私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

241 / 282
シリアス「長期休暇ですって!?」





『Villains Concertos』の閑話の巻き

『━━━━━弔くん、今しがた治崎を乗せた車両が出発しましたよ。護衛にはヒーローが一人ついてますけど、見たことない人です。名前はスナッチっていうみたいですよ。砂になる個性みたいです』

 

手にしたスマホから低い男の声が響いた。

ハンズフリーにしている為その声は周囲へと伝わり、静けさだけが漂ってた空間には状況を理解したことへの僅かな緊張が走る。

 

「そうか、護送ルートに変化はあったか」

『聞いてる感じだと予定通りみたいでしたけど・・・どうでしょうか?適当に理由つけて追い掛けてみますか?』

「いや、そのまま機会を伺い、隙を見て合流ポイントに集合しろ。ただし、演奏会は遅刻厳禁だ。先につく筈のゲストを退屈させたくないからな」

『了解です、弔くんも気をつけて下さい。あっ、そうだ。良いお土産見つけたので、それも楽しみにしてて下さいねーではでは』

 

そう会話を終わらせると、側で壁に背を預けていたコンプレスが視線を向けてきた。物言いたげな顔に顎をしゃくると、コンプレスは身振り手振りをつけながら話し始める。

 

「いやいや、大した事じゃぁない。ただ、うちの大将にもそういうユーモアがあるとは知らなかったから驚いただけさ。演奏会とは洒落てるね。ヒーローでも目指してみるかい、大将」

「冗談でもよせ、吐き気がする」

 

返した言葉にコンプレスは笑い声をあげる。

 

「そいつは失敬!勘弁してくれよ、大将。それはそうとやっこさんは予定通りなのか?頼むから借りを返す前に監獄に送っちまった、ってのは止めてくれよ。これでも根に持つタイプなんだ。俺も、あいつも」

「心配するな、予定通りだ。・・・・仮にそうなったとしても、いずれ機会は作る。お前らが望んでる限りな」

「はははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃぁないの。おじさん期待してるぜ、死柄木」

 

楽しげな声に僅かな怒りを孕ませながらコンプレスは語る。身振り手振りにもいつもの余裕が見てとれず、内心どれ程煮えくり返っているのか聞くまでもない。

それが分かっているのか、コンプレスの近くで腰掛けている荼毘も静寂を貫いている。物静かな空気を好む男だ、普段なら叱責の一つもしてるだろうが今はそれをするつもりはないらしい。協調性のないやつだと思っていたが・・・・存外そうでもないようだ。

 

『時間だ。出発するが、問題ないか』

 

無線越しにスピナーの声が響いた。

こちらを見た荼毘に視線を送れば、俺の代わりに無線を手にし「出発しろ」とだけ声を発する。スピナーは暫く黙った後、ゆっくりアクセルをふかした。

 

ガタガタと揺れ始め、断続的に振動が空間内に響く。

薄暗い空間の中、外から響く音は加速する。

淀んだ空気に殺意が混じり始める。

 

『死柄木!目標を捕捉した!今、前に付ける!いいか、言っとくぞ!!カーチェイスはごめんだからな!』

 

長いような短い時間が過ぎ、求めていた時がきた。

無線の声に全員の視線が俺へと集まる。

許可を求めるそれに、俺は一言だけ返した。

 

 

 

「借りを返そう。利子をたっぷりつけて」

 

 

 

その言葉と共にその荷台のドアを押し開いた。

目の前には流れるような風景、それと一台の護送車両とその前後に計四台のパトカーが並んで走っている。俺達の姿を見て前を固めていたパトカーの運転手が何かを叫んでいるが興味もない。

だから無視してコンプレスに合図を出した。

 

「オーディエンスの期待に応えるのがマジシャンの本分。我らがボスの期待にも勿論お応え致しましょう?こちらに取り出したるは種も仕掛けもない綺麗なガラス玉。これを一つ、二つ、三つ、四つと持ちまして、私めが一息吹き掛けますと、あら不思議━━━━」

 

口許にやったそれをコンプレスは護送車を護衛するように走るパトカーに向け放った。放物線を描いたそれはパトカーの下に潜り込み、コンプレスが指を鳴らすと同時に大きな瓦礫に変わりパトカーをひっくり返す。

