゃんの安全を確保する為にも、一刻も早く後方へと下げる必要がある。

 

第二に黒豆パイセンに援護はいらん。理由は現状大したダメージもなく上手く立ち回っているからである。

相手へのダメージもないけれど、それは黒豆パイセンも同じ。そして恐らくその立ち回りこそが相手を苛立たせ、視線を奪えている理由なんだろう。頭に血が上ってそうなのは動きを見れば何となく分かる。それにそうじゃなければ直ぐにエリちゃんの捜索を始めてるに違いないのだ。━━━それなのに私達が割ってはいればどうなるか。

まずあの化け物の視線や注意が周囲へと向く。そうなれば少しは冷えた頭がエリちゃんを思い出すだろう。こちらが注意を引くだけ、もしくは決定打となる攻撃が出来れば良いが、現状それがまともに出来そうなのが太っちょマンだけ。しかも対抗出来そうな必殺技は制限つき。話にならない。

それにだ、私達が交ざれば相手の攻撃パターンが変わる。それは黒豆パイセンにとって最悪だろう。これまで黒豆パイセンが無傷で攻撃に対応出来ていたのは相手の攻撃のリズムが一定で、予測しやすかったからだ。不確定要素が増えれば増えるほど予測は難しくなる。黒豆パイセンと初めて会ったその日、最初に遠距離攻撃が出来るクラスメートをのしたのはその可能性を減らす為に他ならない。視界外からの遠距離攻撃は簡単にミスを呼ぶからね。そうなると近くでウロチョロも良くない。黒豆パイセンが庇ったり、下手に視線を集めようと無茶な動きをする可能性がある。ミスするわ。

 

「よって、下手に援護するより邪魔にならないよう撤退!!後続のチーム及び地上チームと早急に合流!!連携して嘴まつげの逮捕にあたる!!それが最良と思いますが・・・・反論は!?」

 

出来るだけ短く、出来るだけ早く。

尚且つ理解できるギリギリで捲し立てると太っちょマンと切島は項垂れながら頷いた。近くに転がる糸目から「成る程、道理ではあるな」と冷静な言葉が返ってくるけど、それはスルーしとく。ぐるぐるヤクザに続いてしれっと交ざらないで欲しい。

 

「ぐぅの音もでぇへんわ・・・・せやな、取り敢えず撤退や。気づかれる前にそそくさといこーや。糸目くんは俺が持つわ。エリちゃんはニコに任せるで」

「はいはい、問題ないですよ」

 

太っちょマンが糸目を担いでると、切島が申し訳なさそうに側にきた。

 

「わりぃ、ニコ。そういう役目は、本来俺の仕事なのによ・・・」

「はいはい、暗くならない。あんたの良い所は硬い所と熱血馬鹿で明るい所しかないんだから。うーはーとか言って道塞いでる瓦礫殴り飛ばしてれば良いの。それにエリちゃんは私とラブラブなので、仮にあんたが元気でもご遠慮願うよね」

「はははっ、そうかよ。んじゃま、俺が先頭で道こじ開けるからついてきてくれよ。任せてくれ」

 

顔についた包帯を剥ぎ取り、切島はいつもの暑苦しい笑みを浮かべガッツポーズをとって見せる。それでよし。最後までコキ使わさせて貰うんだから元気でいて貰わないとね。うんうん。

 

「よし、それじゃ━━━━」

 

撤退する為にルートの説明をしようとした時。

本当に小さな声だったけど、それが鼓膜を揺らした。

黒豆パイセンの声。全部は聞き取れてなかった。だけどはっきりそれだけは聞こえた。どういう経緯で発したかは分からないけれど「エリちゃん」という、その単語だけは。

 

化け物の動きが止まり、ゆっくりとこっちに振り返る。

巨大なそれに目はない筈なのに、こちらへ向いたそれと目が合った気がした。ぞくりと背中に走る感覚はよく知ってるもの。あの日、ショッピングモールで向けられた━━━それだった。

 

「━━━━エリちゃんごめんね。硬くて乗り心地悪いかもだけど、お帰りはその赤いお兄ちゃんに乗り換え宜しく」

「えっ、ふたこさっ━━━」

 

