私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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死んだ時に見るのは走馬灯かサンズリバーと決まってるでしょうが!他に何があるというのさ!えっ、なにあれ、モジャモジャしてる。なに、怖い。の巻き

「・・・・・・知ってる天井だ」

 

 

 

 

 

定番の台詞を逃した私の目の前に広がってるのは、知りも知ってる見慣れた天井。直前までの記憶はぼんやりしてるいるけど、ここにいる筈がない事だけははっきりと分かる。なんだってここに?私の部屋じゃね?

 

そう思って視線を周囲へ向けると、見慣れた壁にガチムチのポスターが貼られていた。びっくりしながら二度見しようとした、振り向いた反対側にもガチムチグッズの嵐。驚いて別方向を見てもガチムチ。何処をどう見てもガチムチ。私の部屋はガチムチに支配されていた。

 

思わず「ひゃおぅ!?」と声をあげてしまうと、ガタリと物音がした。そっちへ視線を向けたらドアを開けたまま肩をびくつかせる髪の毛がモジャモジャな男がいた。

 

「誰だ、貴様ぁ!!モジャモジャごらぁ!!れでーの部屋にノックもしないで、ていうかなんだこの部屋の惨状は!なんて嫌がらせしてん!?私でもここまでしないわ!!許さぬぅ!!」

「ひっ!?あっ、すっ、スミマセン!!僕は緑谷出久って言います!!ノックもしないでスミマセン!まさか僕の部屋に女の人がいるとは思わなく!!━━━というか、ここ僕の部屋だと思うんですけれど・・・・」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?どうみても私の部屋でしょーが!!テキトーこいてるとモジャモジャ一本残らずむしり取るかんね!!ヒサシみたいな頭しよってからに!!」

「えっ、ヒサ・・・・もしかして、あの、僕のお父さん、緑谷ヒサシの知り合いとかですか?」

 

怪訝そうな顔で聞いてきたモジャモジャに、私は胸を張って返した。

 

「まぁ、基本家にいないし、知り合いくらいの付き合いしかないけれど━━━でも歴とした私のお父様だ、この野郎!!・・・・ん?僕のお父さん?」

 

不思議に思ってると目の前で目を見開きながら固まってるモジャモジャが視界に入った。小さく開いた口からは絶え間なく小さな呟きがブツブツと溢れてる。怖い。

 

「はぁ、もう何でも良いけどさ、取り敢えずこのガチムチ達片付けて良い?流石にこれだけ同じ物に囲まれてると気味悪いんだよね」

「きっ、気味悪い・・・・そ、それは、僕自身この部屋が趣味部屋であることは理解してるつもりですし、平均的な一般の方と比べたら変わってる部屋なのは分かりますけど、気味悪いなんてことはないと僕は思ってると言いますか、そもそもオールマイトはヒーローチャーミングスマイルランキングでもナンバーワンで評価されてますし、それにオールマイトグッズはよく作られてて一見同じように見えても全部少しずつ違う物なんです、勿論それも製造のクオリティが低いからという訳でなくちゃんと理由があって、今あなたが見てるポスターなんかはスペシャル特番でプレゼントされたものなんですけど番組内でオールマイトが着てた衣装が━━━━━」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!きっしょいんじゃぁ、どれだけガチムチ好きなんじゃぁ!!ガチホモか!!」

 

ツッコミを入れるべく手を振った━━━振った、のだが、私の手はするっとモジャモジャをすり抜けてしまった。まるで黒豆パイセンみたいに。何となしに自分の掌をみれば色が透けてる。よくよく見れば足元が地面についてない。フワフワしてる。服装も家で着ることのないヒーローコス。しかも窓ガラスを覗いてみたらそこに私はいなかった。

 

「なっ、なんじゃこりゃぁぁぁぁああああ!!ぱぱぱー、ぱぱぱー、ぱぱぱー、ぱぱぱぱーぱーぱーぱー・・・・言ってる場合か!!モジャモジャぁ!!」

「ひえっ!じ、自分で勝手に始めたのに!?ていうか、半透明なの気づいてなかった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平行世界ねぇ・・・・」

