私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

24 / 282
前回のあらすじ

かっちゃんに笑いの神が舞い降りた。

なんやかんやゆうても、あれが誤字だってみんなに認識されてるなら、かっちゃんも捨てたもんじゃないよねって、そう思いました、マル


死ぬにはいい日という言葉はあるけど、死ぬこと自体良いことじゃないから、それって結局良い日ではないよね?そうだよね?え?あ、そういう事ではない。成る程。の巻き

時は戦国。

オリゴ糖の乱に始まった戦国乱世。

糖で糖を洗う甘味達の地獄の果てのこの時。

 

私、緑谷双虎は、若きシュークリーム将軍にかわり洋菓子家の全権を握り最後の戦に赴いていた。

 

シュガヶ原。

 

昨日のザラメのせいでわたあめに満ちた白の世界の中、私は静かにその時を待った。

 

「双虎殿!!エクレア殿と他に数名があんこ餅と交戦を開始!!我が軍、優勢にしてつかまつりそうろう!!」

 

ついにきたか、そう思った私はゆっくりと牛乳をあおった。淡白な味わい、低脂肪牛乳もたまには悪くない。基本的にココアが好きだけど、まぁ、これも悪くない。炭酸も好きだけど。お茶も好きだけど。

 

「全軍に伝令!!全軍突撃を開始せよ!!洋菓子家の力を、和菓子共に見せてやれ!!」

「ははぁ!!双虎殿!!」

 

軍を先に敷いたこちらが有利。

戦の準備など糖に終えている。

息をきらした愚物共に、勝機など一グラムとてないのだ。

 

ポテチをかじり、勝利を確信したその時。

慌てて駆け込んでくる足音が耳に届いた。

 

「双虎殿ぉぉぉ!!伝令、伝令にござりまする!!」

「何事!話せ!!」

「はっ!!謀反にござる!!かすてーら殿の謀反にござりまする!!謀反に気づいたスコーン殿がシュークリーム将軍を連れホールケーキ城に立て籠るも、オーブンに掛けられ、死期を悟った将軍は・・・!!ぐぅぅぅ!!」

 

かすてーらは以前より和菓子よりだったせいで随分と低い扱いを受けていたのは知っていた。だが、誰よりも洋菓子であることを誇りに思っていた忠臣の一人だった筈だ。その誇り高さ故に、シュークリーム将軍の近衛を任せていたほどなのだから。

 

「何故だ!!かすてーらは何故そんな真似をした!」

「一言、双虎殿に伝言がありますれば」

「なんだ!!」

「かすてーらとカステラは別物だから、と。和菓子として、進化してるからと」

「馬鹿なぁぁぁぁ!!」

 

あの大戯け、拐かされおったか!!

いや、一枚奴が上手だったという事であろう。

和菓子家の古狸、奈良饅頭の助が。

 

「双虎殿!シュークリーム将軍の死去が軍勢に伝わり、形勢に変化が!!我が軍押され始めました!!」

「なんだと!?馬鹿なっ!」

「双虎殿ぉ!!エクレア殿が討ち死に!!戦線が、崩れます!!」

 

計られたか、饅頭共が!!

 

「双虎殿!今すぐ撤退を!」

「馬鹿をいえ!私まで離れては兵子らに示しがつかん!!」

「そこを何とぞ!!シュークリーム将軍が亡くなられた今!洋菓子家を引っ張っていけるのは、双虎殿をおいて他ありませぬ!!御身さえ無事なれば、我ら散り散りになろうとも、その御身を洋菓子の灯火とし幾度でも集まり、幾度でも戦えまする!我らの旗印として、どうか!!」

「くっ、しかし!」

「双虎殿!どうか、どうか、我らの為に!洋菓子家の未来の為に!!」

 

私は選ばなければならない。

ここに討ち果てるのか。

それとも、生き延び明日の洋菓子を守っていくのか。

 

「双虎殿!!防衛拠点が破られもうした!!じきに敵の一陣が本営に到着いたしまする!!お早く!!」

 

