私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
エリちゃんの報せを受けたその日の放課後。
かっちりきっちり午後の授業を受け切った真面目な私は、包帯先生にお願いしてインターンの代償とも言える放課後の補習を翌日に回して貰い、先の事件で一緒にお仕事した皆を伴いエリちゃんが入院してる病院へと乗り込んだ。
もっち、大量のお土産を持ってね━━━━あっ、勿論男連中の奢りだよ!私は男の立て時を踏まえてる出来る美少女だかんね!鋼の意思でびた一文払わなかったよ!危なくお茶子達は割り勘しようとしてたけど、そこはね私がきかせて止めたよね・・・いやぁー、優秀過ぎる自分が怖いなぁー!こりゃその内、石油王とかハリウッドスターとかプロポーズにきちゃうなぁ!困っちゃうなぁ!ん?なに、切島?何か言いたい事でも?ん?んん?
「━━━━そんな訳でぇ、エリちゃんに呼ばれて飛び出て!ドンガラガッシャーン!!三度の飯はお寿司か焼き肉が良いな!!こよなくシュークリームも愛する、虎ナンジャーお見舞いに参上!!」
シャキーンと虎のポーズを取り病室へ入ると、目を丸くしたエリちゃんがお出迎えしてくれた。少し呆けたけど小さいおててで拍手してくれる。
私は掴みがばっちりなのを確信し、廊下の皆へと合図を送った。黒豆パイセンから最高の笑顔が返ってくる。
「誘われて飛び出てジャジャジャジャン!!好きな物はお笑い番組!!目指すはオールマイトも越えるスーパーヒーロー!!ルミリオンこと、獅子ナンジャー参上!」
バシーンと決めた黒豆パイセンにエリちゃんが小さなお口をポカーンと開いた。確かな手応えを感じ次へ合図を送る。めちゃくちゃお茶子と梅雨ちゃんが首を横に振ってるけど、切島が意を決したように現れた。
「続いて飛び出てババババーーン!!真の漢を目指して日々特訓を重ねる!灼熱!熱血!根性!の、猪ナンジャーー参上ォ!!」
暑苦しい熱気に当てられてか、私達の紅白饅頭も入ってくる。こい、二色饅頭、狼ナンジャー。
「・・・・・病室で騒いだら駄目だろ。騒いで悪い、ショートだ。覚えてるか?」
普通に入ってきた紅白饅頭に、私はささっと近づき顔を鷲掴みした。両頬を押し潰されて面白い顔になった紅白饅頭だったが、どうしてそうされたのか分かってないらしく不思議そうな顔をする。
「ひょうしひゃ、みどょりにゃ」
「どうしたじゃないんだよぉ!このボケ殺しがぁ!こういうのはノリが大切なの!ノリが!そうじゃないなら、ツッコミしなさい!ツッコミを!どっちもしないって、あんたねぇ最低だよ!お笑いの風上にもおけないよ!そんな事で会場を笑顔で満たせるかぁ!お笑いを舐めんなぁ!━━━裏でトリに備えてるお茶子の気持ち考えたことあんの!?兎ナンジャーの気持ちを!!」
「えっ!?私!?私がトリなん!?ニコちゃん!えっ、トリ私なん!?てか兎ナンジャーってなに!?いややけど!!つ、梅雨ちゃ━━━」
「わっ、私こそ、無理よ。こんな雰囲気で、蛙ナンジャーには、なれないわ。本当にっ・・・おっ、お茶子ちゃん。お願い、出来ない・・・?」
「私かていやや!極寒だよ!?てか、梅雨ちゃんもナンジャーやるつもりやったん!?」
「ほらぁ、こんなノリじゃ皆いけないってさ!」
「わりゅい、ひゅぎはひゃんひゃる」
「よぉし、もっかいやってみぃ!エリちゃん見てあげて!もっかいだけ見てあげて!お願い!」
両手を合わせて頼み込むと、エリちゃんは胸元で両手を握り締めて力強く頷いてくれる。
