私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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次でヤクザ編終わりーですぅー(多分)


お給料頂きに上がりました所長。つきましては活躍に見合う特別手当てを頂ければと・・・・えぇ、そんなに?そんなに貰えるんですか?れありぃー?まじの、マジの助?一生ついていきます!!所長ぉ!の巻き

「検査結果は・・・・まぁ、頗る健康だね。帰って大丈夫ですよ」

「よっしゃっ!!今夜は焼き肉やで!!」

「いや、まぁ、大丈夫ですけどね?大丈夫ですけれど、焼き肉、焼き肉・・・・かぁ。うーん」

 

エリちゃん保護完了後、容態が急変したエリちゃんに付き添って病院に搬送された私だったけど・・・・私に起きた事をお医者さんにポロっと漏らしたら即拘束、即行で精密検査を受けさせられた。血を抜かれて、レントゲン取られて、ワケわかんない機械に乗せられてブィーーーンってされて━━━━問答無用で病室に監禁である。

当然お昼ご飯抜きのぶっ続け検査。もう一度言っておく、『お・ひ・る・ご・は・ん・ぬ・き』である。まじアリエッティ。

 

健康なんですけどぉ!ご飯食べたいんですけどぉ!って全力で抗議したけど、「お腹に穴空いて無事な訳無いでしょう!!黙って検査されなさい!!」と看護師さんにぶちギレられた。その迫力たるや白衣の覇王だった。嘴まつげなんて物じゃない迫力だった。医療現場は戦場なんやなぁって。

 

そんで何やかんや丸一日検査されて、薄味の病院食食べさせられて、薬臭い部屋に閉じ込められて、テレビのニュースで嘴まつげがヴィラン連合に誘拐されたっぽい事きいて警察なにしてんじゃぁぁぁってぶちきれて・・・・今、こうして、やっと退院許可が降りたのであった。

やぁったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!我が世の春はここであったか!!じゅりえっとぉぉぉぉぉ!!じゅりえっと誰か知らないけどぉぉぉぉぉ!!はぁぁぁぁあ!でも嘴まつげの事がちょっとあれじゃぁぁぁ!言っても仕方ないけどぉぉぉぉ!!

 

何やかんやルンルン気分で診察室から出ると、昨日私を見捨ててさっさと帰っていった薄情者のかっちゃんがいた。

ただでさえギルティ対象のかっちゃん。

当然報復の為に拳を構えてダイナミックエントリーした訳だけど、殴りつける前に行き着けの洋菓子店の紙袋を差し出されて緊急停止。アイコンタクトすればお見舞いの品らしいのでありがたく頂いた。

 

「ふん、やれば出来るじゃないのぉ!そういう事だよ、かっちゃん!仕方ないにゃぁ、置いて帰ったことは許す!でもね、私のファーストキスを奪った事に関しては断じて許してないから、だから今夜焼き肉を・・・・・・はぁわぁ!シュークリームが、こんなにっ、しかも高いやつじゃん!イチゴ載っとる!えっ、やだぁ!イチゴがっ、イチゴが載っとるよぉ!!ありがとかっちゃん!!愛してるよぉ!!」

「あっ、あいっ・・・・っち、っせぇわ。病院で騒ぐんじゃねぇ。それより、体大丈夫だったんか」

「OKまるー、退院して良いってさ。だから焼き肉」

「焼き肉じゃねぇよ。自重しろ、馬鹿が」

「えぇぇ・・・・・」

 

頑なな態度に焼き肉の道が閉ざされたのを感じて少しがっかり。でもシュークリームあるしね。仕方あるまい。その内奢ってくれそうだし。

 

病室に帰るまでの間、私が入院させられた後に起きた事についてかっちゃんから聞いた。

私と同じように搬送された面子の内、重傷と判断されたのはエリちゃん・切島・七三・天ちゃんパイセンだけだったらしい。他は軽傷でその日の内に退院してて、轟やお茶子達はもう学校で授業受けてるとか。

 