じっと見つめてくる洋菓子達。

その目に宿る光を見て、私は今更になって迷っている自分を恥じた。

迷う理由などなかったのだと、思い知った。

 

「━━━貴様らに最後の奮闘を期待する!!サラダバー!!」

「「「サラダバー!!」」」

 

勇敢な戦友達に敬礼し、ミイラ号に股がる。

いつもなら相棒の爆号に乗るところなのだが、なんか今日はいない。ときおりゴラァとか、ブッコロスゾと鳴く変わった馬だが、その駿足はなによりも信頼に値する名馬なのだ。餌がきゅうりである事以外は特に不満のない相棒である。

 

手綱をとり腹を蹴れば、ミイラ号は駆け出してくれる。

 

「緑谷少女!!」

 

走りだしたその時、不意に背後から声が掛かった。

何事かと振り返ればガチムチがそこにいた。

 

ガチムチがおる。・・・お?

 

ガチムチって誰やん?

 

「私が、来た!!!」

 

とてもよく考えた。

それはとてもよく考えた。

そして思った。

 

ふむふむ。

 

「私は呼んでない!!!」

「おっふぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━緑谷」

 

ぼんやりとする意識のまま声を便りに視線を動かすと、黒い塊がそこにあった。なんかモジャモジャしてる。

妖怪かな?と思ったけど、よくよく見ると包帯のない包帯先生だった。包帯がないから包帯のない包帯先生ということだ。

ん?結局どういう事だ?

包帯がないなら包帯先生ではないけど、包帯先生は包帯先生だから、別に包帯がなくても包帯先生な訳で、でも包帯がなければ包帯先生とは言えないから、つまりそれは包帯がない包帯先生という事になるけど━━━

 

うん、意味分からん。

まぁ、包帯先生は包帯がなくても包帯先生という事でいいや。面倒臭い。

 

それにしても包帯先生の顔色は少しよくなってるみたいだけど、調子はまだまだ悪そうだ。

そんな包帯先生の顔を見てると、不意にある事が気になった。もしかしたら、知っているかもしれないので聞いてみようと思う。

 

「包帯先生・・・」

「なんだ?」

「シュークリーム将軍は?」

「夢の話なら後で聞いてやる」

 

夢だったのか。

あんなに楽しい世界、他にないのに。

ちょっと悲しくて涙が出てきた。

 

「シュークリームに埋もれて生きたい」

「直ぐに糖尿病になりそうだな」

 

冷静なツッコミに心が痛い。

お腹も減った。なんか肩痛い。

肩?なんで肩?・・・あ、肩か。

 

「そう言えば、私ピンチ系だったと思うんですけど、どうなりました?天国?」

「もし天国とやらにいってたとしたら、今頃シュークリームに埋もれてるんじゃないか?」

「確かに」

 

じゃ現実か。

まじか。

シュークリームなしか。

あ、いや、シュークリームオンリーは、それはそれでキツい。

 

ていうか、私もしかして包帯先生にお姫さまにされてる?運ばれてる?背中に当たってる温かいのとか、包帯先生の温もり?

うぇぇ、むりぃ。

 

「それより緑谷」

「はい?」

 

下ろしてくれないかなぁと思ってたら話し掛けられた。

なんぞ。

 

「さっきのは、起きてたのか?」

「はぁ?」

 

ちょっと意味が分からない。

第一回から第十五回まで開かれてる、私的美少女グランプリナンバーワンに輝いている美しすぎる生き女神の緑谷双虎でも意味が分からない。

 

え、セクハラ?

 

「いや、分からないならいい。だ、そうです。オールマイト。寝ぼけてただけです。いつまでもいじけてないで、こっちに来て下さい」

 

ガチムチ?と思って顔をあげてみると、ボロボロのガチムチがいた。なんかしょんぼりしてる。

 

ふと視線を横に逸らせば、しかめっ面のかっちゃんがいた。なんか、凄い顔で睨んでくる。

その隣にいる切島が苦笑いしてる。

 

なに?なんなの?