エリちゃんを切島に渡した瞬間、化け物が吼えた。

即座にホルダーにセットされたベビースターを射出。

銀の一閃を宙に描いたそれは、化け物の顔面に当たると白煙を周囲へ撒き散らし、あっという間に視界を塞いだ。

 

「切島!!エリちゃん第一でよろしく!!包帯先生と会ったら即行援護来るよう伝言もよろ!」

「お、おう!!分かった!!お前も気を付けろよ!!」

「あいよぉ!」

 

切島をそこにおいて、引き寄せる個性で飛ぶ。

煙をかき消そうと腕が暴れ回っているそこは、暴風が吹き荒れてるかの如く危険だ。近づくのは得策じゃない。

けれど、それでも隙がない訳じゃない。

 

あれは恐らくエリちゃんを殺さない。

目が合った時に気づいた。あれは理性がまだある。力に多少振り回されているけど、完全に暴走してる訳じゃない。なら、取り返しのつかない攻撃はしない。やったとしても、個性でリカバリーが出来る範囲。自分の力が制御出来てないことを自覚してるなら、エリちゃんのいる方向へ向けての攻撃は足止めが精々。

 

膨れ上がる煙を視認した直後、体を真上へと引き抜く。

すると大きな腕が風を切って私のいた場所を通り過ぎて、エリちゃん達がいた場所の近くへ落ちた。既に後退を始めていたエリちゃん達に影響は然程ない。飛び散る瓦礫や砂ぼこりからは切太コンビが守ってくれてるのが見えてる。

エリちゃん達の様子を軽く確認した後は、その腕を足場に駆け上がりながら息を溜める。最大火力を目標に。

 

砂ぼこりを突き抜けると大きな嘴顔に辿り着いた。

相手の動作から僅かな驚きを感じたが、同時にある程度予想もしていたのか別の腕が迎撃に動き始めるのが見える。すかさず溜め込んでいたそれを吐き出した。狙いは六本の腕を動かす支点。六つの肩。

 

ニコちゃん108の必殺技。

『六連・ルージュブレス』

 

吐き出した真紅の炎は槍の如く飛ぶ。

そして嘴な顔に触れる前に六つに分かれ、狙った通り化け物の肩を正確に射ぬいていく。焼き焦げた臭いが鼻をつき、化け物が痛みに唸り声をあげる。

 

「ニコ!」

 

声が聞こえたと同時、黒豆パイセンが私に突撃してきた。敵に向かっていた体が横に流れる。腹部に走った痛みにこらえながら顔をあげると、私がちょっと前にいた所を腕から生えたトゲが貫いていた。あぶにゃかった。ラグビータックルありやと。ラグビー知らんけど。

 

「ざっすーー!」

「お礼は良いよ!それより状況説明いるかな!」

「じゃぁ、二点ほど。嘴まつげのイミフな体の理由と回復の速度お願いします」

「体が硬質化してるのも大きいのも、自分に組み込んだ仲間の個性を使ったからだ!あまり近寄ると体力を奪われるから気をつけて!!回復の速度はかなり早い、一秒余裕を持たせれば回復してくるよ!」

「りょでーす、倒すなら意識チョッキン系ですね」

「理解が早くて助かる!!」

 

私の体を透過して地面に消えていった黒豆パイセンを横目に、タックルされた勢いそのままに瓦礫の上へ着地。体勢を整えながら嘴まつげの姿を確認すれば一瞬肩回りが弾け飛んだと思ったら、次の瞬間には飛び散った赤い飛沫が磁石に引き寄せられる砂鉄のように集まり肩を元通りに形成していく。ダメージ即行回復とかとんだクソゲーである。

 

まぁ、それでも、ゲームと違ってあれは歴とした生き物。制限無しに回復する化け物じゃない。限りある資源やエネルギーを元に力を行使する有限の化け物。手駒があるならやりようは幾らでもある。

 

「パイセン!援護よろ!!」

 

一声掛けて嘴まつげに向けて体を引っこ抜く。

一呼吸遅れて「分かった!」と返事が聞こえて黄色い影が瓦礫から飛び出し、私より早く嘴まつげに攻撃を加える。

 

振り抜いた拳は硬い肌に阻まれダメージは与えられていないように見える。

けれど、視線は確実に黒豆パイセンへと向いた。

 

