私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

237 / 282
ワタシはぁ、オーバーホールぉ、許さないぃ!
幼女に暴行したかとかぁ、そういう理由じゃない!
決してそういう理由じゃない!
違うんです、本当に(真顔)。


最後の押しの一手はやはりごり押しに限りますよね。はい、気合い根性!気合い根性!気合い根性!これテストに出ますよー!の巻き。

 

 

 

 

 

 

 

まるで時間が止まったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下して直ぐ、霞がかってた視界が急に晴れた。

すると直前まで頭の中で暴れていた痛みが抜けて、時間が酷くゆっくり感じて、目の前にある石の剣山がはっきりと見えた。

一本一本の正確な位置は勿論、そこへ落下する時間、落下が及ぼす私の外傷の予想、何をどうすれば致命傷を避けられるのか、その為に必要な行動━━━━━そして、私に残された時間まで。

 

 

もう長くは残ってない。

傷口を塞ぐ方法は直ぐに分かったけれど、内臓の幾つかを正確に射ぬかれている以上どうにもならない。仮にリカばぁがいても僅かな延命が良いところだろう。

 

 

利口なふりしてこれだ。

本当に馬鹿な終わり方だ。

笑えてしまう。

 

 

私の予定ではテキトーに学生生活を楽しんだ後、プロヒーローとしてちょろっと活躍して、それでかっちゃんの事務所にでも入ってちょろちょろサポートしながら関連商品とか作って、それでのんびり印税生活するつもりだったんだけど。

予定って思い通りいかないなぁ。

 

 

でも、そうだな。後悔はないかな。

やりたいようにやった。

私は私のやりたいように生きた。

 

 

 

 

 

いつだって。

 

 

 

 

 

だから残されたあと少しも、思ったように生きよう。

母様やかっちゃんの為に何かしてやる事はもう出来ないけど・・・・あの子の為に出来る事がある。

弱くて強い、誰かの為に我慢が出来て、何処か意地っ張りで甘い物が好きな、誰よりも優しいあの子の為に。

 

 

 

 

 

落ちながら、ゆっくり息を吸い込んだ。

傷口に引き寄せる個性を発動し、嘴まつげの視界から隠れた瞬間を見計らって炎を吹き出す。対象にした炎は正確に傷口を焼いていく。溢れ出ていった血が止まる。痛みは最早感じない。あるのは失われていってた熱の流出が止まった感覚だけ。これで後戻りは出来ない。

 

 

 

 

引き寄せる個性で落下位置を変える。

着地と同時、また上空へ体を引っこ抜く。

嘴まつげの位置を再確認し、そいつの側に落ちている小石とアホ面に引き寄せる個性を発動。思いっきり叩きつけてやる。おまけに顎にも小石を叩きつければ体が揺れる。

 

 

 

 

ふらつく嘴まつげに引き寄せる個性で一気に距離を詰める。飛び込んだ勢いそのままに左のフックを顔面へ叩き込めば、衝撃で体が大きく仰け反った。拳の皮膚が裂け血が滲んでるけれど、そんな事は今更だ。多少の出血なんて関係ない。

 

 

 

 

がら空きの鳩尾へ右足を突き刺す。

仰け反っていた体が戻り、くの字に折れ曲がり嗚咽を漏らす。すかさず体を回転し、左の裏拳で顔をぶん殴ってやった。会心の感触。多分歯をへし折った。

 

 

 

 

追撃しようと構え直してると、嘴まつげが顔に掛かっていた血を拭った。こっちを見て目を見開いてる。殺したとでも思ったのか。事実半分死んでるようなものだけど、驚いてるならそれで結構だ。煽ってやりたい気持ちが鎌首をもたげるけど、そんな余裕はないので無視して限界まで腕を引き絞る。

 

 

 

 

「何故っ、お前っが!!」

 

 

 

 

引き寄せる個性も使って拳を振りかぶる。

十字に構えられた腕に阻まれるけれど、拳に伝わってくる感触は悪くない。皹くらい入ってそう。こっちの拳もイカれたっぽいけど、まぁ良い。どうせ後はない。

そのまま嘴まつげとその後ろにある瓦礫に引き寄せる個性を発動。思い切り叩きつけてやる。

 

 

 

 

嘴まつげがくぐもった声をあげる。

普通なら怯む所だろうけど、この状態でも抵抗の意思が見てとれた。だから腕や手首に引き寄せる個性を発動。掌に物を触れさせないよう動かして、嘴まつげの背後にある瓦礫へ引き寄せ固定する。無理矢理やったせいか、片方の手首があり得ない角度になってるけど、それは許して欲しい。こちとら命削ってやってるのだ。おまけして。

 

 

 

 

一気に距離を詰める。

射程内に入り込んだら引き寄せる個性も使って拳を、蹴りを嘴まつげに叩き込む。勿論、全弾急所へと。

時間が限られている以上、手加減は出来ない。

 

 

 

 