「はい、そうじゃないかと。それならある程度説明がつきますし、僕も緑谷さんも嘘をついてないなら、それしかないかなぁって。原因は分かりませんけど、可能性としては誰かの個性じゃないかと思うんです。もしかしたらそんな単純な話じゃなくて複合的な原因があって偶然起きた現象かも知れませんけど━━━━」

 

なんじゃこりやぁぁぁぁああああ!!事件から少し。

腹を割ってモジャモジャと話していくと、どうやらここは私のいた世界ではないらしい事が分かった。状況証拠としてネットを騒がせていたニコちゃんVS妖怪血ペロ男の映像記録もなく、体育祭の緑谷双虎大活躍録もない。そして何より家族写真を調べると私がいただろう位置にこのモジャモジャが入れ替わるように入ってた。

調べた限り私の記録が何一つここになかったのだ。

 

それでも最初はなんらかの個性で入れ替わられてたり、催眠術的なのに掛かってて騙されてるのかと思ったけど・・・・少なくとも目の前のモジャモジャからは欠片もそういう雰囲気もなく、寧ろお人好しの気配がびんびんしてきたのでとりまこのモジャモジャは信じることにした。

 

しかし、平行世界にダイブするとは。

人生ってわからん。

ていうか、ずっとなんか喋ってるな。このモジャモジャ。ん?なんの話?平行世界ね、うんうん分かる。分かる。そだねー。

 

「・・・・で、こっちでもかっちゃん元気?」

「━━━━えっ、は、はい。元気です。元気過ぎるくらいに・・・というか、その、そっちの世界の僕、っていうのは変なんですけど、性別どころかなんていうか全然違うし、あの緑谷さんは━━━━」

「双虎で良いよ。それでいくと私もあんたを緑谷さんって言わなくちゃいけないじゃん。意味分からなくなるわ。で、出久だっけ?かっちゃんがどったの?」

「あっ、あの、なんて言うか、言い方が仲良さげだったから、ふっ、ふた、双虎さんはかっちゃんとどういう関係なのかなって」

 

どういう関係・・・・?

 

「うーん・・・・幼なじみ、喧嘩友達、遊び友達、奢ってくれる人、勉強教えてくれる人、朝起こしにきてくれる目覚まし、荷物持ち、タクシー・・・・そんな感じ」

「死ぬほどこき使われてる!?えっ、あのかっちゃんがですか!?」

「?どのかっちゃんか知らないけど、金髪ボンバーヘッドの爆豪勝己のことだけど?なに、こっちではどんななの?『ゴラァァァ!!舐めてんじゃねぇぞ!!』とか言ってる?」

「言ってます!似てます!昨日も言ってました!!うわぁっ、かっちゃんが、そんなっ、ええっ、かっちゃんが・・・・凄い。普通に凄い。どうしたらそんな事に」

「どうしたらって・・・・別に?」

 

頑張って思い出しながらかっちゃんとのエピソードを口にすればモジャモジャが項垂れた。どうしたのかとモジャモジャの顔を覗き込んで尋ねれば顔を真っ赤にしながら離れて、それからぼそぼそと話し始める。こっちでのかっちゃんとの事。モジャモジャこと出久はかっちゃんと上手くやれてないらしい。特に中学の頃の当たりは強くて、暗に死ねと言われたこともあるとか。個性が発現した後はもっと酷く関係が悪化して、雄英に入ってからも授業でもよくぶつかるそうだ。

 

「ぶん殴れば良いのに」

「解決法が雑っ!というかですね、こっちのかっちゃんにそんな事したら余計に大変な事になりますから!それに、そもそも攻撃が当たらないと思いますし・・・いや、一発くらいならもしかしたらですけど、でも後に続きがないと言いますか」

「えー?そうなの?私は昔からそうしてるけどなぁ・・・・まぁ、私が超絶美少女な上にアルティメットな天才ウーマンだからってのもあるかもだけどさ」

「自画自賛レベルがかっちゃんと同じだ。成る程」

「うぉい、まてぇい!何が成る程だ!!それはあんた失礼でしょ!!」

 

抗議するとモジャモジャは申し訳なさそうにしたけど、目だけはそういう目をしていた。腹立ったので顔面に蹴りを入れてやる。透けると分かってても驚いたのか、モジャモジャは肩をびくりとさせた。

 