その隙に懐へ向かって引き寄せる個性で加速。

振りかぶられる腕を飛び交うトゲをかわして、一気に嘴まつげの懐まで潜り込む。勢いを殺さず飛び蹴りをかますが、足に伝わるのは痺れと痛み。とてもじゃないけど生物を蹴った感触じゃない。無機物その物。ルージュブレスをぶち当てた時、その様子を見ていたから分かってはいたけどこれではっきりした。皮膚が硬いんじゃない。恐らく皮膚の上に石を纏ってる状態。似たような事が出来る個性は知ってる。恐らく、あのコンクリ妖怪のそれだ。

 

ニコちゃん108の必殺技。

『ニコちゃん砲━━━ブルースフィア』。

 

吐き出した蒼炎は球と成って嘴まつげの腹部にぶつかる。岩肌は真っ赤に染まり、焦げた臭いが鼻をついた。化け物がくぐもった声を漏らす。

苦労してルージュブレスぶち当てても回復されるなら、ゆっくり全身を石焼してやれば良い。火傷や怪我を一瞬で治せても、体に籠る熱まではどうしようもないでしょう。部分的にはまず治せない筈。

 

黒豆パイセンの囮にして、たまにくる攻撃をかわしながら嘴まつげに炎を当てていく。嘴まつげの石の鎧は少しずつ赤く染まっていき、熱で朦朧としてきてるのか動きが鈍くなっていく。見てるだけで限界がそう遠くない事が分かる。

 

それなら、直に来る。

頭が働く限界ギリギリに全身回復。

最低のちゃぶ台返し。

 

でも、それは絶好の狙い目でもある。

読めてる行動ほど、付け入る隙もないのだから。

 

 

 

「━━━っぶなぁ!」

 

 

 

勿論、それまでこっちが持つ事が大前提。

それに加えて相手の注意が私に移るまでに体力を削り切る必要がある。これがしんどい。綺麗に避けすぎて警戒度をあげてはいけない。脅威にはならないのだと演出する必要がある。

 

ただでさえ時間が経つに連れて黒豆パイセンの囮の効果は薄れる。現在進行形で相手の私への攻撃頻度が上がってるように、だ。このまま私が完全にターゲットになってしまった場合、この作戦はその時点でおじゃん。後は援軍を待っての時間稼ぎをするしかなくなる。近づくと体力を奪ってくるらしくて?オーバーホールとかとんでも個性使ってきて?純粋なパワーだけでもダサマスク並みの化け物相手にだ。やってられないんだぜ!

 

攻撃頻度を減らし回避に専念する。

相手の攻撃も完全にかわさず紙一重を狙って。

ギリギリである事を見せつける。

 

「っっ!!」

 

僅かに読み違え、右肩に豪腕がかすった。

触れただけのような一撃なのに激痛が響いてきて、体がきりもみしながら吹き飛ぶ。姿勢制御してなんとか着地は出来たけれど腕の感覚がおかしい。嘴まつげから視線を外せなくて見てないけど、折れてるか外れてるかしてる気がする。

 

「ニコ!!」

 

黒豆パイセンの大声にハッとする。

気がつけば太い腕が砂ぼこりを巻き込みながら勢い良く迫っていた。ブルドーザーのように瓦礫をぶち壊して進んでくるそれは、改めて見るとやる気失せるレベル。

 

急いで引き寄せる個性を発動。体を引っこ抜く。

反応が遅れたせいで完全に避けきれないだろうけど、直撃するよりはずっとマシ。

 

耐える為に歯を食い縛った瞬間、ぽっかり空いた天井から巨大な氷柱が落ちてきた。

私と巨腕の間を割り込むように落ちてきたそれは、轟音を鳴らし氷の粒を辺りに散らしながらも必殺の一撃を止める。

 

 

「遅れて悪かった!大丈夫か!」

 

 

声に視線をあげれば穴の上からこちらを覗く轟の姿があった。かっちゃんもいるかと思ったけど、見上げたそこに姿はなかった。

何してるんだか、あの遅刻野郎!だけどまぁ、よしだ!

