私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
微笑み一つで天地鳴動させる、生まれながらのスーパーアイドル、容姿端麗にして純情可憐な美少女界の生ける伝説、崇め奉られることが基本な私は緑谷双虎。
天下無双系のパーフェクト美少女だ。
そんな私は今絶賛インターン生としてヒーロー活動の真っ最中!期待と不安で胸をドキドキさせながら、悪い子さんなヤクザの若頭をボッコボコにした所まで良かったんだけど・・・・その後が大変!可愛すぎる私に我慢出来なかった幼馴染Kが、ニコちゃんの寝込みを襲うという大暴挙をかましたの!ニコちゃん史上最大のスキャンダル!私、どうしたら良いのーーーー!
「━━━━━って事で、かっちゃんぎるてぃぃぃぃぃぃ!!」
「ふざけんじゃねぇ!!馬鹿がぁ!!誰のせいで、てめぇっ、この、糞がぁぁぁぁぁぁ!!」
泣きじゃくるエリちゃんをよしよししながら状況の説明を聞いた私は、冷静に判断した結果かっちゃんをぎるてぃする事にした。だって許せん。いや、死にかけてたの助けてくれたのは感謝してるよ?してるけどね?
「私のファーストキスを奪ったことで既に罪はカンストしてるけど・・・・」
「なっ、そ、がっ・・・ぐっっ、かっ、カンストしててたまるか!!ただの人工呼吸だボケが!!必要なら誰だろうとやったるわ!!」
「その後、あんなに顔近づけて何するつもりだったの!舌突っ込むつもりだったんでしょ!!人工呼吸にかこつけてぇ!!きゃぁぁぁーーー、この変態野郎がぁ!!私が可愛すぎるにしても、それは駄目でしょぉぉぉが!!」
「ふざけんじゃねぇ!!んなこと考える訳あるかぁ!!呼吸の確認しただけだっつんだよ!!」
必死に弁解する姿には怪しさしかない。
本当のこと話せよ、と視線を送ってると胸元に顔を埋めてたエリちゃんがモゾモゾ動き出した。どうしたのかと視線を落とすと、ちょうどこっちを見上げたエリちゃんと目が合う。
「違うの!かっちゃんさんは、ふたこさんのこと頑張って助けようとしてて、嫌な事しようとした訳じゃないよ!怒らないでっ」
エリちゃんは涙目でプルプルしながら教えてくれる。
そうしたら少し目元の赤い切島が「そうだぞ、緑谷」と追従してきた。
「爆豪にやましい気持ちなんて欠片もなかった!!見てた俺が保証するぜ!!少しもなかった!!」
暑苦しい言葉に黒豆パイセンも頷く。
「そうだね、爆豪くんはただ君のことを━━━━」
黒豆パイセンの言葉を遮るように爆発音が鳴った。
見なくても分かるけど、チラッとして見ればかっちゃんが額に青筋浮かべて、見たことないレベルで眉間にシワを寄せていた。般若顔にエリちゃんがビクッとする。
「いい加減止めろ糞共がぁ!!フォローこいてんじゃねぇよ!!誰が頼んだ!!止めねぇと顔面原型無くなるまで殴り飛ばすぞ!!ゴラァ!!!んな、ことよりさっさと仕事しろや!!糞ヴィラン締め上げんだよ!!」
「━━━━━━えぇっ!?フォローしてるのに!?」
「なっ、何でだよ、爆豪!誤解されたままは良くねぇよ!あんなに必死に・・・」
「それを止めろっつってんだ馬鹿島ァ!!良いから来いや!!ぶちのめされてぇのか!!」
ワチャワチャしながらボロボロの嘴まつげと以下略を拘束していく三人を見てると、上の方から私の名前を呼ぶお茶子の声が響いてきた。見上げれば屋敷担当組が顔を覗かせていて、その中には救出を呼びに行かせたとかいう轟の姿もある。手を振れば悲鳴があがった。
「緑谷!!じっとしてろ!!怪我に響くだろうが!」
「ニコちゃんこないな時までサービス精神ださんでええからじっとしてて!!お願いやから!」
「けろっ!!」
お説教されてしまった。
何故に・・・ていうか、梅雨ちゃん興奮し過ぎで鳴き声なんですけど。
それから程なくして皆が救急隊員が降りてきた。