それからも色々と話してこの世界と私のいた世界の相違について検証していく。やっぱり基本的には変わりはあまりなく、相違と言ったら私と出久の存在が入れ替わってる事と、それによって起きた事象の変化。私がいた世界と数ヶ月のズレがある程度だった。こっちはまだ一学期も終わってないそうなのだ。似たようなことばかり起きてるみたいだから敢えて未来の事については触れなかったけど・・・・教えても良いんかな?いや、映画とか漫画とかで大抵こういうのは碌なことにならないもんなぁ。

 

しっかし、話を聞いてるとこっちの出久も色々と大変そうだ。この時代だと珍しく無個性スタートとは。しかも側に天才マンのかっちゃんがいると・・・・だからこんなにモジャモジャのモジモジくんになってしまったのだろうなぁ。せめて私みたいに八割優しさで出来てる気が利く超絶美少女でもいたらもっと陽キャになってたろうに。自然とステップを踏めるお洒落モジャモジャになって『君かわうぃーねぇ!ひゅー!』とか言ってただろうに・・・・。

 

「今からでもダンス覚えようか」

「あの双虎さん・・・・今さっき口から溢してたのが理由なら断らせて下さい」

 

おっと、口から滑ってたんだぜ。

 

それからまた暫く話してていい加減飽きた頃。

気になっていたので「もしかしてわんふぉーなんちゃら継いでたりする?」って聞いたら分かりやすく出久の顔が青ざめた。こっちでも秘密案件らしい。

まぁ、何処にいっても秘密案件だろうけど。

 

「・・・・あっ、あの、なんで、その事を・・・はっ!いえ、何でもないでひふゅ!」

「秘密守る気ある?まー安心しなって。私も向こうで勧誘されたから知ってるだけ。ガチムチの個性も変化なしか・・・いよいよ私らだけか。変化あるのは」

「その、ガチムチって、まさかオールマイトのことじゃ・・・というより双虎さんもですか?それじゃ━━━」

「いや、私は継いでないけど」

 

きっぱりそう伝えると、出久は不思議だって言わんばかりの視線を向けてきた。何がそんなに不思議なのかって直接聞けば、目をキョロキョロさせた後おずおずと話しだす。

 

「だって、双虎さんは、その、個性を二つも持っているんですよね?それに聞いてるとかっちゃん並みに強くて、才能だって・・・それなら━━━━━」

 

その後、出久の言葉は続かなかった。

だけど何となく分かる。

客観的に見たらそう考えるのも分かるし。

 

でも━━━━。

 

 

 

「私はヒーローにはなれないからねぇー」

 

 

 

かっちゃんを見て、ガチムチを見て。

皆を見ていつも思う。

私にはなれないな、って。

 

 

「私はね、自分が強い事を知ってるから戦えるだけ。強さを持ってるから助けにいくだけ。だから自分が出来ないことをやろうとは思わないし、出来ることしかやらない。これまでずっとそうしてきたし、これからだってそうするつもり━━━━」

 

 

いつか誰かが言ってた、ヒーローの資質の話。

考えるより先に体が動くって、そういう話。

私には一度もなかった。人には突発的に動いたようにみえても、自分自身算段をつけないで動いたことはない。それが私なのだ。かっちゃんとかの方がよっぽど向いてる。

 

それに私は、私が守りたいものしか守る気ない。

あんな物を受け取ってガチムチの代わりに平和の象徴とか本当ごめん被る。

 

「━━━━だから、出久はもっと胸を張れば良いよ。どんな経緯があったか知らないけど、あの人に力を渡すって決めさせて、それを受け取ったことは当たり前じゃないから」

「双虎さん・・・・」

「陰キャっぽいとことか、モジャモジャなとことか、部屋のセンスとか、なんかそういうのはアレだけど、なんか、そう、なんだろ、うん、まぁ、その内彼女とか出きるよ。宝くじもあたる。元気出して」

「・・・・かっちゃんが振り回されてる理由が分かった気がします」

 

問題児みたいな言い方した、だと!?