「よぉし!舞台は整った!やったれ、トドロキング!!お前の渾身のネタを!!」
「任せろ・・・・エリちゃん聞いてくれ。この間クラスメイトから聞いた面白い話なんだが━━━━ああ、まず、俺のクラスメイトっていうのは上鳴電気っていって、髪の毛が金髪で電気の個性を使うやつなんだ。電気を使い過ぎると頭がショートするらしく言葉が辿々しくなったり考える能力が低下するデメリットもあるんだが━━━━」
「前置き長過ぎるわぁーーいっ!」
パシン、と胸元へツッコミを入れる。
ちょっと最初の予定とは違うけど一応形になったのでホッとしたが、轟は少し不思議そうな顔をしたあと説明を再開した━━━━ので、チョークスリーパーで強制的に止めた。ツッコミまで殺すな。この野郎ぉ。
「いつまで馬鹿やってんだ。邪魔だ」
お笑いキラーにお仕置きしてたら、かっちゃんがのしのし部屋の中へ来た。威嚇するような眼差しのまま、ポケットに手をinし、ゆさゆさと体を揺らす不良歩きで。
その姿に粛清パンチしようと思ったけど肝心のエリちゃんが怖がってなくて・・・寧ろ、なんか安心したような顔をしたので矛という名の拳を納めておく。
エリちゃんが良かろうなら、良かろうもん。
くっ、くそぅ。
「今日も、怖い顔だ・・・・」
「余計なお世話だ、こら。てめぇは相変わらずチビだな。飯食ってンのか、ああ?」
「す、少し、だけ・・・あ、あんまり、食べたく、なくて・・・・」
「食うもん食わねぇとチビのまんまだぞ。たくっ」
悪態をついたかっちゃんは肩に掛けたお見舞いの袋をエリちゃんの側にあるテーブルへ置いた。
「こっちは食いもんだ。好きなもん食えや、土産だ」
「えっ、でも・・・・」
「っせぇ、ガキが。一丁前に遠慮してんじゃねぇよ。食って糞して寝ろ。ボケが」
それだけ言うとかっちゃんはやる事はやったと部屋を出て行った。去り際、私を一瞥してきたけど。あの視線は知ってる。馬鹿やるなよ、ってやつだ。天才たる私は馬鹿なんてしてないのに・・・えっ?なに?お茶子、その目は。
お茶子達も部屋の中に入ってきて、さて次は何を見せてあげようかなと思ってると背後から突然頭を掴まれた。ギリギリと締め上げる握力には覚えがある。
これ、引率でついてきた包帯先生のやつだ。間違いない、何度アイアンクローされてきたと思ってるのか。
「って、たたたたたっ!?包帯先生ぇ、何故にぃ!?」
「病室で騒ぐな。叩き出すぞ」
「で、でもぅ、いっ、インパクト大切かなって!?看護師さんが、しょんぼりんしてるっていうからぁ!!」
「お前のはただ騒がしいだけだ」
一頻り説教かましてきた包帯先生は「お見舞いというのはこういう事だ」と紙袋をエリちゃんに渡した。
「あいざ・・・・ほうたい先生さん、こんにちは・・・あの?」
「こんにちは。体調は良さそうだな、良かった。病院服以外に替えの服がないと看護師の方から聞いていたからね。俺が適当に見繕ったやつだが、嫌じゃなければ貰ってくれ」
包帯先生から渡された紙袋を手にエリちゃんは申し訳なさそうに少し眉を下げたけど、「ありがとうございます」と言ってそれを抱き締めた。
それから包帯先生に「開けて確認してみてくれ、サイズはあっている筈だ」と言われ、エリちゃんは言われるがまま紙袋を開いて━━━━━━━「あっ」と小さい声をあげて固まった。喜んでる感じはない。明らかに戸惑いが見える。
私とお茶子と梅雨ちゃんはエリちゃんの反応があまりにもあまりだったので、背後に回り一緒に覗いて見た。