何度か攻撃をぶちこむと嘴まつげが怒号をあげながら固定してた腕を動かし、瓦礫へと掌を押し付ける。

直後、瓦礫と地面が砕け散り四本のトゲになって迫ってきた。位置を確認し引き寄せる個性を発動。フルスロットルで私に向かうそれを別方向へ引っこ抜く。脳が瞬間的に沸騰したかと思うほど熱くなり、血流が激しく回る感覚と共に鼻から熱い物が流れていく。

 

 

 

 

結果、引き寄せる個性は正確に対象を捉え、激しい音を立てながら四本のトゲを別方向にへし折った。

目を見開く嘴まつげの顔面と右の拳に引き寄せる個性を発動。フルスロットルで叩き込む。純粋な引き寄せる個性のみの打撃。普段の攻撃より威力は劣るようだけど、攻撃手段の一つとして十分。

 

 

 

 

残り時間も考え攻撃に加えて予備動作にも引き寄せる個性を使う。攻撃の回転力を限界まであげる。どうせ体はボロボロ。関節も何も考える必要もない。

何もかも関係なしに、体を引き寄せる個性で動かし続ける。全てを、この攻撃の為だけに。

 

 

 

 

腕を引いて、拳を放つ。

足を振り抜いて、足を引き戻す。

それをただ繰り返す。

 

 

 

何も考えず、それを繰り返していく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

ゆっくりだった世界が少しずつ早く変わってく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

個性の使用過ぎで脳が酷く熱くなる。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

失ってた痛覚が徐々に戻っていく。

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

全身に走るその痛みで理解する。

もうすぐ、私にかかってる魔法が解ける事を。

当たり前のように死ぬ事を。

 

 

 

 

そして、そんな痛みにもう一つ気づいた。

 

 

 

 

心の奥そこにあった、ほんの少しの後悔。

 

 

 

 

大した事じゃないんだけど、なんとなしに気になってたそれ。

 

 

 

 

かっちゃんが未だに悩んでるヒーロー名。

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━何にするのかな」

 

 

 

 

 

かっちゃんの晴れ姿をぼんやり考えながら、私はまた腕を引き絞った━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

『超常』かつて突如として人々にもたらされた謎の変異。一説では未知のウイルスがネズミを介して世界へと広がったと言われているが、明確な論拠はない。

無数にある『超常』にまつわる推論の一つ。

 

そしてそれは、俺にとって最も納得のいく推論の一つだった。

 

 

『・・・・・病気』

 

 

それは俺にとって正しくそうだった。

幼い時より感じていた個性に感じる異物感の答えとし、それ以上はないと。

 

病気なのだ。誰もかれも。

それなのに誰もそれに気づかない。

平気な顔でそれを使い、へらへらと笑う。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

同じ空気を吸っているだけで吐き気がした。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

触れるだけで鳥肌が立った。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

誰もかれもが異常に見えた。

 

 

━━━━気持ちが悪い。

 

 

こんな異常な力をその身に宿しながら、どうして平気でいられるのか。俺にはどうしても分からなかった。

 

心に抱いたそれは体へと移る。

気がつけば俺は一人でいる事が増えた。孤立は周囲から更に奇異の視線を集め、そして気づいていく。俺が違うものだと。"当たり前"に恭順出来なかった俺は異物でしかない。そして異物は拒絶される。

孤児院という閉ざされた世界の中で、俺は誰にも認められない存在だった。

 

 

 

 

だけど、あの人だけは違った。

 

 

 

 

『おう。随分と元気な糞ガキがいるって聞いて来たが、こいつは噂通りの糞ガキだな』

 

 

 

ちょっかいを掛けた同じ院のガキを殴り倒した後、初めてあの人にあった。和服に身を包んだ、大きな体をした厳つい顔の男。部下を何人も引き連れながら堂々と煙草をふかす姿は威厳に満ちていた。

 

男は一人煙草をふかしながら近づいてきて、徐に頭に触れようとした。男の迫力に動けずにいると、男ははっとした顔をして苦笑いを浮かべる。

 

 

『━━━━おっと、おめぇ人に触られるの駄目なやつなんだっけか?悪い悪い、ついな。頭の高さがちょうど良かったからよ。はははっ』

 

 

ひとしきり笑った男は俺を見下ろしながら続けた。

 

 

『寄る辺がねぇならウチに来い小僧。名前は?喋れるか?』

 

 

男の真っ直ぐな瞳に、哀れむような色はなかった。

異物を見るような嫌悪の色も。

その瞳はただ俺を見ていて━━━━気がつけば俺はそれを答えていた。

 

 

『治崎・・・・治崎 廻』

『廻か、良い名前じゃねぇか。ついてこい、今日から俺がお前の親父だ』

 

 

そう言って男が見せた背中に俺が足を踏み出した理由は今でもちゃんとは分からない。

ただそれでも、俺にとってそれが望ましかった事だけは確かで、俺はこの人の為に生きようと思った。

 