 

「━━━━パトカーもフワリ空中浮遊させるとびきりアイテムに早変わり。お後がよろしいようで」

 

大きく跳ね上がったパトカーだったが、そのままクラッシュしたのは三台だけだった。一番前を走るそれは、落下直前パトカーの中から溢れ出た砂がクッションとなり着地したのだ。

一瞬激しく蛇行したものの直ぐに体勢を整え後続車両の前に滑り込んできたパトカーの窓からは、肩から先を砂へと変えた髭面の男が鬼の形相で睨み付けていた。

 

「その相貌、ヴィラン連合だな!!貴様ら!!」

 

男の怒号にコンプレスは「人気者は辛いね」と肩を竦め、荼毘は詰まらなそうに首をかく。

 

「砂の個性ってのは聞いてたが、体を砂に変えられるのか?聞いてたより面倒そうだな。死柄木、お前の個性とも相性悪そうだ」

「分かってるならやれ、荼毘」

「頼み方ってのを知らねぇな、お前は」

 

そう言いながら荼毘は腕に火を燻らせる。

 

「まぁ、別に構いやしないがな」

 

青白い炎が噴出し、一面が青に染まる。

何かが焦げた臭いが鼻をつくが、肉の焼けた臭いはしない。完璧ではないにしろ防がれたのだろう。

 

ただし、反撃するほどの余裕はないらしい。

相性のそう悪くない炎相手、守る対象がいるだけでこの様なら・・・あいつ自身無敵という言葉から程遠いのだろう。となれば全身の砂化は恐らくない。砂化は限定的。一瞬だけだが確認出来ただけで頭部と下半身は人間のそれだった。仮に頭部が砂化出来たとしても、視覚や聴覚といった感知機能が使用出来るか?否だ。そういった個性は異形化してる場合、本来の機能を失うか弱体化する傾向がある━━━━それなら、やりようはある。

 

「そのまま釘付けにしておけ」

「長いこと放出は出来ないぞ」

「それで良い、俺が飛び移るまでの時間が稼げればな。スピナー、減速しろ」

 

俺の合図と共にトラックは減速。

みるみる内に背後を走っていたパトカーが接近する。

トラックの荷台の中から上へあがり、ヒーローのいる場所に向けて飛ぶ。俺の接近と同時に荼毘が火の放出を止め、炎の切れ間に髭の男の姿が見えてくる。

 

やはり頭部と下半身は人間のまま。

下半身が異形化しない事は確定的、可能なら砂化して固定した方が遥かに安定するのだから。頭部に関しては視覚や聴覚を保つ為に異形化してない可能性もあるが、額に浮かぶ汗や表情を見ればそうでない事は察せる。

それなら、こちらのやる事は決まった。

 

「よぉ、ヒーロー」

「━━━━━っ、貴様!?」

 

パトカーのボンネットへ着地すると同時、掌で髭男の顔面を打ち付ける。瞬間的に発動した個性が男の顔面にひびを走らせ、その口から野太い絶叫を上げさせる。

ヒーローが復帰する前に車体の上を走り抜け、置き土産を一つ残して後続の護送車へ。フロントガラスを個性で塵に変えて身を乗り込ませた。

 

「ヴィランっ!?うっ、動くなっ、動けば━━━━」

 

反応良く銃を抜こうとした助手席の警官へ裏拳を一発。ふらついた所で顔面を掴みあげる。そのまま出力を上げて個性を発動すれば、悲鳴も漏らすことなく警官は塵へと変わった。

その様子にハンドルを握っていた警官が息を呑んだ。顔に浮かぶのは恐怖だけで抵抗の気配はない。

 

塵なった男の代わりに助手席へ腰を下ろした。

警察の車両は初めて乗るが存外悪くない。

背もたれに寄りかかりながらダッシュボードの上で足を組み、隣へ軽く視線を向ければハンドル握るそいつは大袈裟に肩を跳ねさせた。

 

「そのままトラックを追って走れ。死にたくなかったらな」

「はっ、えっ、は、はい」

「聞き分けが良くて助かるよ」

 

運転手と仲良くなった所で外からけたたましい音が聞こえた。窓から身を乗り出して見てみれば、先程一部を崩壊させておいたパトカーが横転した状態で車道の壁に突っ込んでいる。

