私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ああぁぁー、耳が幸せなんじゃぁ。
あっ、更新遅れてすまんやで(´・ω・`)
「━━━━っ」
「━━っ」
「緑谷ッッッ!」
「!?はっ、はいぃ!!寝てません!!」
怒鳴り声と共に聞こえた机を叩く音に、私は即行で立ち上がり全身全霊を以て敬礼を返した。我ながら背筋が良く伸びて頭のぶれない惚れ惚れする程の敬礼だな!と思ってたら━━━━本来目の前にあるであろう包帯先生の姿がない事に、私は少し遅れて気づいた。
おや?と思い軽く周りを見渡して見れば、私の机に手をついてる耳郎ちゃんが最初に目に入って、自分の席から離れてガヤガヤしてるクラスメートの姿が見える。
どうやら、授業中ではないらしい。ホッとした。
「もう、驚かさないでよ~。耳郎ちゃんのいけずぅ!このこの~」
「二の腕つつくな、ひっぱたくよ。ていうかね、驚いてんのはこっちの台詞だから。あんた一限目の授業中からお昼まで寝っぱなしだからね?相澤先生から『放課後、文化祭の練習始める前に、職員室へ来るように』って伝言貰ってるよ。あっ、爆豪も一緒にね」
「うそやん」
一縷の望みを込めてかっちゃんに聞いたら、眉間に深いシワを作りながら「あ゛ぁ?」と言われた。ごめんて。ちゃうねん、ちょっと眠たかってん。
「文化祭の準備もラストスパート掛かってきたし、疲れてんのは分かるけど・・・・それにしても寝過ぎでしょ。マイク先生ちょっと泣いてたからね?」
「いやぁ、昨日はちょっと夜更かししちゃってさ。エリちゃんとちょっと電話してたら、アプリのイベクエのノルマ分周るの思い出して・・・で、イベクエやってたらこの間買ったゲームの攻略法を何故か閃いちゃって、取り敢えずそこだけクリアして寝ようと思ったんだけどゲームしたらしたでなんか目が冴えちゃって・・・・しょうがないからかっちゃんにイタ電してから寝たんだけど、結局寝たのが二時過ぎでさ。まいったよね」
「鉄人じゃんか。練習の後にどれだけ人生謳歌してんの。ていうか、爆豪が眠たそうな顔してたのそれが原因か。はぁ、まったく。ウチの隊のキーマンボロボロにしないでくれる?練習に差し支えるから」
耳郎ちゃんの声に「差し支えるか、ボケが」と前の席から抗議がきて、耳郎ちゃんが何と言えない顔で苦笑いする。気持ちは分かる。
「あー、それでさ、ちょっと相談あったの。お昼ご飯食べながらで良いから聞いてくんない?」
「ん?良いよ、別に━━━━かっちゃん、今日はどうする?」
最近かっちゃんはお昼休みも演奏隊に付き合って練習してる。食堂までは一緒に行くけどそこで食べる事なく、食堂の所にある購買でパンだけ買って去ってくのだ。
だけど今日は練習の要の耳郎ちゃんが抜けるようなので聞いてみたのだが・・・・かっちゃんからは「遊んでる時間はねぇ」との返事を貰った。さようでござるか。
いやぁ、耳郎ちゃん抜きでも練習するとか、今回気合い入りまくってるな。かっちゃん。なんか高校受験前のかっちゃん思い出す。あの時もコソコソ頑張ってたもんなぁ。体鍛えるの。クソ寒い中、いつもの公園汗だくで筋トレとかしたり、やけに長い時間走ってたり━━━━思えば、もしかしてあれが風邪の原因では?まぁ、何でも良いけど。聞いてもどうせ教えてくれないし。
「かっちょいいドラム期待してるね。がんば」
「━━━はっ、言われるまでもねぇわ」
それだけ言ったかっちゃんは、教室で駄弁ってた上鳴と常闇を捕まえてさっさと行ってしまった。いつもは購買までは一緒に行くのに・・・・どんだけ練習したいんだ。元より目立ちたがり屋ではあるけど・・・・それとも練習しないとヤバいのか。その二人。
ちょっと不安を覚えて耳郎ちゃんに聞いたら、かっちゃんのそれはただ張り切ってるだけで問題はないとか。練習は今の所順調そのもので、アガらなければ本番も大丈夫そうらしい。
「本番前は変に焚き付けないでよ。お願いだから」
「ん?まぁ、うん?かっちゃんただでさえ元気だからね。しないしない」
「えっ、あれで?」
どれで?
耳郎ちゃんに誘われるまま食堂に着いて暫く。
何故か遠巻きに見守ってくる他のA組女子ーズを横目に、ラーメンを啜りながら耳郎ちゃんの話を聞くと、まさかのボーカルのお誘いだった。
「えっ、今更・・・・?」
「悩んだんだよ、ウチもさ。本当にギリギリまで。でもさ、昨日の段階で合わせて思ったの。あんたダンサーにしておくには目立ち過ぎるって。なんて言うのかな、緑谷は華があるでしょ?歌も歌えるし、だからさ」
耳郎ちゃんの言葉に、視界の端で見えた女子ーズ全員が頷いた。そこで反応するくらいなら、いっそこっち来て一緒に話聞けば良かろうに。もう、なんなーん?