 

「トドロキング!!炎!!」

「!・・・分かった━━━━!」

 

私の声を聞いて間髪いれず轟が穴の中へ飛び込んできた。真上に向けて嘴まつげがトゲや腕を振り回して迎撃するが、狙いのついてない攻撃は掠りすらしない。危ない時は助けるつもりだったけれど、轟は攻撃を受けることなく背中に着地しゼロ距離で炎熱を発動。赤い炎が一気に嘴まつげの全身を包む。

何とか体勢を立て直し着地と同時にブルースフィアもぶちこんでみれば、甲高い悲鳴が嘴まつげの口から響いた。

 

苦しむ嘴まつげに振り落とされた轟は、氷のスライダーを作りだし私の所まで滑り降りてきて━━━徐に抱っこして走り出す。ちょっと唖然としてしまったが、轟がわざわざ降りてきた理由が分かった。エリちゃんも心配してたけど、よっぽど私は重症に見えるらしい。

 

「担がれる程ではないけど?見た目ほど」

「良いから呼吸でも整えてろ。肩大丈夫か」

「肩は超いたい」

「だろうな、多分外れてるぞ」

 

言われた通り呼吸を調えながら運ばれてると嘴まつげの腕が攻撃とは違う動きを始めた。自分の体に触れようとする動作。個性発動への、回復への準備。

 

 

「パイセン!!」

 

 

声をあげると黄色い影が瓦礫から飛び出す。

拳を構えて飛んでいく後ろ姿からは私がしようとする事への理解が見てとれる。優秀で大変結構、こけこっこうだ。話さなくても分かるって素晴らしいよね。

 

ホルダーにあるベビースター全弾射出。

嘴顔の横っ面へ、渾身の力を込めて一つ残らず叩き込む。すると甲高い音をたてながら、顔に張りついてた岩が剥がれ落ちた。生身の体が露出する。

 

 

その瞬間、暗闇の中から小さな影が飛び出してきて、露出したそこへと勢い良くぶつかった。

大きな頭が揺れる。

 

 

「よく持ちこたえてくれた!ニコ!後は私とルミリオンに任せて貰う!!合わせるぞ!」

 

 

聞いた事ある声に振り向くと手に何かを━━━ハンコを握って駆け込んでくる七三の姿が見えた。その動きに一切の迷いはない。援護のことといい、流石に黒豆パイセンの先生といった所か。状況把握能力が高し。

 

 

「オオオオオッッッッ!!」

 

 

パイセンの怒声を聞いて石の鎧が直ぐにそこを塞ぐ。

だけど、嘴まつげが出来たのはそれだけだ。

回復までは出来なかったようで巨体はさっきの攻撃の余韻でふらついてる。

 

黒豆パイセンは勢いそのままで嘴顔に拳を振り抜く。

全体重が乗った拳は音も立てず石の鎧の中へ突き刺さり、重く鈍い音を周囲へと響かせた。

ぐらりと大きな頭が揺れ━━━━今度こそ体勢を崩して床に腕をつかせる。

 

 

「━━━ッッッッッはぁ!!」

 

 

すかさず駆け込んできた七三が下がってきた頭を蹴りあげ、顎が大きく跳ね上がる。

その様子を見ながら黒豆パイセンは空中で体をひねり前方に回転。七三もハンコを手にして構えた。

 

「ルミリオン!!」

「はい、サー!!」

 

その合図から一瞬。

回転の勢いを乗せたパイセンの踵落としが脳天を突き刺し、七三の腕から放られたハンコが顎を貫いた。ほぼ同時に叩き込まれた強力な一撃。何かが砕ける音が嘴顔の口から漏れ出て、巨体が力なく地面に崩れ落ちる。

 

「トドロキング!拘束!掌に物触れさせないよう、なんか上手くやって!」

「上手く・・・・分かった」

 

私の言葉を聞いて轟は直ぐに巨体を氷で拘束した。

赤い血を滲ませるそれに動く気配はない。

凍らせてる間も胸を上下させるだけ。いざ動いたとしても掌は空を掴むことしか出来ない位置。これで終わりだ。

 

なのに━━━嫌な予感がした。

 

どうしてだかは分からない。

あえて言うならば、目の前に倒れてるやつから何も感じない事に違和感を覚えたからだろうか。

そうだ、感じなかったのだ。

 