そしてその側には血を流して横たわる警官の姿も。

 

ふとミラーに視線を移せば護送車にしがみつくヒーローの姿が見えた。流石にヒーロー。諦めが悪い。

どうするかと考えているとトラックの荷台にいるコンプレスから仰々しい礼があった。側に荼毘の姿はない。代わりに視界の中を小さな玉が飛んでいく。

 

「━━━━ハンドルから手を離すなよ」

「えっ、はっ、い」

 

その直後、護送車の後部方向から蒼炎が噴き上がった。

野太い断末魔が響き渡り、隣の警官が女のような悲鳴を上げる。肉の焼ける臭いが鼻を刺激すると同時、車両の上部から何かが落ちる音が聞こえた。

 

「定員オーバーだ、他当たれ」

 

一言そう伝えれば天井が軽くノックされた後、「善良な市民の為に、安全運転するよう言っといてくれ」と言葉が続いた。隣の警官へ視線を向け「だとさ」と伝えれば無言で頷く。物分かりが良くて助かる。運転手を代える手間が省けるからな。

 

何かが爆発するような音を聞きながら、俺はスマホを操作してからダッシュボードへ置いた。

僅かな間を置いてスマホから響いてくるのは先生が聞いていた名前も知らないジャズ。曲名も演奏者も忘れた。昔の有名なやつだと先生から聞いたが、それっきり。

俺が知ってることと言えば、案外それが悪くないという事だけだ。

 

フロントガラスの穴から吹き込む風に髪を揺らしながら、俺はスマホから流れる曲に耳を傾けた。

俺の気持ちを表すような、何処か楽しげなその曲に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、冷たい物が顔を打ち付けた。

重い瞼を開くと小さな明かり灯る部屋の中で一人車椅子に座らされていた。背もたれに固定された体は動かない。ぼんやりと歪む意識のまま辺りを見渡す。淀んだ空気が漂うそこは酷く冷えていた。物音が一つもなく、自分の鼓動がやけに煩く鼓膜を揺らしてく。

 

「目が覚めたか?」

 

声に視線をあげると影が目の前にいた。

ゆっくりと近づいてきたそれは電灯の明かりに照らされ徐々に姿を露にしていく。

 

漆黒のコート。

老人のような白髪。

細身の体についた幾つもの手のオブジェクト。

 

「・・・・死柄木弔」

 

呟いた言葉に死柄木は大した反応をすることもなく、俺を固定している椅子に触れる。

 

「ごきげんよう、って言った方が良いか?」

「・・・・・」

「黙りなんてするなよ、友達だろう。俺達は」

 

友達とは面白い冗談だ。

 

「・・・・先に裏切ったのはお前らだろう。今更なんの用だ」

 

俺が所持していたサンプルは警察に押収された。

こいつが俺の身柄を確保した以上、同じ車両に保管されてたサンプルはこいつらの手の中だろう。クロノに渡しておいた半分もこいつらに奪われた。薬の元になるエリもヒーローの手の中。もう俺に用などない筈だ。

 

「殺しに来たのか」

 

思い当たるそれを口にしたが、死柄木は肩を竦めた。

 

「いーや、俺は優しいからな。友達のお前を助けてやろうと思ってな」

「助ける・・・だと」

「そう、俺達は友達だろ?だからこうやって助けた。殺すつもりなら態々ここまで連れてきたりしてないだろう?それに裏切ったと言うけどな、あれだってお前の大切な物が警察やヒーローなんかに取られないよう預かっておいてやっただけだ」

「・・・・ふざけるな!何がっ、預かるだ!なら返せ!!お前ら程度で扱える代物じゃない!!」

 

高らかに歌うように、死柄木の口から語られた戯れ言に思わず声が荒くなった。微塵の誠意もない言葉に怒りすら沸き上がってくる。

そんな俺の表情を見て死柄木は可笑しそうに笑い声をあげ、そっと車椅子を押し始める。カラカラと車輪が回り、頼りない電灯を辿り車椅子は進んでいく。

 

「まぁ、落ち着けよ。その話は後でしよう。それより、せっかく出向させた二人を取り調べたらしいじゃないか。真実を語らせる個性だったか?信用してくれてないなんて悲しかったよ。俺もあいつらも」