するととんでもなくダサいスウェットがそこにあった。なんか目がアホみたいに大きい微妙に気持ち悪い動物のキャラ絵が入ってる。なんかダボってしてるし。
私はエリちゃんからそれをそっと取り上げ、そっと包帯先生に返した。
「なんの真似だ、緑谷」
包帯先生を軽くスルーして、母様に送って貰っておいた洋服をお茶子達と広げる。キャラ物は避けて今でも着れそうなのやつを選んで貰ってきたかいもあって、エリちゃんはそれを見て少しだけ目をキラキラさせた。
「お洋服、いっぱい・・・・い、良いの?」
「良いよー、私のお古でごめんだけど。でもさ、ほらほら、これとかどうよ?ね、良くない?」
「ええね、可愛い。こっちと合わせても、ほら!ええやん、可愛い!エリちゃんこっち見て見て!あかん、めっちゃ可愛いぃ」
「素敵ね、けろけろ。私のお古も持ってこようかしら。妹も使ったから少し草臥れているのだけど、パジャマにするくらいなら大丈夫よね。今度持ってくるわ」
皆でわいわいしてると包帯先生が「パジャマなら、これがあるだろ」って言ってきた。
なので「そんな服着たら虐められますよ。マジで」と返せば肩をびくりと跳ねさせて固まった。
そんな包帯先生を見て、エリちゃんが少し焦る。
優しさからエリちゃんはその洋服を貰おうとしたけど、包帯先生の為にならないと優しく説得すれば諦めてくれた。着ない服なんて貰ってもなんの役にも立たない。そんなんゴミと一緒だし、何よりそれで満足してたら包帯先生の服センスが成長しないからね。時に優しさとは残酷なのだ。うん。
「・・・・はぁ、あまり騒がしくするな」
包帯先生は少し気落ちしながら廊下へと出ていった。
言葉にはしなかったけど何かあったら呼べって感じで視線を送られたので、聞いてた通りエリちゃんはまだまだ不安定なんだろう。見てる感じだと大丈夫そうなんだけど・・・・院内お散歩は、また今度にしよーっと。
それから暫くエリちゃんに洋服を見て貰った。
物珍しさでよく見てくれてたけれど、そもそも服に頓着しないタイプなのか反応はどれもいまいち。あんな環境にいたんだからそれも仕方ない気もするが。
ただ私が選ぶ物に興味はあるみたいで、手にとってずっと眺めてた。最終的に洋服の入った袋を大事そうに抱えるエリちゃんの姿を見て、好みかどうかは別としても気に入ってはくれたみたいなので一安心である。
あっ、男連中は気がついたらいなくなってたよ。
梅雨ちゃん曰くジュース買ってくるって言い残して帰ってきてないらしい。何処まで行ったんだ、奴ら。
おやつ食べ始めた辺りで飲み物欲しくて廊下覗いたら、遠くのベンチに腰掛けたまま呆ける奴らを発見した。
買い物にもいってないじゃぁぬぅあいのぅ。
「なにしてん、あんたらおやつ食べないの?てかジュースは?」
パッといってボケッとブラザーズにそう聞くと、切島が何とも言えない顔をした。
「建前ってあんだろ、建前ってよぉ・・・・いい雰囲気だから外したんだよ」
切島に続いて黒豆パイセンが口を開く。
「女の子同士のが話せる事もあると思ってね。元気そうにしてるのが見れれば俺は十分だったし・・・あとねジュースなら轟くんが持ってるよ」
言われて轟を見たらジュースを手に冷気を漂わせてた。
包帯先生が何も言わないなと思えば、そっちはそっちで静かに寝息を立ててる。起こすとあれなので轟から感謝の言葉とジュースを等価交換。触らぬなんちゃらに祟りなしだからね。
「緑谷、エリちゃんどうだ?」