エリちゃんは個性を使った影響か未だに意識が戻らず、集中治療室にて隔離されてるみたい。何かあった時の為に包帯先生が控えてるそうだから顔ぐらい見にいっても大丈夫かなぁーーと思ったけど、包帯先生から伝言を貰ったかっちゃん曰く『エリちゃんの容態が落ち着くまで来るな』との事だそうだ。行ってもとりつく島もなく追い返される気がするので、今回は大人しく諦めて・・・・後でお見舞いのベイブレー●届けようと思う。私カスタマイズのやつ。左回転のやつ。

 

切島は全身打撲で多少裂傷もあるけど命には別状はなく、包帯グルグル巻きのミイラ男状態で元気に入院してるらしい。症状もそこまで重くないので数日の内には退院するとか。

天ちゃんパイセンは顔面にヒビが入ってるもののそれ自体後に残るような怪我ではなく、切島同様ミイラ男状態で入院中。こっちは退院が少し遅れそうらしい。

 

それで、七三なのだが・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━来たか、緑谷双虎」

 

かっちゃんと病室を訪れるとベッドに座ったまま書類を読む七三の姿が視界に入った。お見舞いに来たのかガチムチや黒豆パイセンやバブっちといった七三事務所メンバーの姿もある。雰囲気は予想通り重たい。

 

やっほーしてから入ると七三から近くにくるように言われた。言われた通りホイホイ近寄れば、真面目な顔で口を開いてくる。

 

「今回は良く働いてくれた。これは今回の君の働きに報いる対価だ。受け取ってくれ」

 

そう言って手渡されたのは茶色い封筒。

表の所には私の名前が書かれてた。

振って見ればチャリチャリと音がする。

 

━━━気になって七三に視線を送ると「確認してくれ」と言うのでそのまま開いてみれば有名なおじさんが書かれた数枚のお札とちょっとした小銭、それと一枚の給与明細書が入っていた。

 

「それは君が働いた時給に加え、今回の件の危険手当てと活躍を考慮した特別手当てだ。本来なら給与日に与えるつもりだったが・・・私の事務所は一身上の都合で休業する事を決定した。君を続けて雇う事が出来なくなった為、少し早かったが給与を受け取って欲しい。インターンご苦労だった」

「わーい、お給料だぁーーーって言いたい所なんですけど・・・もっと違う感じの想像してドキドキしてやってきた私の緊張返して下さいよ。主に現金換算で」

「・・・・ふふっ、面白いジョークだ。その分も上乗せさせて貰っている。明細書で確認してくれ」

「マジすか」

 

言われて確認したら明細書におかしな文としょっぱい金額が書いてある。ジョーク代やっすい。というか、これ書類として大丈夫なの?なんか駄目だったりしない?

じっと明細書を確認してると七三が眼鏡をカチャリと直して真剣な顔をする。

 

「心配はいらない、後日きちんとした書類を郵送する」

「あっ、ちゃんとしてない自覚はあったんですね」

「当然だ、ユーモアで誤魔化して良いものではない」

「分かりますけど・・・・やるならやるで、今だけでも気持ちギャグに全振りしてくださいよ。そういう所ですよ」

「・・・・・善処しよう」

 

そう言うと七三はカラッとした顔で笑った。

周りの雰囲気とは正反対で、その表情は晴れた空のように晴れやかだった。

 

 

 

 

個性が消えてしまった事を、微塵も考えさせない程に。

 

 

 

 

戦闘中に聞いた小さな発砲音。

それは嘴まつげが特殊弾を放った音だった。

特殊弾を受けた七三は個性を失い、一晩明けた今も個性の発動はおろか個性因子に僅かな反応もないらしい。

これからずっとなのかは分からない。けれど現状、七三は完全に個性を失ってしまった。

 

この時代で個性を失うという事が何を意味するのか。

それは考えるまでもない。

 

生まれてからずっと共にあった個性という力。

確かにそれは元々人が持ってなかった特別な力ではあるけれど、今の人達にとってその力は当たり前に自身を構成する一つで切って切り離せない物。それを失うというのは人によって手足を失う事と変わりはないし、ましてや個性の力ありきで成り立っているヒーローなら、その喪失感はより大きい物だろう。

 