「何をっ・・・・」

「でも、それだけだった。お前があいつらにしたのは。随分と信用してたみたいだな、お仲間の個性。だから本来やるべきだった荷物のチェックも、監視も徹底しなかった。自分達へ引き入れる為にも与える不快感は少ない方が良いもんなぁ。自由こそなかったが、随分と甘やかされたって聞いてるよ。ああ、あいつらの頭のネジが外れてるのも理由か?何にせよ、お前はやるべきことをやらなかった。だからな、ここにいるんだよ」

 

裏切りから逃走までの流れを見れば、それが突発的に起こった事ではなく計画されていたのは分かる。だが、少なくとも出向した時点ではあの二人は知らなかった筈だ。

死柄木の口ぶりから察すれば、俺達の目を欺いて連絡をつけたのだろうが・・・・流石に通信機器を持たせたままにはしなかった。当然奴らを閉じ込めた部屋にもそれなりの対策はしてある。となれば、もっと原始的な方法。

 

「個性、か・・・・お前らの中にMr.コンプレスという奴がいたな」

「ははっ、やっぱり頭が良いな。若頭。トガの荷物の中に飴玉が入ってただろう?あれの一つに紛れさせておいた。頃合いを見計らって━━━ってそれだけだ。どうだ、種明かしすればなんて事ないだろ。せめてお前がトゥワイスに現在複製してる物について聞いてれば、その考えにも至っただろうに。結局、お前らは舐めてたんだ。俺達を。そろそろ自覚しろよ、裏切らせたのはお前だ」

 

不意に車椅子が止まった。

目の前には重く閉ざされた鉄の扉がある。

死柄木がそこを軽くノックすれば、耳障りな音を立てながらゆっくり開いていく。

 

「それにしても、随分手酷くやられたな。ボロボロだ」

「お前には関係ない・・・」

「緑谷双虎、ヒーロー名はニコだったか?」

 

その名前に背筋へ悪寒が走った。

僅かに跳ね上がった肩に死柄木が笑い声をあげる。

愉快そうな、その声で。

 

「何が、可笑しいっ・・・!」

「いや、気にするな。こっちの話だ。それより前を向いてくれよ。ようやく着いた。皆お待ちかねだ」

 

死柄木の声に前へ視線を戻せば、目の前にあったのは錆び付いた機械やコンテナが並ぶ小さな工場。こいつらと初めて顔を合わせた場所と良く似た場所。

埃とオイルの臭いが漂うそこにはあの日と同じようにヴィラン連合の姿もあった。前回と違い構成員が揃い、雰囲気は穏やかとは言い難い。

 

「最近な、俺は音楽に嵌まってるんだ。先生から教えて貰った物とかたまに聞いてたりするんだけど、これが中々悪くなくてなぁ」

「なんの、話だ」

「まぁ、聞けよ。それである時思ったんだ。俺にも出来そうだなってさ」

 

そう言いながら死柄木はコンテナの上に置かれたレコードのスイッチを入れた。聞き覚えのあるクラシックが流れ始める。

それと同時に何かが膝の上に放られた。小さく硬い感触に視線を落とせばガラス玉のような何かが膝の上を転がっている。

 

「受け取ってくれ、お前の為に回収しておいた」

 

そう言った瞬間、玉が弾けた。

それと同時にごろりと、重い物が膝の上で転がる。

見つめた先、それと目が合った。

 

「悪い、オーバーホール。あんな騒ぎだったろ?うちの部下も慌ててな・・・・それしか、持ってこれなかったそうだ」

 

死柄木の声が遠く聞こえた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ジ」

 

 

 

 

 

目の前のそれから僅かも目が離せない。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・っ、ヤ、ジ」

 

 

 

 

 

それの生気のない瞳から、少しも。

 

 

 

 

 

 

 

「オヤジ」

 

 

 

 

 

 

ブツリと背後から物音がして、締め付ける感触が消えた。だから自由になった手で抱き締めようとしたが、それは出来なかった。

手首から先に、何もついてなかったから。巻き付いてる包帯の隙間から血が滲む。

 

「治してやれよ、オーバーホール。大丈夫、まだ死んだばっかりらしいからさ」

 