皆へ白い目を向けてる間も、耳郎ちゃんのちょっとした相談は続く。ズルズルしながら大人しく聞けば、何て事はない。文化祭がいよいよ近くなってきて、ちょっとビビってしまったらしい。あれこれそれっぽい事言ってるけど、一昨日撮影したリハの映像を見て本番を意識しちゃったのが原因っぽい。
「━━━━でさ、やっぱりライブのボーカルって一番華がある奴がやった方が良いと思うの。ほら、この通り、ウチはパッとしないし・・・・準備時間は少ないけど、ウチもフォローするし、あんたなら今からでも大丈夫でしょ?」
まぁ、やって出来ない事はないとは思う。
何せわたすぃー天才っ、ですからぁ。
でも、これは素直に頷けない。
「ことわーる!面白くないからー!」
「えっ、いや、待って!マジで!ウチも冗談で言ってる訳じゃないんだよ!ライブを━━━━」
「良くしようって?それこそ冗談でしょ」
文化祭まで残り一週間を切った今、大幅な変更は間違いなく宜しくない。私がボーカルになればダンス隊の配置を調整し直す必要も出てくるし、割と見せ場であるソロダンスパートも穴埋めしなきゃいけなくなる。幸い皆それなりに動けるからやって出来ない修正でもないが、これまでの練習で作ってきたリズムを崩してまでやる事かと聞かれればノーだろう。本番でポカする可能性が大きくなるし、何より今より良くなるとも思えない。
言葉を遮るようにそう言えば、耳郎ちゃんは言葉を詰まらせた。ジトっと見つめてやった耳郎ちゃんの目が、そっと逸らされていく。
「別に、これが前向きな話なら考えたよ。私もさ。これが本当に一番良いっていうならね。でも、これは違うでしょ?」
「・・・・・・そうだね。ごめん、無理言って」
「良いって。ちょっとネガティブになっちゃっただけでしょ?練習は私も見てるけど問題ないない、大丈夫だって。ほら、元気出るようにチャーシューあげよう」
「あんたから物貰うとか、なんか怖いからいらない」
深い溜息をついた耳郎ちゃんはお冷やを口にした。
「はぁ・・・・いや、さ、客観的に見たら思ってたより酷くて。あっ、ウチの演奏がね。上鳴達は出来すぎなくらい。百も爆豪も良い音出してくれるし。だから、ボーカルやってる場合じゃないかなってさ」
「そう?耳郎ちゃん普通に上手いじゃん」
「上手くないよ、全然。歌に夢中になってるとストローク乱れるし、コードチェンジ途切れてる所結構あるしさ・・・あれ客観的に聞いたら恥ずかしくて」
「すとろー?コーデ、チェンジ?うん?まぁ、そうだね。うんうん。分かる・・・!」
「でしょ!凹むんだよ、あれ聞くとさぁ。だって練習不足なの一発でバレるじゃんか━━━━」
そして静かに、知識の暴力が始まった。いつかの悪夢の再来である。
分かるような分からないような、そんな専門的な音楽用語の交じった愚痴が耳郎ちゃんの口から延々と流された。どこへ?勿論私のお耳に、だよ。
途中までは意識を保ちつつ、理解しようと頭をフル回転させて努力してたんだけど━━━━それも5分を超えた辺りから限界を迎え、意識は朦朧としてきた。
しかし、夢の国には旅立たせて貰えない。目を瞑り寝ようとすると、耳郎ちゃんに「聞いてる!?」と揺すられて強制的に起こされるから全然眠れなかった。つおい。
それから愚痴を聞きながらご飯を食べる事暫く。
お昼休みも終わろうという時間に耳郎ちゃんの愚痴大会は閉幕した。全部話してすっきりしたのか、耳郎ちゃんはごちそうさまを口にしてから、呆けた顔でぼやーっと天井を見上げた。
残ったスープを飲みながらその様子を見てると、耳郎ちゃんがぼやくように語り出す。
「━━━━前にも話したかもだけど、ウチさ、両親とも音楽関係の仕事しててさ。だから、子供の頃から一番身近にある物は、玩具なんかより楽器とかでさ・・・・気がついたら好きになってた。音楽聞くのも、自分で演奏するのも」
「でも才能とかはなくてさ、今のレベルになるまでだって凄い時間掛かったんだ。最初はギターだったかな?コードの意味も分かんなくて、楽譜読めないし、指届かないし、弦弾くのだって下手くそで・・・・でも楽しかった。一つの事が出来ると、両親が凄い褒めてくれて、ウチ以上に喜んでくれて。ウチはそれが嬉しくて、練習した。沢山」
「だけど、趣味の域を出なかったんだ。好きだけど、それ以上には出来なかった。両親みたいに職業にしたいと思わなかった・・・・違うかな、思えなかった。音楽以上にさ、ヒーローに憧れたから。だから、今更音楽とか、人の上に立ってやる資格とかないって思ってて━━━━思ってたんだけど、なぁ・・・・はは。どっかの誰かがおだてるし、持ち上げるしで、気がついたら教える事になってて。分かんないよね、人生って」