戦い始めた頃に感じた筈のそれ。

あの時感じたような寒気を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━っ、全員警戒!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私が叫んで直ぐ、辺り一面の地面から夥しいトゲが生える。鋭利な切っ先には殺意が宿っていた。

轟が咄嗟に氷壁を作ってガードしてくれなかったら、その圧倒的な物量もあいまって無傷でいられなかっただろう。多かれ少なかれ怪我してる。

 

「大丈夫か、緑谷・・・!」

「OK、それよりちょっと失礼!」

 

引き寄せ個性で体を引っこ抜き、轟の腕から飛び出して空へ。トゲの山に視線を落とせば黒豆パイセンと七三の姿を確認出来た。二人共大きな怪我はしてないように見える。それはそれで安心したけど━━━━だけど肝心のあの嘴まつげはいない。ゴーグルさえ生きてれば、直ぐに見つけられたのに。

 

恐らくあの時、腕を治したタイミングでいつでも分離出来るよう準備していた・・・いや、もしかしたらその時点で分離してたのかも知れない。なにせあの巨体の化け物、一度回復してから一度も嘴まつげの個性を使わなかったのだ。してきた攻撃は腕による物理攻撃と、石をトゲのように伸ばす攻撃だけ。腕による攻撃は言わずもがな、石をトゲにするのはあのコンクリ妖怪の個性だけで十分出来るし、何より嘴まつげの個性に見られる予備動作がなかった。

 

不意に乾いた破裂音が聞こえた。

ついさっき聞いた銃を発砲する、その音だ。

視線をそこへと向ければ銃を構える嘴まつげがいた。

その対面には膝をつく七三とそれを庇うように立つ黒豆パイセンの姿も見える。

 

引き寄せる個性で地面に叩きつけてやろうにも、嘴まつげは個性の射程外。それは出来ない。引き金に掛かった指を見れば接近してる時間もない。弾丸を引き寄せて軌道を変えることも考えたけど、流石に弾丸を捉える自信はない。

 

 

「━━━━━!!」

 

 

だから、対象を変える。

攻撃する方ではなく、攻撃される方へ。

引き金を引くタイミングを見計らって地面へと二人を引き寄せる。二人の体がノーモーションで地面に伏せ、弾丸は空を切っていった━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

「お前達なら、そうすると思っていた」

 

 

 

 

 

 

その直後、激痛が全身を走っていった。

痛みにこらえながら腹部を見ると、赤に濡れた鋭いトゲが生えている。感触から貫通してるのが分かった。

振り返って確認すれば、私の腹から顔を見せてるそれは、地面から弧を描くように伸びてきていた。私から見えないよう、石柱の影に沿うようにして。

 

 

 

 

「身に宿る得体の知れない力に疑問も持たず、自らの分を弁えず、お前達は自由勝手に力を行使する。全能感に浸りながら・・・お前みたいに望めばなんでも手に入ると言わんばかりにな。そして、望み過ぎた結果がこれだ。せめて目の前の連中を見捨てて飛び込んでくれば、勝ちの目もあっただろうにな。ヒーロー」

 

 

 

 

霞みががってく視界の中、嘴まつげは側にある石柱へと触れるのが見える。

 

 

 

 

「ここまで策を労して、ようやく"二人"だ。先が思いやられる。壊理を取り返すまで、あと何人殺さないといけないのか・・・・それを思って苦しむ壊理の事を考えると不憫でならないよ。お前達が唆さなければ、そんな事もなかったろうにな━━━━━まぁ、もうそれも、お前には関係ないか」

 

 

 

 

ぐらりと、宙ぶらりんになってた体が揺れた。

見ればしっかりと床から生えていたトゲが根元から崩れ始めていてる。

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、ヒーロー。お前は俺より強かったよ。あの世で幾らでも後悔してくれ」

 

 

 

 

 

その声を聞くと同時に、私の体は宙へ投げ出された。

朦朧とする意識の中で視界に映るのは床を埋め尽くすトゲの山と、何かを叫びながら手を伸ばす七三の姿だけで━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

シリアル「新年一発目からとんでもない話ぶつけんなや兄貴」
ギャグ「ほんま、撲滅したろかオオン?」
アオハル「爆殺されれば良いのに・・・」


シリアス「真面目に仕事してるだけなのに酷くない!?」

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