いや、それだけならまだ良かったのかも知れない。

七三は嘴まつげとの戦いで右足も失っていた。

あの不意打ちの一撃が命を刈り取る程の規模だった事を考えれば、命があっただけでも儲けものなのかも知れないけれど・・・・私にはこれが喜ばしい結果とは言えなかった。

 

七三の様子を見ていたら、私の視線に気づいたのか首を横に振られた。

 

「君が気にする事ではない。これは他の誰でもない私の弱さが、力不足が招いた事態だ」

 

そう七三が言うと黒豆パイセンが涙を流した。

圧し殺した声で七三の名前を呼ぶ。

 

「すみません、サー・・・・俺がっ、俺がもっと早く、治崎を捕らえていたらっ!こんな事にはっ!あの時、治崎に気づいていたら!すみません、俺が━━━━」

「止めなさい、ミリオ。先にも言ったが、これは私の弱さが故だ。私が反省する事はあっても、お前が謝る理由など一つもない。お前達は良く戦ってくれた。お前達の・・・いや、お前の機転と、その奮闘がなければ、これほどの結果はなかったと私は思っている。エリちゃんを救い、治崎という凶悪なヴィランの脅威も退けた。それも、誰の命も失うことなく。だから涙はお門違いというものだ、笑顔で胸を張りなさい。ミリオ、お前は成すべきを成した。お前は、私の誇りだ」

「━━━━っ・・・・・はいっ!サー!」

 

歪んだ笑顔を浮かべる黒豆パイセンの頭を撫でながら、七三は控えていたバブっち達を見た。

 

「バブルガール、センチピーダー。君達もだ、なんだその顔は。私の教えを忘れたのか。ヒーローはユーモアを失ってはいけない。悔しく思う事は良い、悲しむのも構わない。だが、ヒーローであるなら、それを抱えてなお笑顔を浮かべるものだ」

 

「勿論です。糧にします、必ず」

「は゛っ゛、は゛ぃ゛ぃ゛!気を゛つ゛け゛ま゛す゛ぅ゛ぅ゛」

 

涙を瞳に浮かべる二人に七三は少し困ったように眉を下げながら穏やかな笑みを浮かべる。

 

「それにだ、私はまだ引退するつもりはない。流石に今まで通りとはいかないが・・・・私なりにヒーローとして活動していくつもりだ。その時は君達に力を借りたい。頼めるか?」

 

「━━━ぁ、勿論です!サー・ナイトアイ!必ず!」

「う゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!は゛ぁ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!い゛せ゛き゛し゛ま゛せ゛ぇ゛ん゛ん゛ん゛」

 

すっかり事務所面子でほっこり。

場違い感が凄くなってきたのでかっちゃんを引き連れてこっそり部屋を出ようとしたら、入口を出る所で七三に呼び止められた。

 

「緑谷双虎、礼を言わせて欲しい」

「?なんのですか」

 

意味が分からず首を傾げると七三は口を開いて・・・・何かを躊躇するように口を閉じた。

 

「いや、何でもない。ただ、一言だけで良い。受け取ってくれないか━━━━━━━ありがとう」

 

笑顔で掛けられた言葉に私は精一杯の笑顔で返した。

七三の笑顔の意味も、言葉の意味も私は知らない。

だけど、私が返すのはこれだと思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ、どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

きっと、それだけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出てから暫く。

学校までの帰り道、電車の旅も終わって直ぐの頃。

見慣れた風景を眺めながら買って貰った最後のシュークリームにかぶりついた時、不意にスマホが鳴った。

ポケットから引っ張り出して見てみればメッセージが入ってる。それはお茶子達からで夕飯どうするのー?ってやつだった。

 

時間を確認すれば夕飯までは間に合うかギリギリといった所。バスが行ったばかりで、間に合わせるなら死ぬ気で走るしかないけれど・・・・今から死ぬ気でランニングはキツイ。気分的にダレまくってる。

 

だから少し前を歩くかっちゃんを呼び止めた。

 

「かっちゃん、かっちゃん。夕飯どうする?」

「あっ?あぁ・・・・テキトーにコンビニでも寄れば良いだろうが」

「えぇーコンビニ弁当ぉぉ?焼き肉は?このまま隣駅までちょろっと行ってさ。定食で良いならそこにもあるし、気分的にあんまだけどファミレスとかでも別に良いよ。かっちゃんが好きな場所で」