こいつ、この短時間で随分と図々しくなったな。

こんな美少女を前にして、なんてやつだ。もっと仰々しくしても良かろうものを。まぁ、堅苦しい方が面倒だし良いか。

 

「それと、ふと思い出した」

「えっ、はっ、はい。というか、いきなりスッと話変えないで下さい。ついて行けないです。それで何かあったんですか・・・・?」

「私、多分死んだわ」

「死んだ!?向こうで何してきたんですか!?」

「まぁ、幼児虐待してたうんこヴィランしばき回しにいったんだけど・・・・うーん?何処まで言って良いものかなぁ」

 

驚く出久にどう理由を話そうかと考えた時、何かが聞こえた気がした。振り向いて見たけれどそこにはガチムチがいるだけ。特別何もない。

 

「呼んだ?」

「?僕は呼んでないです、けど・・・双虎さん、あの、なんか薄くなってる気が」

 

言われて体を見下ろしてみれば、若干色が薄れてた。

 

「━━━━おー、何だろう、成仏的な?」

「成仏するんですか?」

「さぁね、私も流石に成仏したことないから━━━」

 

言葉を続けようとして、それに気づいた。

耳に響いてた声が誰のものなのか。

 

「━━━━うるさいなぁ、まったく」

 

何を言ってるのかまでは分からない。

でも呼んでる事だけは、はっきり伝わってくる。

そして聞きなれた声に混じって聞こえる、その小さな声も。あっ、増えた。というか、どんどん増えるな。他にやることないの?皆暇なの?

 

「成仏はまだ先みたい、なんかさ、めっちゃ呼ばれてるっぽいから・・・・いやぁ、まいったね。体ボロボロなのにさぁ。あはは」

 

そう笑顔で伝えると出久は困ったように笑った。

 

「何だか慌ただしいですね」

「本当、変な夢みたもんだよ。死にかけなら普通サンズリバーでしょ?平行世界とかワラ」

「夢か・・・・そうなのかも知れないですよね。こんな事誰かに話しても信じて貰えなさそうですし」

「ねっ。私がオタクのモジャモジャと入れ替わってるとか」

「言い方が酷い・・・モジャモジャもオタクも自覚はありますけど」

 

耳に響いてた声がはっきりしてくるに従って、体がどんどん薄れていく。それと同時に目の前がぼんやりして、出久の声が遠くなってくる。

そろそろかなぁと思ってると出久が意を決したように口を開いた。

 

 

「あのっ、僕が言うのは、説得力がないと思うんですけど、さっきの話・・・・双虎さんは十分ヒーローだと思います!だってここに来るまで戦ってたんですよね!死んだって言えるほど必死になって!誰かの為に!」

 

 

「ヒーローだって人間で、身近な人を優先するのは当たり前だと思うし、だから一人一人やり方は違うのは当然と言いますか、皆がオールマイトみたいにする必要はないと思うんです!僕は、オールマイトみたいになりたいと思いますけど、きっと同じ事は出来ないと思います!」

 

 

「なんていうか、その、上手く言えないんですけど、今そうやって誰かに呼ばれてるのは、双虎さんがやってきた事の成果なんだと思うんです!生きて欲しいって、誰かに思って貰えるのも当たり前じゃない!双虎さんはきっともう、誰かのヒーローなんだって思うんです!だから━━━ちゃんと帰ってあげて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出久の言葉に私は軽く敬礼して見せた。

「あいさ」と返事をしながら。

笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、弟よ。一応消える前に言っとくんだけど、お茶子落とすつもりなら下手な事しないで、誠実に真正面から告白した方が良いよ。男らしくぶつかって砕けよ、お姉ちゃん応援してるぞぃ━━━━━━」

 

「いや、弟じゃないですし、麗日さんとはそういう関係になりたいとか恐れ多い事は思ってませんし、というかそれだと僕っ、見事に砕けてるじゃないですか━━━━あっ、帰った!?本当に自由な人だなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━きぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!顔面近づけて何のつもりだこの痴漢爆発頭ァ!!」

 

「ぐおっ!!??てっ、てめぇっ、ふざけんじゃねぇ!誰のせぇ━━━━づっ!!」

「ふたこさん!!」

 

「わっぷ!?何事!?視界が白くっ、敵襲!?!?」




夢おまけ~夕飯編~


デク「お母さん、僕に双子のお姉さんとか・・・腹違いのお姉さんとかいないよね?」ゴハンパクパク

プニコ「腹違いの、お姉さんっ・・・!?」カラン


次回予告

父、問い詰められる

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