 

けれど、世界は何処までも俺を拒絶した。

個性なんてものが蔓延るせいで英雄気取りの馬鹿が増え、その影響で親父の組織は年々弱体の一途を辿った。仲間の組が解体され、肩身が狭いとぼやく姿は見ていられなかった。

 

 

『ぼちぼち潮時なのかも知れねぇな。俺達みてぇなのはよ』

 

 

親父にそんな顔を、言葉を言って欲しくなかった。

だから俺のやり方で組織の再興の道を模索した。

何度も親父に再興の為の構想を説明した。

 

親父を、親父の組織を、相応しい地位につけたかった。

あの日、手を差し伸べてくれた恩に報いたかった。

俺を俺として見てくれるこの人に。

 

壊理という存在を手に入れてから、俺の計画は一気に進んだ。欠けていたピースが揃ったように、事態は良い方向へと進んだ。個性という病気を消せる薬の開発。そしてその薬の効力を打ち消せる対抗薬の開発。何度も失敗を重ねたが研究は日ごとに進み、少しずつだったが成果を出していった。

 

 

だけど、親父は分かってはくれなかった。

 

『ダメだと言ったハズだ。あの子を何だと思ってんだ。ウチの考えに背きてぇなら、おめぇ・・・もう出ていけ』

 

 

違う、そうじゃない。

背きたい訳じゃないんだ。

あんたの理想はよく知っている。

 

その為にも必要なんだ。

あんたの理想の組織の為に。

あんたの為に。

 

それを分からせるだけの、力が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━ッッッッぐっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

何で俺は、まだ立ち止まっているんだ。

放り込まれる連撃に指一本動かせないまま。

壊理を取り返すどころか、目の前の壊れかけの小娘すら殺し切れない。

 

腹部の火傷の痕を見れば、こいつは生きてる事すらおかしい。そもそもあれほどの怪我。出血を止めたと言っても、こいつの体の中にはこれほどの動きを出来る余力は残っている訳がない。内臓をぶち抜いてやった。間違いなく致命傷。殺した筈だ。

 

なのに、何で、こんな風に動ける。

 

 

「━━━━━━━」

 

 

引き取られてからずっと鍛練を重ねてきた。

全ては組の尊厳を守る為に。

親父を誰にも馬鹿にされない為に。

 

 

 

「━━━━━」

 

 

 

その為に、その計画の為に親父を植物状態にした。

邪魔される訳にはいかなかった。オールフォーワンが消えた現在、ヤクザ者の俺達が裏社会を牛耳るチャンスが今しかないと、そう思ったからこそだ。

 

 

 

「━━━━」

 

 

 

幾つも犠牲を払ってきた。

子飼の部下も、金も、地位も。

この忌々しい個性すらも使って。

 

 

 

「━━」

 

 

 

なのに、それでも足りないのか。

 

 

 

「━━━━あああああああああ!!!!」

 

 

 

嵐の打撃に耐えて突き出した掌は、空を切った。

小娘の頭に揺れる長い髪の、その毛先一本にすら触れられない。完璧にかわされた。

 

女の連撃は止まらない。

拳を振り戻す時にも個性を使い、攻撃は加速し続けていく。人間の可動域などお構い無しで構え直される女の四肢からは骨が砕けるような、何かが切れるような音が響き続けている。打ち込まれる攻撃に激痛が響いてく。俺の何かが削られていく。

 

女の個性で指一本まともに動かせられず。

息すらもまともに出来ず。

痛みだけが俺の全身に走っていく。

 

 

 

 

 

気を失いそうな激痛の嵐の中。

それと目が合った。

 

 

 

 

 

無表情のまま、目をぎらつかせる。

女の二つの目と。

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━っ」

 

 

 

 

 

 

 

知れずに息を飲み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉に出来ない何が、足元から這い上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

一度として感じてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウチのこと"ヴィラン野郎"って言われてケンカしたんか。でもなぁ、極道がカタギに手ぇ出しちゃぁいけねぇ・・・・いけねぇ事だけどなぁ━━━━』

 

 

 

 

視界の中で拳が迫ってくる。

まるで他人事のように俺の体は動かない。

拳はこれまで以上に鋭く、速い。

 

 

 

 

『━━━━━治崎、面子守ろうとしてくれて、ありがとうよ』

 

 

 

 

 

「オヤジ、俺は━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

顔面に拳が突き刺さり、重い衝撃が走っていく。

視界がぶれて、指先から力が抜けていく。

堪えていた足がゆっくり倒れていく。

意識が暗転していく。

 

 

 

 

 

「━━━━━━俺はッッッッ!」

 

 

 

 

 

薄暗くなった視界の中で掌を翳した瞬間、けたたましい爆音が鼓膜を揺らした。

 

 

 

 

 

「てめぇは、もう寝てろや!!ドカスが!!」

 

 

 

 

 

頭に走る衝撃に、何かが途切れる音がした━━━━━。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。