救急隊員は七三や太っちょマンといった怪我人を無視して真っ先に私の方へ駆け付けてくる。立ってる事を怒られ、用意されたタンカに無理やり寝かされそうになったけど、事情を説明して怪我がないことを言えば軽く体調の確認した後で解放してくれた。
救出隊員が七三や太っちょマンに駆け寄っていくと、お茶子と梅雨ちゃん、轟が駆け込んできた。
「ニコちゃん!!ほんまにっ、ほんまにっっっっ!!大丈夫なん!?お腹に穴が空いてて、腕も足もエライことになっとるって!!」
「OKだよー、だから落ち着いてぇー」
「落ち着ける訳ないやろ!もう、無茶ばっかりしよってからにぃ!!」
興奮するお茶子に顔をみよーんと伸ばされる。
痛みに涙がちょちょ切れていたら梅雨ちゃんが肩ポンして止めてくれた。
「お茶子ちゃん、気持ちは分かるけれど無事なことがわかった以上お仕事しましょ。まだここは安全な場所じゃないわ」
「そうやね・・・・はぁ、帰ったら説教するからね。覚悟してて」
ズビシと指差されたので敬礼を返す。
お茶子は何とも言えない顔で周囲を確認しながら進んでいく。轟も二人に続いて行くのかと思ったけれど、何故かポツンと残ってた。どうしたのかと思ってると近づいてきて、何故かぎゅっと抱き締められた。私にくっついてるエリちゃんごとだ。
エリちゃん共々少し驚いたけれど、何となく察したので軽く背中をポンポンしてあげる。
「あはは。心配掛けてごめんね、ありがと」
「・・・・良い。気にするな。無事で良かった」
僅かに震える声に、本気で心配してくれた事が伝わってくる。少しだけ申し訳ない気持ちになってると、さっきと同じように怒号が上の方から響いてきた。
「しょぉぉぉぉぉぉぉぉとぉぉぉぉぉ!!何をしているんだ、今すぐその小娘から離れろ!!馬鹿が移る!!」
見上げれば顔を元気に燃やす遅刻おハゲがいた。
「馬鹿が移るかぁ!!ていうか、そもそも馬鹿じゃないしぃ!!天才だしぃ!それよりなに今さら来て!この遅刻魔ぁ!社会人のクセに遅刻とか!!はは!やーい、やーい!社会不適合者!悔しかったら時巻き戻して集合場所に来てみろー!」
「ぐぬぬぬぬ!!口の減らぬガキめがぁ!!待っていろ、今すぐ━━━━」
こっちに来ようと身を構えた瞬間、おハゲの腕輪から電子音が鳴った。如何にも緊急と言わんばかりの音。少し葛藤した後、おハゲはそのコールに応えて耳に手首を当てる。それから少し話をした後で駆けつけたウサ姉に色々命令して「覚えておけ、貴様ァ!」と捨て台詞をおいて去っていった。何だったのか。
「何だったんだ、あいつ・・・・」
息子にまで言われてるぞ。
おハゲよ。
「━━━━なっ、おい、ゴラァ!!紅白野郎!!てめっ、何してんだぁ!!あ゛あ゛あ゛!?」
「ん?ああ、そうだな。緑谷、俺は戻る。怪我はないだろうがあんな事があったんだ。ゆっくりしてろ。後始末は俺達がつける」
かっちゃんに呼ばれて轟が離れていった。
それを見送ってるとエリちゃんが服を引っ張ってくる。
「どったの?」
「あの、かっちゃんさんは・・・」
「?」
「あっ、うぅん、何でもな━━━━━」
何かを言いかけた所で、エリちゃんが頭を押さえた。
手を伸ばすと勢いよく払いのけられる。
僅かにあげたエリちゃんの顔には焦りが滲んでる。
「なんっ、でっ、だって、もうっ」
うっすら角が光ってる様子に、かっちゃんから聞いた話が頭を過った。私を治したエリちゃんの力、巻き戻す個性の事が。
「エリちゃん、聞いてね━━━」
「だめ、ちかづいちゃ!とまらっ、なっ、どう、して、いや、いやだ・・・・!」
目視では分かりづらいけれど、角から何か溢れていくのが見える。無機物には効果がないと言っていたのに、舞い散る埃や転がってる小石が不透明な力に押されていく。溢れ出るそれはどんどん広がっていって、私の足元に触れた。
瞬間言葉に出来ない感覚が走ってきた。
嫌な感じに思わずバックステップしてしまう。
エリちゃんはその姿に安堵したのと同時、ほんの僅か顔を曇らせた。
「待てやっ!!てめぇ、何処いくつもりだ!!」