 

意味が分からないので辺りを見渡してみると、ボロボロの広場と縛り上げられたチンピラの姿があった。

手マンとか黒モヤとか黒筋肉がいない所を見ると、なんとかなったとは思うけど、過程が分からん。

 

「うーん、よく分かんないけど、私が頑張ったのは分かった」

「ああ、大分無茶をしたがな」

「無茶かぁ」

「そうだ無茶だ」

「無茶なのかぁ」

 

 

・・・なんか無性にお茶飲みたくなってきた。

いや、意味が違うのは分かるんだけど、無い無いって言われると逆に欲しくなっちゃうんじゃん?無茶、無茶ってさ。出せよ、茶ぐらいって思うじゃん?

 

「なぁ、緑谷」

「はい?なんですか?」

 

お茶くれんのん?

 

「お前は、これからどうしたい?」

 

さっきから意味が分からない。

脈絡が無さすぎる。

かっちゃんといい、ガチムチといい、包帯先生といい。

なに、その目。

 

私、頑張った系の人だよね?

褒めね?取り合えず、めちゃめちゃ褒めて褒めて、持て囃さない?何故に問いかけ?ご褒美にご飯奢ってくれても良いんだよ?焼き肉とか、お寿司とか。なんだったらピザでも良いよ。全部トッピングしたやつ。・・・やっぱり全部はないな。何事もバランスを考えねば・・・。

 

「緑谷」

「うえ?ああ、ピザはですね━━」

「ピザの話はしてない。これからどうしたいかって話だ」

 

どうしたいって言われてもなぁ。

ふとかっちゃんの顔を見ると、なんだか寂しそうな顔をしてた。捨てられた子犬みたいな顔だ。珍しい。

 

「━━━おい聞いてるか?」

「あ、はい。きいてまーす。どうしたいって話ですよね?えっとですね、取り合えずシャワー浴びたいです」

「そういう事じゃ━━━」

「それでですね、着替えて、帰って、ご飯食べたいですね。頑張ったので焼き肉したいです。そんで寝ます。それで━━━」

 

 

 

 

 

 

「━━━面倒臭いですけど、また学校きます。明日休みじゃないですし」

 

包帯先生が何故か目を見開いた。

そんなにか、そんなに私が真面目な事言うのがおかしいか?え?酷くない?

 

「良いのか?」

「いや、いいもなにも・・・普通に高校生なんですけど、私。てか、サボろうと思っても母様怖いし、かっちゃんが迎えに来ちゃいますし?逃げられない感じで・・・」

 

包帯先生の悲しげな目に嫌な予感が脳裏を過った。

それは中学時代担任の言われ続けてきた『退学』の二文字である。

 

「え!?もしかして退学!?そんなっ!補習幾らでもするんで勘弁して下さいよー!!母様に、高校くらいでろって言われてるんですぅ!やだぁー!堪忍してー!ボデられちゃう、ボデられちゃうからっ!!」

「落ち着け、緑谷。・・・それなら普通科ならどうだ。それなら母親にも、何も言われないだろ」

 

普通科?

あ、そういう話か。

 

「別にこのままで良いですよ?」

「お前はヒーローになりたくないんだろ?聞いたぞ」

「はい。ヒーローにはなりたくないですね。ごめん被ります。でも━━━」

 

 

 

 

 

 

『だいじょうぶだぜ。おれさまはオールマイトみたいにぜったいかつヒーローになるんだからな!』

 

 

そういって偉そうにして。

 

 

『ぜったいけがしない!━━━━だからだいじょうぶなんだぜ!』

 

 

無茶な事いって。

 

 

 

『おれさまがきた!』

 

 

 

自信満々に笑う。

 

 

 

 

『━━━━━っ双虎!!』

 

 

 

 

 

 

 

「━━━やりたい事はあるので」

 

 

 

私には私で。

支えてやらないといけない、大馬鹿がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、当然の権利としてかっちゃんに焼き肉奢って貰った。

特上の食べ放題だった。

 

旨かった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。