 

私のナイスな提案にかっちゃんが渋い顔をした。

これは断ってくるやつだ。

私は詳しいんだ。

 

「持ち合わせがねぇ、我慢しとけ」

「ん?違うってば。ほら、ね?」

 

額に青筋を浮かべたかっちゃんに、私は貰ったばかりのそれを見せつけてやった。分かり安く茶色い封筒を顔の前で揺らしたんだけど、かっちゃんの顔が何故か険しくなってく。えっ、なんで。

 

「なに怒ってんの・・・・?」

「なに怒ってるって、てめぇなぁ・・・・そりゃ何の真似だ、ああ?喧嘩売ってんのか。悪かったな、金がなくて」

「ちがっ、誰もそんな事言ってないじゃん!だからっ!今日は私が奢ってあげるって言ってんの!見れば分かるじゃん!ほら!」

「あぁ?・・・・お前、本当に体に違和感はねぇんだな?」

 

この野郎ぉ!!なんて真っ直ぐな目で、頭の不具合を心配してきてんの!?おかしくない!?人が奢るって言っただけで、何の心配してんの!?たまに優しくしてやれば、これだよ!もう、あれだよ!おこだよ、オコぉ!!プンスコだよ!!わたしゃぁ!!

 

「何を疑ってんじゃぁ!たまには奢るくらいするし!」

「記憶してる限り、てめぇに奢られたのは一度切りだ。疑うに決まってんだろ・・・・何かやらかした訳じゃねぇだろうな」

「何もしてないわぁぁぁい!!」

 

むきゃつくぅぅぅぅぅ!!この野郎!!

 

ここまで言ったのにかっちゃんはまだ何かを疑ってる。

完全に何かの犯人扱いの目だ。

めちゃくちゃ腹立つ。

 

だけどここで言い争っても得がある訳でもないし、私はさっさと理由を口にする事にした━━━━━。

 

 

「だから・・・だから、さぁ・・・・・」

 

 

━━━━したんだけど。

 

 

 

「ああ?」

 

 

 

かっちゃんの顔を見ながらそれを考えると言葉が出て来なかった。変な汗が次から次へと出て来て、顔がどんどん熱くなってくる。何故だか心臓がバクバク煩くもなってきて、喉が変に乾いて声が掠れる。

 

 

見るつもりはないのに、そこへと視線がいって・・・余計に言葉は出て来なかった。

 

 

そんな私を見てかっちゃんが眉間のシワを深くさせてく。疑いの眼差し百パーセントである。正直、めちゃ腹立つ。めちゃめちゃ腹立つけど・・・・今はその普段通りの姿が、少しだけ煩い心臓の鼓動を沈めてくれた。

 

 

 

 

「た、たす・・・」

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

「助けて、くれたでしょ・・・・その、だから、これは、お礼だから━━━━━」

 

 

 

 

私が倒れた後、何があったのかちゃんと聞いた。

それがただ救う為だけにしてくれた行動である事なんて、誰に言われなくても分かってる。

あの時言ったように、かっちゃんはきっと私でなくてもそうした筈だ。

 

それは単なる医療行為なんだから、気にする方がどうかしてる・・・・・のに。

 

 

 

 

 

 

「あり、がと、ぅ・・・・・その、ちゃんと聞こえてた、から。かっちゃんの声」

 

 

 

 

 

 

私の顔から、どうしても熱が引いていかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・かっ、が、っ、が、柄にもねぇことしてんじゃねぇわ!!ボケがあ!!おっ、おおおお、奢れやぁあああ!!かかっ、辛いもん死ぬほど寄越せやゴラァ!!」

「おおっ、おおおおっごったるわぁぁぁああああ!!上等じゃボケぇぇぇぇ!!食いだおれるレベルで食わせてっ!!発汗地獄に叩き落としてやるわぁぁぁぁい!!」

 

近くのよく分からない中華店で死ぬほど辛い物を頼みまくった。

味覚が3日は死んだ。


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