乾いた笑い声を溢して、耳郎ちゃんは私を見た。
今度は真っ直ぐにこっちを見てくれる。
「・・・・ねぇ、緑谷。ウチさ、出来ると思う?」
「?出来ない奴には、普通頼まないでしょ」
そう伝えると耳郎ちゃんは目を丸くさせる。
それから困ったように眉を下げながらも、頬を染めて照れ臭そうに笑った。耳郎ちゃん可愛いーって茶々いれたら、馬鹿呼ばわりされる。ざ、理不尽。
「はぁーたく、あんたは焚き付けるの上手いよね、本当。その気になっちゃうじゃんか」
「?だから、焚き付けてはないでしょ。失礼な」
「ははっ、そういう事にしておく・・・・ありがと」
「良く分からないけど、どういたしまして」
話がまとまると遠巻きにしてたA組女子ーズが津波の如く戻ってきた。そして私達の話の結果を知って安堵の顔を見せる。聞けば他の面子はボーカルの件について、私が夢の国へ旅行してる間に相談されていたそうだ。無理してやる事ない組と、自信を持って頑張るべき組に分かれてバチバチしてたらしいのだが話はまとまらず・・・・この変更で一番大きな負担が掛かる私に判断を委ねる事にしたそうだ。怖い判断させてくれる。
そんなお昼休みも終わり、退屈な午後の授業も乗り越えれば文化祭の練習の時間がやってくる。いつもの訓練場を貸し切っての練習だ。もっとも私は包帯先生から説教されてから遅れて参加したが。
基本的に練習はいつも通りだったけど、何故だかその日はやけに耳郎ちゃんの声がよく響いてた。それまでも一生懸命ではあったけど、その日のそれは妙に熱がこもってて━━━━ついに男でも出来たのか?と上鳴の様子を見たけど、少なくとも上鳴ではないらしい。なんにせよやる気になったのは良い事だから、余計な事は言わないでおいたが。
あと、かっちゃんのドラムも矢鱈うるさかった。
何を張り切ってるん?あやつは。
なんやかんや、CDデビュー狙ってる?
「ん?」
お茶子達の振り付け練習を手伝いながらかっちゃんの無駄にレベルの高いドラムの音を聞いてると、不意にスマホがブルッと震えた。画面には非通知の表示。
皆と一旦別れ、施設の外で電話に出れば、聞き覚えのある声が耳に響いてきた。
『ごきげんよう。久しぶりだね、緑谷双虎くん』
男の声を聞いて、あの日テンパってた紳士マスクの姿が脳裏に浮かぶ。現在進行形の敵ではあるけど、いまいち緊迫感に欠ける。これなら真夜中にイタ電した時の、かっちゃんの怒鳴り声の方がまだ緊迫感あるというもの。
「こんばんはー。撮影会の場所決まったんですか・・・・あー・・・・んーー・・・・ジェン、ジェット?いや、ジェントルマン東さん」
『くくっ、ははは!依然として、私は君の眼中にないらしい。名前も覚えて貰えてないとは━━━だがそれでも、私という存在まで忘れないでいてくれたようだ。光栄だよ、緑谷双虎くん。いや、ニコ。僅かでも君の心の中に、この私を住まわせてくれて。さて、君も文化祭の準備で忙しいだろうし、何より私を良く思っていない事だろうから、詰まらないお喋りはこの辺りにしておこう。単刀直入に聞かせて欲しい、呼び掛けに応えてくれるかね?私の挑戦を受けてくれるかね?』
「嫌です、って言ったら?」
『その時はその時さ。私は君に無理に参加して欲しい訳じゃない。慎んで諦めるとも━━━━君の事はね』
迫力には欠けるけど、その声に籠められた本気の意思は伝わってきた。私が断ればこいつは躊躇う事なく、文化祭にちょっかい掛けて来るだろう。それがどれだけ困難でも。
それなら、私の答えも一つだ。
「良いよ、癪だけど乗ってあげる。日時と場所教えて、顔面原型留めないくらいボコりにいってあげるから」
伝えた言葉に僅かの沈黙が流れたけど、それも長くは続かなかった。直ぐに愉快そうな笑い声が響いてくる。本当に楽しそうな、その声が。
『はははっ!ご参加して頂き、心より感謝申し上げる。撮影会の日付は文化祭の前日、今より五日後の夜。君を信用してない訳ではないが、場所については当日改めて伝えるとしよう。準備をして待って頂きたい・・・・楽しみにしているよ、ニコ』
そう言い残して、通話は切れた。
遠くから聞こえるクラスの皆の声を聞きながら、私は少し考えてから次の準備の為に歩き出した。
「本当、覚悟しとけよ。紳士マスクぅ・・・・!」
けちょんけちょんにしてやるけんのぅ!!