言われるまま、手が伸びた。

オヤジの顔に掌がついていたその場所で触れた。

けれど、個性が発動しない。僅かにも。血で汚れるだけで、何も。

 

 

 

「ああっ━━━━」

 

 

 

オヤジの首から赤い血が流れ落ちていく。

溢れたそれを戻そうとして、掬い上げようとして、その掌さえもう何処にもなく、腕の隙間をすり抜けたそれはズボンへと落ちていく。

 

 

 

 

「待て、待ってくれ、違う」

 

 

 

 

いや、頭では分かってる。

もう無理だ。

 

 

 

 

 

「違うんだ、オヤジ。俺は」

 

 

 

 

 

溜まっていた血があろうと無かろうと、個性が使えようと使えなかろうとも、もう意味はない。

時間が経ちすぎている。

なのに、俺の体は、頭の中は、オヤジを治そうとして止まれなかった。

 

 

 

 

 

「俺は、あんたに、あんたにっ、礼がしたくて━━━」

 

 

 

 

 

『まぁた喧嘩したって聞いたぞ、治崎。来い馬鹿野郎、説教だ。足腰立てなくしてやる、覚悟しろおめぇ』

 

 

 

 

 

 

あんただけは違ったんだ。

誰もが化け物を見る目で見てきたのに。

あんただけは見てくれた、手を伸ばしてくれた。

 

 

 

 

 

 

『てめぇもウチの代紋背負うつもりなら、一張羅くれぇ持ってねぇとな。似合うじゃねぇか、糞ガキなんざもう言えねぇな』

 

 

 

 

 

 

誰もが遠目に見ていたのに。

あんただけは俺の側にいてくれた。

怒鳴りつけてくれた。

 

 

 

 

 

 

『おめぇの恩返ししてぇって気持ちは嬉しいんだがよ・・・治崎よ、仁義だけは欠いちゃいけねぇ。そいつを欠いちまったら俺達は侠客じゃなくなっちまう。これからもウチにいる気なら、それだけは忘れるんじゃねぇぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄なんだ。あんたは。

俺の英雄だから。

だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

笑っていて欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて会った時のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威風堂々、胸を張って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死柄木ぃッッッッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それを、こいつは殺した。

 

 

「殺す!!殺す!!お前はっ!!お前だけは!!」

 

 

掴み掛かろうと立ち上がったが、地面に転げ落ちた。

見れば足は脛辺りから何もない。

そこからは焦げた臭いが鼻をついたが、今はそんな事はどうでも良い。

 

目の前に、直ぐそこに、手を伸ばした場所に、死柄木がいる。

 

 

「死柄っ、木ッッッッッッ!!殺す!!お前は俺が殺す!!死柄木ッ、死柄木ッ、死柄木ッッッ!!」

 

 

体が、頭が、焼けつくかと思う程に熱くなっていく。

沸き上がる怒りで目の前がチカチカする。

動く度にぼやけていた痛みが蘇り、激痛が全身を駆け巡るが気にもならない。目の前のこいつを殺せるなら、何も。

 

 

「死柄木弔ァッッッッッッ!!絶対っ、お前だけは、殺す!!殺してやる!!殺してやる!!お前の手にしたものも、何もかも!!全部!!後悔させてやる!!お前に!!」

 

「はははっ、良い声で歌ってくれるな。見立て通りだ」

 

 

それだけ言うと、死柄木は軽快に指を振りながら闇の中へと歩き出した。

 

「何処に行く!!待てぇぇっ!!逃げるつもりか!!死柄木ッッ!!死柄木弔ァッッッッッ!!」

 

喉が裂けんばかりに怒鳴り声を上げると、死柄木は振っていた指を一旦止めて振り返る。

手のオブジェクトの隙間から覗く顔に、ぞっとするような笑みを浮かべながら。

 

「楽しんでいってくれ、オーバーホール。おもてなしは俺の仲間達がしてくれる━━━━━━そうだろ、トゥワイス」

 

鋭利な物を擦り合わせる音を交えながら、コツコツと靴底が地面とぶつかる音が響く。

振り返った先に、腕輪から伸びたメジャーを構えるトゥワイスの姿があった。

 

 

 

 

 

「あぁ、歓迎させて貰うぜ。糞野郎━━━━━━━」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。