「ん?どうだって?そりゃ、まぁ・・・・」
「部屋に入ってから一回も笑ってねぇ。緑谷と爆豪きた時は顔色が変わってたが、それだけだ」
鈍いと思ってたけど案外見てたみたい。
もしかしたらあの時空気読まなかった訳じゃなくて、エリちゃんの顔色見て空気を変えにきたのかも知れな・・・いや、単に空気読めなかっただけな気がするなぁ。あれに関しては。
「あーー、そういうやつ?んーー今の所、あんまりかなぁ。でも、表情に出ないだけだと思うよ。話してると少しだけど声が弾む時もあるし」
「そうか・・・・それなら良かった。俺はそういう事に鈍いからな。緑谷に任せれば大丈夫だとは思ってたが」
「お、おぉう・・・・ま、まぁね」
割と本気な感じで言われ、ちょっと照れる。
元より出来る女だしその評価は当然だとは思うけど、面と向かって言われるのは気恥ずかしいものがあるのだ。まったく、轟めが。
「そう言われると、確かに笑った姿を見た覚えはないね。緑谷さんといると少し表情が柔らかくなったように見えたけど━━━やっぱり傷は浅くないか」
「くそっ、やっと助け出せても、これじゃやるせねぇっすよ!」
「そうだね、もっと早く助けられていたら・・・それが一番だったろうね。けれどそうならなかった。だから、これから俺達が何をしてあげられるか考えよう。切島くん」
「そっすね。うっす!」
やる気に満ちてる切島に「アホか」と冷たいツッコミがきた。視線をそこへやれば眠そうなかっちゃんが欠伸をかいてた。切島は何処か不服そうにかっちゃんを見つめるけど、かっちゃんはそんな様子を気にも掛けず口を開いた。
「んなもん、余計な世話だろうが。ほっとけ」
「そんなこと言うなよ、爆豪。ツンデレも程々にしねぇと緑谷に嫌われんぞ」
「双虎は関係ねぇだろ。それにツンデレだかどうだかなんてのも関係ねぇ。余計な世話だから余計な世話だっつってんだ。あのガキは自分で選んだろ。あん時、そこの馬鹿助けるって覚悟決めて個性使ったんだ。鈍いてめぇでも、それが簡単な事じゃねぇのはわかんだろ」
かっちゃんの言葉を聞いて、そこいた皆が黙った。
「あいつは飯食ったっつったろ。もうとっくに、てめぇで歩く用意してんだよ。それなら後は時間の問題だろうが・・・・・それでもなんかありゃ、もう一人じゃねぇんだ。双虎なりなんなりに話すんだろ。手貸すのはそん時で良いんだよ」
チラッとかっちゃんがこっちを見たので、親指を立てておいた。任せぇい、と。そうしたらつまらなそうに鼻息を漏らし、背もたれに寄り掛かる。
皆はその意見に何とも言えない顔になって、それぞれ思案し始めた。
私としてはかっちゃんの言うことも尤もだと思う。
こういうのは急かして上手くいく物でもない。心の傷は時間が解決する事が多かったりするし。
でも、だ、私個人としてエリちゃんの笑顔が早く見てみたいというのも本音だったりするので・・・・何もしないというのはやっぱり頂けない。動物園デートする約束はあるけど、それはまた別としてね。むふふふ、何したろっかなぁ。
「━━━まっ、取り敢えず、それは追々考えるという事で。さっさと中へ入りな、空気読みーズ。皆でおやつの時間じゃ。エリちゃんがあんたらのこと気にして食が進まないから早くきな!三十秒で支度しな!」
「三十秒も掛からないわ」
切島の呆れたようなツッコミを受けた私は男連中を引き連れて部屋へと戻った。面会時間終了までの残り時間と、持ってきたゲームの事を考えながら。
よし、人生ゲームでもしよっと。
一回はいけるっしょ。