私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ヒーローを始めてから何年たったか。
振り返ると長いようで短いようで・・・何にせよあっという間の日々だった。
そのヒーローとしての生活の中で、幾つもの助けを呼ぶ声を聞いてきた。痛みに泣く声、苦しみに呻く声、悲しみにくれる声。様々な声を聞いてきた。
中にはわたしに怒りをぶつける声や不満をもらす声もあった。人の弱さを考えればそれも仕方ない。
それでも、あれほどまでに否定されたのは初めてだった。
『私は呼んでない』と。
「はぁ」
思わず溢れた溜息に、私の様子を見にきた塚内くんが眉を潜めた。
「どうしたんだいオールマイト。随分とらしくない溜息をついて」
「いや、少しね」
「ヴィランの事・・・ではなさそうだね。それは教師としてかい?」
流石に長い付き合いのある塚内くんだ。
まさか、こうも簡単に見抜かれるとは。
隠していても仕方がない事だからと、今日生徒に投げ掛けられた言葉について話した。
塚内くんは笑ってそれを受け流してしまう。
「笑い事ではないんだが・・・」
「ははは、いやぁ、それもそうか。ヒーローとしては人気の有無も、一つの問題なのだろうね。しかし、君がそんな事を気にするとはね」
「気にもする。今回の事が直接的にアノ件に関わっているか分からないが、少なくとも今回の事件には誰かの意図を感じる節があるんだ」
「彼女か、それを口にしたのは」
塚内くんは溜息をついた。
「後ろめたい気持ちは分かるけどね、いつまでもそれに囚われるのは良くないと思うよ」
「あれの出所は?」
「それは残念だがさっぱりだ。捜査を進めて分かったのは、分からないという事さ」
「つまりそれは・・・」
「それを行える組織、もしくはそれだけのツテを持った大物」
やはり、やつか。
オール・フォー・ワン。
「なぁ、オールマイト。彼女が君にとって特別なのは分かる。その理由については聞かない。何があったのかもね。けれどね、彼女は君を嫌ってる訳ではないと思うよ」
「それはないよ。わたしは彼女を巻き込んだ張本人だ。恨まれていない方がおかしい」
「君はどこか後ろ向きなんだよなぁ。ナンバーワンヒーロー、オールマイトの時ならあんなに明るいのにな。八木俊典さん?」
「それは、はは、悪かったね」
笑うと傷に響いた。
黒いヴィランによって穿たれた横腹の傷。
並みの力ではなかった。
それに加えて失った四肢を回復する再生能力、わたしの力すら吸収した衝撃吸収という強力な個性。複数の個性を持つという矛盾。謎はつきないが、それは調べてみれば分かる。
それよりも今は━━━
「塚内くん。わたしは、ここから離れた方が良いのだろうか・・・」
彼女の事を思えば、そうするべきだ。
今更意味があるのか分からないが、これ以上側にいてはそれこそ狙われる可能性がある。
今ならまだ、間に合うかも知れない。
そう思って口にしたが、意外にも塚内くんは首を振った。
「少し休むといい。考え過ぎだ」
「だが・・・」
「少なくとも、君はまだ彼女に何も伝えてないのだろう?なら、それが済んでからでいいと思うよ」
「伝える、こと?いや、わたしは伝えたよ」
「伝えていないさ。ヒーローとしても、教師としても」
塚内くんはわたしの肩に手を置いた。
「元々、反対だったんだ。君が教師になることは。ヴィランに目をつけられる可能性が高かったからね」
「ああ。その話は・・・」
「聞いてくれオールマイト。でもね、君のその悩む姿を見て、君が教師になったのもそう悪くない気がしてきたんだ」
「この姿が、かい?」
「ああ、その情けない姿がさ」
くくく、と笑う塚内くんにつられ、わたしも笑ってしまった。
「親は子供を育て、子供は親を育てていくと言うだろ?きっと教師も同じなんだよ」
「子供が教師をってことかい?」
「そういう事さ。随分と良い顔をしてるよ。久しぶりに見た君の顔がそれで良かった。生きてるって顔をしてる。お互い、子供達に笑われない大人になろうオールマイト」
「塚内くん」
子供に笑われない大人に、か。
「ありがとう塚内くん」
「よしてくれ、礼なんて」
後継のこと、彼女のこと。
もう少し考えてからで良いのかもしれない。
時間は確かにない。けれど焦って決めて良いことではきっとない。
少なくとも、お師匠なら・・・。
わたしは捜査に戻っていく塚内くんを見送り、再びベッドに身を沈めた。疲れた体を癒し、再び彼女と教師として会うために。
◇◇◇
「先生、あれで良かったのか?折角、オールマイト用に調整した作品だったろう?」
弔との通信を切った後、ドクターが尋ねてきた。
彼も調整に付き合ったから、ある程度愛着があったのだろう。
「仕方ないさ。でもね、思ったより衰えてなかったのが分かった。収穫だよ、ドクター」
「衰えてなかった?そうか?」
「勿論。予想より、ずっとね」
てっきり彼女に譲渡してたのだと思っていただけに、あてが外れて肩透かしを食らった所はある。
けれど、それだけだ。
たいした話でもない。
「それよりも、彼女か・・・」
思っていたより、ずっと良い。
面白い個性の使い方をする。しかもナチュラルで個性を二つも持っている。
あの個性が欲しいとは思わないけど、あれを下地に脳無を作ったら面白そうだ。
しかし、まぁ、あれは研鑽故の技。脳無にしたところで、同じ動きが出きるとも思えないから・・・どうだろうか。
試したい気持ちはあるが、迂闊な事は出来ないな。
そうなったら彼が出張ってくる。
まだまだ弔は未熟。
近い将来、僕にかわる存在になるだろうが、それは未来の話。準備期間はまだ必要だ。
「・・・そう言えば先生、聞いたか?」
「何をだい?」
ドクターの声色に喜色が浮かんでいる。
なにか良いことがあったのかも知れない。
「最近巷を騒がせるヴィランの話だ」
「ヴィランの?あまり食指が動かないなぁ」
「そう言うな、先生。実はそやつな、血に関する個性を持っているらしい━━━━」
血に関する個性か。
「━━━成る程、それは少し、面白そうだ。名前は?」
「ああ、確か━━━━」
「━━ステインと」