踏み込もうとしたら駆けつけたかっちゃんに怒鳴り声と共に肩を掴まれた。振り払おうとしたけれど、掴む力が強くて離れない。
「━━━━かっちゃん!」
「死ぬつもりか!!馬鹿が!!良いから落ち着け!!視認出来るだけでもさっきの比じゃねぇ、出力が安定するまで待て!!あいつが個性使う姿は見てる、恐らくあれは無制限に出せるもんじゃねぇ!!だから待て!!」
「でもっ━━━━!」
「でもも糞もねぇ!!白ガキ泣かせるつもりか!!誰も近寄るな!!良いなぁ!!」
かっちゃんに引っ張られていく間もエリちゃんの角から放出する不透明のそれは勢いを増していく。雷のように激しく暴れ周囲へ飛び散っていく。
エリちゃんの異変に気づいて周りがざわつくと、その声が聞こえてきた。
「横に避けろっ!ニコ、爆豪!!」
声に従って咄嗟に飛ぶと、エリちゃんの周囲を蠢いていた不透明のそれが煙のように消えた。
すかさず引き寄せる個性で飛んで、地面に崩れ落ちていくエリちゃんをキャッチする。抱き締めたエリちゃんの顔は青白く、呼吸も荒い。額には沢山の汗が滲んでいる。意識もなくなっていて、おでこも酷く熱い。
無事とはとても言い難いけれど、それでも最悪ではない事に胸を撫で下ろした。
「遅れて済まなかった・・・・」
息切れしながら告げられた謝罪に、私は振り返って空いてる手で軽く敬礼した。
「いえ、あざーすです。包帯先生、本当に」
それから少しして、時刻AM9時32分丁度。
後続の警官隊やヒーロー達が合流し、完全に安全確保が出来た所で誰かが言った。
要救助者、保護完了━━━━と。
◇◇◇
騒がしかった逮捕劇に静けさが見え始めた頃。
何人ものヴィラン収容報告をしてきた警官が、私に敬礼しそれを声高々に告げた。
「指定ヴィラン団体死穢八斎會幹部『オーバーホール』、治崎廻の収容完了致しました!」
敬礼してみせる警官に私は視線を返した。
若い警官の表情には何処か誇らしさが滲んでいる。
私は軽く敬礼を返して気になっていたそれを尋ねた。
「そうか、護送の準備は出来ているのか?」
「はっ、護衛のヒーローであるスナッチ氏とそのサイドキックが既に到着しているとの事です!最終確認が済み次第、予定ルートで護送を開始するそうです!」
「例の押収品も一緒か?」
「押収品ですか?押収品・・・・ああっ、確かそう聞き及んでおります。それが何かありましたか?今なら呼び止めることも」
「いや、構わない。重要な物だったからな、所在を知りたかっただけだ」
僅かに首を傾げた警官だったが、そう伝えれば納得したように頷き報告を続ける。警官の話を聞きながら周囲の様子を確認していると救急の手当てを受けるヒーローの姿が見えた。それと同時に先程の騒ぎが頭を過った。
「突入したヒーロー達はどうだった。救急が行ってから何やら騒がしかったがようだが・・・・」
「はっ!そちらも既に問題ないとの事です!どうやら保護対象者が個性を暴走させたようです。居合わせたイレイザーが対処し大事に至らなかった聞き及んでおります!今はイレイザーと他のヒーローの監視の下、病院へ搬送中との事です!」
「個性の暴走か・・・・どういう個性だったんだ」
「えっ、あの、申し訳ありません"警部補"。前日の対策本部で報告があがった時と変わらず未確認ですので、それがどういう個性なのか・・・」
「ああ、そうだったな。そういう事なら構わない。報告ご苦労。引き続き自分の職務に戻ってくれ。私は署に一度報告する」
「はっ!!」
警官に見送られながら騒がしい屋敷の門を抜け、用意された車両へ乗り込む。一緒にきた部下は今も仕事をしてるのか人は残らず出払っており、私は入り込んだ車両の鍵を締めてスマホのコールボタンをタッチした。
数コールの後、電子音と共に繋がる。
「━━━━━聞こえていますか」
小さな私の呟くような声に感情の込もってない無機質な声が返ってくる。たった一言だけ『続けろ』と。相変わらずのつれない声に、私は声のトーンを僅かにあげてその名前を呼んだ。
「弔くん」